水と光~トラップ&マジックハウスっ!!
水と光と、演習&結成ですっ!
ジークスエリアの遥か南東の高地にティンリン共和国がある。その北部の武芸が盛んな村、『パロ』にマチカは来ていた。
1月、樹母の月の3日の午後、雪の降りしきる中、一糸も纏わぬ姿のマチカはパロ村の外れの竹林にある小さな滝に打たれていた。
清く、強い、若き山鹿のごとき身体をしているマチカ。
両掌を上に向け、鳩尾の前で重ねる『蓮鉢の構え』を取る。実戦では構えが大人し過ぎてマチカは上手く使えていないが、フガク流格闘術の基本の構えであった。
額、鼻先、顎、乳房、背、臍、腰、膝、爪先まで完全に均衡を保っている。
マチカは『正中灼氣』を緩く発動、維持して体温を保っていたが滝行を始めてから既に2時間は経過しており、解くと長い髪の毛先等は凍り付いていた。
痺れるような冷気が背中の傷に染みる。頭の中には魔物と化した義弟と、自分によく懐いてくれたまだ病状が悪化する前の無邪気な義弟の姿がチラつき、合わせてギルド学校の同級生達の顔、ニック・・ヒロシ。バザーで見掛けたリュッテの三日月のピアスが浮かんだ。
「・・・くっ!」
雑念である。一族の破滅を招いた義弟への憎しみと自分が果たすべき決死の使命に苦しんでいるつもりでいたのに、10代の、普通の娘達と同じような甘ったるい思考に気を取られ始めていた。
人並みに嫉妬を覚えることにある種の興奮すら抱いてしまった。
「私は戦って・・死ぬっ!」
小声で叫ぶマチカ。目を閉じ、苦悶の表情でそのまま10分あまり滝に打たれていた。と、
「マチカっ! いつまでやってんの? フガク老師が呼んでるよっ?」
ふっくらした体型のハーフホブゴブリン族の姉弟子、ミンシャが竹林の道から現れた。
薄い円盤型の全粒粉無発酵パンに蒸かして潰したポテトを挟んで揚げ焼きにした『アルプラタ』という薄塩味の軽食を片手に持って、もっちりとした食感のそれをワシワシと食べながらでもあった。
「風邪引くよ? 早く拭いて服着な」
「うん。すぐ行くよ、ミンシャ」
マチカは滝から離れ、滝壺の近くの祠の側の岩の上に、東方風な稽古着等と一緒に置いていたタオルの雪を払い、岩場で身体を拭き始めた。
「・・・」
アルプラタを食べながら、マチカの背の大きな傷をそれとなく見るミンシャ。
「あんた、その傷痕、あたしの軟丹氣と、とっておきの霊薬で消してやろうか?」
「いい、これは戒めだから」
身体を拭き終わり、髪の先に付いていた氷も取ったマチカはまた雪を払い、服を着始めた。
「・・フガク流は水と光の技を使うんだ。あんたもその力を使えるようになるまで、ここに残った方がいいよ? 化け物退治は専門家がやればいい。あんたの仕事はもう終わってる。あたしは最初からそう思ってるし、同じようなことを言うの、これで69回目」
「ミンシャはいつも正しいね。ありがとう」
稽古着に着替え終わったマチカは柔らかく笑って、絞られてから早くも凍り掛けているタオルを持って、竹林の道に歩き出した。
「そう、あたしはいつも正しい。あんたの姉弟子だから、あんたより、とても賢い。マチカはマチカより、あたしを参考にすべき」
アルプラタを食べ終わったミンシャはマチカの後に続き、すぐに追い抜き、大きくふっくらした背中でマチカを先導し始めた。
ミンシャがいるようなここは本当に良い所で、自分にはもったいない、とマチカは思った。
同じ頃、ヒロシ、ニック、チュンコ、マサル、フナート、ラーシエン、ジャインの7人はギルド学校戦士科棟の、まだ年明けの冬休み中で人気の無い第2談話室に集まっていた。
「・・マチカに関する、俺達が知っていることはそんな所だ」
「深く関わるつもりがないなら今、聞いたことは忘れてくれよ?」
「問題無いなら一般的な夜魔についての資料を、ちゃっ! と配りたいのですが?」
ヒロシ達以外の4人の反応は様々だった。ジャインは冷や汗をかき、マサルは腕を組んで目を閉じ、ラーシエンはハンカチで涙を拭い、フナートはヒロシ達の目や表情等を確認しているようだった。
「私は協力させてもらうわ。私のクエストも命懸けだけど、時間的猶予はあるから・・」
「俺は元々目的って言う程の目的が無いんだ。天涯孤独の身の上だしな。・・仕事になるなら考えてみるよ」
ラーシエンとフナートはその気があるようだった。
「俺も卒業から半年くらいは猶予がある。ただ、条件次第だな。報酬じゃない。俺は生きて本国に帰らなきゃならないから」
マサルは慎重ながら、協力してくれそうだった。が、
「ちょっとエンゼとルパイに相談してもいいか? 卒業後にパーティー組む約束をしている。勝手には決められないぜ?」
そう言って席から立ち上がるジャイン。
「まぁサポートくらいはできると思う」
「ああ、その時は頼むよ」
気まずそうなジャインにヒロシはなるべく気さくに応えた。
ジャインは第2談話室を出ていった。
「ビビったなアイツっ! ケッ」
悪い顔をするニック。
「ニック。普通に考えたら早々協力してくれませんよ? 皆それぞれ目的や卒業後の活動プランがあるでしょうし」
淡々とした顔のチュンコ。
「確か、ネーガ国の鬼眼族の族長の息子だったんじゃねーか?」
「色々あるんだろうさ」
「腰抜けよっ!」
「・・じゃ、資料配りまーす」
チュンコは自前の念力特性の『マグネットワンド』を用いて、ステープラーで綴じられた紙の資料をさっさと配りだした。
「現地の夜魔の詳しい資料までは手に入らなかったんだよ」
悔しげなニック。
