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私という存在

「あの……御免なさい」


 ミツキさんとイグニシアさんが利用している宿の借部屋へと連れられた私は、二つあるベッドの片方に座るよう促されると、申し訳ない気持ちで二人に謝ります。請けていたモンスター掃討依頼で私が街道に大きな穴を開けた事で、二人がギルド職員から怒られてしまったからです。


「依頼の事でしたら、いいのですよ? 本来の目的通り、ミズキちゃんの能力を知る事が出来ましたから。それにちゃんと依頼内容は達成していますので、報酬もしっかり頂いています」

「ん、ミズキは悪くない」

「はい……」


 自分の力がどのような物か解らない中、初めての戦闘を経験した私は、直ぐそこまでワイルドウルフが迫っていた危機感もあり、形振り構わず力を展開してしまった訳ですけれど。

 私にあのような力があるなんて思いもしませんでした。


「それより、ミズキ服似合ってる。可愛い」


 一人で悩んでいますと、私の隣に座っているイグニシアさんが衣装を褒めてくれました。今着ている服は二人からの頂き物で、私の宝物です。この服が生まれて初めての私物なのです。


「あの、有難うございます」


 両手を頬に当てながら俯く私。恥ずかしくて、でも褒められると嬉しくて。自分の顔が赤くなっていくのが解ります。

 そんな私を唐突に抱きしめながら頭をなでくり回すイグニシアさん。


「かわいい、かわいい」

「あ、あう」

「こうして見ていますと、年相応の女の子同士がじゃれ合っているようで、とても微笑ましいですね?」


 くすくすと笑いながら私とイグニシアさんを見てご満悦なミツキさん。

 私も負けじと二人の可愛さをアピールです。


「お二人の服も似合っていますよ。ミツキさんは大変綺麗ですし、イグニシアさんはとっても可愛いです」

「ん、ミズキに褒められた」

「とても嬉しいのですが、私は制服ですので、少し微妙な気持ちですね」


 服装の種類や特徴についてはミツキさんが洋服店で教えてくれましたけれど、制服という言葉は初めて聞きます。

 ミツキさんは胸にリボンが施された紺色の長袖と膝上のプリーツスカートで、白くて長い靴下を履いています。なんと言いますか、凛々しさと清潔感を感じさせる服装ですね。そして腰に刀を帯刀していますが、今は壁に立て掛けています。


 イグニシアさんは、紫と白のデコルテ風のワンピースとティアードスカートを合わせたような服で、肩には魔術師のマントを羽織っています。その服に赤い長い髪と眠そうにしている目が合わさり、とにかく愛らしい印象です。


 そして私が着ている服は、二人に色々と着せて頂いた結果、白を基調とした魔術師風のドレスワンピになりました。私もイグニシアさんと同じく、肩にマントを羽織っています。そして、靴下と下着の上下セットも数枚ずつ頂きました。


挿絵(By みてみん)


「ミズキ」

「はい?」

「私より胸が大きい、不平等」

「え? あの、イグニシアさんと大して変わらないと思いますけれど……」

「ミズキちゃん、それは少々フォローになっていませんよ?」

「ミズキ、酷い」

「え……あの、御免なさい」


 イグニシアさんは私と背丈がほぼ同じ位の女の子ですけれど、胸は少々私の方が膨らんでいるようです。


「解らないのですが、胸の大きさって重要な事なのですか……?」

「解らないなら、体に解らせる」

「きゃ!?」


 突然イグニシアさんから抗議の抱きつき攻撃を受け、されるがままの私でした……。

 

