魔族討伐への参加
魔男爵を名乗る魔族エゼルドによる侵攻は、王国を大いに震撼させた。
最初は王国辺境の街を襲う大規模野盗の集団という認識だったが、数ヶ月で20村を蹂躙し、辺境の街に常駐していた騎士団を壊滅させ、暗殺に向かったAランクの冒険者パーティを返り討ちにするなどの進撃をしてきたからだ。
Aランクパーティに参加していた元勇者がもたらした情報によると、親玉をあと一歩まで追い詰めたが、【魔のオーラー】により倒せなかったとのことだった。魔の加護を持った魔族を倒せるのは勇者のみ。勇者の存在を示せる機会が来たことで、王都に招集された勇者部隊は活気に湧いていた。
被害状況が大きく、大勢の命が失われて、一般の冒険者では太刀打ちできない。そのような強大な敵を討伐できれば、昇進に有利に働く。何より、経験稼ぎの場である勇者専用ダンジョンでの演習は利用回数制限があるので、魔族の討伐は経験稼ぎのチャンスである。そのため、討伐権を得ようとする勇者パーティの工作活動は凄かった。
「俺も金やコネがあれば、工作活動するんだがな。」
「では私が実家に口添えしましょうか」
そうぼやく俺にユーリが声を掛けてきた。
「ユーリの実家はフェゼンダン伯爵家だったか。しかし、勇者でないユーリのためにそこまで力を貸してくれるかな」
「わかりませんが、私が勇者パーティにいることは名誉だと褒めていたので、討伐隊への推薦はしてくれると思いますよ。叔父の伯爵様は実力派ですし」
「ふむ」
実力派は貴族・平民問わず、優秀なものが上のポストに就くべきという思想を持った派閥だ。下剋上を狙う中小貴族・平民が多い。
「では頼むとしようか」
「はい、頼まれました。早速ですが、一緒に叔父のもとに行きましょうか。」
「俺も行っても良いのか」
「はい。パーティの勇者様として紹介したいですし」
「それは有り難い」
コネ1つ増えたぜ。
この後、伯爵にあった俺は自分の強さ、将来性を売り込んだ。おべっかとしてユーリの有能さや可憐さなどもアピールするのを忘れずに行った。
このお陰か、一週間後に俺のパーティは討伐隊への参加ができた。
討伐軍には大隊からは2つ、中隊からは4つ、小隊からは8つの計14つの勇者パーティが選ばれた。指揮官は、王国第1勇者大隊副勇者と第3勇者大隊副勇者の2人であり、30人の勇者世話人がつけられた。
先行している王国騎士団1000と辺境遠征軍3000とは郊外で合流し、魔族討伐へ出陣した。