「夜魔のカテゴリーの魔物であることには違いないから共通項はある。魔物に関する講義でもあったけど、確認しよう」
無意識に『会社員モード』で喋っているヒロシ。
配られた資料には様々な形態の夜魔達が写真や合成画像や詳細なイラストと共にデータがレーゲン語で記されていた。
「一般的に夜魔の階位は7段階。無位も含めると8段階か。連中はその名の通り日の光の元では上手く活動できない。悪魔と契約して墜ちて魔物と化した者達だ」
資料の奇怪な夜魔達はどこか人や亜人であった頃の面影があった。
「間接的に配下が増えてゆくことも珍しくないが、スピンドルストン国で発生した夜魔はその典型のようだ」
「実際のクエストはたぶん、大規模討伐クエストに参加する形になるんじゃないか? って俺達は踏んでるよ」
「特攻上等に違いないマチカさんをどうフォローするか? というのも課題です!」
マサル、ラーシエン、フナートは顔をしかめて資料を見詰めていた。
「同じ階位でも個体差がひでぇな」
「だけど、契約した悪魔の職能は完全に反映されるし、階位によってステータスや異能に振れるリソースは決まってる。全くワケがわからない相手でもないわ」
「結局、クエストプランの中での俺達の扱い方、次第じゃないかなぁ? マチカが確実に首魁の突っ込んでくことを考えると、配置も重要だけどさ」
ヒロシは話を続ける前に、付け加えておく点があると思った。
「皆、マチカ本人は俺達の介入を望んでないが、1人じゃどうしようもない、とも思ってるはずだ。その辺の所は、また折を見て話してみようと思う。他のメンバーにも話したい所でもあるけど」
「だね」
「無謀な暴走は断固阻止ですっ!」
一同は、ここから夜魔と想定される現地の状況について話し合い始めた。
一方、ジャインは小走りにギルド学校の食堂に来ていた。懐の眼鏡ケースから眼鏡を取り出して掛けるジャイン。
調理場はまだ閉まっているが、食堂は解放されていた。売店の一部と、殆んどの自販機が稼働しているのと、食堂からだいぶ離れてはいるが自炊室もあるにはあった。
ワーキャット族のエンゼとルパイは2人以外には誰も見当たらない食堂の片隅で竹皮で包まれていた購買の『ライスボール』を食べていた。具はエンゼは梅、ルパイは唐揚げだった。
飲み物は金属カップで飲む自販機の粉茶。エンゼはコーヒー、ルパイはレモネードを飲んでいた。
「エンゼっ! ルパイっ!」
ジャインは誰もいないのにわざわざ端の方に座る2人に苦笑しながら足早に歩みよった。
「早かったね、ジャイン様。あ、『眼鏡ジャイン様』になってる」
「イジメられたにゃ? ジャイン様」
「イジメられてはないっ、だが、やっぱりマチカの事情ヤバかったぞ?」
ジャインはかいつまんでヒロシ達から聞いた話を伝えた。
「ヤベェだろ?」
「うーん? でも大規模クエストのルーキー用の割り当てはせいぜい露払いとか、そんなもんじゃないかな?」
「マチカはぶっ込むつもりなのかもしれないけどにゃあ」
思ったより飄々とした反応の2人にやや戸惑うジャイン。
「そ、そうか・・だよなっ? 俺達それくらいだよな?!」
「そうだよ! 大丈夫大丈夫っ! ほら、ジャイン様、ライスボールの鮭が残ってるよ? 食べな食べな」
「私、ボンボンチョコレート持ってるよ? ブランデー味。好きでにゃ? 座りな座りな」
「お、おう」
言われるままにルパイが1つ開けた、2人の間の席に座るジャイン。
「まぁこのジャイン様に掛かれば、夜魔だかなんだかも、どーってことはないけどなっ! アッハッハッっ! んっ、鮭美味いっ!!」
「ねーっ」
「ボンボンも美味しいにゃあ?」
「おっと、今、ライスボール食べてるから待ってくれよ」
「私、水筒にホットジャスミンティー入れてるよ?」
「それはもらうかな?」
「にゃあっ、飲んじゃって飲んじゃってっ、ジャイン様!」
「おうっ、飲もうぞ! 飲もうぞ!」
さっきまで青い顔をしていたのに速攻調子付くジャイン。が、今の今まで誰もいなかったはずの3人の前の席に、ガノーンとバフィが突然姿を現し、勢いよく席から立ち上がった。
「何が飲もうぞ、だぁっ!! 聞いてられんねぇわっ!」
「ヒロシ達もあたしらをハブって何をコソコソしているかと思えばっ!」
いきり立つ2人。
「ガノーンっ、バフィ?? どうやった??」
ビビるジャイン。
「ああ、最近、透明化できる『ミスティックモノアイ』を使えるようになった」
ガノーンが言うと同時に椅子の陰からヌッと岩系モンスターのミスティックモノアイが顔をだした。材質がツルツルになったモノアイロック、といった風貌。
「加えてあたしの『山の主』の気配なんかを消す力も使った」
背後に山の主を少し顕現させるバフィ。
「お前ら、段々チートになってきてるな・・」
また冷や汗をかくジャイン。
「私達がライスボール食べてる時もずっといたの?」
「さっき、付け合わせのタクアンピクルが急に無くなったのはエンゼじゃにゃかったか・・」
不満顔のエンゼとルパイ。
「ギリギリを攻めてみたくなってよ?」
「とにかく、あたしとガノーンはミーティングに参加させてもらうよっ?!」
「また『マサルの弟』扱いされちまうからなっ」
バフィと、ミスティックモノアイを連れたガノーンは勢い込んで食堂から出ていった。
「早速、私達も行っとく? ジャイン様」
「私達はジャイン様次第にゃ」
「・・・」
なし崩しの展開にやや癪に障るところもあったが、ジャインは溜め息を吐いた。
「ライスボールとチョコ、食べ終わってから行こうぜ?『焦った感』が出ると見くびられるからなっ」