「ミズキ、とっても柔らかい」

「あのぅ、そろそろやめて欲しいです……」

「イグニシアちゃん、その辺にしてあげて下さい。二人のじゃれ合いは見ていて飽きませんが、そろそろミズキちゃんについて一つ、お話をしなければなりませんからね?」

「ん、解った」


 ミツキさんがもう一つのベッドに座ると、身を正して此方をじっと見つめます。

 何のお話なのかを直ぐに理解した私は、膝に手を置いてミツキさんを見つめ返しました。


「イグニシアちゃんが貴女の事を人間では無い、と言ったのを覚えていますね?」

「はい、言われた際は少々悲しい気持ちでした」

「ミズキ……ごめん」


 イグニシアさんが私の腕に手を回してきます。私は「もう気にしていませんよ」、と彼女の頭をなでてあげました。


「落ち着いて聞いてくださいね。貴女は、「国家指定級」と呼ばれる三大モンスターの内の一人と、種が同じのようです」

「え……?」


 イグニシアさんの頭をなでていた私の手が止まります。


「私、モンスターなんですか……?」

「厳密には違います。貴女もその国家指定級も、人となんら変わりませんよ」

「そ、そうですか……よかった」


 とっても安心しました。

 私がモンスターでしたら、きっと生きていく自信も心の余裕も無かったでしょう。


「貴女の隣にいるイグニシアちゃんを見てどう思いますか?」


 今の流れとどういう関係があるのかは解りませんけれど、そんな質問をされました。


「とても可愛らしい女の子だと思いますけれど」

「そうですよね? 私もそう思います」


 隣に目を向けますと、私の腕に頬を当てて、ほんの少しスリスリしているイグニシアさんがいます。


「イグニシアちゃんも、実の所人間では無いのです」

「え!?」


 もう一度イグニシアさんを見ますが、どうみても人間の子供です。


「元はどうあれ、ミズキちゃんもイグニシアちゃんも普通に人として生きていけます。安心して下さいね?」

「はい」


 その後数回咳をした後「ただし」と付け加えて。


「恐らくですが、ミズキちゃんが展開した能力は、今後も使い続けているといずれ血が枯渇する物と私は思っています。古代血術(エンシェントブラッド)を継続して展開する場合は、定期的に血を補充しなければならないでしょう」

「血……ですか」


 言われてようやく、そうしなければならない気がしてきました。いえ、私の中にはもう知識として備わっているようです。忘れていた記憶を思い出したかのように、古代血術(エンシェントブラッド)を展開する為には血が必要である事、「その行為」についての内容が頭の中に浮かんできました。

 普段の生活をする上では特に血は必要無いようですので、なんらかの力を展開する場合のみ血を消費するみたいです。


「この世界には吸血鬼というモンスターは存在しませんが、血を吸うという点は同じですね。折角ですから、吸血「姫」を自称しても良いのではないでしょうか。吸血姫ミズキちゃん?」

「姫だなんて、恥ずかしいです……」


 顔を赤くして俯く私でした。


「それともう一つ。ミズキちゃんには膨大な魔力があると伝えてありますね?」

「はい、聞いています」

「その魔力で何らかの強大な魔法を展開出来る筈なのですが、ミズキちゃんは解りますか?」

「いいえ……古代血術(エンシェントブラッド)以外については解りません」

「そうですか。ともあれ、桁外れの魔力を持つ事に違いはありませんので、何れ展開出来るようになるでしょう。先ずは試しに、初歩魔法を覚えてみるのもいいかもしれませんね?」

「はい」


 実の所、魔法に関しましては何か思い出せそうで思い出せない感覚があります。まるで頭の中の引き出しが閉められているような、そんな感覚ですね。


「ミツキ、お腹すいた」


 隣のイグニシアさんが私の腕に擦り寄りながら、可愛らしい声で食事を催促しています。


「もうそんな時間ですか、イグニシアちゃんの腹時計は正確ですね? それではお話はこの辺にして、「このメル」はミズキちゃんがパーティーに加わったお祝いとして、少し豪華なお料理を頼みましょうか」

「ん、賛成」

「え、あの。私、パーティーに入れて頂けるんですか?」

「まだ他人のつもりでいたのですか?」

「ミズキ、酷い」

「え、え、あの御免なさい」


 ギルドの必須事項等を読んだ際にパーティーの意味は理解しています。

 仲間と認めた証、一緒に生きていくと決めた者の集まりである、と。


「そうですね……では改めてミズキちゃん。これから私達と一緒に旅をしてくれませんか?」


 手を差し伸べてミツキさんが言いました。


 私はこの世界に生れ落ちてから、未だに一人では何も出来ないでいます。裏路地で二人に出会っていなければ、恐らく生きていく事をその時点で諦めていたかもしれません。このような私では、一人で親を探す事も到底出来ないでしょう。

 

 私は今後生きていく上で、沢山の経験が必要だと思っています。この二人と一緒なら、きっと沢山の知らない世界を知っていけると思いますし、様々な知識を得られます。それに、何よりもこの二人には御恩があります。旅をしていく上で、少しずつでも感謝の気持ちをお返ししたいです。


