23.クリスチャン・ガルシア-彼の眼差しには-
全47話予定です
初めは、コアユニットと呼ばれるその体幹だけになった人物に直接操縦をさせたのだが、命令を出すパイロットを別に用意したほうが結果としていいという事も分かったのだ。
だが、このコアユニットとパイロットはやはり近親者同士、それも子宮同士を特殊な機械でリンクさせないと、パイロットが命令を出してからコアユニットが動くための[独特の間]を極力減らす事が出来なかったのだ。
つまり、コアユニットも女性でないといけないのだ。
もう一つ、この方式にしたのはコアユニットの[離反]を恐れて、というのもある。
それだけ今開発が急ピッチで進められているロボットというのが重要なものだという事だ。人がひとりでも、別の人間が絡めば、単独行動より離反の恐れは少なくなる。それが近親者であればなおの事である。パイロットスーツにはいつでも起爆出来るように爆薬が仕込まれる予定になっている。これはコアユニットの人物にも知らせる予定だ。つまり[余計な事を考えれば肉親がどうなってもいいのか]という脅しをかけるのである。
ここまで判明した段階で、幸いにもサブプロセッサーとコアユニットは近親者でなくても動く事が確認出来た。
つまりは、パイロットは女性で、コアユニットも女性、そして、パイロットはコアユニットとサブプロセッサーの両方の近親者でないといけない事になる。
一番その理論に近いのが、両親のいる女子の子供の家庭、もしくは女子が二人以上いる姉妹か兄弟、という事になる。
そう結論が出てしまったのは仕方のない事だ、研究所はその方向で被験者を集めた。だが、これはこれで研究組織にしてみればある意味好都合である。前述の通り、コアユニットは母親もしくは姉妹を、パイロットはその子供または姉妹のもう一人を置く事によって、パイロットをいわば[人質]にして言う事を聞かせる事が出来るからだ。
一方で、もう一つの実験も並行して行われていた。
それは千歳が考え出した方法だ。
彼女の編み出した理論、それは、リンクさせたい二体の遺伝情報で、いわば[子供]を作って目的の器官になるまで[育て]てそれをパイプ役として使用するというものなのだ。この方法を採用すると、コアユニット、サブプロセッサーそれぞれの適正者が増える事になる。近親者に限らずに済むようになるのだ。
言葉だけを聞いていると直ぐにでも実現可能なように見えるのだが、現段階ではペアリング出来る個体に縛りがあり、特定の人同士しか[子供]を作れないでいる。しかも、その特定の人、というのが誰と誰なのかは実際にやってみないと分からないのだ。それゆえまだ実用化には至っていない。
更には、これは恵美とカズが中心となって開発している技術だが、コアユニットもサブプロセッサーも置かずにパイロット自身の[子供]を生体部品としてロボットの各所に組み込み、それらとパイロットが直接リンクするというものがある。
コアユニットもサブプロセッサーも置かないこの方法は一番理想的と言われているが、この理論はまだ様々な技術的な問題があり、こちらも実用化の目途はたっていないのが現状だ。
だが、ここまでの理論を短時間で構築出来たのは、もちろん他の研究者の努力もあるが、それだけカズたち三人が突出している、という事なのだろう。
「皆さんの技術は本当に素晴らしい。これが実用化されれば、我が国は必ずや世界を奪還出来るでしょう」
クリスチャンが熱く語るその目線の先にはカズがいた。
そんな視線を感じているのかいないのか、カズはコーヒーに口をつけながら、ある考え事をしていた。
それは、日本に残してきた吉岡や下山、岩田の事、さらには肉親の事である。
カズたちが日本から離れたあと半年もしないうちに[大陸の国]は日本を飲み込んで併合してしまったのだ。
その際、大規模な戦闘が起きたとも聞いているが、駐屯していた国という後ろ盾が事実上なくなった日本が[大陸の国々]に単独で勝つ事は到底不可能だろう。その辺りの詳しい情報は残念ながらカズたちには分かりかねたが、相当の死者が出たとは聞いている。
吉岡や下山、岩田たちは医療関係者だ、その辺りは真っ先に徴兵されたであろう事は容易に判断出来る。
実際、戦闘が起きているという情報をつかんだカズはその時皆に、親を含めて皆に電話とメールをしていたのだが、誰一人として返信や電話に出るものは、いや、出られるものはいなかった。通信回線は早々に不通になったのだ。
戦闘が終わった現在も、外国からの通信や通話は厳しく制限されているようで、一度として返事か返って来た事はない。
そんな[大陸の国]は、自身を[帝国]と名乗るようになる。
そんな状況の中、カズは別の事も考えていた。
人として、落ちることろまで落ちたな、とカズは思う。それは他の二人も多分同じだろう。千歳にしても恵美にしても、人を[ヒト]と思わないような、まるでブロックを空いたスペースに埋め込んでいくゲームのように次々と非道ともいえる理論を展開しているのだから。そこに何人の命が関わっているか、もちろん想像しない訳ではないだろうが、今更[仕方なかったんだ]などとはとても言えない。
……
そんなカズを見つめるクリスチャン。彼の眼差しには、研究者のもつ羨望の他に含まれるものがあるのだが、今のカズにそれが分かる筈もなかった。
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