奇妙なスライムたち
「うわっ、な、なんだ!?」
虹色のスライムに驚いている間に、今度はどろりと溶けたはずの物体まで突然動き出して、一つにまとまった。青みがかって波打つ球体状の――スライムがそこにいた。
【虹色のスライム】と【青いスライム】の二匹のスライムがベッドの上に仲良く並んでいる。そして、その両方から魔力のパスが繋がっていることに気がついた。
「……まさか、分裂したのか?」
――増えたー! 増えた? 増えてない?
――同じ? 一つ? 増えたけど一つ?
「増えたけど、一つ……?」
――増えたけど増えてない? 違うけど同じ? 同じだけど違う?
――一つで二つ、二つで一つ? 繋がってるから一つ?
「繋がってる……? ……よく見ると、この二匹の間にパスが通っているな。分裂して体は増えたけど、パスで意識が繋がってるから一体だって言いたいのか……?」
スライムたちの説明はわかりにくいけど、多分そういうことを言いたいのだと思う。どういう仕組みなのかわからないが、スライムは分裂してもどっちも同じ自分だと認識しているらしい。
「それで、体が変わったみたいだけど、お前たちは何なんだ? そっちの青くて水っぽいのはもしかしてウォータースライムか?」
――水ー! いっぱい水飲むー! 水出せるー!
「水を飲めるし、水を出せる……やっぱりウォータースライムみたいだな」
特定の物質を大量に吸収して進化したスライムは、その物質以外の物質を吸収できなくなる代わりに、効率的に物質を吸収できるようになったり、魔力を消費して物質をつくり出したりすることができるようになる。
この青いスライムは水を飲めるし水を出せるらしいのでウォータースライムに間違いないだろう。
では、もう片方の虹色のスライムは何を吸収して、何をつくり出すことができるのか?
「そっちの方は何ができるんだ? 何がほしい?」
――魔力ー!
虹色に輝くスライムが言った。
――魔力いっぱい食べる! 魔力出せる!
ウォータースライムが水を飲んだり水を出したりできるように、自分は魔力を食らい、魔力を放出することができると。
つまり、この虹色のスライムは魔力に適応して進化したマナスライム(・・・・・・)と呼ぶべき存在だったらしい。
「……魔力、与えすぎた」
原因は多分スライムに大量の【水】と【魔力】を与え続けたせいだろう。そのせいでスライムは水に適応した【ウォータースライム】と、魔力に適応した【マナスライム】に体が分裂して進化してしまったんだ。
元々ウォータースライムに進化させるつもりだったからそれはいい。でも、マナスライムに関しては完全に想定外だ。
「……先生の言うことに逆らって魔力を与え続けていたなんて知られたら、怒られるんじゃ…‥?」
スコット先生は与える魔力を少なくしてスライムを飢えさせろと言っていた。その指導に逆らった結果がこのマナスライムだ。もしもバレたら絶対に怒られると思う。
「――そうだ、バレなかったらいいんだ!」
幸運なことに分裂したスライムは二匹いて、もう片方は変哲もないただのウォータースライムだ。学校にはウォータースライムを連れていき、マナスライムは寮の自室に隠しておけばいい。
というわけで、俺は明日からマナスライムを部屋に残していくので大人しくしているように命令した。
◆
翌日、進化したばかりのウォータースライムを連れて行くとクラスメイト達から大いに騒がれた。
早くて二週間くらいかかると言われた進化がたった一週間で起こり、クラスで初めてスライムを進化させたということでいろいろと聞かれたりもした。
スコット先生はウォータースライムを見せた時に少しだけ驚いていたけど、俺とスライムの相性が特別良かったのだろうと言っていた。
どうやらマナスライムの存在は誰にも気づかれていないようだった。
学校の授業が終わり寮に戻った後、留守番させていたマナスライムとスキンシップをはかりながら俺はそっと胸を撫でおろした。
――ところで魔力を吸収したり放出したりするスライムって何に使えばいいんだろう。