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水晶の目的

「後一時間足らずで水晶が街道の先から来るわ。そろそろ皆警戒して置いて」


 ミカエラの街で一泊した後、私達は早々に北へと向けて出発しました。馭者が危険ですので馬車には乗らず、歩いて暫く真っすぐに続く街道を歩いておりますと。小まめに水晶の位置を確認していたクリスティアさんが警戒の念を押しています。


「ん、けど無警戒ですれ違う人達は特に問題なさそうだった」


 私達とは逆に、ミカエラへと向かう冒険者さんや商人さん等と頻繁にすれ違いますが、皆さん何かあったようには見受けられず、中には楽しそうにお喋りしつつ歩いている女性の冒険者さん達もいました。


「確かに、水晶は道行く人々に手を出していないようですね」

「私、嘘なんて言っていないわ」

「いえ、クリスティアさんを疑っている訳では無いのです。御免なさいね」


 エステルさんが少し不機嫌なクリスティアさんの頭をなでますと、「もう、子供扱いしないで頂戴」と、クリスティアさんが言っています。言っていますけれど、ちょっと嬉しそうな表情がとても微笑ましいです。それを言うとクリスティアさんが怒りますので、黙っておきましょう。


 そんなクリスティアさんの横に小走りして来たアビスさんが、彼女のスカートをくいくいと引っ張ります。


「何かしら」

「あのねー、ごめんなさい」


 その場でぺこっと頭を下げるアビスさん。急にどうしたのでしょう。


「な、何よ急に」

「わたし、あくありーすをだいひょーして、くりすてぃあに謝らないと。こだいまほーぐの一つが、意思をもってたなんてだれもきづかなかったの。そのせいで暗いそーこにとじこめられて、凄くつらかったとおもうから」


 アビスさんの気持ちを察した私は、謝ったままの彼女に手をそっと添えてあげます。

 アビスさんを含めた「アクアリース」の皆さんは、各地のダンジョンにある古代魔法具庫を監視し、危険な遺物である「古代魔法具」を持ち出されないようにしていました。その間、水晶の中で生まれたクリスティアさんはとっても辛いメルを過ごした筈です。


「何よ、今更そんな話?」

「う……あのね、つぐないならぜったいするから、すいしょーのこと止めたらいっしょにあくありーすに……」

「怒ってないわよ」


 アビスさんのお詫びを遮るようにクリスティアさんがそう言いますと。


「まぁ窮屈で寂しい思いをしたのは確かだけれど。今の私はとても満ち足りているわ。だって、夢だった人間の生活が出来ているのよ? それにね、償いは私がすべき事なの。「アクアリース」だかなんだか知らないけれど、貴女達は関係ないわ」

「くりすてぃあ……」


 今度はクリスティアさんに寄り添って、彼女の頭をなでてあげる私。「あ、貴女まで急に何なのよ!?」と怒りはしますが、嫌がってはいません。


「……水晶の奴はそれこそ途方もないクオルダを暗い倉庫で過ごしたと思うわ。意思はあっても、感情は無かったから辛いなんて思わなかったけど。その代わり、自分が生まれた理由について自問自答をしていく上で、いつしか核に異常が生じてしまったようね。その異常のお陰で、私は生まれる事が出来たのだけれど」

「ある意味では、水晶も被害者なのですよね……」

「駄目よ、エステル。これから一戦交えるかもしれない水晶に情を持っては。水晶は、私達は……取り返しのつかない事をしてしまった。ミズキ達のおかげで死者は出ていないにしても……古代魔法具の力を受けたシャイアの街道はもう二度と木は生えないし、生き物は近寄らないわ」


 そう言いますと、クリスティアさんが元気なく俯きます。彼女がした事は確かに許されない事ではあります。ですから、私はお友達として、クリスティアさんの重荷を少しでも軽くしてあげたいのです。


 その為には。


「ん、積もる話も先ずは水晶をどうにかしてから」


 イグニシアさんが街道の先に目を向けています。その視線の先には……紅いドレスを着た女性が、此方側へと向けて歩いて来ていました。


 ---------


「水晶……随分とお早いお着きね」


 街道の先から優雅に歩いて来た水晶は、私達が行く手を遮りますと、その場で立ち止まりじっと此方を見ています。クリスティアさんの挑発めいた発言も、一切気にした様子はありません。