そう言って、自分のライスボールをジャインがガッつき始めると、エンゼとルパイは顔を見合せて笑いを堪えるのに苦労した。
「ジャイン様、可愛いね」
「萌えるニャっ!」
「いや、『可愛い』とか『萌える』とか俺は求めてないぜっ!」
「ふふふっ」
「フフッ」
3人は暫くじゃれながら購買のライスボールとチョコレートを平らげてから第2談話室へ向かった。
結局、マチカ以外の自主練メンバー全員が集まったミーティングはそれからたっぷり3時間は続いた。
1月4日、夕方。厚着したヒロシ、ニック、チュンコの3人は冒険者ギルド学校の広大な敷地の正面出入り口の門の外の古ぼけたベンチに並んで座っていた。
敷地は魔物避けの結界の展開起点を兼ねた10メートル前後の壁で囲まれているが、道路の通った所は場所や時間によっては解放されている。
オレンジ掛かった冬の空は概ね晴れていたが、冷たい風に乗ってどこからかさらさらとした粉雪が流れてきていた。
背にレーゲン語で『挽き肉キャンプ前』と殴り書きされたベンチには屋根が無く、チュンコが『大きな葉』を地面から発生させて屋根代わりにしていた。
それでも寒い為、3人は協力して造った光量を押さえ熱量は上げたライトトーチの魔法の光の玉を暖房代わりにしていた。チュンコを真ん中にして身を寄せ合って寒さを凌ごうとする3人。
3人とも一応屋外なので学校から借りた兵装の腕輪は付けていた。ニックが持ってきていたラジカセからは気の抜けたような流行歌が流れている。
「やっぱ『ファイアトーチ』の魔法も覚えときゃよかったな・・」
「演習では使わないんですけどね」
「まぁ『屋外でじっと人を待つ』とか演習で無いもんね・・。マチカちゃん遅いなぁ。チュンコ、時間合ってんの?」
「昨日の電話ではそうでしたよ? というか、卒業したら通信石はちゃっ! と買わなくちゃですね。持ってないとすんごい不便です!」
「会社員時代は仕事では持たされてたなぁ」
「私も薬局勤務中は持ってました。田舎だったから薬師が医者代わりであちこち駆り出されちゃって」
「俺はサーファーやってた時、女の子達と連絡取るのに便利だから持ってたっけな?」
「何で疑問系だよニック?」
「いや当時はフワフワしてたから、何やってたかあんま覚えてないんだよ」
「小出しでチャラいエピ出してきますね。減点ですっ!」
「採点されてんのっ?」
他愛無いことを話しつつ、3人はマチカを待っていた。
当のマチカは、羽毛で覆われた耐寒種の騎竜に乗ってギルド学校へと続く道路を走っていた。
皮の旅行鞄と棒状の物が何本か折り重なった物の入った袋に石油樹脂の防水シートを掛けて騎竜の背に積んでいる。
三輪石油自動車や二輪石油バイクを借りた方が早いが、ギルドが使っている強力な魔物避け展開器を詰んだ車両ではないので物騒なのと、壊した時の弁償額が大きい。
ギルドのバスは時間が合わず、特例申請して学校の転送陣を使うのも大袈裟だった。
騎竜にも首からぶら提げるタイプの簡易な魔物避けは付けられていたし、一緒に戦うこともできる。何よりマチカは騎竜に乗って走るのが好きだった。
合わせて借りた消毒薬臭い防寒具とグレネードガンとサバイバルナイフを頼りに、マチカは粉雪が降る夕焼けの道を走っていた。
ガードレールにも魔除けの塗料は塗られている。離れた場所からの不意の遠距離攻撃と、飛行タイプの魔物以外はさほど警戒する必要は無い。
「・・ちょっと、遅くなっちゃったな」
呟いていると、目の前にギルドの門とその脇の道端に小さな光が見えた。ヒロシ達が暖を取るライトトーチだった。
「あ・・」
簡単に瞳が潤んでしまい、マチカは慌てて、額の上に上げていたゴーグルを下げて目を隠した。
入学する前より弱くなっているんじゃないか? と動揺しするマチカ。呼吸を整える。
「マチカちゃーんっ!!」
「マチカさーんっ!」
「おーいっ!」
ベンチから立ち上がって呼び掛ける3人に、平静を装い、
「皆っ!」
マチカは片手を上げて、騎竜を駆け寄せるのだった。
・・1月6日、午前9時過ぎ。マチカを含めた自主練メンバー12人は1つのグループとして、仮ではない『若玉葱の戦士』としてのレベル認定演習を受けていた。
12人をさらに4人ずつ、3班に分け、宙に4軒浮かぶ奇妙な『トラップ&マジックハウス』の1軒を協力して攻略し、最上階の部屋にあるフラッグを回収するミッションであった。
「ラーシエン行ったぞっ!」
玩具型の小型人形『トイゴーレム』2体が、曲刀のシミター2本を双手持ちしたヒロシと、自分の背後をミスティックモノアイ1体に守らせた大鎌を両手持ちしたガノーンの攻撃を掻い潜り、フロアの隅にしゃがんで作業していたラーシエンとチュンコに突進した。
「取り零し多いよっ、2人ともっ!」
ラーシエンは虚空から嵐の霊剣ディードを出現させ、構えた。
「轟けっ!!」
竜巻を纏った霊剣でトイゴーレム2体を粉砕するラーシエン。
「加減が利かなくて燃費悪いんだから・・ガノーンっ! 貴方の回転が遅いっ! 大振りの大鎌なんてなんで使ってるのっ? ここはサックでしょ?!」
ガノーンの予備武器は拳打を強化する双手持ちの重量サックだった。
「いやぁ、だってよぉ。コイツらカウンター特性持ちだからリーチ短いとスゲェ殴られるんだわ。あと俺、サックの使い方そういやあんま練習してなかった。へへっ」
「何を貴方はっ!! 怠惰なっ〇〇〇✕✕✕ッ!!! でしょうがぁっ!!!」
怒り過ぎて何を言ってるかよくわからなくなるラーシエン。
