五姫の声援
「さぁ、白熱した闘技会も僅か二時間足らずで第十七試合まで終了しましたよー! 今闘技会は最初から全力で戦う参加者さんが多くて、かなりのペースで試合が進んでおりまーす! それもその筈、貴賓席には我らがアクアリースの王女ミズファ様を始め、プリシラ様や五姫と美少女揃い!! 男女問わず気合が入るのは当然の事ですよね! 続く第十八試合も間もなく開始となりま~す!」
闘技場を映す水晶には、拡声器の魔法具で元気に喋る進行役の少女が映っています。黒い髪をポニーテールしているこの少女が喋る度に観客席が大きく沸き上がりますので、この進行役の少女も大変な人気者のようです。
ここまでの試合の内容を見ている限り、各々が持つ剣技や魔法で早々に畳み掛ける戦いが多いみたいです。少しでも母様達に良い所を見せたいからだと思いますので、少し微笑ましいです。そして上位入賞常連者と思われる方達は順当に勝っているようですね。
「登録番号68番の方、間もなく試合が始まりますので闘技場中央へお願いします」
九尾さんに頂いた闘技会参加資格証を確認しますと、私の番号が68番です。一試合目はくじ引きで決まりますので、番号を呼ばれるまで誰が戦う番になるのか解りません。少々不便なのです……。
「ミズキ、貴女の番じゃない?」
「はい……」
これから沢山の人々が見ている場所に行かねばなりません。うぅ、緊張してしまいます。今はローブを着ていますが、これも試合中は脱がないといけませんし……。私は魔術師ですと伝えてあれば、ローブを着たままでも構わないのですけれど、母様と九尾さんから前もって脱げと言われています……。
「ほら、早く行きなさい。対戦相手を待たせるわよ」
「は、はいそれじゃあ行ってきます」
仕方ないとばかりに渋々と闘技場中央へ移動する私。控室を出ていく所で、後ろから「頑張りなさいミズキ。貴女に応援の必要はないでしょうけれど」とクリスティアさんが励まして下さいました。そんなクリスティアさんに微笑みながら手を振ります。
闘技場中央に繋がる通路を歩いていますと、負けた方々が母様達についての話題で盛り上がっています。九尾さんは兎も角、母様達が闘技会に足を運んだのは過去一度だけだそうですので、話題になるのも無理は無いでしょう。今回の闘技会は私とクリスティアさんの為だけに時間を作って見に来た訳ですし……。
ですが、流石に全員が見に来ている訳ではありません。エステルさんは中央都ミカエラで後方支援に回る為の準備をしていますし、アビスさんはエウラスとアクアリースを繋ぐ街道作りの視察代行で留守にしています。ミツキさんは体調を考慮してお城にいますし、イグニシアさんは当然ミツキさんと一緒です。
皆さん闘技会を見に行けなくて大変残念だと言って下さっていました。特にミツキさんは見に行こうとしていた位です。もっと水晶が遠い所からでも映せるといいのですけれど、流石のアクアリースでもそれは難しいみたいですね。
段々歓声が大きくなってきています。少し薄暗い通路の先から光が当たっていますので、そこから闘技場の舞台へと出る事になります。
「うー緊張します……」
通路が終わり、あと一歩踏み出せばそこから大歓声に沸く闘技場になります。シャイアの時もそうでしたけれど、今まで沢山の人達に見られるような状況は成るべく回避してきました。けれど今回ばかりはそうも行かず覚悟が必要です。
「焦らず……いつも通りに」
私が変な子だと思われますと、母様に恥をかかせてしまいます。母様にはいつも笑顔で私を見ていて欲しいです。ようやく会えた私の親ですもの。年齢的な見た目が殆ど変わらないのが悩みの種ですけれど。
「ふふ、どちらかと言いますと、やはりお姉さんのようです」
母様の事を考えますと、何故か自然と気持ちが落ち着きました。対戦相手は既に闘技場の中心で待機しています。これ以上は待たせるのも悪いですので、意を決して中央へと歩き出しました。
闘技場へと出た瞬間歓声が上がり、ビクっとする私。ビクビクしながらも闘技場を見回しますと、円状に石畳が敷き詰められていて、一切戦闘の妨げになるような物はありません。そして進行役の少女が少し離れた位置で元気に喋っていました。
「さぁ少し遅れて68番の参加者さんが現れましたー! 茶色のローブに身を包んで居る所を見ると魔術師でしょうか! フードで顔が見えませんが、とても小柄な参加者さんのようです。一体どの様な戦い方をするのでしょうか!」
私が遅れていた合間、進行役の少女がずっと喋って場を繋げて下さっていた様です。小心者なせいでご迷惑をおかけして御免なさい。と、心の中で謝っておきます。貴賓席に目を向けますと、母様がしきりに五姫さんらしき方達に何か語り掛けています。
貴賓席を見ながら私も中心まで移動し、対戦相手の前に立ちます。対戦する方は剣士らしき恰好をしていて、バスタードソードを肩に担いでいます。
「なんだ、初戦の相手は魔術師か」
無言でペコリ、と頭を下げます。別に無視した訳では無くて、何と言い返せば良いのか解らず、言葉が出なかったのです。すると、突然貴賓席から「ミズキーー頑張って下さいねー!」と私を応援して下さる声が響きました。
