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休暇っ!!

休暇ですっ!! 動物園行きますっ!

11月、鏡王の月の第3週の第一曜日、前日たまたま座学が多い日程だった為、体力に余裕のあった戦士科の受講者達の中で街へ出掛ける者が多かった。

辺境の森林地帯にある冒険者ギルド学校からレーゲン大陸の中西部にあるスエリア国の首都『ジークスエリア』まで、ギルドの所有するオフロード仕様の中型6輪石油ボンネットバスで飛ばしても片道1時間半は掛かる。

緊急時以外は受講者はギルドの転送陣は使えないので、長距離飛行能力のある者等はバスには乗らず『自力』でさっさと街へ出掛けていた。

他の科や一般職員等も乗る為、座席が足りず、3台のバスで午前10時に出発した。普段は第2曜日から第7曜日までほぼ毎日午前5時台に起こされている為、戦士科の受講者達はのんびりした物だった。


「街戻るの2週間ぶりだ」


「ヒロシさんは『戻る』って感覚なんですね」


「ああ、まぁ。元々住んでたから」


2人掛けの座席に座るにはヒロシが大柄な為、ヒロシの隣は小柄なチュンコだった。

他の受講者にも言えることだったが、ギルドの制服類や装備ではなく普通の私服になると、互いに少々気恥ずかしいところは少しあった。

役者等も、よほど我の強い者以外はそんな物じゃないかとふとヒロシは思った。


「ヒロシさんは何で再就職せずにギルド学校に来たんですか?」


興味津々といった顔で聞いてくるチュンコ。直接話したことはたぶん無かったが、ヒロシの会社の倒産はとっくに他の受講者達の知るところだった。

元社長の逃亡劇はニュースや週刊誌やラジオでも一時散々報じられていた。


「まぁ、物の弾みだよ」


「ちゃ~っ、何ですかソレ?! ふふふっ」


頭に被った帽子の天辺から飛び出している鈴蘭の花を揺らして面白がるチュンコだったが、元妻の配慮や配慮の理由等について詳しく話すはいくら何でも恥ずかし過ぎるヒロシは、はぐらかすしかなかった。

一方、少し離れた席に並んで座っているニックとマチカは、


「いや~、こうしてるとデートみたいだねっ? マチカちゃんっ」


「全然。あんまくっつかないでねニック? ぶつよ?」


「え~? エヘヘへへヘヘへへっ」


「キモっ! 怖っ」


至近距離でデレデレするニックに総毛立つマチカ。


「・・・でもさぁマチカちゃん」


「何? スケベなこと言ったらホントにぶつよ?」


ニックは少し笑みは残していたが、真面目な顔になった。


「背中の怪我、どうしたの?」


「ああ」


ニックの目に好奇の感情等が無く、平静としていることを見て取ってから、マチカは視線を外し、やや乱暴な運転のバスの車窓の外の景色を見た。

森の中に、頭から背に掛けてモヒカンの毛がある芋虫とダンゴムシとぬいぐるみの中間の様な風貌のモンスター、『ケムシーノ』の一家が仲良く茂みの葉を食べる様子が見えた。


「夜魔にやられた。私は生き残りなんだ。騒ぎになったから学校の図書室に行けば記事があるよ。自分で上手く話せないから、勝手に調べて。スピンドルストン国のドチカ家の破滅、とか。そんな記事だと思う」


「わかった。ヒロシさんや、・・チュンコちゃんにも話していいかい?」


「あんたの口は私の口じゃない。自分で責任持てば?」


ニックは苦笑した。


「そうだね。軽い口だけど、君の話は管理するよ」


「どーでもいい」


マチカは腕を組んで口をしっかり閉じてしまい、街に着くまで一言も話さなかった。



ジークスエリアに着くと、トラムの駅でそれぞれ別れた。

マチカはワープラントのチュンコ、猟師の娘バフィ、先日のダンジョンでバフィと口論しがちだったエルフのラーシエンの女子受講者4人で行動していた。

この内、仲が良いのはマチカとチュンコのみ。バフィに至っては誰とも仲良くなかったが、『急に時間ができてもすることが無い』という点は一致していた為に何となく一緒になっていた。