「ラーシエンっ、怒ってないで早くポータートラップ解除するの手伝ってください! 家の外に飛ばされますよっ?」
タイマー付きのテレポートトラップの解除端末に悪戦苦闘しているチュンコ。マジック&トラップハウスはその名の通り様々なトラップが満載だった。
「早く持ち場に戻った方がいいぜぇ?」
仕方無くサックを武器召喚して、カウンターを打たせないように一撃で吹っ飛ばすよう心掛けて戦いだしつつ、一言カマさずにはいられないガノーン。
「何をっ!!」
挑発に、簡単に怒るラーシエンだったが、すぐにチュンコのイジっていた端末がアラームを鳴らし出した。
「だから言ったんですよぉ・・」
恨みがましくラーシエンを振り返るチュンコ。
「うっ・・」
「家の外とも限らないっ。皆テレポートに備え円形で構えようっ! 土よっ」
ヒロシは一先ずガイアウォールの魔法で土壁を作ってトイゴーレム達を壁の向こうに押し出し、4人は急いで集まり、互いに背を向けあって防御姿勢を取った。
結果的にガノーンのミスティックモノアイを皆で守るような形になりつつ、4人はいずこかへテレポートされた。
「お帰り。これで3度目だが、テレポート時の防御姿勢の的確さは評価しましょう」
演習の監督を担当している指導官のボルビが表情1つ変えずに言ってきた。
4人はトラップ&マジックハウスの外へ飛ばされていた。外側から見ると浮いていることを除けばさほど大きくもないただの一軒家に見えるトラップ&マジックハウス。
「またまたまた振り出しですぅーっ!!」
「わ、私のせいかしら? そうとも言えないんじゃないっ?」
「あ~あ」
「まぁ、途中までのマップはできたし、そこまで倒した魔物やトラップは復活しない。他の班に得た情報を送信して、あとは・・」
ヒロシはうんざり顔でトラップ&マジックハウスの前に設置された『治癒のバッテリー』を見た。
治癒のバッテリーは雷属性の回復装置で、設置が容易で魔力や生命力を効率良く補充できるが、一方で傷や打撲や解毒効果はいまいち。何より回復時に軽く『感電』するので殆んどの受講者は苦手としていた。
「回復もしよう・・」
ヒロシ達はげんなりしつつ、治癒のバッテリーで感電しつつ回復し、許可されている範囲で物資の補給も行い、他の班に通信石で獲得した情報を送った。
準備が整うとヒロシ達は、ボルビの近くの魔法陣でトラップ&マジックハウスの制御をしているオルダズィーテと、大量の菓子を食べながら魔力供給をしているサイアンをチラリと見つつ、のそのそと3度目のリトライを敢行していった。
ニックはミドルスピアを兵装の腕輪に戻し、替わりに両手持ち可能な鍔の無い軽量大刀、バスタードシャーシュカを鞘とベルトごと武器召喚して、丹氣で誘導して身に付けた。
「やれるかな、っと!」
素早く飛び回るムササビ型モンスター『首狩りモマ』の群れに構えるニック。
近くで穂先が両端にある槍、ツーヘッドスピアを振り回し応戦していたマサルは察して、大振りをしてニックの方に首狩りモマ達を誘導した。
「ハッ!!」
ニックは『居合い抜き』を放った。鞘走りの勢いと共に丹氣で斬撃の拡大する高速範囲攻撃が首狩りモマ達を襲う。
ズバァッ!! 成す術無く8割型の首狩りモマが切断された。残りはマサルがツーヘッドスピアを回転させる通常攻撃でそつなく全滅させた。
「こっちは片付いたな、ニック」
「うん、いい感じだった。イエーイっ」
軽くハイタッチするニックとマサル。
「こっちも終わったよ」
「私達なら余裕にゃっ」
エンゼとルパイは打撃系だったらしいトラップのタイマー付き操作盤を難なく解除していた。
2人は器用で盗賊の職能の適正が高い上に、テレパシーで同調できるので共同作業の効率が常人の比ではなかった。
「他の班はバタバタしているようだけど、俺達優秀だなぁ。まぁマチカちゃんの班に入りたかったけどっ」
「この班は演習の設定と相性いい、ってとこだな」
「ニック以外はわりと落ち着いてるしね」
「でもジャイン様の班がよかったにゃっ」
「んだよっ」
等と言っていると、不意にフロアにオルダズィーテのアナウンスが響いた。
「は~い、回転しまーす!! 回るよぉ?」
不意に、フロアにオルダズィーテのアナウンスが響いた。
「げっ、またきた!」
「この件、主旨がよくわかんない」
「あの先生そういうとこあるにゃ」
「攻略フィールドが変動することもあるだろうよ。『専業マッパーが機能してない』設定だし、盛ってんだろ?」
言ってるウチにトラップ&マジックハウスがグルンっと回転し、壁が床に、天井が壁に変わった。
「おっと危な~いっ!」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
ニックは少し大袈裟に着地したが、マサルとエンゼとルパイは首狩りモマの死骸を避けつつ、家の回転に対応し淡々と着地した。
「反応薄っ! お前らが普段ガノーンとかジャインとつるんでる理由なんとなくわかったよっ」
「ハイハイ、どうせ俺らは『つまんないチーム』だよ。次のフロア行こうぜっ」
「私達をそのチームに入れるなよ、マサル」
「私達は私達のテレパシーの中では凄いユーモアあるやり取りしてるにゃっ」
「その辺がまず陰気なんじゃないの?」
「ハァ?」
「ニックのクセに生意気にゃ。入れ替えてやろうかっ?」
「何その脅し方っ? 怖っ」
軽く小競り合いしつつも、この班はクレバーに攻略を続けていった。
マチカの班は、トラップ解除担当の眼鏡を掛けたジャインとバフィが作業しながらイライラていた。