 ですので。

 私は遠慮しがちに、けれど固い決意でミツキさんの手を取りました。


「あの、どうか私を二人のパーティーに入れて下さい」

「勿論ですよ、ミズキちゃん。これから宜しくお願いしますね?」

「ミズキが仲間、嬉しい」

「はい!」


 この世に生まれたばかりで、早くも大事な仲間が出来ました。私は幸せ者ですね。


「では、意気投合した所で食事にしましょうか」

「あ、少しだけ待って下さいね」


 ミツキさんに一旦待って貰った私は、頂いた下着等をまとめて手に待ちます。そして、頭の中に浮かんできた能力を展開させました。


血術空間(ブラッドスペース)


 空中に黒い影が現れ、そこに持っていた下着等を放り込みます。

 この能力は何処でも出し入れ可能な引き出しのような物、と言えばいいのでしょうか。とても便利な能力です。


「ミズキちゃんも収納系統が使えるのですね? 私には出来ない事ですので、とても羨ましいです」


 ミツキさんから感心のお言葉を頂いてしまって、照れてしまいます。


「私も使える」


 ふふん、と言った感じに両手を腰に当て、ほんのり膨らんでいる胸を張っているイグニシアさん。


「私の私物はいつもイグニシアちゃんが持ってくれていますので、大変助かっています。女性は何かと物入りが多いですものね?」

「そうなのですか」

「ん、女の子は大変」


 ようやく下着を閉まっただけの私は何も持っていないに等しいのですけれど、今後必要な物が増えていくのでしょうか。頂いた服だけで満ち足りた気持ちの私にはまだ解りません。


「ええ、大変ですよ? 新しい街に着いたら先ずは武器屋で刀を扱っていないかチェックして、良さそうな業物があれば、その度にコレクションが増えていきますので」

「……」


 頬に手を当てながら、もじもじしているミツキさん。

 それは、女の子とは関係無い気がするのですけど、気のせいでしょうか……?


「ミツキが言ってた、これが女子力だって」

「……」


 女子力という言葉はよく解りませんけど、絶対に違うと思います。


 その後二人に連れられて宿の一階へと下りた私は、生まれて初めての食事として、大きなお肉を一切れとパン、そして野菜が沢山入ったスープを頂きました。

 他にも色々ありましたけれど、私はそれだけでお腹が一杯になってしまいました。美味しい料理を多能した私は、しっかりとミツキさんにお礼を述べる事も忘れません。

 隣の席ではとても凄い勢いでイグニシアさんが食事をしていて、他の宿の利用者の皆さんから注目を受けていました。


 食事が終わり、三人で浴室へと移動しますと。

 浴室内に宝石が取り付けられた小部屋があるので不思議に思っていた所、この宝石に魔力を込めるとお湯が出て、シャワーと言う物を浴びられる、とミツキさんが教えてくれました。最初に私が浴びて良いと言われましたので、教わった通りに魔力を流し込みます。


 すると直ぐにお湯が頭上から溢れ、体を潤してくれます。とても気持ちが良いので、直ぐにシャワーが好きになってしまいました。この不思議なお湯の出る宝石については追々、ミツキさんが教えて下さるそうです。


 部屋に戻ると、私はイグニシアさんと一緒のベッドに入るよう促されます。嬉しそうにしているイグニシアさんと一緒に寝ますと、彼女は直ぐに私に抱き着いてきました。

 少々固いベッドですけれど、とても暖かくて幸せな気持ちを感じます。

 ただイグニシアさんが私の胸に顔を埋めてきますので、ちょっと寝苦しかったです……。


 このような形で。

 私が生まれて最初の「メル」はイグニシアさんの温もりと共に過ぎていきました。


この世界の日の表し方と通貨です。


1メル=一日

1メルダ=一週間

1クオル=ひと月

1クオルダ=一年


一ヶ月の長さは25日区切り


一月~四月「天球上弦」

五月~八月「天球中弦」

九月~十二月「天球下弦」


月の言い表し方は、例として一月に相当する月の場合「天球上弦一のクオル」となります。

十二月に相当する月の場合は、「天球下弦四のクオル」となります。


銅貨100枚で1銀貨相当

銀貨100枚で1金貨相当

金貨100枚で1大金貨相当

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