4人は会話が弾まず困ってしまったので手近な映画館に入ってみたが、上映していたのがベタベタのラブロマンス。揃って胸焼けして劇場から出るハメになった。


「女4人で見る映画じゃなかったね」


「恋敵が最後の方で味方するの嘘臭いっ!」


「せっかく街に出てきたのにコーラとポップコーンを飲み食いし過ぎてお腹一杯です・・」


「私、まだまだ入るよ?」


4人は取り敢えず並木のある公園に立ち寄ることにした。ゆとりを持つ為でなく、もう少し腹を空かせてから美味しい物を食べにゆく為で、かなり動物的本能に基づく『休憩』であった。


「・・・皆、彼氏いるの?」


映画への不満の話題が早々に尽きたので、少し波風立ててみることにしたラーシエン。2つのベンチにバフィとラーシエン、マチカとチュンコに別れて座っていた。


「遠距離恋愛してたけど、電話でサクっとフラれた。今なら習った氷魔法でチ○コをシャーベットにしてから踏み潰してやるよっ」


「間にシャーベットにする件を挟まなくてもいいんじゃない?」


「新しい彼女は私立の高等学校のガキンチョで、巨乳なんだとよっ」


吐き捨てる様に言うバフィ。


「それはシャーベットにすべきかもしれないわね・・」


「チ○コを凍られせて、チ○コシャーベットにして、チ○コを擂り潰してやんよっ!」


「おチ○チ○を連呼するのはやめなさいな、バフィ」


「粗チ○コ野郎がっ」


「荒ぶってますね、バフィ」


「知らない」


「あーんっ?」


バフィに睨まれ、知らん顔するマチカとチュンコ。


「2人はどうなんです?」


マチカとチュンコにも振ってみるラーシエン。


「私は許婚っぽい人がいたんですけど、入学することになったドタバタでその話、無かったことになっちゃいました。殆んど会ったことも無いくらいの人だったんですけど、詫び金を家に持って来られちゃって、なんか悪かったですね」


他人事みたいな顔で言うチュンコ。


「チュンコ、大変だったね」


「儲かったな」


「冒険者は命の保証が無い仕事だろうしね・・」


「仕事にできたらいいんですけど」


チュンコが溜め息を吐き、そこから自然とマチカに視線が集まった。面倒そうな顔をしたが、諦めたマチカ。


「・・・私も、嫌なヤツだったけど婚約者いた。死んだよ」


「殺ったのか?」


「殺ってないわっ! バカっ」


「バカ?!」


「はいはい。マチカ、この子、沸点低いから」


「間が絶妙でしたね」


「面白がらないの」


「んだよ・・」


不貞腐れるバフィだったが、それとなく話を続ける気の無さそうなマチカと、自分の靴の爪先を見て次の会話の流れを伺っているチュンコ、軽く首を振って打ち切りを伝えるラーシエンを見てから口を開いた。


「ラーシエンはどうなんだよ? つか、話振るんなら普通、自分から話すだろ?」


「私はここに来る前にきっちり別れてきました」


得意気なラーシエン。


「どんな男だよ? 澄ました顔してドエロいことしてたんだろっ?! イヒヒっ」


ゲス顔のバフィに呆れるマチカとチュンコ。


「確かにドエロいことはしていましたが、私は男の方に興味ありません。別れたのは、『彼女』です」


一瞬、間が空いた。


「・・どぅええっ?!」


同じベンチに座っていて、なんなら長い髪を指でくるくる巻いてやろうか? とすら考えていたバフィは慌ててベンチの端に移動した。


「バフィ、勘違いしないでね? 女だったら何でもいい、ってワケじゃないから。私から見て貴女は『森の動物達』と同じぐらいの感覚だから」


冷淡にバフィを見下ろすラーシエン。


「森の・・どうぶつ・・・」


絶句するバフィ。


「じゃあどういう人が好み何ですか?」


やや挑戦的に聞いてみるチュンコ。


「そうね、この中ならマチカ、かな?」


別人の様に艶っぽくマチカの目を覗き見るラーシエン。戸惑うマチカ。スッと目を細めるチュンコ。


「貴女は野生の駿馬の様で素敵だわ」


「・・ごめん、よくわかんない」


「あらフラれちゃった。ホホホッ」


機嫌好く冗談にするラーシエン。


「ちょっと待てっ。森の動物と野生の駿馬って似た感じだろ?」


少なくとも男に困ったことは無いバフィは何やら面子の問題を感じた。


「全然、全く違います。オーディションの書類選考で落ちた人は入ってこないでもらえますかぁ?」


「オーディション受けた感じにされた?!」


「・・マチカさん、ああいう人はウツボカズラみたいな性分ですから気を付けて下さいね?」


「うーん??」


4人はその後、フルーツパーラーと来訪者達が広めたメルメル鳥の串焼き『ヤキトーリ』の店を梯子して、最後に服飾店通りを冷やかし、ツヤツヤになった顔で夕方、トラム駅の集合場所に戻った。



