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少女漫画な出会いかた  作者: ちさめす
3/7

3



二か所ほど回想シーンが入ります。








 夜、私は自分のベットで空き室での出来事を思い出していた。



「あれは、いったい何なの? ほんと意味がわかんない……」



 カエルのクッションを強く抱きしめる。



「あ~! もう想像しただけでもムカつく~!」



 ――でも……この胸の高鳴りは何だろう? 胸が苦しい……。




 ◇




 次の日の朝、目覚まし時計はちゃんと鳴ってくれた。



「今日も時計が鳴らなかったら、私は一週間まるまる寝坊するところだったよ」



「暦、新しい目覚まし時計を買ったら?」



「え~! まだ使えるよ~? それに今の目覚まし音すっごく気に入ってるんだよね~」



「ぴょろぴょろぴょろ~のどこがいい音なんだ。もっといいものは絶対にあるよ」



「え~そうかな~?」



 校門に着いた。体育の先生が竹刀をもって挨拶していた。



 律儀に頭を下げて挨拶している真面目くんの横を通り過ぎようとした時、先生が私たちを呼び止めた。



「私たちが持っているその大きな袋は何なのか」を先生が聞いてくると、翔子ちゃんは「被り物です」とこたえて袋の中を見せた。先生は一言だけ「そうか」といい、被り物の持ち込みは許された。




 ◇




 チャイムが鳴って先生が教室に入ってきた。



「みんなおはよーさーん。それじゃ今日も頑張って勉強して――」



 先生は急に固まってしまった。



 しばらく沈黙が続いた後、先生は私たちに被り物を外すようにいった。



 結局、被りながらの授業は受けさせてもらえなかった。今では教室の後ろにウサギとカメの被り物が並んでいる。



 それでも私にとっては効果があった。隣の清水くんは唖然としているのか話しかけてはこなかった。



 この調子なら今日は平穏な一日になりそうだと私は思った。



 だけどこの後、私の予想をはるかに上回る出来事が起こる――。



「えーそれじゃあ授業を始める前に、みんなに紹介しておきたい人がいる。お~い転校生! 入ってこーい」



 ――また転校生?



 扉が開くと一人の男子生徒が入ってきた。前髪をあげていて高身長でスラっとしている。



 ――へえ~! ちょっとかっこいいかも。



 教室内はざわついた。例のごとく女子の、「うっひょ~!」とか、「すごいタイプなんだけど~」とか、「直視できないんだけど!」とかの声が聞こえてくる。



 先生は転校生に挨拶を促す。そして黒板に名前を書き始めた。



「初めまして。家風夏月いえかぜなつきです。フランスから帰国してきたばかりでまだ友達はいません。みんなと仲良くしたいと思っていますので、どうぞよろしく」



 拍手と悲鳴が沸き起こった。



 でも、私は違った。



 ――家風夏月……? もしかして夏月くん!? 小さい頃によく遊んだ幼馴染の、あの夏月くん……?




 ◇




<幼少期の回想>



 幼稚園児の頃、私は夏月くんと同じ紅組だった。



 ある日、私は同じ組の佐茂さもくんという男の子に告白された。



 でも、当時の私は夏月くんのことが大好きだったから佐茂くんのことを振ったのだけど、佐茂くんは納得してくれず、なんと同じ紅組の男児12人で私の周りを囲ったのだ。



 付き合わないとぼこぼこにすると脅された私は、泣きそうになりながらも最後まで断り続けた。



 だけど、「やっちまえ!」と佐茂くんが叫ぶとみんなは問答無用で飛びかかってきた。



 その時――。



「やめろ!」



 そう声をかけて私の前に颯爽と現れたのが夏月くんだった。



「女一人にこの人数は情けないな」



「うるせえ! 俺様の告白を受けねえこいつが悪いんだよ! 邪魔をするならお前も締め上げちまうぞ!」



 私は夏月くんの後ろでぎゅっと裾を掴んだ。「暦は俺が守る。そばにいろ」と、声をかけてくれたのがすごく嬉しかった。



「おめえら! やっちまえ!」



「待て! ……これが何かわかるか?」



「そ、それは!」



 それは一万円札だった。



「今からこれを十円玉に換金してくる。俺たちを見逃してくれたらお前ら全員に十円玉のつかみ取りをさせてやる。それで手を打たないか?」



「十円玉のつかみ取りだって!?」



 佐茂くんをはじめ、周りの12人はみんなたじろいだのだった――。




 ◇




 あの後、夏月くんはぼこぼこにされて一万円は奪われたけど、夏月くんは私のことを守ってくれた……。あの時の夏月くんはすごくかっこよかった……。



「それじゃ家風の席は……一年の前の席が空いてるな。ということで家風の席はあそこだ」



 夏月くんが席に座ろうとする時、私と目が合った。私は座りながら会釈をしてみたがスルーされてしまった。



 ――私のこと覚えてないのかな……後で聞いてみよ。




 ◇




 一限目の授業が終わると、私は夏月くんに声をかけてみた。



「夏月くん。私、暦だよ? 一年暦。覚えてない? 小さい時からずっと友達だったよね?」



「……悪い。覚えてないな」



 夏月くんはそういうと席を立ち教室を出ていってしまった。



 ――やっぱり覚えてないんだ……。それじゃあ、あの約束も忘れてるよね……。



 最初こそ気付かなかったものの、今は絶対に幼馴染の夏月くんだと確信していた。面影もそうだけど、幼稚園の喧嘩の時についた喉元の傷が見えたからだ――。




 ◇




<幼少期の回想>



 幼稚園での喧嘩の後、夏月くんは入院した。



 私は両親と一緒に夏月くんのお見舞いにいった。夏月くんは特に喉の傷が酷く、あまり長くは話せないとのことだったので、帰り際に少しだけならという条件で二人っきりにしてもらえた。



「ごめんね、私のために……」



「何度いわせるんだ。大したことはない」



「でも……」



「暦」



「何?」



「もっとこっちに寄ってくれ」



「うん……」



 夏月くんは震える手で私の身体を手繰り寄せる。そしてベットに乗っかかる私のことを抱きしめた。



「暦が無事でよかった」



「うん……」



「大好きな人を守れてよかった」



「うん……」



「今の俺はまだ弱いけど、大人になってもっともっと強くなって、暦のことをしっかりと守れるようになったら、その時は俺と結婚しよう」



「うん……」



「約束だ」



「うん……」



 私の涙で夏月くんの肩は濡れる。でもそれは決して哀しい涙ではなかった――。




 ◇




 

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