私だって怒ります
「えっとぉ、次は確か「水晶五姫」が揃い次第アクアリースとか言う国の王女抹殺だったっけ。んじゃ今の内にぃ、何か美味しい物食べてー新しい洋服着てー後々ー」
地上から上機嫌でミカエラさんが何か言っている声が聞こえます。今ので私達を殺したつもりなのでしょう。勿論無事です。
割れた地面に磨り潰されそうになった瞬間、私は「水幕の護り」を展開して地面に挟まれるのを防ぎ、アビスさんが水で出来た網状のネットを水幕の中に張り巡らせその上に乗っていますので、全員無事です。元気の無いエステルさんにはクリスティアさんが付き添っています。地面の中は暗いですが、アビスさんの持つ光る弓が十分な明かりとなってくれています。
「アビスさん、私が上に向けて穴を開けますので、地上まで足場を作成して頂く事は可能でしょうか?」
「うん!」
「それではお願いしますね。……咆哮せし水の龍よ、地中を食らい天へ駆けよ「水龍哮破」!!」
右手を地上に向けて振り上げると同時に水の龍を召喚します。大地にかざ穴が空きますと、咆哮を上げる水の龍が空めがけて駆け上ってゆきます。地上からは「きゃあ!?」という悲鳴が聞こえました。ミカエラさんの驚きの声みたいです。
私達の居る場所まで陽光が差し込み、続けてアビスさんが作り出した水の階段を上り地上へと戻ります。
「ちょっとぉ、今の龍何よ!? 急に地面から出て来たからびっくりしちゃったじゃない!!」
地上に戻るなり、開口一番ミカエラさんが怒っています。クリスティアさんと一緒にエステルさんを地面に座らせた私は、少し不機嫌気味に返答を返します。
「炎にも龍の形をした魔法があるようですし、そこまで驚く事でも無いと思いますけど」
「今の龍は君かなー? 見たとこ「氷姫」クラスの氷魔法のようだったけど、水の精霊の力を借りた最上位魔法って……恥っずかしー」
きゃははは、と笑うミカエラさん。各属性の最上位魔法は「使い手のイメージした現象」が魔法の形を作りますので、仮に十人「氷姫」さんがいれば、十人全員違う魔法になります。ですので、ミカエラさんは私が展開した水の龍を氷属性の最上位魔法だと思ったようです。
「異様に魔力高いのがいるなぁって思ってたけど、君が今の世の「氷姫」な感じ? 随分最上位の程度が下がってて、魔術師の先人としては悲しいわよぉー」
「……」
くすくすと笑いながら言うミカエラさん。悲しそうな顔なんて微塵もしていません。
「流石に国家指定級が二人もいるしぃ、「氷姫」も居るなら今ので死んでなくても納得かな。そ・れ・じゃ♪ このまま死ぬまで地割れに落とされ続けるのとぉ、尖った石で貫かれて死ぬのどっちがいい?」
「どっちもお断りします」
いくら水晶に操られている可能性があるにせよ。楽しそうに人殺しをする人物に対して、大らかな気持ちを持ち合わせる程、私は人のいい人間ではありません。
流石に私だって、怒りますよ?