昼前にトラムで別れたニックは、駅近くのレンタルカー店で3輪石油自動車を借りて街中を走っていた。

学校に戻ったら取り敢えずヒロシには話を通して図書室にゆかねばならない。

何なら自分の用事が済んだら街の図書館か情報の集まる冒険者関連の店に行けば、話が早い気もしたが、学校の人間関係から発生した話を校外にまで持ち出すと、自分が当事者になってしまう様な圧迫感もあった。

ではどんなつもりでマチカの背景を調べるというのか? ニック自身はっきりしなかった。

暫く運転して、信号を幾つか過ぎている内に目的地へきた。ニックは気持ちを切り替えることにした。まずは自分の『背景』に対応しなくてはならない。

ハーフエルフの寿命の永さは半端で、気持ちの若さと、生きてきた年月のバランスが上手く取れない。一度日常を意識してしまうと、感情に任せた行動には抑制が掛かった。


「・・銀行前のカフェ。アレか、また高そうな店使ってるなぁ」


パーキングに停めるまでもない。ニックは路肩に寄せて停車させた。

小洒落たカフェの石油ストーブの灯ったテラス席に、約束していた人物は居た。コーヒーのみ頼んで文庫本を読んでいた。

下町ではない。クラクションを鳴らすのはいくら何でもマナー違反なので、車窓を手回しハンドルで開け、顔と片手を出して、綺麗に整えられた歩道越しに軽く呼び掛けてみようかと思ったら、その前に向こうが気が付き、笑って片手を上げてきた。

ニックも少し笑って応える。40代前半の身なりの良い人間族の男で、ニックの異母兄弟だった。


「ニック、お前の運転する車に乗るなんて、妙な気分だよ。お前はずっと少年の様なイメージがある」


「半分エルフだからね、義兄さん」


数分後、ニックは義兄を助手席に載せて3輪自動車を走らせていた。義兄は複雑そうな表情をしたが、ニックは運転に集中して気付かないでいるフリを通した。


「・・学校はどうなんだ? スパルタだと聞いたが? 2年前に死亡事故があって蘇生もあまり上手くゆかなかったとか」


「車を運転していても、歩道を歩いていても、キッチンで摘まみ食いをしていても、死ぬ時は死ぬよ。あと『スパルタ』ってチキュウ由来らしいよ? スポーツ用語らしい、酷い話だね」


「ニック」


本当に心配されているのはわかっていた。父が亡くなり、長男のニックに対する態度が悪化してからは特に、次男である彼がニックの父親代わりの様なところはあった。

種族の違いと、しかし同じ血統であることから、現在では皮肉なくらい2人は父子その物に見えた。


「気を付けるよ。・・アメーゼ義兄さんは元気?」


次男の義兄は深く溜め息を吐いた。


「また選挙に立候補するらしい。父さんの、カール家の現金資産は残らない物、と諦めた方がいいだろうね」


「家の事は任せるよ」


「簡単に言ってくれる」


車は郊外にある隠れ家的なレストランに向かっていた。少し遅いランチを電話で予約していた。2人の父が、それぞれの母親と来たこともあるらしい。

少し悪趣味な気もしたニックだったが、それからギルド学校での出来事を面白おかしく脚色して話していた。

だが10分もすると義兄がニックの肩に注意深くわずかの間、手を置いて話を止めた。


「義母さんの、お前の母さんのことなんだが」


「・・うん」


「やはり産まれのエルフの郷の近くに引っ越して良かった様だ。随分調子がいい。この間、エイミー叔母さんと一緒に会いに行ったら、私のことを父さんではなく、『私』と、わかってくれたよ」


義兄は上等そうな麻のハンカチを取り出して目元を拭った。


「そう・・」


「直接お前に話そうと思ってね。ニック、お前もそろそろ義母さんに、ミモザさんに会いに行ってあげなさい」


ニックは大きく呼吸を整えた。


「プロのライセンスを取れたら、それを最初・・・いや、それを2番目の俺のクエストにするよ」


意外そうな顔をする義兄。


「2番目? 他にも何か、大事なことを見付けたのか?」


言われてニック本人が自分の言ったことを省みて驚いた。

食事を終え、兄を飛翔船の空港まで送り、レンタル車を返却し、集合時間の1時間以上前にトラム駅まで戻るとニックは酷く眠くなり、石油ストーブのある駅の待合室で眠っていた。すると、


