2.世の中変わりそうなんだって?-日本は、どうなっちゃうの?-
全47話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
「あまり時間もないし、食べよ?」
ボタンをほぼ留め終わったカズに千歳はそう言って席を促す。
「そうだな、今日は一限から薬理学、そっちは応用生理学か」
そう言って自分のいつも座るところに胡坐をかいて座る。片手間にテレビをつけると、ちょうど世界情勢の話をしていた。
「そう言えば、何か世の中変わりそうなんだって?」
そんなテレビを見たせいか、千歳がカズに質問してくる。
「ああ、そこらかしこの各国が元々あったEUってのに習おうって話みたいなんだ。最初は経済の協力関係をお互いに結んで、次に統一の行政府を置く。安定してきたら通貨も統一して、一つの複合国家の出来上がりって寸法みたいだな。でも、話を聞いていると最終的には単一国家の樹立まで視野に入れているみたいだな」
カズが概要を説明すると、
「日本は、どうなっちゃうの?」
当然の疑問だ。
だが、
「多分、地理的に大陸の国々に統合されそうだよな。まぁ、その場合サムおじさんが黙ってはいないと思うけど」
カズはそう言ってパンをかじる。
「日本が主導的な立場になるって可能性は……なさそうだね」
「ああ、それは難しいだろうな。日本は経済大国ではあるけど、いわゆる[軍事大国]ではないからなぁ、多分どっかに吸収されるのがオチかな」
そんなカズの言葉を聞きながら千歳もパンを口にする。
「戦争にならなければいいけどなぁ」
ただでさえ主義主張の違う国が一つになる、なんて話が出ているのだ。恐らくは内戦のようなものが各地で起きるだろうというのは今日日の小学生なら直ぐにでも分かる事だ。
そんな世界を、とりわけ日本を取り巻く情勢も少しだけきな臭くっているこの時代の中、カズは、
――もしも[何か]大きな事が起きた時、その時に自分は千歳の事を守れるだろうか?
と考えてしまうのだ。
今の自分の力で千歳の事を守り切れるのか。
[力が欲しい]とカズは思う。世界が再編されたらいっその事、軍に入るという手段も考えてはいる。もちろん、本音としては[現状維持]が一番なのだが、この世界事情では多分数年のうちに[何か]が起きるだろう。その時に自分は何が出来るのか、最近はそんな事ばかり考えている。
千歳を、と言えば、高校生の時に告白してからずっと一緒にいた彼女だ、そろそろ将来の事も考えてはいる。今一緒に住んでいるのはその為の同棲だ。付き合っている事はお互いの両親ともに知っている。
まぁ、もっとも、カズには元々父親はいないのだが。いわゆる母子家庭というやつだ。
それも含めて、今の自分に何が出来るか、最近はそんな事ばかりを考えている。
「まぁ、あたしたちが何とか出来るもんでもないんだけどね」
千歳のほうが元々食べるのが早いのもあるが、もうコーヒーを口にしている。
「なぁ、千歳。あまり早食いすると胃に悪いぞ」
とは言ったものの、
「そんな事言ってられる時間? 授業まであと十五分しかないけど。ここから走っても十分くらいかかるんじゃあない?」
そんな千歳はすでにカバンに手をかけている状態だ。
「分かっ、モグモグ、わはっははら、ひょっほまっへ」
カズは残りの食事を慌ててかき込み、コーヒーで流し入れる。こんな風景が毎日の日課なのだ。
――こんな日常がずっと続けばいいんだけどな。
カズは、コーヒーと食べたものが逆流しそうなのを堪えながらそんな事を考えていた。
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