第一話
流れ行く景色から、どこもかしくもピンクの花が一面を占領していて何も面白くない季節がまたやってきた。休息場所の公園は青い紙を敷いてその上に乗った人々がお菓子や飲み物や歌や楽しんでいて正直鬱陶しかった。
たまに、目の前の景色は真実かと思ってしまう。人間、物、景色それらが全て化け物のような姿をしているのではないかと思ってしまう。でも、人間はいつも皮を被っている。家族、部活、先生など沢山の皮を被り日々中身を見せないようにしている。
しかし、その皮も薄くはなく、いとも簡単に破れてしまう。それで起きてしまう事例が事件だ。
だからそれを止めるのが僕たち警察官である。
「あのー、隣に座ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、構いま…って志穂じゃん!」
声をかけてきたのは幼馴染みであり同じ警察署の同期の『大岩 志穂』だった。彼女は責任感が強くめんどくさがりな僕のお母さん的存在だ。もし、一つ欠点を言うのならばすこぶる頭が悪すぎる。警察官と言えどかなり致命的だ。
「いつもここでランチしてるの?」
「まあ、そうだね。でも、今日は間違ったよ」
「確かに、ここはいつも人が少ないからね」
僕はコンビニで買ったコーヒーとサンドウィッチを食べ始めた。
その間は二人とも一言も喋らずただ目の前にあるものを無心に食べていた。
「そろそろ帰る?」志穂が聞いてくる。
「そうするか」そういった瞬間懐にいれていた携帯が鳴った。
「もしもし?」
「おお!か。今世田谷にあるマンションで自殺があったんだすぐに来てくれないか?」
「何ですか?自殺なら僕は要らないんじゃなんですか?」
「まあ、普通ならそうだな。だか、お前の力がほしいんだ。すぐに来てくれ。あと大岩もな」
「分かりました。では、ランチタイムが終わり次第向かわせていただきます」
「馬鹿か!今すぐ──」
上司からの電話を切り、残っていたコーヒーを一気に喉に流し込む。
「何?事件?」
「いや、自殺らしいが奇妙だから来てくれと意味分からないこと言われた。お前も同行しろとのことだ」
「え?何で私も?って、ちょっと待ってよ!」
疑問を抱く彼女を無視しながら僕は職場に戻った。
自分の席まで行き机の引き出しに置いていた車の鍵を取り出す。
おい、比嘉刑事がお怒りになってたぞ。早く行かないとさらに大変なことに……」
「別にそんなことめんどくせーんだよ。俺は俺のペースで行動するだけだから。おい、志穂行くぞ」
「う、うん」
心配する志穂を無視してそそくさとエレベータに向かう。地下一階に降り車を出す。ジケンバショは警察署から来るまで約30分程のところにある高級マンションだという。
「ね、ねぇ。すごい澄ました顔で運転してるけど、本当に大丈夫?」
「大丈夫って何がだ?」
「比嘉刑事についてだよ」
「あれか。適当な嘘をついて誤魔化すつもりだ」
「はぁ-、こんなのでやっていけるのかしら。それより、何で君と私なのかな?君一人でもいいじゃんか」
「そんなことを言われても俺には分からん。もしかしたら、俺の評価を下げるつもりかもしれないな。邪魔物を吊れて行かして」
「君はやるときはやるのだからそんな企みをしてたとしても無理だと思うよ。ん?ねえ、邪魔物って誰のこと?」
「気付かないのか?僕の助手席に座っているとんちんかんな女性だよ」
「はぁ~!何で私なのよ!わけわかんない!」
助手席でじたばたする彼女を乗せながら、ゆっくりと車は目的地に近づいていた。
到着したときには救急車はなくパトカーも2台しか止まっていなかった。
近くに車を止めてマンションのなかに入る。
事件が起きた階までエレベータで行く。事件が起きたとされる玄関前には警官と立入禁止テープが貼ってあった。
「すみません、一般人は──」
「ああ、ごめんなさい。警官です」警察手帳を見せて言う。
「それは失礼しました。どうぞ」
テープの中に入り玄関のドアをゆっくり開ける。
玄関の近くには比嘉刑事が立っていた。部屋は換気をしていないのかアンモニアの匂いが充満していた。
「おい!遅いじゃないか。1時間も遅刻とは何事だ」険しい顔で怒鳴ってくる。
「いやー、ちょっと渋滞してまして遅れたんですよ。あ、しっかり電話くれた後にすぐ出ましたよ」
「それならいいんだが……」
「それより事件の状況はどうなっているんですか?」
「ああ、まず中には言ってくれ。それから説明する」
そう言われ、僕たちは自殺現場、もしくは事件現場の中に立ち入った。
しかし、この事件からまさかあんな最悪な事件が起きると、誰が思ったことだろうか?
その事を僕たちはまだ知らなかった。