天井が床になり、作業し辛くなっているので2人ともジャインが出した『歪な手』の上に乗ってタイマー付きのトラップ制御機の配線をイジっていた。
「クッソ~っ、操作盤タイプで全部行くかと思ったら配線型かよっ」
「あんたグチ多いねっ! 眼鏡掛けたんだからさっさと手を動かしなっ」
「眼鏡関係無いだろっ?!」
「あーんっ?」
天井が床になった4本の腕に全てに戦鎚を装備して、マチカと共に大型の原種スライムの群れと戦っていたフナートは心配気にジャイン達の様子を伺っていた。
「マチカ、やっぱ俺達がトラップ解除担当した方がよかったんじゃないか?」
ショットガンの0距離射撃で大型スライムの核を撃ち抜くやり方で戦っていたマチカは2人を振り返ることもしなかった。
「フナート。私達、トラップ外しも機械の扱いも、ドンケツ組だよ?」
「・・そうだったな。敵、倒すわ」
フナートとマチカは戦いに専念した。
この班はややアンバランスながら、役割分担自体は機能していた為に、ヒロシ達の班程頻繁にトラップに引っ掛かることはなかった。
午前10時過ぎ、入ってみれば外観からは想像もできない程、広々とした5階建てだったトラップ&マジックハウスの最上階まで最初にたどり着いたのは一番合理的に進めてきたニック達の班だった。
しかし、順調過ぎて1度も外に出ていないニック班は疲労困憊で物資も底を突き掛けていた。武器の消耗も激しい。
一定の周期でトゲや回転ノコギリが襲う解除不能の障害系トラップ通路の前で、ニック達はぼんやりと座って後続組を待っていた。
ニック達が着込んでいる軽量鎧と薄手のギャンベソンもだいぶ傷んでいた。
「さすがに疲れたよね・・」
「効率良過ぎるってのも考えもんだな」
「情報は提供したし、他の班はあまり消耗してないはずだから後はサポートに回らない? まぁジャイン様は守るけど」
「もうあたしら回復薬も無いし、休も休もっ! あー疲れた。ふにゃーごっ!」
ルパイはその場にゴロンっと寝転がり、ワーキャット族だけに猫のように伸びをした。
エンゼが少し笑ってルパイの腹をポンポン、と軽く叩いてやるとルパイは「ニャハハッ」と笑った。
マサルとニックも暫くは待ちに専念するしかない、と通信石で他の班と連絡をしたりメモの確認をして、そのまま10分程休んでいると、
「おーいっ! 来たよ~っ!!」
「エンゼっ! ルパイっ!」
マチカ、ジャイン、バフィが歪な手に乗り、フナートはバフィが使った『サイコキネシス』の魔法で浮遊して、トラップ通路をスルーしながら現れた。
「マチカちゃーんっ!」
「ジャイン様!」
「にゃあっ、ジャイン様ぁっ!」
「フナート、吊られてら。ふふっ」
トラップ通路を完全に抜け、着地すると、念力の維持が大変だったらしいバフィはぐったりとした。
「フナート、あんた重いっ」
「いや悪い悪いっ」
バフィはともかく、全体としてニック達の班程消耗しておらず、何より1度は自主的に外に出て物資の補充をしていた為、弾薬等を含め、物資的に充実していた。
「ヒロシ達の班はまだ掛かりそうだが、俺達だけで最終攻略フロアの手前まで開拓しちまおう。1組くらいあまり消耗してない班がいた方がいいだろう?」
マサルが取り纏めに入った。合流した安心感で一同が雑談しだす気配を牽制した形だった。あくまで試験を兼ねた演習中で、一同の行動は物見の球等で見られ、記録もされていた。
「マサルっ! ちょっと休ませてよっ」
「いや、勿論回復はしてもらっていいんだけどよ」
「バフィが回復したらそうしよう」
「まぁ物資の分配もした方がよさそうだな」
「このジャイン様は問題無いぜ?」
「おっ? いいねっ、ジャイン様っ!」
「バフィにイジメられなかったにゃ?」
「あたしのことどういう認識だよっ?」
「マチカちゃん、マッサージしようか? むふふっ」
「きーもーいっ!」
結局、若干はわちゃわちゃしたが、数分後には再出発する運びとなった。
遅れているヒロシ達の班は4回のポータートラップによるリスタートを経て、最上階のトラップ通路前に到着していた。
通路は壁と天井にもあり、その時点で『地面』となった面が稼働する仕組みだった。
特に後半、ルートが統合されだすと他の2班によって攻略済みであったり探知魔法や探知系異能で解析済みであった為に、ヒロシ達は楽々と進めていた。
4回もリスタートしているので物資も万全。
「どうする? 俺はそのまま行けそうだし、ガノーンも手下に運ばせれば飛べるだろ?」
「まぁ俺はなんとでもなるぜ?」
「風魔法でチュンコと私は飛ぶわ」
「ちゃーっ、と飛んじゃいますか?」
軽い打ち合わせの後、ヒロシは素でトラップを回避しながら通路を走りだし、ガノーンは『小石』の状態で形態しているミスティックモノアイをもう1体出現させて2体掛かりで自分を運ばせ、ラーシエンの『エアポーター』の魔法でその身を風で包んだチュンコとラーシエンは飛行してトラップをスルーしていった。
その後のフロアや通路は全て先行班によって攻略解析済みで、ヒロシ達は殆んど消耗無く最終攻略フロアの手前まで到達できた。
「ヒロシさーんっ!」
「こっちこっちっ!」
「ガノーン、遅ぇぞ?」
複雑に交錯する、強制的に移動させられるパネルが並ぶ通路の先が最終攻略フロアの入り口で、そこの前に先行組が集まって待っていた。
移動させる床の攻略も先行組が行っており、情報を送信してもらったヒロシ達は決まった手順でルートを選べばいいだけだったが、意外とすぐには到着できなかった。
