第二話
事件現場の部屋は現場検証が終わっているのか、鑑識やその他諸々の証拠などが回収されていた。
「で、今回の自殺者か被害者は誰なんですか?」
「亡くなったのは『矢野 正』さん、27歳です。都内の会社に勤めており社内では特に揉め事もなく、落ち込んでいる様子もなかったようです」
「他は?」
「他と言いますと……」
「彼の身内や彼に病気や障害があったのかなど何かあるか?」
「それについてですか。彼は過去の事件で両手の指の数本が麻痺しています。病院でリハビリしていたようですが、どちらが治ったか分からない状態です」
「何故分からないんだ?」
「それが、突然矢野さんが『片方の手がほとんど完治したので通院を止めさせてもらいます』とだけ言ったらしく、把握できていない状態だと」
「そうか、ありがとう。刑事この部屋を見てもよろしいですか?」
「ああ、別に構わんよ」
その言葉を聞き僕はゆっくりと動き出す。家の間取り、彼が亡くなった場所、何か彼自身の心情を表すものがないか徹底的に調べる。
まず、調べたのは彼が亡くなった場所だ。
家のリビングに入るドアのドアノブでロープで円を作りそれに首を絞めて亡くなったのをここの住人が発見したらしい。
「すいません、殺害現場はここなんですか」
「今のところはここだな」
「そうですか……」
「ん?何かあったのか?」
「いえ、特にそんなことは。では、比嘉さんはここでこの人が亡くなったと思いますか?」
「いや、俺はそう思わん」
「その根拠は?」
「もし、彼のどちらの手が治っていたとしてここまでロープで円は作ることはほぼ不可能に近いからな」
「それだけですか?」
「うん、まあ今のところはな」
「そうですか……」
言葉を吐き捨て、立ち上がり彼の自室に向かう。
部屋の様子は思っていたより整理整頓がされていて、そこまで不自由な生活を送っているようには見えなかった。
部屋の中に入り作業机だと思われる引き出しを開けてみる。中には資料や沢山のデータが入っていた。しかし、その中に一枚の写真が入っていた。
それを取りだしてみると、そこには上半身しか写っていない矢野さんとある女性の姿が写っていた。
「比嘉さんこれ見ましたか?」
急ぎ足でこちらに足音が近づいてくる。
「どれだ?」
「これです」
例の写真を手渡しする。
「これは彼女とのツーショットか?それより、よく見つけてくれた!すぐに鑑識に出してくる」
「あ、ちょっとだけ待ってください」
写真を持っている方の手を止めて写真を取り返す。その写真をじっくり見て何か手掛かりがないか探す。これと言ったものはなかったが、唯一見つけたことは写真に彼の左手が写っていたことだ。これから推測するに彼は左手が治っていたことが分かる。
でも、何故両手を治さなかったのかが引っかかった。
「すいません、これ返します」
「何かあったのか」
「いえ、僕の見間違いだったようです。申し訳ございません」
とお辞儀をして玄関に向かった。
玄関には志穂が手を組んで壁にもたれながら待っていた。
「何かいい手掛かりは見つけれた?」
「あったはあったけど十分とは言いきれない」
「見つけれただけ良かったじゃない」
「そうかもな。帰るぞ」
そのまま僕たち二人は現場から離れた。
その後、あの事件は隣の住民などの情報提供により、自殺から事件に路線変更された。そして、何故か分からないが僕たちのもとに巷で有名らしい高校生探偵と事件解決のため同行することになった。
*
「いやー、きれいな車ですね。相当お金持ってるんじゃないんですか?」
「うるさい、人のマネー事情に口を挟むな」
「塩対応ですね~」
「当たり前だろ」
たった数分で車の中の空気は最悪になっていた。
人の事情もお構いなしに質問する探偵vs塩対応の男子刑事となり、女子二人はその隙間に入ることもできず端っこで縮こまるしかなかった。
そんなこんなで私達は事件現場に到着した。あの事件から早一週間が経った。例の現場は綺麗に片付けられており空き家として入居者を募集しているようだ。それでも、事件がおきた場所なのか事故物件として扱われ誰も希望する人はいないようだ。
「ほら、入れ」大家さんから借りた鍵を使い高校生を部屋の中に入れる。思っていたとおり、証拠はなにもなくただの部屋になっていた。この場所に行くのを提案したのは私の幼馴染みの『新谷 零夜』だった。