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不可視疑  作者: 安達鵺
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不可思疑本編 占いバイトのアシスタント

とりあえず2話と言うか、これで一旦終了です。梧鐙とその兄の話の構想はあります。ただ、いろいろ未発表があるので、次回作は違う傾向です。あやかしは、変わりません。今回は、大人も読めるジュニア小説を目指しました。

 「あの時、見てたんだよ。」

 こいつこんな話し方だっけ、明るい表情と声のトーンにやや戸惑いながら、

「あの時。」

 思わず、オウム返しに聞き返してしまった。梧鐙は、キタキタという表情で

「一昨年の9月。確か、金曜日の放課後、西口から帰る島田さんとストーカーのような君をね。島田さんの家は西口の20m先だから、ストーカー行為はそんなに続かなかったけれど、暫く2階を見てたんだよね。気持ち悪いかも。」

 明らかに俺の反応を楽しんでいるし、煽っているのは分かるのだが、どうにも独特のトーンの声に逆らえず、

「ストーカーではなくて、心配事があったんだ。」

 と、そのまま返してしまった。途端、梧鐙の声のトーンが変化した。

「そうだよね。あんな状況なら誰でも・ね。」

 何を言ってる。「知っているに決まってる」頭の中の誰かが言った。

「あー。可哀想にと思ったわけ。下手すると月曜日には友達一人減ってるかなと思ったんだけど、不思議でしょ。月曜日にはいないのよ。幸と一緒にいた奴が、普通、陰ぐらい残すでしょ。それすら無いの。」

 一息で言葉を切らない。何か怖いことが混じっているが、戻った声のトーンがそれを感じさせない。

「で、あまり仲良いわけじゃないけど、さっそく月曜日に幸とランチしたわけ。」

 どうでもいい話だが、ウチの中学校は給食はない。

「幸は誰にでも社交的でしょ。ランチ中、聞かないのに金曜日の話をしてくれるわけ、で、どうやら大島あたりから記憶が曖昧で気付いたら土曜日だったと言うことなんだよね。」

 当たり前だが、俺の名前は出てこない。

「でもね。私はさらに見たんだ。」

 梧鐙の瞳の奥の色が変わったように見えた。

「土曜日のお昼過ぎに幸の家から出てくる君をね。たまたま、美術部に来てたんだけど、部室が旧棟の2階だから幸の家見えるんだ。で、気になって時々観てたわけ、そのうち、お昼だし帰ろうと思って、最後にもう一度幸の家観たら、君が出て来たわけ。」

 原稿もないのに淀みなくよく話せるなと感心してしまった。美術部より放送部か弁論部の方があってないかと言うより、こいつこんなに話せるんだ。そう言えば、いつも同じ表情、小さい声、小さい印象しか無い。唯一、あの日、バスの中でのシーンが無ければ、覚えてすらいない存在のはずなのに。

「で、私は考えた訳。土曜日の午前中に何があったか。」

 覗き込むように顔を近づける。かわいい。そんな場合ではないが、場と感情は往々に別物の場合が多い。

「結論は、一つ。き・み・が、何かした。」

「はあ」俺のため息など関係無く、話は続いた。

「で、そのあたりからずっと君を観察してたわけ、中学校ではそれっきり、何も無し。一番ガッカリだったのは、あのバスの中、てっきり何かしてくれるのかと思ったのに、何もしてくれず。あの後、帰ってから1時間はかかったんだ・け・ど。」

 と恨みがましく言われても、間違いなくあのバスのときだろうけれど、あのときは、何も感じ無かったし、そもそも何にかかった1時間だ。

「で、結論は、君は見えない。」

 どうやら、「で」と「結論」が、口癖か。

「大体、修学旅行というものは、全般的に行き先が悪い。大体、いるに決まってそうなところが選ばれて、何でわざわざって感じ。まあ、それはいいとして、君は取り敢えず、分かり易く言えば、幽霊見えないでしょ。」

急な問いに戸惑わない俺もおかしいが、

「いや、全く見えない訳じゃないです。」

普通に答えてしまった。何故か敬語になってしまったが、「チッ」今舌打ちしたよね。女子の舌打ちは初めて聞いた。

「はっ。いつ。」

 基本的に見ることはないのだが、何かの拍子、あるいは、見られる側つまり向こう側が強い、あるいは、気が合う?状態で見えることがある。公園で砂遊びをしている子に声をかけると、ふとその子が顔を上げて「お前見えるのか」と言うような気の利いた怪談話ではない。

