新たな気持ちで
「ふぁ~……ふ」
久しぶりに楽しんだ休息明けの朝。ベットから身を起こし、眠い眼をこすりながら自室を見回す私。内装は普段通りに戻ってはおりますが、まだ夜会の余韻が残っている印象を受けます。女子会と言う名の私のお部屋占拠会となった夜会は二夜続き、ほぼ全員と大変賑やかな茶会をここで楽しみました。
その夜会で正式にサスターシャさんとファラさんを皆様に紹介し、合わせて楓さんやアルストラさんとも今後ご協力のご関係を築いていく旨の示し合わせを行いました。アルストラさんだけは所謂ツンデレさんのような形で「今だけは仕方なく、貴女達の世界に手を貸してあげます」と仰り、一応一時的な物となっております。
プイっとそっぽを向きながら仰るアルストラさんの姿が皆様の心を捕えてしまい、その後は私のドレスを着せ替えさせらたりしつつ大変な目に合っておりました。ええ、私のドレスではアルストラさんのお胸のサイズが合いませんので、その光景を虚ろな目で見ておりましたよ。別にうらやましくなんかありませんけれど。ありませんけれど!
「……」
ともあれ。一時は理解し合う事は難しいとも思えた方とも談笑の輪を囲んだ光景は、私が目指した形の一つでもあります。その光景がいつまでも続く様に、いま起きている異界騒動に決着を付けねばなりません。
「ん~……」
ベッドの中がもぞもぞと動き、私と同じようにあくびをしながら起き上がる少女が一人。貴賓のファラさんです。
「もー朝~……?」
「ええ、おはようございますファラさん」
昨晩、夜会中に一番早くおねむとなったファラさんを私のベッドで寝かせておりました。解散後も気持ちよさそうに眠っておりましたので、起こすのも忍びなく、そのまま私も一緒に眠っていたのです。
「ねむぅ~……」
「ふふ、朝は苦手の様ですね」
「うん~……」
見た目が幼さを感じる方ですので、朝からちょっとした癒しを賜りました。この様な見た目でもファラさんは魔族の取り纏め役で、この世界の現母とも言える立場の方ですけれど、持参した寝間着の可愛らしさも相まって、全くその様な威厳を感じないのはご愛敬です。
「ファラさん、朝食はここで食べて行かれますよね?」
「うん、このお城の食事はこの世界の中でも飛びぬけ美味しいからねー。食べない理由が無いよ。例え忙しくてもね」
ファラさんはまだ眠そうにしながらベッドを抜けて「ここのベッド使ってごめんね」と仰りつつペコリと頭を下げておりますので、慌てて「滅相もありませんよ」と返す私。
「むしろ眠るファラさんを肴に盛り上がっておりましたし……」
「うん?」
「何でもありませんよ?」
いそいそと私もベットを抜けて着替えを始めますと「それじゃあ私も着替えに戻るね」と貴賓室に戻って行かれるファラさんに「ええ、それでは会食の間で」と告げました。
「さて……今日からまた忙しくなりますね」
ドレッサーに座り、鏡に映る自分を見ながら髪をとかしつつ、今後に向けて身の振り方を考える私。一番優先しなければならないのは、魔族の地にある廃棄処理場の死守です。この場所は現状最も危険な場所となってしまっており、心臓をむき出しで晒されている状態にあると言えます。
この世界で最大の魔力の源泉である廃棄処理場。心臓とも言えるをこの場所を一度でも突かれれば、この世界はそれだけで無くなってしまいます。
「ゼスさんは欠陥世界だと言っておりましたが、確かにそうなのかもしれません……」
この世界の弱みが魔族の地であったのはある意味幸いでしたでしょう。もし地上にあった場合、天変地異や争いの中で破壊されていたかもしれませんし、何らかの方法で知識を得た方に悪用されていた可能性もあります。魔力の源泉自体は地上に無数に存在しておりますけれど、これらが致命傷とならない点も一先ずは幸いの一つ、かもしれませんね。
