プロローグ
銀座通りにある少し古めのビルの屋上で30歳ほどの男性が柵にもたれかかり煙草を吸っていた。一吸い、一吸いを噛み締めるようにただ無心で。
「今年でもう五年目か」
誰もいない屋上で囁くように言った。
すると、屋上に繋がる唯一のドアが軋む音を出しながらゆっくり開き始めた。
──こんなとこに来る輩は誰だろう?
と思いつつもたった一人、それに当てはまる人物がいた。
「ギギッ」と重いドアを開け入ってきたのは彼女だった。
「はぁ、毎回思うけど重いわね。これは置いといて、何で上司からもらった仕事終わらしてないのよ!」
「だって、あんな量をたった僕一人でやれって言うんだよ。無理に決まってるだろ」
「あんたは昔っから変わらないわね。おかげで私が上司に説教されたわ。『どんな教育をしているんだ!』って」
「はは、それはとんだ災難だね」
「そうね、誰かさんのせいでね。って、あなたまた煙草吸い始めた…あ、そうか今日だったね」
彼女は察してくれたのか黙り込み僕の隣へ来た。
「私にも頂戴」
と手を出して彼女は言う。
これは毎年の決めごとだ。あの日のことを忘れないために。
「例の彼女から連絡は来てるのか?」
「最近は来てないけど来てないけど、まだ目が覚めなてないとおもうよ」
「まだ、あれは忘れることが出来ない」
「同感よ」
その後は十分ほど二人で煙草を吸った。事件を解決したときには、あの事を思いだし後悔が未だに残っている心と頭は日々傷んでいる。
吸い終わったたばこを地面に捨て足で踏みつける。
「さてと、仕事終わらしにいきますか」
ゆっくりとドアの方に足を近づけていく。しかし、彼女はこっちに向かっている様子がなかった。何かあったのかと思い後ろを振り向くとスマホを耳に当てたまま泣いている彼女が放心状態で立っていた。
「え?どうしたの?」
「か…彼が…目を…」
「うーんと、よく聞こえないんだけど」
「彼が今…病院で目を…目を覚ましたって」
彼女が泣きながらも声を振り絞り僕に伝えた。その言葉を聞いた僕は気付けば彼女の手を引き、廊下に待っていた上司を無視して車を出して道を走らせていた。
五年ぶりに目を覚ました彼に会いたかった、謝りたかった、お礼を言いたかった。その気持ちで頭はいっぱいだった。
そうだ、これは僕たちが最高で最悪で、一番の偉業を成した僕たち四人の初めての事件だ。