先行組に軽く手を上げて応えたりしつつ、ヒロシ達は根気よくルート選択を続けた。
「・・ここも飛んだ方が早かった気がするわ」
「なんか目が回ってきますしね」
「その内着くさ」
「というか、俺らこの試験点数低くねーか?」
「それは・・」
「最終戦でちゃっ、と挽回しましょう!」
「私、前衛いけるかしら・・」
楽はしても、何やら緊急感を抱き始めるヒロシ達だったが、ともかく暫くして先行組と無事合流を果たした。
物資の分配を済ませた一同は雑談もそこそこに、車座になって最終攻略フロア攻略の協議を始めた。
「このジャインのっ『千里眼』によれば、この先のフロアがラスト。さらに先のフラッグルームには何も仕掛けは無かった」
確証は特に無いが『無かった』と言い切るジャイン。
「配置エネミーは『カッパーゴーレム』2体と『アイアンゴーレム』1体。あとはバリア付きの『シェードポーン』無限生成陣が2つか・・」
顎に手を置くヒロシ。顎髭の剃り残しに指が当たって『ミスった』等と考えたりもした。
「俺のミスティックモノアイは2体までなら簡単な条件付けでオート対応可能だぜ? 無限生成陣潰しに使えねーか? ほら、この間の食堂でやったヤツ」
棒状形態糧食をモリモリ食べているバフィを振り返るガノーン。
「ああ、アレね。あたしも2人くらいなら山の主に『隠行』を被せてもらってついでに別のこと、やれないでもないよ?」
「私なら風魔法で高速飛行で近付いて、あとは霊剣の1発で大きな火力出せるから、陣の1つなら何とかなると思う」
真顔だが、なぜかマチカに右腿で膝枕してもらっているラーシエン。
「まぁ高速飛行ありきならこのジャインも、適任だな。もう1つの陣はやるぜっ」
右腕をエンゼの肩に、左腕をルパイの肩に回しているジャイン。
「最初に大量召喚されるはずのシェードポーン達は温存してた私のリーフウォーカー『軍』で足止めします!」
マチカの左腿で膝枕をしてもらっているチュンコ。迷惑顔のマチカ。
「俺の狙撃と、マサルのランチャーでカッパーゴーレムの1体は倒せる。マサル残弾は?」
「3発だ。十分だぜ? ヒロシ」
わざわざ私物持ち込み許可を取って持ち込んだビーフジャーキーを噛っているマサル。
「俺は『ガトリングガン』が丸まま残ってるからそいつでもう1体倒すぜ?」
マサルからもらったビーフジャーキーを噛っているガノーン。
「ゴーレム達はしょっぱなの『怪光線』のブッパがヤバいから、俺が最初に『アッシドクラウド』で牽制するよ。後は・・突入組の2人までなら『タイムクィック』を続けて掛けられるかな?」
「じゃ、私とルパイで」
「加速得意だから、遠距離武器も結構使えちゃうニャっ!」
「そうなの? じゃ、頼むけど」
揃って肩を組まれるエンゼとルパイのジャインとの関係性が謎過ぎて、改めて困惑するニック。
「2人は陽動に専念してくれ。あとはマチカとフナートだな・・」
身軽そうなマチカと、筋骨隆々のフナートを見比べるヒロシ。
「ま、俺達は部位破壊だろ? 左足、でも狙っとくか?」
「私はいいよ」
「じゃ、2人はそれで。バフィは隠行サポートと、リーフウォーカーを操るチュンコのフォローをしてやってくれ」
「わかった。やってやんよ」
「よろしくですっ」
「初手はそんな感じで! それから俺の班は疲労の蓄積も武器のコンディションもいいから、最後の詰めは俺達がやるっ!! 任せてくれっ」
一行の作戦が纏まった。
最終攻略フロアの扉を開け放つと、速攻でニックが水魔法を放った。
「水よっ! アッシドクラウドッ!!」
フロア奥に膝を抱えて座って『待機』していたゴーレム達の頭部を強酸の雲が覆った。
「ッ?!」
「ッ?!」
「ッ?!」
仰け反るゴーレム達。特にアイアンゴーレム程耐性は持っていなかった銅ベースのカッパーゴーレム達は頭部を大きく溶解させた。
「ゆくのですっ!!!」
リーフウォーカー50体余りを突入させるチュンコ。これに呼応して無限生成陣から影の兵、シェードポーン達が無数に湧きだした。
ミスティックモノアイと共に既に姿や気配等を消しているラーシエンとジャインも突入。他のメンバーも次々とフロアに突入していった。
「モッ!!!!」
唸って怪光線を放つアイアンゴーレム。しかし、タイミングが遅れ、頭部の損傷で狙いは甘かった。それでもリーフウォーカーの一部を薙ぎ払い、チュンコとその側にいるバフィの近くの床も焼き焦がした。
「ちゃーっ?!」
「危ねぇよっ」
「時よっ! タイムクィックっ!!」
ニックはエンゼとルパイの時を加速させた。2人はゆっくりに見えるシェードポーン達をすり抜け、一気にアイアンゴーレムの眼前に飛び込んだ。
エンゼは『ショートスピア』、ルパイは丹氣を込めて強烈な矢を撃ち込む『チャージボウガン』を装備していた。
ルパイはアイアンゴーレムの顔を狙って装填も滑らかに立て続けに矢を撃った。加速中なので宙に矢を配置してゆく様な形になる。
エンゼはアイアンゴーレムにより接近し、丹氣を乗せた穂先で軽く突つく程度の攻撃を繰り返した。
「モッ!」
やたら素早く、妙な攻撃をする『敵2体』に対応しようとするアイアンゴーレムだったが、よく似た2人が突然入れ替わり、離れていたはずの者が真下から矢を撃ち顎を狙いだし、張り付いていたはずの者が離れたいちからこれ見よがしに槍を旋回させて威嚇を始めたことに戸惑った。
「モッ?!」
戸惑っている内にシェードポーンを蹴散らし、マチカとフナートが飛び込んできた。
「よしっ!」