因みに、過去幾人かは魔族の地に気づいた方がいたかもしれませんけれど、空に浮かぶ大地に辿り着く手段は限られた方しか実現出来ておりませんので、悪用は不可能でしたでしょうね。実際今こうしてこの世界は存続しておりますし。唯一、天空城を有していたユイシィスさんだけが万が一に当たる方でしたけれど、私達が計画を阻んだ事で危機は回避されています。
「思えば、天翼人も異界からの来訪者でしたね」
この世界の危機はほぼ他世界が絡んでいる様に感じます。もしかしますと、この世界は別の世界との接点を持ちやすい場所なのかもしれません。そう言えば、狭間のお姉さんと初めて出会った時、こう言っておりました。この場所は交差点の様な物、と。
今ならその意味が解る気がします。この世界はつまる所、別の世界から干渉しやすく目に留まりやすい中心点の様な物では無いでしょうか。どの世界からもこの世界は見えている、言わば干渉が交差する地点。
「その様な場所が大きな弱点を抱えていると言うのは、何ともままならない物ですね……」
ですが、そのせいでしょうか。この世界に大変な強者が集っているのは。これが偶然なのかどうかは解りませんけれど、私が見るこの世界は決して弱いままではありません。どの様な火の粉であろうと振り払えるだけの力があります。
強者達と手を取り合えれば、今後もこの世界は生きて行ける筈です。その為には。
「やはりお友達作りは大事だと思うのです」
「何だか独り言多くなってますねミズキ」
「ひゃう!?」
突然後ろから声をかけられて振り向きますと、私の真後ろでしゃがみ込んでいるミズファ母様がいらっしゃいました。物音立てずに影から現れ、そのまま潜んでいたのでしょう。
「母様のえっち」
「え、なんでですか!?」
「私、身嗜みを整えている所ですもの」
「そんな、僕可愛い娘の髪をとかしに来ただけなんですけど……」
「もう梳かし終えました」
「みたいですね……。ってなんで機嫌悪そうなんですか!」
「言わないとご理解頂けませんか? 普通に入り口から入室なさって下さい」
「あ、はい……」
怯えた子猫の様に項垂れるミズファ母様の姿を見て頭をなでそうになりましたけれど、我慢しました。示しがつきませんので。
「ミズキーおるかーー!」
「きゃあ!?」
バァンと入口の扉を豪快に開け放たれびっくりする私。目を丸くして見ておりますと、まるで自分のお部屋の様に振舞うシャウラ母様が入室して参りました。
「何じゃ、ミズファもおったのか」
「前言撤回します」
「ぬ?」
「例え入り口からでも、許可無く入室する事を禁止します」
「急に何を言っておる!?」
早朝から早々になんなのでしょうこの母様方は。いくら私が娘だからと言っても、歳頃なのですよ。デリカシーに欠けるのです。まぁ歳取りませんけれど。
と、憤りを感じておりますと。床に赤い魔法陣が出現しました。そして魔法陣の中心から一人の少女が姿を現しますと「ミズキ、起きているかしら?」等と仰っております。プリシラ母様です。お部屋の隅に現れましたので、気配を消して近づく事を前提としている事は明白でした。
「あら、ミズファにシャウラも居たのね」
「言った傍からプリシラ母様もですか……」
「え?」
「三人とも座って下さい。お説教です」
「え? ど、どうしたのミズキ?」
「プリシラ、何だかミズキの機嫌が悪いみたいなんです……」
「誰のせいですか!」
折角清々しい気持ちで身嗜みを整えておりましたのに、母様が揃いも揃って何なんですか、全くもう……。
「これは……あれじゃ、反抗期とか言うやつじゃな!?」
「な……何ですって!?」
「いやーそろそろかなーとは僕も思ってたんですけど、とうとう来ましたかー」
「…………」
その後、メイドさんが呼びに来るまで私のお説教は続きました。強者だからと言って、何をしても良い訳ではありませんので!