 最近なら、中2の春休み、部活で学校に向かう。春特有の少し滲んだ空、暖かな風、200mぐらい先の交差点の信号はまだ青、間に合うか、間に合え、ペダルを強く踏み込む。でも、そういうときに限り、数人の高校生の自転車集団や後ろを見ない年配の方の自転車が出現し、交差点の手前で、減速、残念、信号は赤だ。左足をついた瞬間、右側が気になる。体の中からぞわっとしたものが、湧いてきた。たぶん見てはだめだ。でも、視野の端には、同じように信号待ちを待っているもう始業式なのか昨日までは見なかった小学生のグループもいる。まだ、朝の7時半過ぎ、気のせいだ。見てはいけないという誘惑に負け、ゆっくり右側に目を向ける。小学生の背後に、足元までの白いコートを着た男が立っている。マスクをしているのか、顔が白く見える。いけない、とっさに視線を切ろうとしたが、間に合わなかった。目を見てしまった。異常につり上がった瞳のない目を。無理矢理正面を向き、ペダルを踏み込んで、交差点を渡り切った。確かめたい誘惑にまた負けた。振り返る。渡り切るまでたぶん7.8秒、見通しのよい交差点、そのどの方向にも白いコートの男性の姿はなかった。

「まあ、それは、たまたまということで、いつもではないでしょ。」

不満そうな梧鐙、まあ、確かにその通りです。肯定した瞬間、

「で、私よ。私。」

梧鐙が距離を詰めてきた。いい匂い。また、場違い。

「私は、見せることが、できるわけ。」

「はっ。」

「さっき、見せたでしょ。」

何を言っているか理解出来てしまう俺には、我ながら嫌になる。確かに、まだあそこに固まってこちらをチラチラ見ている中学生の誰一人、さっき「危ない」とは言っていない。多分、誰もあの子犬は見えていなかったと考えるべきなんだろう。大体、笑う犬なんているのか。

「偶然を待ってたんだけど、1年以上かかった。右からやってくる君を見つけて、やったー、と言う気分。たまたま、変なの纏わりついてたから、ちょっと印を結んで強化して、とび出さしたわけ、ねえねえ、よくない。」

あの中学生には、どう見えてるんだか。

「ちゃんと聞いてる。」

語尾が強まり、また、距離が詰まった。一歩下がって、

「分からないことだらけだけど、取り敢えず話は聞くから。」

と、横のカフェを指差してみた。梧鐙は、アッサリ頷き、二人でカフェへ、その後は、小一時間、予想通り、99%梧鐙の話の聞き役と化した俺がいた。俺が誘ったので、奢りねと笑顔で手を振る梧鐙を背後に自転車を走らせながら、めんどくささより、自分の優柔不断さに嫌気を感じながら、目的だった帽子を買うのも忘れ、早い帰宅となった残念な日曜日だった。


 簡単にまとめれば、梧鐙には霊だの妖だのと言う物が見えて、家が裕福でないので、親戚の占い師に頼まれて週末だけ、占いのバイトをしているということらしい。で、たまに占いに来る客についている輩が移って来ることがあり、そのときは、家にあるお祓いグッズで祓うそうだ。お祓いグッズのある家ってと突っ込むところだが、話が長くなりそうだからやめた。

 で、本題、最近、来る客に憑いている輩が面倒で気を許せば、こっちに来そうな予感があるとのことらしい。少しヤバ目で、梧鐙か憑かれそうになったら、俺に祓ってほしいらしい。そんな客、断ればと言ったのだが、チップがハンパでないらしい、俺への御礼も大丈夫なんだそうだ。高校生の占い師に多額のチップというところから、何か違う気がするが、取り敢えず、軽い怪我で部活も休養中でひまなので引き受けた。まあ、90%好奇心、その内、半分は梧鐙へのものだが、でも、10%のバイト代も動機も実は大きい。ほしい服がある。


 週末の土曜日朝11時、教えられてたどり着いた占いの場所は、少なからず俺を驚かせた。行ったことはないが、エステティックサロンという感じである。感じというより隣は本当にエステだし、その隣はネールだし、3階建てのビルが全般にそんな感じである。真底場違いである。ほら入り口に女性専用って掲示してあるし、

「そうちゃん、おはよう。」

背後をとられた。

「何で、そうちゃん。」

梧鐙を確認する前に俺のこのセリフ。

「あれ、幸にこう呼ばれてるんでしょ。」

動機は違うんだろうが、梧鐙は、幸と友達となり、色々リサーチしたらしい。その際、幸がつい俺のことを「そうちゃん」と読んだと言うのは後で聞いた。

 隣でスッとした感じのオシャレな女性が微笑んでいる。

「こちら、恵美お姉さん、関係性は叔母様です。」

「よろしくね。三島君。」

差し出された手を遠慮がちに握る。その手はびっくりするほど柔らかく、そして冷たかった。

 陽光たっぷり、観葉植物が色を添え、アロマの香りが癒しの空間を造っている。その中にカウンターがあって、飲み物も飲めるようになっている。その奥にドアが2つあり、最新の個人医という感じ、相談室は防音になっており、何故分かるかと言えば、暇つぶしにスマホで店の名前を検索したからだ。ちなみに店の名前は、ディヴィナシオン、フランス語だそうだ。それぞれの部屋の前に担当者の名前が、碧恵美と梧鐙芽衣となっている。ここで、やっと梧鐙の名前を確認できた。芽衣だっけ、いや、偽名かも、大体この感じたと家が裕福でないというのも怪しいしなど、カウンターで出されたサンドイッチをパクつきながら、待っていると

