夢遊
子どもの頃の話だ。
母を挟んで、兄と私で眠ることが多かったように記憶している。
私が壁側に眠っていると、不意に誰かが足を持ち上げる感覚に襲われた。
それも一人ではない。何人かにふくらはぎ辺りを持たれて、掲げられていくのだ。
自然、私の足は上へ上へと上がっていく。
やがて倒立のような状態になったころ、カツン、カツンと不思議な音が聞こえてくる。
上へ上へ、さらに上げようとしているのがわかる。
けれど彼らには、そこまでの力はないのだろう。
足を大地から直角に伸ばしたまま、身体が大地から離れることはなかった。
カツン、カツン。
一体何の音なのだろう。
私の身体の状態に気付いた母がヒステリックな怒声を上げる。
無理やり身体を降ろされ、「遊んでないで早く寝なさい」と私が怒られる。
カツン、カツン。
「ほら、まだあの音が聞こえているよ、お母さん」
母の顔が青ざめる。
目をこすりながら兄が「誰かが呼んでいるみたいだ」と言った。
花瓶が宙を舞い、壁に当たって割れた。