「もう時間。置いてかれる。転送門高いし、心証悪いよ?」


「・・うわっ」


「ん??」


すっかり血色の良くなったマチカに起こされ、内心飛び上がる程驚かされたのだった。



この日、トラムの駅で別れた後のヒロシはリュッテ・コパ・ムーンライトに連れられたタツオと動物園に来ていた。昼食は既に軽く済ませていた。


「わぁー、お猿さんだぁっ!」


体毛が丸く膨らみ、苔桃みたいな『コケモモ猿』のエリアに来た。


「この間、ああいうの倒したなぁ」


ぼんやり呟くヒロシ。


「わぁー、カバさんだぁっ!」


電撃属性の『電気河馬』のエリアに来た。


「この間、ああいうの倒したなぁ」


ぼんやり呟くヒロシ。


「わぁー、鳥さんだぁっ!」


4枚の翼を翼を持つペリカン『アマノミツカイ』のエリアに来た。


「この間、ああいうの倒したなぁ」


ぼんやり呟くヒロシ。堪えていたタツオは涙目でヒロシを見上げた。


「・・うわ~んっ!!!」


「ええーっ?!」


驚愕するヒロシ。


「どうしたっ、タツオ??」


「どうして全部倒しちゃうのぉっ?! お父さんのバカぁーっ!!!」


「あわわわ・・・っ」


「・・・」


リュッテは密かにヒロシの脇腹をつねろうとしたが、ヒロシは鍛え過ぎていて冬服の上からでは上手くつねれず、仕方無くタイヤみたいに硬い尻にパンチをした。


「?」


何? という素朴な顔でリュッテの方を振り向いて見下ろすヒロシ。リュッテは大型草食獣と格闘している気分になってきた。


「取り敢えず脳ミソのスイッチを堅気の世界に戻してっ! 会話になってないよっ?」


「ああ・・うん。ごめん、そうだな」


ヒロシはしゃがんで泣きじゃくるタツオに視線を合わせ、頭に手を置いて撫でた。


「ごめんな、タツオ。父さん最近お仕事で戦ってばかりだったから、動物を見ると『倒せるかどうか?』みたいに見えちゃって、間違えちゃったな。父さん、ここにいる動物には何もしないよ?」


「本当に動物さん達やっつけない?」


「やっつけないよ? 約束する。何なら何かあったら動物さん達守っちゃうぞ?」


「ホントにっ?! やったーっ!! 絶対皆を守ってねっ?!」


泣き止んで、喜んで飛び付いてくるタツオ。ヒロシもリュッテも一安心した。

・・タツオの大泣き騒動の後、火傷防止用の柵で囲われた石油ストーブは置かれているが、園が良く見える壁側の窓が全開にしてあるフードコートの席で、ヒロシとリュッテは休んでいた。

リュッテはホットローズティーのみ、ヒロシはホットシナモンコーヒーと焼き草餅を2つ頼んでいた。

タツオは近くの売店に1人でソフトクリームを買いに行っている。人気店らしく寒いのに少し列ができていた。

並びながら時折チラチラとリュッテの方を振り返ってくるので、その都度リュッテは軽く手を振って安心させた。


「ヒロシ、貴方ホント、いい加減にしてね? 脳ミソ筋肉になっちゃったの?」


タツオには笑顔で手を振りつつ手厳しいリュッテ。


「ごめんて、リュッテっ」


「後押ししといてグチグチ言いたくないけどね」


リュッテはヒロシの焼き草餅を1つ取って一噛みした。


「車投げ飛ばす、みたいな感覚をそのまま持ち込んだらダメだよ? 人里離れた森の中でしか生きてゆけなくなるよ? ちゃんとして」


「面目無い・・」


「まぁ元気そうなのは良かったけど・・これフードコートで売ってるのにしては美味しいね」


「ああ、・・うん、確かに」


暫く2人で、ヒロシの母や定職に就かないリュッテの兄のこと等を話しながら、焼き草餅も食べつつ、タツオがワクワク顔でソフトクリームを買える番が回ってくるのを待っている様子を見守っていた。

