大パーティー5
その後、ファラさんと改めてパーティーの席を設ける事をお約束してパーティー会場に戻り、料理消失の経緯をメイド長のミルリアさんにお伝えしました。幸いにも帝国側には粗相は無く、料理消失の件はアクアリース側のみでしたので、特に大きな騒ぎにはならずに済みました。
次にミカエラさんにファラさん達の分の料理追加をお願いして参りましたけれど、とてもご不満でした……。朝からずっと厨房に付きっ切りでしたし、お疲れの中での追加ですからお気持ちは大変解ります。まぁ、パーティー後にしっかりと労うとお伝えした途端に機嫌を良くしてましたけど。
そして今は会場の自分の席で魚料理を頂きながら、ミズファ母様と今後の予定の示し合わせを行っております。
「ミズファ母様、女神様方に特にお変わりはありませんか?」
「うん、魔族の地から戻った後にお昼ご飯が口に合ったかどうか確認しに行きましたけど、四人とも嬉しそうに食べてましたよ」
「それは良かったのです。ではランチの後に私も伺います」
流石に昼食を頂いてる合間に二度も訪れては失礼ですものね。と、言いますより今私も絶賛お腹ペコペコ中なのです。しっかり頂かないと今後の活動に支障が出て参ります。
私のいるテーブルは食欲魔王が二人鎮座しておりますので、普通に頂いていたら殆ど料理を口にする事が出来ません。そこで考えたのが前もって料理を予約する方法です。これで悠々と美味しい料理を堪能出来るのです。
「姫様、お待たせしました」
「ありがとう」
メイドさんが運んで来た一皿を優雅に受け取りますと、薄く切られたお肉の野菜包みを一口。
「じー……」
「じー」
「……」
追加の料理待ち中のサスターシャさんとミズファ母様からとても食べたそうな視線を受けますが無視なのです。これは前もって注文した私専用の品なのです。お皿の塔が何棟も連なっていますのに、まだ食べたりないのでしょうかこの魔王達は……。
「ふぅ、大変美味でした」
そんな二人の魔王を華麗に無視で打ち倒してランチを終えた私は「それでは失礼いたしますね」とお伝えして、席を離れます。
「あ、ミズキ。食べたら、私も、行くね」
「ええ。慌てずとも大丈夫ですので、お料理をご堪能下さいね」
「僕は予定通りご飯食べたら訓練場でクラウス陛下達と食後の汗を流してきますね!」
「はい。落ち着き次第私も其方に合流しますね」
パーティーは一日中続きますので、様々な方々と手合わせするお時間も設けているのです。むしろクラウスさん等はこの時間を一番のメインにしていそうですけれど。
「さて。では女神様とお話してみましょうか」
料理消失を早期解決出来たのはファラさんとゼスさんの合わせ技である無存在を無効化出来ていたお陰です。今の所私でもその様な力は扱えません。実質的に存在しない相手には干渉出来ないからです。
それでも何らかの方法で対策が出来る訳なのですよね。実際に無存在の効果を打ち消している訳ですし。一見すると対策を講じるのが無理の様な能力でも、何処かしらに穴があるのかもしれません。
その様な事を考えながら、会場の中心にある噴水前へ着きますと。今回の主賓である女神様方のテーブル席から楽しそうな声が聞こえて参ります。
主賓席の周囲を囲うように立つメイドさん達に「お疲れ様です」と労いますと、一堂に会釈を頂きます。
「お、食事終わるなりきやがったのよさ」
「ええ、参りましたよ水神様」
「そろそろ来る頃だと皆で話題にしていたんですよ」
不可解な事を仰る風神様。パーティー中にお会いしに来る事は間違いなくあったわけですけれど、今この時間に席まで伺うとは一切お伝えてしておりません。
「私が来るとご存じだったのですか?」
「そりゃ、あんだけアクアリースから料理無くなったとか騒ぎが聞こえてきてたら解る」
「アーシェちゃんがちょっと解決のお手伝いしてましたからね。ミズキ様なら直ぐに気づいて此処へ来ると解っておりました」
「あ、やはり女神様のお力だったのですね」
どうやら土神様がお力をお貸し下さっていた様子です。そう言えば会場まで水神様の介護をなさっていたのも土神様でしたね。とても心お優しい方なのでしょう。
