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4.大学では今はこの六人で-このままいつもの日常が続いて欲しい-

全47話予定です


 大学では今はこの六人でだいたい連れ立っている。[気が合うから一緒にいる]というのもあるが、何と言うか、波長が合うのだ。


「ああ、おはよう。悪いね、いつもギリギリだから席、取っておいてもらって」


 カズが恵美に声をかける。


「ううん、大丈夫。それより、そろそろ始まるから、席ついて」


 人数分の椅子の上に置かれた小物たちを回収しながら恵美がそれに答える。それを各々手伝いながらそれぞれが席に着く。


 と同時くらいに講師が現れて、


「これから講義を始めまーす」


 と続く。


 これがほぼ毎日の日課である。


「しかしさぁさっきの教授って、話が早い割りに内容が伝わってこないと言うか」


「あ、わっかる。何ていうかミスマッチだよな。もっと論点を整理してから話せば良いのに、口が先に回るんだろうな」


 午前の講義が終わり、皆で歩きながらそんな話をする。


「おはよーっ」


「おう、おはよう」


「おはよう」


 正門のところで女の子が待っている。千歳だ。彼らとは違う大学の為、こうして時間を合わせて一緒にお昼を摂るのが日課になっている。


 学校から直ぐ近くに、柳川という大衆食堂がある。基本、弁当の販売をしているのだが、店の中にちょっと古めのゲームが何台か置いてあり、買った弁当をそこで食べてもいい事になっていた。ただし禁煙にはなっているが。


 学食はこの時間、とてもじゃあないが入れないので、こうして弁当を買いに行っては学校の四階の喫煙場所で食べる、というのが彼らのお決まりのコースなのだ。


「やっぱ揚げたてのから揚げはうんまいなぁ」


 弁当を食べながらカズが言う。


「学生相手だから安いしな、これなら学食と大して値段変わらないし」


 下山もその意見に同意する。


「っふー、まぁ、旨いんだけどな」


 一足早く食べ終わった吉岡が早速タバコに火をつける。


「おやじぃ、もうちょっと待てよ。こっちはまだ飯食ってるんだから」


 普段喫煙しない岩田が、煙たそうに苦言を呈する。


 おやじ、というのは吉岡の愛称だ。それは、かなりふくよかな見た目と、じじむさいその言動から来ている。このグループの中心的な人物である。


「ここ、喫煙スペースだぜ。煙いならとなりの長イスにでも行ったらどうだ?」


 ドヤ顔でそう言うと、食後の一服に満足していた。


「まっ、あたしたちもここで一緒にご飯食べてるんだから文句は言えないんだけどね」


 千歳も同調する。


「いいんじゃあないの? このご時世、喫煙スペースがあるだけで奇跡的でしょ? その[奇跡]にありつけてるんだから、おやじさんも御の字って事で。私はあまり気にならないよ、お父さんが吸う人だからね」


 恵美も同じ意見のようだ。


「しかしよぉ、タバコって美味いのか?」


 カズが聞くと、


「ほれっ」


 吉岡が、自分が吸っているのを差し出す。


「どれ……」


 すぅーっとカズが一吸いすると、


「ゲッホ、ウェッホ、ゴッホ」


 ――何だこれ!


 盛大にむせる。普通はそうだ、普段から喫煙習慣のないものがその煙を吸い込めば、呼吸の要領で吸ってしまうから必然的にむせるだろう。


「なっ、美味いだろ?」


 それを知ってか、にぃっと笑いながら吉岡が尋ねる。


「こんなもん、よく吸ってられるな」


「きみも君だよ、何でも試そうとするの、よくないぞ」


 横から千歳が声をかける。それはそうだ、喫煙なんてしなければいいに越した事はない。


「だって[物は試し]って言うじゃん? ウェッホ」


 カズはまだ喉がいがらっぽいのを咳払いしながら返す。


 すると、


「結果が分かってるものは、あえて[試す]必要はなんじゃない?」


 すかさず正論が恵美の口から飛んで来る。


「まぁ、そうなんだけどな。何でも物は試しって」


 まだ喉がいがらっぽいのを買って来たコーヒーで落ち着かせながら言う。


「でもよ、おやじ」


 カズがそう言うと、


「何だよ」


「やっぱりタバコ、止めたらどうだ?」


「るせー。だから、呼吸と一緒なんだってばよ」


 ――このままいつもの日常が続いて欲しい、ただそれだけだよ。


 カズにそう思わせるほど、世界情勢は少しずつ、だが着実に変わりつつあった。


全47話予定です

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