と、銃声が響いた。続けて悲鳴。音の方に殺気も感じたヒロシ。


「・・様子を見てくる。タツオと避難するんだっ」


椅子から立ち上がるとヒロシはリュッテに強く腕を取られた。


「行かなくていいよっ。貴方は警察じゃないし、まだプロの冒険者でもないっ。丸腰でしょ?」


ヒロシはそっと、リュッテの手を離した。


「注意はするよ。それに、リュッテ。わかってくれ、俺は講義の為に講義を受けてるワケじゃないんだ」


「ヒロシ・・」


ヒロシは動き難いコートを脱ぎ、走りだした。近くの、樹脂ボール投げやモグラ叩きや子供向けピンボールといった体感系ゲームコーナーや土産物売り場のある建物に向かう。

講義でもやったがニックにコツを教えてもらった『壁歩き』を足に丹氣を付与して行い、建物の屋根に登った。姿勢を低くして慎重に進む。見えた。

単弾装填式の猟銃を持った男が喚いていた。清掃員の繋ぎを着ている。近くに掃除用具の入っていたであろうカートが放り捨ててある。

男の前後に警備員が1名ずついた。周囲の客や従業員は既に逃げているが、別の清掃員がやや離れた場所で腰を抜かしていた。

警備員の武装は折り畳み式の金属警棒とラバー弾が入っているはずの玩具みたいに小さな5連装拳銃。

防具は防刃ベストの様な物を着ていたが、散弾はともかくラバー弾ではない通常弾は防げるとは思えなかった。

よく見ると、側の檻の向こうで先程見ていたコケモモ猿が1匹射殺されていた。


「アイツっ」


ただの通り魔にしては手が込んでいるように思えた。何らかの活動家に違いなかった。とても主義に賛同できそうにはない。


「ん?」


ヒロシはよく確認する為に目に丹氣を集中させた。はっきり見える様になった。男は猟銃を左手で持ち、右手に銃弾を持っていた。


「次弾装填できてないっ」


男の正面にいる初老の警備員の威嚇や口頭による声掛けが的確らしく、再装填の隙が無く、男はかなり苛立っていた。

男の後ろにいる若い警備員は腰が引けて震えており、あれでは近距離の発砲でも当てられそうになかった。


「光よっ!」


ヒロシは持続時間0の『ライトトーチ』の魔法に指向性を持たせて、閃光を猟銃男の顔面に放った。

男はまともに目に受けて、仰け反り、ベテラン警備員の銃撃を右肩に受けて銃弾を取り落とし、へっぴり腰ながら銃ではなく警棒に構え直した若い警備員が猟銃男に飛び掛かった。

2人が揉み合いになると、ヒロシもその場へ向かって屋根の上を駆けたが距離がある。

ヒロシが屋根から飛び降りる頃にはベテラン警備員が警棒で猟銃男の左肘を打って猟銃を取り落とさせ、だいぶ顔を殴られて警棒も取り落としてしまっていたが若い警備員が男をどうにか組伏せ、制圧していた。


「お見事です、お二人さん」


駆け寄ると、警備員2人は苦笑した。他の警備員も2人駆け付けた。


「あんた、ガタイいいのに魔法使いかい?」


「助かりましたっ。魔法使いさんっ!」


2人の誤解に今度はヒロシが苦笑した。


「いや、俺、冒険者学校の受講生で、魔法はそうでもないんですよ」


「おやまぁ」


「十分ですよっ」


3人で笑い、他の警備員とも直に警察が来る等と話したりしていると、


「離せーっ! 汚れた人どもに囚われたっ、動物達の魂を解放せねばならぬのだぁっ!!」


男が喚いて暴れ出した。


「お、大人しくしろっ」


「舌を噛むかもしれないから、布か何かを咬ませた方がいいですよ?」


顔をしかめつつ、ヒロシは講義で習ったことをそのまま助言した。ベテラン警備員がすぐにハンカチで暴れる男の口を塞いだ。

ヒロシがこれで一段落ついた、と気を抜いた瞬間、


「キェエエェーーーッ!!」


奇声を上げ、ドサクサで腰を抜かしたまま放ったらかしされていたもう1人の清掃員が、ナイフ2本を持ち身体を旋回させながら逆さ向きで跳び上がってナイフで斬り付ける、双短剣の技『逆独楽』を、後から来た警備員2人に放った。


