魔族男爵エゼルドの快進撃
「これがミッテランが発見した勇者の秘跡ですな。これを破壊すれば、世界は新しい魔王の誕生に慄き、男爵様に味方する魔物が馳せ参じましょうぞ」
「うむうむ。俺様の輝かしい未来の第一歩だな。吹き飛べ、ダークブレイド」
男爵の魔法により、勇者が封じたと呼ばれる秘跡が消し飛び、世界にそのさざなみが流れる。
「しかしミッテランのやろう、勇者の秘跡を1つ見つけるのに20年もかけやがって。アイツは追放して正解でしたな」
「全くですな」
「まあ、俺様が魔王になった暁にはこの功績でやつを博物館の館長ぐらいには引き立ててやろう。ガハハ」
・・・
「「「「偉大なる館の主様に忠誠を誓います。」」」」
そう言って、500の兵を引き連れたダークゴブリンロード4匹が俺様の前に跪く。
「よく来た。俺様のために働け。そうすれば、征服する人間の国を1つお前らにくれてやろう」
「「「「ははあぁ」」」」
「魔王様、当面の目標は勇者の王国の辺境の街ファルシナです。そこまでの道中にある人間の村々を落としながら、進軍していきましょうぞ」
「よし、四天王ヴォイよ。お前に命ずる。2000の兵を率いて、人間の街を村を破壊し、俺様に献上しろ」
「御意」
そういって、ヴォイがが進軍していった。
・・・
「順調ですな。男爵様。すでに20の村を破壊し、人間の奴隷を100人捕まえましたぞ。」
「うむうむ」
滅ぼした村の一角で満足げにうなずく。すべてが順調。まあ、俺様だから当然か。
「男爵様、街から人間どもの兵がこちらに向かっているようです。数は3000ほど」
伝令ゴブリンがそう伝えてきた。
「3000か。ヴォイよ、討ち滅ぼせ。俺様は後詰で出陣する。」
「御意」
・・・
「魔族よ死ね」「魔物よ消え失せろ」
そう言って、人間の騎兵軍団が損害を無視してが突っ込んでくる。すでに前衛のゴブリン槍兵部隊は半壊していた。
「なかなかやるではないか。だが、甘い。四天王妖術師アヴァよ、やつらを討ち滅ぼせ。」
「は、死ね人間ども。ダークウィンドカッター」
騎兵の進路上に暗黒風の薄い刃物が10mに渡って展開される。そこに突っ込んだ大半の騎兵達は即死した。しかし、強力な魔法防御をまとった上級騎兵はそれに耐えて突っ込んでくる。
親衛隊として待機していたゴブリン盾兵やオーガーが主君を守ろうとするが、騎兵の重量に吹き飛ばされて四散する。
「その首、もらったーー」
「甘いわ!」
「な、なに??」
近くにあったオーガーの死体を無造作に掴んで強化の魔法を流し込み棍棒代わりに騎兵共を殴りつける。魔法防御を上回る攻撃に耐えかねて、騎兵共は吹き飛び、即死した。
「ここまで侵入を許すとはヴォイの奴め、何をやっているのだ。」
「幻惑魔法にかかって、戦場を離脱したようですな。先程の騎兵の魔法防御といい、人間どもにもなかなかの術者がおるようですな」
「チィ、主力は壊滅させたのだ。兵を集結させろ。すぐに街に攻め入るぞ」
「お待ち下さい。弱兵とはいえ、こちらのゴブリン共も壊滅状態です。街を囲んでも数が少なければ侮られましょう。一旦退き補充し、大軍を擁して再度攻め入ればあっさり降伏するかもしれませんぞ」
「むむむ、仕方ないか」
・・・
「偉大なる館の主に我が秘技を捧げます」
そう言って、ネクロマンサーが頭を垂れる。
「俺様はすぐに兵がほしい。貴様の魔法でゾンビやスケルトンはどれぐらい作れる」
「先の会戦で人間・ゴブリンの死者は多数いますな。1週間いただければ、1000体は可能でございます。」
「わかった。すぐさま取りかかれ、金や資源が欲しければ好きなだけくれてやる」
「ははあ」
・・・
「「「「男爵様、ゴブリンの補充が完了しました」」」」
そう言って、ダークゴブリンロード4匹が俺様の前に跪く。先の戦の勝利により、俺様の名声は高まり、コイツラが補充できたゴブリンは合計3000と前回より増えた。
「勝利は栄光を導くか、ガハハ」
・・・しかし、コイツラといい、ネクロマンサーといいなぜこんな館を褒めるのだ。無能なミッテランが作った館だぞ。
・・・
「死ねぇ魔族」
そう言って戦士が突っ込んで来る。
4000の兵が街に向かい、俺様の周りが空いたスキに攻め込んできた冒険者だった。
「甘いわ」
そう言ってその攻撃を避けて反撃するも騎士の盾に阻まれる。
コイツラ強いな。Aランクの冒険者か
傷つければ僧侶が魔法で回復し、俺様が魔法強化を使えば魔術師がディスペルしてくる。
スキを見せれば、死角にいる弓兵が矢を放つ。
徐々に俺様のHPが削られていく。
だが、本当に甘い。そしてありがとう。
「ふん、ダークブレイド」
「ホーリーシールド」
俺様の放った魔法は盾に阻まれる。その攻防で、戦士が距離を詰めて一撃を放ってきた。俺様の胸がざっくりと割れ、大量の血が吹き飛ぶ。
やるじゃねーか
「止めだ」
心臓を狙ってくる一撃。
「【魔のオーラー】」
心臓を狙った一撃は不自然に軌跡を変える。
「なに!?」
必殺の一撃が外れた戦士の疑問を無視して、俺様はブレスを吐く。狙いは僧侶・魔法使いだ。火の防御があったが、それを上回る俺様のブレスを浴びて僧侶は灰になり、魔術師は体半分が消し炭になった。
「こいつ、魔王のスキルを使えるのか」
騎士がそうつぶやく。
「物知りだな、そうとも俺こそが未来の魔王となるエゼルド様だああ」
そう叫んで前衛の戦士と騎士に斬りかかる。
「撤退だ、撤退」
逃げようとする冒険者。
「逃がすかよ」
フン、フン、フン
しばらくすると戦士は肉塊に成り果てていたが、騎士と弓兵は逃げてしまった。
せっかくの経験点が溢れていったか。
どちらかは追って切り伏せるか。そう判断し、片方を追って追って追いまくって倒して経験値を稼いだ。
街の方角を見上げると煙が上がり、悲鳴と歓声が聞こえる。街を落とせたようだった。
ガハハハ、順調だな