 水晶は事前にクリスティアさんから教えて貰った通りの姿をしていました。手を胸の前で組み、可愛らしい容姿の中に大人の女性らしさが滲み出ています。


「随分とまぁ、我の出迎えに人数を増やしたものじゃな? クリスティアよ」

「水晶、貴女言葉が……」

「貴様に出来て我に出来ぬ事など無い。我程の美貌であれば、世の男どもが自ら首を垂れるであろうの」


 くすくすと笑う水晶。その姿には余裕の姿勢が伺えます。


「悪いけれど、そんな下らない話をしに来た訳では無いの。今すぐ再封印されなさい。今ならまだ貴女を破壊せずに済むわ」

「……」


 クリスティアさんの言葉に無言の水晶は少しの沈黙の後、くすくすと笑い出し……。


「貴様ら、もしやこの状況を優勢に見ておるのか?」

「どう言う意味かしら」

「意味か。意味なら……貴様らの後ろ側に出ておるわ」


 水晶の意味深げな言葉と共に……。突如地面が大きく揺れ出しました。


「な、地震ですか!?」

「ん……大きい。これは尋常じゃない」


 地面が激しく揺れて、立っていられません。


「水晶、何をしたの!?」


 クリスティアさんが膝をつき、揺れに抗いながらそう言いますと。


「我は何もしておらぬぞ。「我はな」」

「一体どういう……」


 とっさに後ろを見た私は、そのあまりの惨状に言葉を失いました。


「嘘……」

「みかえらの街なくなってる……」


 遠くからでも見えていた城壁は無く……ミカエラは所々から煙が立ち上がる瓦礫の塊へと変貌していました。暫くその後も大きく揺れ、街道に亀裂が入り、湖の水が一部決壊して街道へと流れ出していました。


 その後、揺れが治まりますと……エステルさんが項垂れ、泣き出してしまいました。


「中央都ミカエラが……そんな……」


 泣き崩れるエステルさんに駆け寄る私。アビスさんとイグニシアさんも辛そうな表情で近づいてきます。


「水晶……貴女。とうとう……人を……」

「言ったであろう「我は何もしていない」と」

「ふざけないで!! 他に誰がこんな酷い事をするって言うのよ!!」

「そう急くな。今教えてやる」


 そう言った水晶は片手を前に出しますと、地面に魔法陣が出現しました。


「これは……転移魔方陣!?」

「我の元へ来るが良い、水晶五姫・土姫「ミカエラ」よ!」


 魔方陣が高速で回転すると同時に、一人の女性が姿を表しました。赤い髪をツインテールにしていて、フリルが沢山ついた丈が短いゴシック調のドレスを着ています。


「我が水晶の呼びかけに答え、「土姫」ミカエラ、華麗にー参、上♪」


 その女性はビシっとピースサインを目に当て、謎のポーズを取りますと、自らを「土姫」ミカエラだと名乗りました。


「……」


 余りの事に言葉が出てこない私達。その様子を見た、目の前のミカエラと名乗った女性は「ちょっとぉ!」と不満の声を漏らし。


「この私が挨拶してやったのに、反応薄くない? 今の世ってこんな子達しかいないのぉ?」

「……」


 だって、どうしろと言うのですか。突然地震が起きたかと思えば、ミカエラの街が無くなって……その後突然目の前に「土姫」ミカエラを名乗る謎の女性が現れて……。余りの不可解さの連続に思考が追い付いてきません。


「ミカエラ、我は次の「水晶五姫」を呼び覚ましに行く。適当にこやつらと遊んでやるが良い」

「りょーかいでーす!」


 水晶の立つ地面に魔法陣が浮かび上がると同時に、クリスティアさんが「待ちなさい!!」と叫びます。


「一体、貴女の目的は何なのよ!! 一体何をしたの!」


 そのクリスティアさんの言葉に対して、不敵な笑みを零す水晶。


「我の目的は、我を守護する「五姫」の復活じゃ。その為には貴様らにミカエラの街に居られては困るのでな。我の元へ来るよう誘い込んでやったのじゃ。淑やかに街道を歩いて居れば、必ず来ると思うたからの」

「どういう意味よ……」

「街に貴様らに居座られておると、「土姫」ミカエラを直ぐに再封印されかねんのでな。貴様らが此方へ近づく頃合いを見計らって呼び覚ましたのじゃ」

「じゃあ、この目の前の子は……」

「先ほど自ら名乗ったであろう。こやつは水晶五姫・「土姫」ミカエラじゃ」


 水晶の足元の魔法陣が光りだし、回転を始めますと。


「後はミカエラから聞くが良い。まぁ、呼び覚ましたばかりで大した事は知らせておらぬがな」


 そう言いますと、水晶は魔方陣に吸い込まれるように消えていきました。



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