「わっ?!」


「がっ?!」


腕や肩を深く斬られ、派手に流血する後から来た警備員2人。急性貧血で膝を突く。

着地したもう1人の清掃員は最初の暴漢を取り押さえている若い警備員に襲い掛かる。ベテラン警備員は発砲しようとしたが弾切れだった。


「動物達に謝罪しろぉっ!!」


「ひぃっ」


暴漢を解放するワケにもゆかず身動き取れない若い警備員。

ヒロシは若い警備員が落とした警棒を素早く拾い、間に入った。


「シャアアアッ!!」


ナイフ男は✕型に斬り付けながら突進する双短剣の技『十字抜き』を放ってきた。相当粗があるが訓練を受けている。冒険者ギルド関係者かもしれない、とヒロシは思った。


「フンッ!!!」


ヒロシは舗装された動物園の地面が割れる程激しく踏み込みながら、今月に入ってからようやく習い出した各武器の固有技の内、片手小剣の技『一角受け』を放った。

真上に突き上げる様に受け、受けながら打ち払う攻撃的な防御技。


ガキィイイーーーンッ!!!!


丹氣を込めた警棒にヒロシの身体能力と正しい動作が組み合わさり、ガラス細工の様に易々と砕け散る2番目の暴漢のナイフ。

破片がヒロシの片頬を切り裂いた。

両踵が浮く程の衝撃に暴漢の両腕も上がり、胴がガラ空きになった。

飛び込んだ時点ではこのまま警棒の2撃目で昏倒させるつもりだったが、腕と警棒に相当な丹氣が乗っている。元々一角受けは連撃の『初手』になる布石技で、それで当然なのだが、咄嗟のことにヒロシは手加減を失念していた。

ヒロシは警棒による追撃は止め、素手の左手にある程度丹氣を込めた。暴漢は清掃員の繋ぎの下に薄い防護ベストの様な物を着込んでいるのが襟口から見える。

同じ物を最初の暴漢も着ていたが、ベテラン警備員の牽制銃撃を先に受けた時、苦痛は感じていたがダウンする程でもなかった。無視できないが、大した守備力ではない。

以前より鍛えた今のパワーで、そこまで強敵でもない相手の生身の顔面を殴るのも避けたかった。

ヒロシは更に踏み込み、腰溜めに構えた拳を正面に打ち込む、ただそれだけの拳打技『正拳突き』を暴漢の鳩尾に放った。


「セイッ!!」


吹っ飛ばされ、他にも隠し持っていたナイフを5本も撒き散らしながら、コケモモ猿の檻に激突し凹ませ、嘔吐して痙攣する暴漢。

鳩尾には神経が集まっており、そこに衝撃を受けると凄まじい激痛を感じる。横隔膜も痙攣し、呼吸困難に至り、身体の力も抜ける。衝撃が背骨まで伝わると、手足は完全に痺れ、一時的に役には立たなくなる。そして・・意外と気絶できない。


「あんた達なりに道理があるんだろうが、今のはそこに倒れているお猿さんの分だ」


呼吸を整えながら言い放つヒロシ。


「うっ・・クソッ。お、お前みたいなヤツはプロに成れるんだろう。俺・・だって、プロに成れていたら、動物達の為に・・チクショウ・・・」


痙攣しながら、ゲロまみれで悔し泣きする2番目の暴漢だった。

それから警察に2人の暴漢は連行されてゆき、警察からその場で軽く状況等を聞かれ、ギルド受講者ということもあって案外すぐにヒロシは解放された。

2番目の暴漢は7期前の退校処分を受けたギルド学校の戦士科受講者だった。

・・・リュッテとタツオは動物園側が仮設したテントで待っていた。


「タツオっ! リュッテっ!」


片頬にガーゼを貼ったヒロシが動物園から山程もらったお礼のお土産品を持って現れると、タツオが飛び付いてきた。


「お父さぁ~んっ!! うわぁ~んっ!!!」


またタツオを号泣させてしまったヒロシ。


「ごめんな、大丈夫だから。怖かったか? ごめんな・・」


両手がお土産の袋で塞がって頭も撫でてやれないヒロシ。と、小柄なリュッテがカチっとしたデザインのショートブーツでツカツカと、三日月のピアスも揺らして歩み寄ってきた。