「あの、土神様」
「ん?」
「私達にお力をお貸し下さり、有難うございました」
「別に良いよ。美味しい料理食べさせてもらったお返し」
お話しした感じ、さっぱりとしていて温和な方の様です。女神様と言う立場ですのに、お返しを考えておられる辺り、情にも厚いのでしょう。水神様等もそうですから、皆様揃ってこの様な方々なのですね。
人となりが解りますと……次に気になるのは、やはり土神様の能力です。時期女神としては、確認せずにはいられません。
「料理がお口に合って安心致しました。それで、あの……土神様」
「ん?」
「私達をお助け下さったお力はどの様な仕組みなのでしょうか。料理を持ち出していた方は存在を完全に無に出来る方で、干渉自体が不可能な筈なのです」
「別に特別な事はしてないけど、敢えて言うなら無効化能力のような物かな。その料理盗んでた奴って何か道具みたいなので強化してなかった?」
「ええ。この世界の古の技術と魔族の技術が合わさった魔法具と呼ぶ物で強化されておりました」
「それが無効化の原因」
「え」
これが原因? と申されましても、何が原因なのか全然解りません。
「私には物理的に作られたあらゆるアイテム能力を凍結させる力がある。神器も凍結出来るよ」
「え!?」
「強すぎる力を持つ神器は無理だけど」
そうだとしても、とてつもない能力ですね。自らの力しか土神様には通じない訳ですから。あらゆる武器防具に付与された能力に意味は無くなりますし、魔術師等はアミュレットの恩恵を受ける事も出来ません。
私の場合ですと、クリムさんを無効化されてしまう形ですね。ある意味では負の塊の力を持ったコヤさんよりも強いのではないかと……。
「強すぎる神器って言うとさー、そこの噴水の裏で一人メシかましてる万物聖典とかがそうじゃね」
「え……」
試しに噴水の裏手に回ってみますと。囲いに座りつつ料理を堪能する万物聖典さんがいらっしゃいました。なぜこの様な所に……と思いましたけれど。
「あ……!! 私ったら、万物聖典さんの事忘れておりました……」
慌てて万物聖典さんに駆け寄って「申し訳御座いません!!」と謝りながら抱きしめる私。負の塊討伐後、中々姿をお見せ下さらず、そのまま万物聖典さんをパーティーにお呼びするのを忘れてしまっていたのです。
「む、こら食事中に急に抱き着くな時期水の女神」
「す、すみませんでもあの!」
「構わぬ。余なりに楽しんでいる。気にするな」
「ですが、その料理は……?」
「女神達の施しだ。女神直々の施しでは断れぬ」
と、仰りながらそっぽを向く万物聖典さんですけれど。食事中の万物聖典さんを見た限り、前向きにパーティーにご参加下さっている様です。お皿を手にしつつ料理を堪能する姿はとても幸せそうでしたし。
「でしたら万物聖典さん、女神様方と席を同伴なされては如何でしょう?」
「そうはいかぬ。此処には居ないと誤認させては居るが、メイド達に余計な気苦労をかけたくは無いのでな」
「相変わらずお優しいのですね。一先ず、ここ数日に渡り万物聖典さんにお会い出来ませんでしたけれど、お変わりないようで安心致しました」
ミズファ母様に万物聖典さんの現状確認を取れば良かったですのに、それすらも失念していたのですもの。私ったら本当にダメな子ですね。
「余はこの通り差し障り無い。それより、土の女神と話の途中では無かったか?」
「あ、そうでした……。すみません。それでは一度席に戻りますね」
「うむ。あぁ代わりと言っては何だが、料理の追加を頼みたいのだが……」
「ええ、喜んでお持ちしますね!」
いそいそと貴賓席に戻り、通りかかりのメイドさんに追加の料理をお願いする私。色々とお話が終わりましたら、万物聖典さんにもお声がけして一緒に遊んで頂きましょう。何分、殆どの方が万物聖典さんと面識がありませんから、丁度良い機会なのです。
現在一部の帝国の方やアクアリースの高官が訓練場で手合わせに興じておりますし、其方にお連れしても良いかもしれませんね。




