29.本当は貴方の彼女に……-イケナイ考え-
全47話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
――本当は……本当は貴方の彼女に……。
そんな恵美の動揺を千歳の事だと思ったのだろう、
「千歳はオレが守るから、大丈夫。襟坂さんは、一緒に研究を手伝ってくれると嬉しいな」
「ちがっ」
慌てて口を押さえる。それほどに恵美は必至なのだ。
そんな恵美に気が付かないのか、それほどにカズも今は必至だ、という事だろう。
現に、
「千歳をコアユニットにするためのオペをする事になったよ。いくら研究所の元所長とはいえコアユニットの扱いは変えられないそうだ。国がそう言って来ている。もちろん、声帯も取り出すことになる。意思の疎通も……禁止だそうだ」
声のトーンが低いままだ。
「火傷の件はどうなったの? まさか……」
「ああ、全身の皮膚を削ぎ落してから無菌室でコアスーツを着せる予定だ」
――分かってはいたけど、そんなむごい事を……。
そう考えながら、恵美の中には[何を今更]と言っている[自分]がいた。
そんな[自分]は日本で応用研究を始めたころに現れた。正確には必要に迫られて[出現させた]というべきなのだろう。
カズに寄せている片思いの心はずっと持っている。だから彼を追って一緒の研究所に、非道な研究をしている場所に身を投じたのだ。
しかし目の前の、目を覆いたくなるような非道な実験の数々をこなしていくには、心の中に作った[自分]に頼るしかなかったのだ。そしてその[自分]は今や恵美の思考の大部分を占有している。
なので、家族が人質に取られた時、今カズから千歳の処遇を聞いた時も、実は直ぐに[あぁ仕方のない事なんだな]と思ってしまったくらいだ。千歳の事については、真っ先に[被検体が増えるのか]と思う[自分]がいた。
恵美はそんな自分と[自分]の間で揺れに揺れていた。
先程、カズに[私とのマッチングテストをしてくれ]と言ったのは一体どちらの【自分】なのだろうか、実は本人にも分からないでいた。
そんな恵美に、
「襟坂さんの申し出はありがたい事だよ。マッチングテストはしてみるよ。だけどそれで結果が良かったとしても生体コンピューターの件は待って欲しい。きみには俺のサポートをして欲しいんだ。もちろんこちらの人で優秀な人はたくさんいる。だけど、日本人である研究者で、俺が心を許せる人はもう、きみしか残っていないんだ」
これも事実である。
日本からこちらに送られたのはカズたち三人だけではない。他の研究者も一緒に来ているのだ。だが、カズが心を許せる人間は事実上、恵美しかいないのだ。
「ねぇ、和也くん。パイロットは女性でしか適正がないはずだけど、どうするの?」
当然の疑問だ。
だが、カズの答えは、
「俺の体幹部に、千歳と俺の[子供]を埋め込むつもりだ。もちろん、サブプロセッサーとの[子供]もそのうちに考えないと」
恵美の予想を上回っていた。
――和也くんとの[子供]……。
恵美は自分の中に[イケナイ考え]が浮かぶのを抑えられないでいた。自分の、断られたが今でも好きな人との[子供]。完全な子供ではないにしろ、結晶である事には変わりのない、夢にまで見た好きな人との[子供]
彼女は、
――和也くんとの[子供]を作りたい。
と思わずにはいられない。例えそれが、脳だけになって自分の自由が聞かなくなったとしても。
だが、同時に、
――でも、それって。
恵美は別の事にも気が付いていた。
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