混戦の中、射撃ポイントを確保したヒロシは同じく確保していたマサルとアイコンタクトを取り、『単発装填式ライフル』を構えた。
頭部がほぼ崩壊して状況が把握できなくなっているらしいカッパーゴーレムの1体の頭部に狙いを定める。このゴーレム達のコアが頭部と胸部にあるのはジャインが看破していた。
「っ!」
狙撃技『ピリオド』で丹氣を乗せた弾丸を頭部に撃ち込み、頭部コアを粉砕するヒロシ。
マサルも3発装填された『4連装式ランチャー』で正確に榴弾を誘導して命中させる丹氣技『ホールイン』で正確にカッパーゴーレムの胸部に2連続で命中させるマサル。1発で装甲を破り、2発目で内部のコアを砕いた。
コアを失ったカッパーゴーレムの1体は機能を停止させた。
「うぉおおっ?! 邪魔だぁーーーっ!!!」
ガノーンは安定的な射撃ポイントの確保を諦め、チュンコのリーフウォーカー達でも抑え切れない程に溢れ群がるシェードポーン達ごと撃ち抜くことに切り替え、ガトリングガンの丹氣技『ハードクラッカー』を放った。
大雑把に丹氣の乗せられた弾丸の嵐がシェードポーン達を撃ち抜き、その先のもう1体のカッパーゴーレムに浴びせられた。
狙いも大雑把であったが、圧倒的な火力で瞬く間に胸部と頭部のコアを破壊され、カッパーゴーレムは機能を停止させられた。
「ふぅふぅ・・」
姿も気配も隠し、自分が担当した無限生成陣の近くの中空で、ミスティックモノアイと共に機会を伺うラーシエン。
当初は速攻で破壊するはずが、陣から発生されるシェードポーンの勢いが想定以上なのに加えてバリアも強固で、溜め打ちで破壊する必要もあった為に躊躇していた。
姿は見えないが、おそらく同じく理由でジャインも担当陣の破壊をできていなかった。このままでは物量で押し切られかねない。
プレッシャーで滝の汗のラーシエンだったが、その汗が床に小さな水溜まりを作り、それをシェードポーン達に気付かれた。
「っ?! もうっ。透明化解除っ。援護してっ」
ミスティックモノアイは透明化を解き、代わり石の礫弾を周囲撒き散らしシェードポーン達を威嚇した。
「ぜぇああーーーっ!! 轟けっ!!!」
渾身の力で嵐の霊剣ディードを陣のバリアに打ち込むラーシエン。バリアを撃ち抜き、陣を破壊することに成功したが、勢い余って発生した烈風に自分とミスティックモノアイも吹っ飛ばされてしまい、結果的にシェードポーンの群れから距離を取る形になった。
「きゃあーっ?! あ、でもラッキーっ」
ラーシエンが陣の破壊に成功したのを見て、ジャインもじっとしてられなくなった。
「クソっ、先んじられた。チキンと思われちまうっ! このジャインはっ、チキンじゃないぜーーーっ!!! 解除だっ。援護しろっ!」
こちらのミスティックモノアイも透明化を解き、礫弾で威嚇を始めた。
「うぉおおおーー~っ!!!」
ジャインは歪な手から飛び降り、宙に残した歪な手はすぐに消して、消した側から前方に出現させて殺到したシェードポーンの群れに撃ち込み吹っ飛ばして陣のバリアに槍と斧と鎚が一体になった武器、『ハルベルト』を手に突進し、丹氣を乗せた不規則な軌道の突きを打つ技、『酔龍』を放った。
「なっ?!」
バリアは何とか破壊できたが、ハルベルトも砕け散ってしまった。
「なんのぉーっ!!!」
シェードポーンを吹っ飛ばすのに使った歪な手を消し、即座に陣の真上に歪な手を出現させてその拳を陣に打ち込むジャイン。無限生成陣を叩き壊した。
「しゃああーーっ!!! そして逃げるっ!」
ジャインは床にめり込んだ歪な手を消し、目の前に出現させ直した歪な手に乗って、ミスティックモノアイと共に取り囲もうとするシェードポーン達から素早く逃れていった。
「ディアアアァーーーッ!!!」
三節棍の丹氣技『マッドトレイン』をアイアンゴーレムの左脚に放つマチカ。丹氣の乗った三節棍が特急列車の様に連結して猛烈な突きとなって打ち込まれた。
三節棍も砕け散ったが、アイアンゴーレムの左脚に亀裂が入った。
「マチカっ、上手いぞっ!!!」
フナートは4本の腕に鉈のような曲刀、『カトラス』を装備して、双剣技『黒衣連剣』を2倍放つ『四刀流黒衣連剣』をアイアンゴーレムの左脚に放ち、剣も3本砕けたが、これを手数で粉砕した。
「モッ?!!!」
体勢を崩すアイアンゴーレム。その前に加速したエンゼとルパイが飛び込んだ。
「叡智よっ!! エクスプローションッ!!!」
2人には引き伸ばされたような時の中で、声を揃えて無属性魔法の爆発を発生させた。
「モーッ!!!」
怪光線を放つ額を破壊されたアイアンゴーレム。エンゼとルパイは反撃される前に加速で逃れたいった。
「チュンコっ! 中列まで来いっ!! 後は俺達で引き受けたっ!!」
「ちゃーっ?! ちょっと待ってっ!」
ヒロシの号令に同じ班のメンバーは慌てて集合を始めた。
「私も戦う!」
他の班のメンバーが下がってシェードポーンの残党狩りを始める中、マチカはヒロシに並んだ。
「じゃ俺もっ!」
ニックも来た。
「まぁよしっ! 行くぞっ」
「うんっ!」
「ヤッホーっ!」
ヒロシはカトラスよりスマートな曲刀『シミター』の二刀流の構えで、邪魔なシェードポーンに黒衣連剣を放ち、マチカは『着脱式シュートレガース』を武器召喚して回転回し蹴り『旋風脚』を放ち、ニックはミドルスピアで高速4連突き『四星』を放った。
シェードポーンの群れを突破した。
「嵐よっ!!」
ミスティックモノアイの礫弾を巻き込んだ竜巻を起こしてアイアンゴーレム動きを更に封じるラーシエン。
