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水晶の行方

「クリスティアさん、もう少し詳しく話して下さい」


 エステルさんが困惑気味のクリスティアさんへそう言いますと「御免なさい、そうね。皆には見えないのだもの」と、言いつつ目を開き。


「私が見えた水晶の姿は、18歳前後の女性の姿。青い長い髪とスリットが深めの紅いドレスを着ているわ。この南方聖都と北方聖都の丁度中央の街へと歩いて移動しているみたい」


 クリスティアさんの説明に対して少しだけ考える素振りをした後、エステルさんが「あの街ですか……」と何やら理解した様子です。


「その街は恐らく「中央都ミカエラ」ですね。この国の丁度中心に位置していて、行商が大変盛んな街です。街から四方へ街道が通っていて、各四大聖都へと向かう際に多くの人々が立ち寄る場所ですので、エウラスで一番人口が多い街でしょう」


 北方聖都エウラスへと向かう際にもう一つ街に立ち寄る事になると聞いておりましたけれども、その街が「中央都ミカエラ」なのでしょう。


「ん、なんで真ん中の街に移動してる? 何か悪さをするならエウラスの方が理に適ってる」

「解らないわ。上空から見下ろす形で水晶が見えるのだけど、何をしようとしているのか、どんな表情かまでは解らないわね……」


 イグニシアさんが疑問に感じている水晶の動きは、私にとっても不思議な事です。今の水晶であれば、エウラスの心臓が何処にあるのか程度は直ぐに解ると思うのですけれど……。或いは単純に人の多い場所を目指しているのでしょうか。


「何か理由があるにせよ、こちら側に近づいて来てくれて助かりますね。このまま追いかけっこになる前に、中央都ミカエラで水晶を止めましょう」

「みかえらなら、わたしもいく! その場所ならおしごとに大きなえーきょーないからー」

「ん、いい加減水晶に振り回されるのも飽きた。ここで仕留める」


 三人がそれぞれ意気込みますと、クリスティアさんが「そうね、さっさと水晶の奴を壊すなり封印するなりして、これから楽しいメルを過ごしてやるんだから!」と、今後の人生を満喫する為の障害排除に燃えています。


「では、今から直ぐに皆で「中央都ミカエラ」に?」

「ええ、早急に馬車を南方の巫女に用意して頂きましょう。火急の要件だと伝えれば快く承諾してくれる筈です」


 私の問いにエステルさんがそう答えますと、どうやらミカエラまでは馬車で移動出来るようです。正直、まだ少し馬車での移動は遠慮したい所ですけれども、そんな事を言っている場合ではありません。エウラス国内の街道はとても良く整備されているようですので、シャイアの街道よりは揺れたりしなさそうなのが幸いでした。


 ---------


「エステルさん「中央都ミカエラ」までは馬車でどの程度かかるのですか?」

「んーそうですね、馬車の速さで大体二、三メル程度あれば着くと思います」


 南方聖都を北門から出た私達は、この国の中心にあるミカエラの街へと馬車に乗って向かっています。馬車を借りる口実については、奴隷売買を行う闇商が「中央都ミカエラ」に出入りしているとの情報を入手した為、「アクアリース」へと流れる前に捕まえて置きたいと南方の巫女さんへ願い出た所、快く馬車を用意して下さいました。


 南方の巫女さんはとっても可愛らしい方で、見た目は長い紫色の髪の10歳前後の少女でした。まだ成人されていないにも関わらず、四大聖都を治めているなんて……。私も負けていられませんとこの時、ちょっぴり対抗心気味に思いました。


「ん、クリスティア。水晶に何か動きはある?」

「……まだ街道を移動している所ね。位置的には北方聖都の方が近い筈なのに、何故かこちら側に移動しているから、この分なら私達の方が先に「中央都ミカエラ」に着くと思うわ」


 イグニシアさんの質問に、目を瞑ったまま答えるクリスティテアさん。水晶は首都であるエウラスを無視して、ミカエラで何をするつもりなのでしょうか。人間を殺すという目的があるのは十分理解していますけれど、それならば近場を無視して他所へ移動する必要性があるでしょうか?


