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貧乏テイマーだけど成り上がりたい ~魔法学園の貧乏学生は世紀の大発見をするようです~  作者: 液体猫
第一章 愚か者のスライムと自信過剰のマンドラゴラ
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従魔術成功?

「あぅ……た、食べちゃダメだよぉ……」


 ミーファが呻いている。どうやら魔力が少なすぎてスライムに吸収されてしまっているようだ。


「あっ! し、しまった! 大丈夫か!?」


 シドは逆に魔力を強く与えすぎてしまったようだ。手の中のスライムがぶちゃっと潰れているようにみえるが生きているのだろうか。


(魔力かぁ)


 両隣で悪戦苦闘している友人たちを横目に見ながら、先ほどのスコット先生の講義の内容を考える。

 核を魔力で染め上げて支配下に置く。

 魔力のパスを繋げてパスを通じて魔物に命令を与える。

 言ってしまえばこれだけの内容だった。


(……魔力を通して命令を出せるってことは、魔力に意思を乗せることができるってことなのか?)


 だけど、言われた内容から更に一歩踏み込んで考えてみる。

 頭のいい魔物なら人間の言葉を理解することもあるけれど、スライムのような知能の低い魔物は人間の言葉を理解できないはずだ。それなのにパスを通じて命令を出せば理解できる。

 つまり魔力を通すことで言葉に依らない意思疎通ができるということになるはず。


(今までは魔力を操作する練習しかしていなかったけれど、実はもっといろんな使い方ができるのかな?)


 手の中のスライムに向けてゆっくりと魔力を放出していく。

 最初は弱く。スライムが吸収しようとするのに合わせて自分の魔力を送り込んでいく。

 目を閉じてよく感じてみると、自分の魔力が消化されて消えていく不思議な感覚がした。

 この消化される量より少しだけ多いくらいの魔力を体から送り出すと、消化しきれなかった分の魔力がスライムの中に入り込んで漂っているのが理解できた。


(魔力には感覚もあるのか)


 魔力を使ってスライムの体内を触れる感覚は手で触れるのとは違う全く新しい感覚だった。

 目で見ているような、耳で聞いているような、鼻で嗅いでいるような、舌で舐めているような……そのどれとも違う六つ目の感覚。

 今までの魔力操作の練習でも知らず知らずのうちに感じていた感覚があることを、この瞬間に理解した。


『――――!』


(これは……?)


 そして、その第六感に訴えてくるものがあった。魔力を通して俺に訴えてくる声なき声。


 ――空腹。美味。歓喜。

 ――悲鳴。困惑。恐怖。


 むき出しなままの感情の波。目に見ることのできない核の中に納められたスライムの意思が、言葉にならずにぐるぐると渦巻いている。

 空腹を感じていること、魔力を食べれて喜んでいること。

 同族の音なき悲鳴が、断末魔の意思が届き困惑して恐怖していること。

 この手のひらの上に丸まっている小さな魔物がこんなにも多くの感情を持ち、間違いなく生きているのだと感じることができた。


(……断末魔の悲鳴って、シドとか他の生徒たちが失敗して殺してしまったスライムたちの声か……)


 同時に、クラスメイトたちの失敗によって多くのスライムたちの命が失われていったことも理解した。

 中には2回も3回も失敗して、その度にスコット先生から新しいスライムを貰っている生徒までいる。あの生徒たちにとってはスライムの命なんて意識するほどの価値もないんだろう。

 俺自身、ついさっきまではスライムの命なんて気にしてなかったし、クラスメイトたちに命の尊さを説教する気もない。万が一、スライムを殺すことを恐れて従魔契約を結べないなんてことになったら絶対にテイマーになれない。ミーファなんか今でも及び腰なのに、これ以上腰が引けたら絶対に成功しなくなるだろう。


 スライムたちの命が風の前の塵のように消えていく教室の中で、俺の手の中にいるスライム話しかけた。


(――従魔契約を結ぼう。俺の従魔になったら守ってやる)


 たったそれだけの、交渉ですらない一方的な宣言に、スライムは震えた。


 ――歓喜。歓喜!!歓喜!!!!


 守ってやると言っただけで、スライムの意思は喜び一色に染まった。

 俺がこのスライムを騙そうとしているとか、そういうことを疑うことすらできないのかもしれない。

 なんとも無垢な感情をまき散らすスライムに追加で魔力を食べさせてやりながら、俺たちは初めての従魔契約を結ぶことに成功した。

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