声の主はシルフィさんの隣に座っていた赤色の長い髪をした少女のようです。初めて会いますのに、まるでずっと傍に居たかの様な親しげな笑顔で、その赤い髪の少女が私を見下ろしていました。
「これは驚きました!! 今貴賓室にいらっしゃる光姫様から声援が飛びました! どうやらローブの参加者さんへの声援のようですが、一体何者なのでしょうか!?」
進行役の少女の言葉からして、あの赤い髪の子が光姫さんみたいですね。沢山の街に設置されているウィスプの街灯や魔力を消す魔法具などを生み出した方だとエステルさん達に教えて頂いています。一度は会ってみたいと思っていた方ですので、そんな方から声援を頂けて嬉しいのです。
「なんだ、五姫の知り合いか……? おい、ローブのお前。いい加減フードくらい取ったらどうだ?」
対戦相手に怒られましたので、いそいそとローブを脱ぎますと……。
「な……女の子供!?」
少し間を置いてから、凄まじい大歓声が沸き起こりました。
「これはなんと、女性の参加者さんでした!! そしてすっごく可愛いです! と言うかこんな小さな子に参加許可が下りるなんて運営陣は鬼畜です!!」
観客席から笑いが起こり、九尾さんがフルフルと震えています。怖いです……。
「見たところ、いいとこのお嬢さんが興味本位で参加したって感じか」
「……」
私は答えません。直ぐに否定したい所ですけれど、当たらずとも遠からずですので……。参加自体はお願いされた側ですけれどもね。
「まぁ、いいか。怪我させないように手加減するだけで初戦を突破できるんなら安いもんだ」
そう言いますと、対戦相手は肩に担いでいたバスタードソードを石畳に突き刺しました。素手で私と相手をするつもりの様です。
「13番の参加者さんは紳士ですねー。 さて、そろそろ試合を開始したいと思いますが、両者共に準備は宜しいですか?」
「あぁ、いいぜ」
「……はい」
「では……。試合開始です!!」
開始合図と共に、ゆっくりと私に向かって対戦相手が歩いてきます。
「悪い事言わねぇから降参しとけ嬢ちゃん。今から魔法詠唱しても気絶すんのが先だぞ」
対戦相手の言動は兎も角。私を気遣って下さっている事に変わりはありませんので、人柄は良い人なのでしょう。闘技会で勝ち進めば大金が手に入りますので、子供だからと手を抜く必要はまったく無いのですもの。殺すのは駄目ですけど。
「お気遣い有難うございます。ですが、その言葉はそのままお返ししたいと思います」
「あ? おいおい、世間知らずなお嬢ちゃんでも、ちょっとおいたが過ぎるな。めんどくせぇ、さっさと気絶させるか」
瞬間、凄い速さで私の懐に飛び込んできました。瞬時に少し本気を出したのでしょう。それ位はして頂かないと、丸腰の相手と戦うなんて私には出来ませんもの。
首筋に手刀を放ってきた対戦相手の動きに合わせて、体をずらして一重でかわします。
「な……お前、今避けたのか……?」
「はい」
「いやいや、あり得ねぇから! 今のは子供が反応出来る速度じゃ無いんだぞ!」
「気になさらず」
「……くそ、なめんな!」
今度は私に掴みかかってこようとしましたのでこれもヒラリとかわし、対戦相手に触らせません。私には近接戦闘の場数が足りませんので、丁度いい機会ですね。……少々物足りませんけれど。
「これは凄いです!! 体格が圧倒的な相手に臆せず、女の子が掴みかかって来る相手を全て一重で避けています!」
それはそうでしょう。だって、対戦相手の動きが鈍って見えるんですもの。目をつむっていても避けられそうです。
「はぁ……はぁ……なんだ。おかしい、何で掴まえられねぇんだ……?」
暫く避け続けていますと、対戦相手が息を切らし訝し気に私を見つめてます。
「もう終わりですか?」
「ふざけんな。……くそ、余り気は進まねぇが、俺の剣で相手してやる」
対戦相手が後方に飛び退き、突き刺していた剣を引き抜いて構えます。
「すまねぇな嬢ちゃん。その綺麗なドレスが破けちまうが恨むなよ!」
そして剣を振り上げますと、剣先から光を放ちました。
「必殺、剣気一閃!!」
剣を振り下ろすと同時に、剣閃が立てなぎに飛んできます。そこで私は……。
「やはりこの程度でしたか……」
溜息です。手加減をしているのかもしれませんが、それでも必殺剣を放った以上、それなりの攻撃の筈です。ですのに、何でしょうかこの微風みたいな攻撃は。
「もういいです。次の対戦相手に期待します」
左手を前に差し出し、微風みたいな剣閃を最小限の水の防壁でかき消して、そのまま似たような水の剣閃を作り出し、相手に向かって放ちました。
「な……! ぐふぉぉぉぉ!?」
人には避けられぬ速度で水の剣閃を飛ばしましたので、あっさりと吹っ飛ぶ対戦相手。鎧と衣服がボロボロになってしまったようですけれど、これでもかなり手加減しましたので許してくださいね。
倒れている対戦相手の男性用の下着が見えましたので、赤面しながら目を逸らす私。
「あー……。ええと……。し、勝者68番、です」
途中から無言になっていた進行役の少女がポツリと呟いた所で、戦闘が終わりました。