「お断りするのは勝手だけどぉ、君達じゃ私に一切傷なんてつけられな……」
ミカエラさんが言葉を中断し、頬に片手を当てています。
「……今、私に「何をしたの?」」
私は高速で回転する水の刃をミカエラさんに向けて、わざと直撃しないように放ちました。
「見ての通り、魔法攻撃ですが?」
「ふざけないでよ、魔法は私に通じないって言ったでしょ。例え「特殊能力」でも五属性に抵触していれば結果は同じなのよ? 例え水の精霊の力を借りた魔法だとしても、精霊の力なんて微々たる物だし、私の防御壁を貫通するなんてあり得ない」
あり得ない、ですか。ふふ、そうですか。
「生前、国家指定級と戦った事はありますか?」
「ある訳ないでしょ。「水晶五姫」の今なら兎も角、いくら私のような規格外の「土姫」だって、生身の人間でそんな化け物に勝てる訳無いじゃない。まぁでもぉ、私天才だからー国家指定級クラスの力を持った獣人なら殺せたけど♪」
自身の死後、自らに対する世界の評価が解っているのでしょう、ミカエラさんは獣人との戦争による戦功を誇らしげに語っています。当時の獣人さんには国家指定級より強いとされる方はいなかったようですが、それでも十分に強い獣人さんを生身の人間一人の力で壊滅に追いやったのですから、凄い事は事実です。
「つまり、人間の持つ知識の範疇でしか、物事を測る事が出来ないんですよね」
「さっきから何が言いたいの君ー、ちょっときもいんですけど。いい加減うざいから殺すわよ」
私の足元から水が噴き出し、螺旋を描くように周囲を回っています。
「ミカエラさん、貴女が持つ常識の範囲内には、「第六の属性」を持つ私のような人物は含まれていないようですね」
「……え?」
「そして、知るがいいです。「国家指定級より強い者」が居る事を」
それは「九尾」さんという方であり、「アクアリース」の王女様の事であり……私の事です。
螺旋を描く水を右手に収束させ、「血を水に混ぜます」。瞬く間に赤くなった水は大きな水球となって、上空に浮いています。先程のイグニシアさんが出した火球の三倍は大きい、極大の赤い水球です。
「……ち、ちょっと。何よ、それ」
「見て解りませんか?」
「解らないから聞いてるんでしょ!?」
「これは水魔法です。五属性いずれとも違う第六の属性」
「第六? 君、何言って……」
「そして」
ミカエラさんの言葉を遮り、私は言葉を続けます。
「水魔法に古代血術の力を合わせた、私独自の魔法です。そうですね……この能力に名をつけるなら「血と水の盟約」でしょうか」
あらゆる魔法が利かないと自負していたミカエラさん。元々、私にとっては「そんな事はどうでもいい」のです。例え水魔法が使えなかったとしても、私の持つ力には、属性なんて関係無いのですもの。
「貴女は私の事を「氷姫」だと勘違いしていた様ですが、水晶からは私について何も聞かされていないのですね」
「まさか君、人間じゃ……」
「はい、人間じゃありません。私、言いましたよね? 「国家指定級」より強い者を知れ、と」
「ま、待って、ちょっとたんま……」
あぁ、怖気づくその姿、ぞくぞくしてしまいます。人間風情の分際で、身の程を弁えないその太々しい態度。精々恐怖の中で死ぬがいいです。
……あ。また、破壊衝動が出ちゃいました。いけませんいけません。
「「血と水の盟約」は初めて実戦しますから、手加減は出来ませんよ。さようなら」
実戦において思い付きだけの行動は駄目ですけれど、今の私は怒っています。ブンブンですよ。ですから、ちょっとくらい即興で編み出した能力を使っても仕方無いのです。
「や、やめて。私、今さっき起きたばかりなんだから! まだ美味しい物だって食べてないんだからぁ!」
私の上空からミカエラさんに向けて降下する赤い水球。この球に飲まれれば、凄まじい魔力の濃度によって全身が一瞬で消し飛びます。それが解っているからこそ、ミカエラさんは恐怖しているのです。
謝る事をせず、自分の欲を満たせない事に不満を持つ彼女は、生前から「そういう人」だったのでしょう。天才だったのかもしれませんが、人の器としては最低です。
「「土殻防壁」!!「土属性魔法超強化」!!」
ミカエラさんが防御壁を展開し、赤い水球がその壁に激突します。
「あぐ!? ……何よ、これ。ぐ、ギギ……」
両手を前に出して必死に防御壁を維持して耐えていますが、直ぐに防御壁にヒビが入ります。
「ひっ!? や、やめて……」
防御壁を突破した赤い水球がミカエラさんを飲み込みます。
「きゃあああああ、水晶助けて!!! 私死んじゃうわ!! いやぁぁぁぁぁぁ!!」
赤い水球に飲まれた瞬間、ミカエラさんの足元に魔法陣が浮かんだのが見えました。
「……転移魔方陣で逃げましたか」
赤い水球が地面に接触し、激しい爆音と共に破裂しますと。
そこには転移した形跡だけが残されていました。




