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3月21日日曜日②

 店を出たあと、駅前のスーパーに寄る。良かった。弁当まだ残ってた。まぁ色々と種類はあってまったく無いってことはそうそうないんだが、いつも買う290円の海苔弁は結構売り切れてることが多い。

 弁当とトイレットペーパーを手に家に戻り、その流れのまま弁当をレンジに入れ、最近はゲームをするときくらいしかつけないテレビの電源を入れる。


『──新しく入ったニュースです。新港病院で起きた暴動事件は人工島全体に広がっていると警察からの発表にありましたが、つい先程島内に取り残されている視聴者からの投稿で、警察が暴徒に向かって発砲をしたとの情報が入りました。繰り返します。暴動の起きている新港島内で警察が暴徒に向かって発砲をしたとの情報が──』


 呆然とテレビを眺めたままでいた俺を、レンジが自らの役目を終えあげたチンという音で驚かす。


 発砲──?


 いったいあの橋の向こうで何が起きてるんだ?


 ブーッ、ブーッ


「うわっ?!」


 テーブルの上に置いた携帯が着信を告げる。慌てて携帯を手に取ると画面には"優"の名前があった。


「優?お前今どこに──

『真守かっ?!た、助けてくれっ!へ、変な奴等に追いかけられて、か、隠れてんだっ」


 は──?こいつ、何言ってるんだ・・・?


「た、助けろって、お前今どこにいるんだよ?」

『て、哲の見舞いに行くって言っといただろ?人工島の病院の、近くだよ・・・』

「ああ、やっぱりか。俺も行こうとしたんだけど、橋が封鎖されててさ。今、帰ってきたとこなんだけど・・・」

『そ、そんなこといいからっ、助けてくれよっ!』

「助けるって・・・。そもそも何に追われてるってんだ?ファンでも出来たか?」


 もちろん俺らのバンドにファンと呼べるファンなどいない。誰かの知りあいの知りあいみたいな娘は、たまに見かけることはあるけど。


『じ、冗談じゃないんだってっ。す、すげぇ勢いで追いかけてきて、こっちがなんか言っても「あ゛あ゛」とか「う゛う゛」とかしか言わねぇし・・・。それに・・・』

「それに?」

『・・・な、なんかあいつら、()()()()って感じがしねぇんだよ。お前、ゾンビ物の映画とか好きだったよな?まさにあんな感じなんだよっ』


 は──?()()()


「・・・な、なんだよ。変な冗談言うなよ。あんなの映画の中だけで本当にいるわけないだろ・・・?」

『冗談じゃねぇんだってっ。─っ!?や、やばいっ。近づいてきたっ。真守っ!頼むっ、助けに来てくれっ。待ってるから──』


 ブツッ!と勢いよく電話は切れた。


 テレビの中のニュースキャスターは、まだ発砲がどうとかこうとかを繰り返している。その言葉は俺の頭の中でも何度もリフレインしている。

 優は何と言った──?ゾンビ?はっ!まさかそんなもの現実にいるはずがない。色んな設定のゾンビが登場する映画はたくさん見てきた。子供の頃、最初に見たときはあれほど恐がってたのに人間の趣味嗜好とは分からないもんだ。

 都市パニックものなんかもたくさんあったが、あくまでもそれはSF──特殊メイクをした演者やCG映像が作り出したエンターテイメントに過ぎない。


SAKI

哲が野良犬に噛まれて入院しました。明日の練習はキャンセルしたからって伝えてってことなので


 咲からのメッセージにはそう書いてあった。


 前にネットニュースでアメリカにいるという『ゾンビ蝉』に関するニュースを読んだ覚えがある。ゾンビという文字に引かれて読んだのだが、蝉に感染したウィルスが蝉の脳を乗っ取り、他のオスを排除してメスと生殖行為をすることによって感染を広めるウィルスの話だった。


おい。聞いたか?哲が病院で暴れて看護士に噛みついたんだってよ。咲から泣きながら電話があったんだけど、明日見舞いに行くけどお前はどうする?


 優からのメッセージにはそう書いてあった。


 犬に噛まれて入院した哲が、暴れて看護士に()()()()()?普通暴れるっていったら、手足をばたつかせるとか、物を投げるとか、殴ったり蹴ったりとかじゃないか?

 噛みつくって・・・、普通しないよな・・・。


「なんかニュースでやってたんだけど、新港の方で暴動があったみたいで、橋とか地下鉄も通行止めになってるらしいじゃない」


 おばさんはそう言っていた。


 橋や地下鉄が封鎖されるくらいの暴動って、一人二人の話じゃないよな。十人──百人とかの規模になるんだろうか。そんな大勢の暴徒なんてどこから現れたんだ?

 普通に暮らしてた人達がいきなりそんな暴れたりなんてあるはずがない。どこかしらの宗教団体がテロを計画していた?それならもっと国会とか銀行とか重要な場所を狙うんじゃないか?地下鉄は・・・ありそうな気もするが、そもそも日曜の人工島には平日の一割くらいしか人なんていないのに、そこでテロを起こすメリットなんてあるのか?


 頭の中をまだ"発砲"というニュースキャスターの声が繰り返し響いているかく──警察官ってそんなに簡単に銃を撃つのか?最初は空に向けて威嚇射撃とかするんだろ?


『警察が暴徒に向かって発砲をしたとの情報が──』


 ニュースキャスターは感情を消して、そう言った。警察は暴徒に()()()発砲したと──


 優が助けを求めている。哲も島内の病院に入院している。哲の彼女、咲はその病院で働いている。俺のアルバイト先の居酒屋も島内にある。今日は店は休みだけど、島内に住んでいる人は何人かいる。

 この都会での数少ない俺の知りあいが、今たくさんあの島の中に取り残されている。


「叶会ちゃん。あそこの病院で看護士してるのよね。昨日、明日は出勤だって言ってたから大丈夫かなって思ってね・・・」


 そして、"アノコ"も今あそこにいる──


 ピ──ピ──


 役割を果たしたのにその成果を褒めても貰えないレンジが、早く取り出せとばかりに何度も何度も鳴いていた──

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