「準備できたよ。」

 髪をアップにして、白いアオザイの様な服に着替えた梧鐙が2つ並んだ相談室と廊下の間の通路からでてきた。

「高校生には、見えないでしょ。」

と胸を張った。確かにメークもして、実年齢よりは、上に見えるが、高校生と言えば、言えなくもない。

「じゃあ奥の部屋に案内するね。」

俺の返事は必要なかったようだ。今、梧鐙が出て来た通路に案内された。その奥にはドアか一つあった。開けるとメイクルームになっている。クローゼットもあり、碧さんは、まだメイク中だった。さらにその奥にも横開きの扉があった。3m×4mほどのガランとした空間にアロマなどの段ボールと机があり、机にはパソコンが置かれていた。机に座って、パソコンを見ようとすると、梧鐙が

「三島君のは、これ。」

と、タブレットを手渡された。すでに画面が映っている。相談室の内部の様子だ。入り口の方を向いている。今は、誰もいないが、ほぼ正面に相談に来た人が映る。

「で、問題の人は、1時の予約だから。後1時間待っててね。」

と、ペットボトルと鍵を一つ置いて出て行った。

 12時からの相談者は、初見で梧鐙の若さが気になってはいたが、タロットカードで悉く悩みを的中させられ、30分後にはすっかり梧鐙の信奉者と化していた。ちなみに、梧鐙はタロットカードの名前さえ曖昧だ。絵を見て適当に答えに合わせている。直接憑いてる霊に聞いてるのだから楽なもんだ。大概は、身近な輩が憑いてるから悩みもその原因も本人より詳しい。相談しに来ているくせに肝心のところは、本人は言わないわけでそこ聞かせてくれたら解決方法の幾つかは誰でも示せそうだ。

 最初の相談者が帰って、さあ、次だ。やっと段取り、梧鐙がイヤホンを付けて、

「聞こえてる。」

「聞こえてる。」

「恵美さんは、席を外してもらうし、3時まで予約はとってないから、お願い。1時7分になったら、印を結んでスイッチ入れるから、見えたらすぐ来て、ドア開けて、後任せた。」

「俺で大丈夫なのか。」

それには、答えず、梧鐙はイヤホンを外した。

 2人目の相談者は、30代後半の社会人してますと、いった感じのキリッとした女性だった。ただ、入室して5分何も話さない。6分。

「ギッ。」

何か音がした。いや、音じゃない。「声だ」頭の中の誰かが言う。

 7分、梧鐙が何か呟いて、手を組んだ。画面が揺れた。相談者の顔がこちらを向いた。いや、相談者の顔は、こちらを向いていない。別の何かだ。体の中から何かが湧き、前方に移動しようとしている。つまり、梧鐙に向かっている。ざわっという感覚が、広がった。

「危ない。」

部屋を出て全力で走った。相談室のドアが開かない。内鍵がかけられている。酷く焦っているから、上着のポケットから鍵が中々出ない。やっとドアが開いた。明るいはずなのに光が吸い込まれている。居てはいけない輩が、梧鐙に覆い被さろうとしているのが見える。焦りがピークに達したとき、「出来るだろ」頭の中のでもこれは知っる奴の声、心がすーと音を立てた。右手をズボンのポケットから引き出して、人刺し指を立てる。真言と共に茅の輪を回した。音は鳴らず、血が散った。

「すごいね。本当に陰一つ残らない。」

相談者が憑き物が取れたような顔をして帰った後の梧鐙の一言。

「これなんだ。」

茅の輪らしきものから血が垂れている俺の人差し指を両手で持ち上げながらの一言。

「結構、痛いんだけど。それより、今のやばくなかったのか。」

 全然動揺していない梧鐙への質問に、急に真顔になった梧鐙は、ちょっとだけ笑みを浮かべてこう言った。

「ヤバさで言えば、幸のときは、今の9倍だったよ。」


 まだ、明るし、これだけあれば服買えるかな。取り敢えず、考えることを放棄して、俺はペダルを思い切り踏み込んだ。

 初夏の風が、流れ、キズバンを貼った人差し指がちょっぴり痛んだ。


書き上げました。以上です。

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