8.よぉ、カズ。暇か?-おやじこそ今どこよ?-
全47話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
それからの進路はとても順調だった。
千歳は大学院を卒業後、件の施設に就職して自分の研究を続けていたし、カズと恵美はそれぞれ大学院に進んで順調にそれぞれの研究に没頭していた。
そう、あの日[恵美に]言ったように、あの日[恵美が]言ったように。
[生体応用工学研究所]に就職するために。
「よぉ、カズ。暇か?」
そんな中、卒業して薬剤師になった吉岡がカズに電話をかけて来る。
「つー訳でよ、今日は午後から休みなんだ。どうだ、ドライブでも」
カズは少しだけ迷ったが、
――どういう訳なんだか。まぁ、今日はこれで上がりでいいか。
「ああ、いいぜ。でも俺、車持ってないから……」
「もちろん迎えに行くって。今どこだ?」
「どこって、ウチの隣の大学の大学院の中だけど」
カズは国家試験を合格して、そのままとなりの大学にある機械生体工学科という大学院に進学した。吉岡から電話が掛かってくるまで、カエルの足にマイクロチップを埋め込んでそれを動かす実験をしていたところだ。
データも十分取れた所だったし[さてこれから次の実験に取り掛かろうか、いや、これを始めると帰りが遅くなるしな]と考えていたところだったのだ。
――丁度いいといえばそうなるな。
「そう言えば、お前って隣りの大学院に入ったんだっけな。ウチの学部でもいいだろうに。じゃあ迎えに行くからよぉ、玄関まで出ててくれねーか。確かその学校って部外の人間って入れないだろ?」
それもそうだ、この大学はカズたちがいた大学とは違って、敷地に入る箇所箇所にゲートがあり、そこに警備員が配置されている。学生たちは[学生証]を見せる事で中に入れる、そういう仕組みなのだ。
「了解。今から荷物まとめて出るからそんなに時間もかからないと思うけど、おやじこそ今どこよ?」
もっともな疑問が口に出る。
「俺か? こっちは午前中は仕事だったって。今、仕事場の駐車場よぉ」
吉岡は市内の、ここから少し離れた薬局に就職していた。
「ちなみに飯、もう食ったか?」
と吉岡が返してくるので、
「今の今までカエルと格闘してたところ。これから食事にしようと思ってたさ」
時計を見れば、午後一時を少し回っている。
「おー、そりゃちょうどいい。俺もまだなんだわ。んじゃあこれからどっかファミレスでもどうよ?」
「おっ、いいねぇ。もしかして汗水たらして働いている社会人が苦学生に奢ってくれたりとかしてくれるぅ? くれるぅ?」
カズがそんな事を言うと、
「まぁ、誘ったのは俺だしな。いいぜ、奢ってやるよ、苦学生」
実に気前のいい返事が返って来る。
「じゃあ、正門より西口のほうが車止めやすいだろうから、西口のゲートで待ってるよ」
「おう、二十分はかからないと思うが、ちっと待っててくれよ」
もう車の中にいるのか、ドアを閉めるような音と同時にエンジンをかける音が電話越しに聞こえる。
「ああ、待ってるから。ゆっくりでいいぜ、事故には気をつけてな」
そう言うとカズは電話を切った。
――さてと、俺もぼちぼち支度でもしますかね。
カズは階段を降りて玄関まで行く。途中、見知った学生に出くわす事もなく、西門のゲートまで来た。ここはいつもカズが使っているゲートでもある。
警備員に学生証を見せると、
「おっ、今から帰りかい? 今日は早いんだね」
と声をかけられる。毎日ここを通って通学しているし、そこで勤務する警備員も同じ人である。必然的に顔は覚えられる。
「ええ、今日はこれで。これから大学時代の友人とご飯でも、と思ってます」
「そうか、お疲れ様」
と笑顔で返されたので、
「お疲れ様です」
カズも笑顔でそう返事をした。
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