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サスターシャの記憶

「……」


 雪が降る見慣れない街の夜。綺麗な星細工で装飾された街灯が並ぶ大通りから、楽しそうな声がここまで聞こえてくる。それ程高くない時計塔の上から大通りを眺めていると、行きかう人々が星降りの夜と言われるお祭りを楽しんでいる様子が見える。私は何をするでもなく、お祭りを楽しむ人々をただ静かに此処から見つめていた。


「……寒い」


 両手に白い息を吐いて温める。雪が降っているだけにとても寒い。決して薄着では無いけれど、もう一枚羽織る物が無いと夜の寒さに耐えられそうにない。日が出ている内は何とか耐えられたんだけど。


「……」


 私は何をしているのだろう。自分が何なのかさえ解らない。お祭りで賑わうこの街の近くにある大きな木の下で目覚めた私は、自分が置かれている状況をさっぱり把握出来ていない。


 何故木の下に居たのか、そこで私は何をしていたのか、そもそも此処はどこなのだろうと次々に疑問が湧いてくるけれど、結局何一つ解決も理解もできなかった私は、近くにあったこの街の中へと入り、彷徨い歩いた末、夕暮れと共にこの無人の時計塔にたどり着いた。


 木製の階段を上り、三階の窓から街を見回してみると、人々が慌ただしく何かの準備をしていた。通りに並ぶお店は星の形をした可愛らしい細工品を店先に沢山飾り付けている。街灯にも点滅する星の飾りが装飾されて、暗くなるにつれて煌びやかな街並みへと変化していった。


 街の中を歩いている間、すれ違う人々の会話を聞いていた私は、これが星降りの夜と呼ばれるお祭りの準備なのだとようやく理解する。空一杯に流星が流れる夜を祝うらしいけれど、良く解らない。


 夜になるにつれて雪が降り始め、大通りに人が増えていく。何故か気持ちが高揚した私はずっと時計塔の上から賑わう街並みを眺め、現在に至るのだけど……。


「……寒い。お腹、すいた」


 寒さと空腹で今にも倒れそう。多分、この寒さの中で意識を失ったら二度と目が覚めないかもしれない。覚めたとしても、体が大変な事になってる気がする。


 そんな事を考えながら、どうしようかと悩んでいると……。突然夜空がまばゆい光を放ち始めた。


「……なに?」


 夜空を見上げると、沢山の星が空一杯に流れていた。手を伸ばせば届きそうなくらいに近くを流れる星の光は昼のごとく周囲を照らす。街の煌びやかさすらも色褪せてしまう程に流星は明るく、綺麗だった。


「……星降り、の夜」


 確かに名の通りの夜だった。こんな素晴らしい夜空を見れるのなら、祝う気持ちになるのも当然かもしれない。


 流星は暫く続いた。私は空腹と寒さも忘れ、夢中になって夜空を見上げていた。それこそ、自分が何者なのかとか、考えなければいけない事すらも忘れて。とは言っても、かじかんだ手は流石に無視出来ず、程無くして一旦二階に降りて寒さを凌ごうかな、と窓際から離れようとした私は……何故か空に違和感を覚えた。


「……?」


 流れる星の中を見つめていると、何か別の光が見えた。その光は少しずつ少しずつ此方に近づいている気がする。


「……違う。間違いなく何か、近づいて、来てる」


 その光は近づくにつれ、凄まじい速度で振って来ている事に気づいた……けれど。もう遅かった。


「……街、が……」


 その光が街の中に振り落ちた瞬間、時計塔から見えていた大通りが消滅した。光は二度、三度と降り注ぎ、その度に街が無くなっていく。


「……ここに居たら、危険」


 直ぐに逃げなければと時計塔を出たけれど、私はその場で立ち止まった。明らかにこの街の人々とは違う格好の男の人が二人、私に気づいて近づいてくる。何か武器らしき物を手に持って。


「おい、見ろよあの女」

「お、めちゃくちゃ可愛いじゃん」

「どうするよ、雇い主からは皆殺しにしろってお達し受けてっけど」

「馬鹿かお前、最終的にこの街を消せればそれで良いんだよ。住民の一人や二人、生け捕った所でなんの問題にもならん」

「……だよな。じゃあ、あの女とっ掴まえて船に連れ帰るか」

「ああ、今夜は楽しめそうだ」


 二人組の男の人達が私に近づいてくる。身の危険を感じた私は逃げようと周囲を見回すけれど、直ぐ近くから人々の悲鳴が聞こえてくる。逃げ場は無さそうだった。


「……」

「よしよし、そのまま大人しくしていれば何もしないぜ」

「今は、だけどな」


 薄汚い笑みを零しながら笑う二人の男の人。逃げても、此処に留まっても身の危険を感じる私はどうすべきかと決めあぐねていると。


「おいテメェら」


 二人の男の人の後ろから。また別の男の人の声が聞こえた。


「こ、この声はゼ、ゼス様!?」

「な、何でこんな所に……」


 ゼス、と呼ばれた男の人を見た二人組の男の人が急に怯え始めた。二人組の男の人達よりも偉い人の様だけど……。ゼスと呼ばれる男の人を見た瞬間、まるで鋭い刃物が近づいてくる様な異質な雰囲気を感じた。


「何だテメェら、ここに俺が居たらワリィのか?」

「い、いえそんな事は!」

「ゼス様は確か、南東の街の視察に向かわれていた筈ですが……」

「そんなモンはとっくに片付けた。つーかよ、俺はその女に用事があんだよ。邪魔だから他行けや」

「え、しかしこの女は……」

「あ? 聞こえなかったか?」

「あ、いえ、解りました!」


 逃げる様に二人組の男の人達が走って行った。代わりにゼスと呼ばれる男の人が私に近づいて来る。


「テメェが神器の一つ、万物聖典に書かれた四聖女の一人かぁ?」

「……せい、じょ?」

「何だ、自覚はねぇのか。チッ……実際に聖典を見てねぇから何とも言えねぇが、まぁ予言通りならどうでもいいか」

「……?」


 突然現れた上に、良く解らない事を言っているゼスと呼ばれる男の人。神器とか聖女とか、一体何の事だろう。


「良いか、良く聞け。テメェはこれから俺のモンだ。テメェに拒否権はねぇし聞いてもいねぇ」

「……え?」

「黙って俺についてこい」


 そう言って振り返り、何処かに向かって歩き出すゼスと呼ばれる男の人。まるで私がついて行くしか無いと解っているかの様に。実際、此処に居たら死ぬしか無いと思う。


 私は自分が何者なのか、何故ここに居るのか解らないまま。危険な予感は無くならないけれど、この人についていけば私自身の事が解るかもしれない。


 --------


「成程……」


 サスターシャさんの糸が私に触れた時、ゼスさんとサスターシャさんの出会いが私の頭の中に流れ込んで来ました。サスターシャさんの境遇が何処となく私と似ている気がします。


 ゼスさんと出会ったその後の経緯も大よそ知る事が出来ましたが、所々記憶の合間に欠けた様に抜け落ちた部分がありましたけれどこれって……。それに聖典や四聖女についても気になりますが、現状ではどの様な物なのか解りません。まぁ、それについては今はいいでしょう。


「さて、これは困りましたね」


 出会いの場面を経たゼスさんはその後、サスターシャさんを養っていた事は間違いない様です。その為、サスターシャさんにとって、ゼスさんが唯一の支えだったみたいです。


 大変複雑な心境ですけれど、ゼスさんがサスターシャさんを養っていたのは争いに利用する為だったのは間違いありません。ありませんが……この様な事実を知った今、私はどうすべきなのでしょうか。



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