眉が吊り上がっている。


「リュッテ、何というか、その・・」


ガーゼを貼っていない方のヒロシの頬を張るリュッテ。


「貴方お父さんは早くに亡くなったけど、そんなとこは真似なくていいからっ」


リュッテは泣いていた。ヒロシはお土産を取り落として、リュッテを掻き寄せ、タツオと一緒に強めに抱いた。リュッテはもう、自分の知らない香水を使っていた。


「タツオの父親は貴方1人。貴方の命も1つだけなんだよ?」


「2人とも喧嘩しないでほしい」


「大丈夫だよ、タツオ。リュッテも、ごめんな、ごめん・・いつも覚えておくよ」


後日、ヒロシは警察から表彰されたが、一方で、『状況判断が甘く、伏兵と無駄で無計画な近接戦に応じざる得なくなった』等とギルドからはこっぴどく絞られ、また当日の帰りのバスでは他の受講者達から「冒険者より警察のが向いてる」「ヒーローなのか?」「元嫁に会い過ぎ」「しつこい」等と散々イジられるハメにもなっていた。



皆で街へ出掛けた日の夜、学校へ戻ったヒロシとニックは申し合わせて学校の図書室へ向かっていた。


「学校のジャージ着ると安心する自分がいる」


「再犯して収監された受刑者もおんなじ感覚かもね」


「例えが悪過ぎるよ、ニック・・」


図書室の前まで来ると、前方のおそらく女子寮側の通路から来たらしいチュンコと出会した。


「チュンコちゃん、こんばんは」


「こんばんは~、どうしたんですか2人とも?」


「ちょっと調べ物があったんだが・・」


ニックと視線を合わせるヒロシ。ニックは肩を竦め、チュンコに向き直った。


「チュンコちゃん、実は俺達、マチカちゃんの過去を調べてみようと思ってさ。本人にも許可を取ってる」


「そうですか・・実は私もなんです。許可は取ってないんですが、今日、ちょっとだけ、そんな話になって」


やや気まずそうな顔をするチュンコ。


「マチカちゃんはチュンコちゃんが知ってもいいってさ」


「ホントですか?! ホントですか?! ホントですか?!」


言いながらグイグイ接近してくるので困惑するニック。


「ほ、ホントだよ。・・信用されてるんじゃないかな? たぶん」


性格的に、マチカは誰に知られても構わないだろうとも思ったが、それを口にする程野暮なニックではなかった。


「とにかく調べよう。ここ10時までしか開いてないから、急ごう」


ヒロシが促し、知ってる情報は互いに少ないが、今知っていることを確認してから、3人は図書室へと入っていった。


「役割分担しましょう。私、速読できるのでギルドの公式雑事記録を当たります」


公式雑事記録は冒険者ギルドに関わりのありそうな案件について、ギルドサポーター等を使って『ざっとした』調査を行った記録等を乗せた物だった。


「凄い量だよ? チュンコちゃん」


「ある程度当たりを付ければ大丈夫です」


「チュンコに任せよう。俺達じゃ処理が遅過ぎる」


「う~ん、じゃ俺は下世話雑誌やタブロイド紙を調べるよ。ヒロシさん、こういう苦手だろ?」


「まぁ、うん・・俺は新聞を当たるよ」


「じゃ、皆、それぞれ、閉まる30分前に集まりましょう」


「うん」


「わかった」


3人は手分けして調査を始めた。ヒロシは新聞コーナーに向かう。

マチカの年齢や、トライアウトを受けた時点である程度仕上がっていたこと、元々は上流階級らしいこと等からすると1年前から3年前の出来事と考えるのが妥当。

スピンドルストン国、ドチカ家、夜魔の災い・・確かにかなり絞れそうだった。


「スピンドルストン国か」


レーゲン大陸の東にある、200年程前の革命で王族が根絶やしにされた国だった。以後、1党独裁国家で、いつしか上級党員と公社系財閥が貴族化し、古典的な封建国家よりも遥かに強固な超封建国家となっていた。

ヒロシはまずスピンドル国の新聞棚へ向かった。が、手に取って困惑した。量はあるが、政府広報紙ばかりだった。

読み難いが不思議と記者や左派作家達が好きそうな文語調の煽りのある、独特なスピンドル国の新聞の読み込みに格闘していると、2年前の4月、花姫の月の記事に、


『ドチカ家、怪異の襲撃につき断絶。モナンゾ家三男も死亡。党友の死を悼む。怪異は革命闘士軍の愛国的奮戦にて殲滅。被害はごく軽微。同地区は再開発決定により立ち入りは不可とする』


というごく短い文が載っていた。どの新聞社の記事もほぼ同じだった。過去に遡って見ると、どうもドチカ家は中位程度の商家貴族の類いで、モナンゾ家は中の上程度の軍閥貴族であるようだった。