「森よっ! ウッドホールドっ!!」
結局付いてきたバフィと仔猿の姿で顕現させた山の主に守られてヒロシ達のやや後方辺りまで来たチュンコは配下のリーフウォーカー8体と共に木の枝のように硬い蔓を無数に出してアイアンゴーレムの右足を縛って引き、前屈みにさせて右手を床に着かせた。
アイアンゴーレムは左の拳を先頭のヒロシに打ち込んだが、マチカの横蹴り技『鉄串』とニックの槍の突き技『錐突き』で弾かれた。砕けるニックの槍の穂先。
「オオオオォーーーッ!!!!」
ヒロシは武器召喚した両手持ち大刀『シャムシール』を構え、斬り上げ技『滝断ち』で、アイアンゴーレムの胸部と顎を斬り割いて頭上まで跳び上がり、そこで技を切り替えて縦回転斬り技『フルムーン』を放った。
既に大きく損傷しているアイアンゴーレムの頭部を両断し、内部のコアを破壊するヒロシ。
「モォオオッ?!!!」
回転するヒロシが後方に突き抜けてゆくのと入れ替わりに、遅れてきたガノーンがアイアンゴーレムの胸部の前に跳び掛かった。
「間に合ったぁーーーっ!!!!」
ガノーンは大鎌に丹氣を乗せ、ヒロシが付けた胸の傷目掛け、一閃する大振りの範囲攻撃技『ハーヴェスト』を放った。
傷口を拡げられ、内部の胸部コアを真っ二つにされたアイアンゴーレムは完全に機能を停止させた。
「こっちも片付いたぞ?」
まだ1体残っていたシェードポーンの1体をマグナムで撃ち抜きながらマサルが言った。他のシェードポーン達は既に全滅していた。
「まぁ何とかなったな」
「加点されたかしら?」
「ガノーン、後衛の私より遅いのはどういうワケですっ?! ちゃっ! と来て下さいよ?」
「いや、チュンコはバフィにフォローされてたろ?」
ヒロシ達の班も合流し、マチカとニックと、近くにいたバフィと仔猿形態の山の主もハイタッチをし合うのだった。
・・後、ジャインの情報だけでは不安だった一行はフラッグルームの罠探知も念入りに行った上でフラッグを回収し、無事正規のレベル判定試験を兼ねたトラップ&マジックハウスの演習を終えた。
若玉葱の戦士としてのレベルは、フナートとマサルが9。ヒロシ、マチカ、ガノーンが8。ニック、エンゼ、ルパイ、ジャインが7。残りのラーシエン、チュンコ、バフィが6だった。
白兵戦能力のみの基準で、レベル9は装備が万全なら単騎でワイバーンに勝てる力。レベル6は装備が万全ならスモールゴーレム5体に勝てる力、といったところ。
全員が物理戦特化のタイプでもなかったが、それぞれ戦士として中々のレベル評価であった。
但し、リスタートし過ぎだったヒロシの班はレポート提出とトラップ解除補習も命じられた・・
案外他のグループも含め全受講者の演習終了後に即、行われたレベル評価後の午前11時50分を過ぎた辺り、ヒロシ達のグループ12人は他の受講者達と共にシャワー室に向けて校舎の3階の廊下をゾロゾロと歩いていた。皆、それなりにボロボロであった。
「これで3時から普通に講義があるんだもんなぁ・・」
「まぁ座学なだけマシだが、さすがにつれぇわ・・」
疲れ過ぎて、珍しく意見が合うニックとジャイン。
「・・雪、凄いな」
「師匠の所も凄い降ってた。こっちも寒いね」
窓の外はかなりの雪で、ヒロシとマチカが足を止めると他のメンバーも足を止め、結果的に人の流れに取り残されて、その場に12人だけが残った。
ヒロシは今だな、と思った。
「なぁ、俺なんかはアレだけど、卒業したらそれぞれ自分のクエスト、あるだろ?」
マチカは中庭に降る雪を見詰めていた。
「それをさ、皆でクリアしていかないか? 1人じゃ無理なクエストも人数で通せることもある。それに個別に都合つけて人を集めるの、ルーキーは大変だろ? 俺達で都合、つけ合おう?」
「でも」
マチカが言おうとすると、チュンコが片手を取り、ニックが慎重に肩に手を置いた。ニックは自分が義兄と同じ仕草をしたことに苦笑しそうになった。
「マチカさん以外にもハードなクエスト抱えてる人、多いみたいです。私もっ! 自分だけ特別と思わないで下さい。皆でちゃっ、と片付けましょう」
「断っても討伐クエストに勝手に参加しちゃうよ? マチカちゃん」
「チュンコ、ニック・・」
「マチカのクエストでマチカを生還させる。それを俺達の最初のクエストにしたい」
「ヒロシ・・なんでっ! 皆、お節介過ぎるよっ!! ううっ・・・」
マチカが泣き崩れると、チュンコとラーシエンと、やや迷ってバフィもマチカを抱き締めた。
「こうなったら俺達のチーム名をつけようぜ? やっぱ『ジャイン党』でいいんじゃないか?」
「賛成っ!」
「言うと思ったにゃっ」
「却下却下っ!」
エンゼとルパイは面白がったが、ラーシエンは即、反対した。
「お昼寝トリオ切っ掛けのグループだから『昼寝組』でいいだろ?」
フナートが何気無く言った。
「おう、それそれ」
「大袈裟だと恥ずかしい感じになるしな」
ガノーンとマサルが同意。
「ジャイン党よりマシね」
「私はそれでいいです」
「あたしはまぁ、別に」
ヒロシとニックは顔を見合せて笑った。
「俺はいいよ」
「実際、昼寝した自主練は1回だけだったんだけどなぁ。マチカちゃんはどう?」
「・・・それで、いい」
マチカまで同意するならジャインも従うより他なかった。
「はいはい、昼寝組なっ! いいんじゃねーかっ」
「ふふっ、じゃあ、私とルパイは『昼寝組の中のジャイン党』になるよ?」
「別動隊だっ」
「おうっ、それいいなっ!」
こうして、ヒロシ達のチームはこの時から昼寝組となった。