 まさか、エウラスが既に襲われた後、なんて事無いですよね?


「クリスティアさん、首都であるエウラスは無事なのですか?」


 不安に思いましたので確認の為クリスティアさんに質問をする私。エウラスを襲ったなら、流石にクリスティアさんも気づく筈ですので大丈夫だとは思いますけれども。


「ええ、心配ないわ。水晶が動き出した場所から北方聖都が見えていたけれど、何の問題も無かったわよ。そもそも、水晶の奴が何かしようとしてるなら、直ぐに私が気付くから」

「良かった……。けれど、そんなにエウラスに近い場所に居たのにわざわざミカエラに向かうなんて、何がしたいのでしょう」

「水晶の目的は人間を殺す事。それ以外に理由があるとしても、近くの街を無視する理由が思いつかないわね……。私と同化中だったあいつなら、間違いなく北方聖都から襲っていた筈よ」


 少しの間水晶と同化ていたクリスティアさんでさえ、ミカエラへと向かう水晶の動きに不可解さを感じている様子です。


「ねーねー、すいしょーからまりょくかんじないけど、その代わりへん力をかんじてきもちわるいー」


 私の隣で、思いの外淑やかに座っているアビスさんも、北側から感じる水晶の不気味な力の不可解さに気づいていたようです。まだ結構水晶とは距離がある筈ですけれど、アビスさんは察知能力が非常に高いようです。


「ん、私にはまだ何も感じないけど、不気味な力はシャイアで感じたから知ってる。私ですら、背筋が凍るような気持ち悪さだった」

「ええ、水晶の力を目の当たりにした際は、生きた心地がしませんでしたね」


 イグニシアさんとエステルさんが滅入ったように言います。私は花畑のダンジョンで初めて水晶の不気味な力を感じましたけれど、「古代魔法具」を展開した時は、それだけで人が殺せそうな程の力を放っていたのです。存在その物が不可解の塊で、扱う力も理解しがたい物ばかり。


 そんな水晶への対抗策として。今の私は魔法を会得しています。少し妙な事をされた程度では脅威にはならないでしょう。まだまだ戦闘経験は少ないですけれど、私の力は余り動き回る必要の無い範囲系能力ですので、それ程問題にはなりません。


 古代血術(エンシェントブラッド)と水魔法を操る事が出来るようになった私は、だんだん深まっていく自信の中に、破壊衝動のような気持ちが芽生え始めているのを感じていますが、これは持って生まれた吸血する存在としての特性のようです。


 私思うのですけど。私と同じ存在だと言われる「プリシラ」さんという方は、恐らく……この破壊衝動に身を任せた結果、人々に国家指定級と呼ばれるようになったのではないでしょうか。


 私はしません、そんな事絶対に。この世界が大好きで、私と仲良くして下さる皆さんが大好きです。きっと、プリシラさんも後に気付いたのでしょう、自分が行った過ちに。今はイグニシアさんやアビスさんのように、人々と寄り添って過ごしているようですし。それにアビスさんも言っていました、プリシラさんはとても良い人だって。


 あれ、そう言えば。この場合、プリシラさんは私のお姉さんにあたるのでしょうか? わぁ、そうだったら私どうしましょう。この世界には私の親がいる筈ですが、お姉さんまで居るなんて幸せすぎます。あぁ、会いたいです。


「ミズキ、さっきから私を見ながら顔がにやけてるわよ」

「ふぇ!?」

「何を想像していたのよ、恥ずかしいじゃない……」

「ち、違います!」


 赤面しつつもじもじしているクリスティアさんに、異議を申し立てる私。だって本当に違いますもの! まぁ、私の正面にクリスティアさんが座っている形ですから、そう見えても仕方ないですし状況的に少々気が緩み過ぎかもしれませんけれども。


 私にだって今後生きていく上でしたい事とか沢山あるんですもの。ちょっとくらい妄想に耽っても罰は当たらないと思うのです。多分……。


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