その後、モナンゾ家も没落したようだったが、ドチカ家のあったらしい地域についての記事は全く無かった。


「情報少ないな・・よっぽど具合の悪い結果になったんだろう」


それから隣国の記事も見て読んでみたが、そもそもスピンドル国側から情報が出てこないらしく、記事自体殆んどなかった。

スエリア国でもその様なニュースは聞いたことが無い。

アマラガルド世界全体で、強力な魔物による小規模な破綻が発生することは珍しくなく、惨劇であったに違いないドチカ家の破滅も『ある地域の悲劇』程度のニュースソースとして扱われたのかもしれない。

統制の強い国でのことなら尚更だった。


「新聞ソースはあまり収穫無かった、かな?」


まだ時間はあったが、速読のできないヒロシは、ニックと合流することにした。


「・・・という感じだったよ、新聞は」


「そっかぁ。う~~ん・・正直、雑誌も、スエリア国誌やレーゲン大陸の広域誌も、そんな取り上げて無い。盛って伝えてたり、スピンドルストン国の独裁批判の口火ネタにされてるぐらいだったけど、やっぱ隣国の雑誌何かは結構突っ込んでたよ?」


ニックは樹脂トレイに積んだ雑誌やタブロイド紙の山を示した。


「基本的な論調は広域誌何かと変わらない。スピンドルストン国の属国はビビって取り上げてないね」


1誌取り上げて開いてみたが、エログロ調に盛られた内容で、イラストや合成写真が酷くて読んでられなかった。


「解読が難しいな」


「真面目書くとスピンドルストン国から横槍が入るから、わざと悪ふざけした紙面にしてる感じもあったけどね。よく読むと、わりと詳しい情報がポツポツ載ってる。取材して載せる気概があるだけ大したもんだよ」


「どうな情報だった?」


ヒロシが見た限り、主に性的に、酷い記事ばかりの様だった。


「いくつかの下世話誌やタブロイド紙の情報を統合すると、生存はマチカちゃんのみ、夜魔専門の討伐チームに保護された。発生した夜魔の首魁はマチカの義理の弟。この弟が契約した悪魔は中位程度だけど、厄介な性質の物だったみたい」


「そんなこと書かれてる??」


むしろニックの『下世話誌タブロイド紙読解力』に驚愕するヒロシ。


「書かれてる書かれてる」


やや得意気なニック。


「弟は病弱だったみたいだね。スピンドルストン国軍は夜魔の討伐失敗して、ドチカ家のあったエリアを丸ごと封鎖してしまったみたいだよ」


「そうなのか・・」


確かに、新聞で報じられた情報と符合し、感じた感覚と実際起きたらしいことも合致している印象だった。


「完全に放置はされていないみたいです。ちょっと目薬差しますね」


チュンコが目を真っ赤にして現れ、公式雑事記録のファイルを数冊テーブルに置くと、目薬を差した。


「このファイルが一番わかり易いと思います。読み過ぎて眼球を持ってゆかれそうになりましたけど・・」


ニックと手分けして、読むと夜魔の発生の経緯と当夜の被害、国軍の敗北、マチカの保護、地域の封鎖。その後の定期的な討伐作戦の実行と、その成果で夜魔の支配域が現在では2分の1程度になっていることが、端的に記載されていた。


「表記はあっさりしているが、かなり詳しいな。しかし何とも、やるせないな・・」


「だね・・でも、こんな詳しく載ってるなら最初っから公式見とけばよかったじゃ~んっ」


「いえ、新聞と下世話誌等も合わせて見たことで、社会的にどう処理されたかまでわかり易くなったと思います」


さっきまで濡らしたハンカチで「ちゃ~・・・」と呟きながら目を冷やしたいたチュンコは、ハンカチを取ってニックとヒロシを向き直った。


「私達が卒業するまであと4ヶ月ちょっと。おそらく、その頃にはこの討伐クエストは最終段階に入っていると思います。2人はどうします? 上手くプロになれたとして、あるいは落ちてしまってギルドサポーターになったとして」


チュンコは試す、というより確認する様に聞いてきた。ヒロシとニックは頷き合い、応えた。


「俺らルーキーなワケだし、正直超強いっぽい魔物は専門の人達にお任せしたいけど、マチカちゃんのサポートは・・するに決まってるじゃん? ね、ヒロシさん」


「応っ!」


当然の回答だった。

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