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一夜の休息

 その後、会議はゼスさんの行方についてある程度の目星を付けた所で早々に切り上げとなりました。と言いますのも、戦い続きで皆様の疲労も大分溜まっていらっしゃるからです。特に帝国の皆様には無理はさせられません。


 会議後、各地に出向いて下さっている高官の皆様と蝙蝠を介して連絡を取り、会議の結果と各方面で問題事は起きていない旨を周知し、今日はもう休む様にと伝えてあります。勿論、ゼスさんがこの機に乗じる可能性は十分ありますので、各国の騎士さんや帝国兵の方々に夜間の警戒をお願いしてあります。


 もし何かあれば、女神様の力で創り出した魔力の源泉と繋がっている鏡で私が直接赴きます。以前とは違い、帝国側の大陸に転移しても鏡は消えませんし、鏡の維持が枷となって他の事が出来ない等といった事は一切ありません。魔力で創り出している訳ではありませんからね。その分多少疲労は溜まりますけれど……。


「ふぅ。何だか久方ぶりの自室な気がします」


 私はその後、皆様と久しぶりにゆっくりとお風呂に浸かった後自室に戻っておりました。魔人種騒動が起きてからそれ程日にちは経っておりませんけれど、中々自室に戻る機会がとれなかった分、長期不在にしていた様な感覚があります。


「やっぱり、自室のベッドはさいこーなのです~」


 等と呟きながら、ばふっとベッドに飛び込む私。久しぶりのマイベッドは大変心地が良いのです。


「このまま直ぐに眠れそうです~……」

「……ここがミズキの部屋?」

「そうなのです~」

「……綺麗なお部屋。あととっても良い香りがする」

「いつもメイドさんがお掃除をしてくださるので~……。って……」


 ガバっと起き上がって周囲を見回します。今誰かが私と会話しました。いえ、私が返事しただけですけれども。


「……」

「……こんばんは」


 ベッドの脇にプリベイラさんが立っておりました。若干の驚きはありますが、気配を悟られぬように室内に侵入出来る方などプリベイラさんだけですし、特に悲鳴等はあげません。


「プリベイラさん、普通に扉から入って来て下さい……」

「……影通った方が早いから」

「いえ、早いとかそう言う事では無くて当然のマナーです……。無断で入室されますと、色々困りますし」

「……色々。ベッドにダイブしたりとか?」

「やっぱり見ていらしたんですか……」


 恥ずかしいので枕を手に取りえいっとプリベイラさんに投げますと。軽く受け止めて抱きしめていらっしゃいます。更に恥ずかしくなりました……。


「枕ちょっと柔らかすぎる。首痛くならない?」

「あ、あのそれより恥ずかしいので枕にスリスリしないでください!」

「……この枕は人質」

「もう、何しに来たんですか!」

「……遊びに。そろそろアリシエラ達も来る」

「え」


 プリベイラさんがそう仰った直後、お部屋をノックする音が響き渡りました。沢山の気配を扉の向こうに感じます。


「ミズキ、いらっしゃいますか?」

「……あ、は、はい!」


「直ぐに扉へ駆け寄り開けますと。アリシエラさんがにこにこ笑顔で立っていらっしゃいました。そしてその後ろにはエルノーラさんやターニアさん、ヤヨイさんや母様達にクリスティアさんまで……。紗雪さんはいらっしゃらない……と思いましたけれど、ディナー後に楓さんに会いに行ったんでした。まぁ、それは良いのです。良いのですが……。


「あの、もしかして、これは……」

「もしかしなくてもパジャマパーティーINミズキのお部屋に決まってます!」

「ミズファ母様……」


 凄く元気に右手を振り上げながらそう仰るミズファ母様にげんなり気味の私。私、もう眠りたかったのですけど……。


「久しぶりにゆっくりと女子会を楽しめそうじゃな」


 シャウラ母様の後ろから、メイドさんが沢山の茶器とデザートなどを乗せた手押し台車を押して、此方へと近づいていたりします。もはや断る事など不可能でした。


「……はぁ」

「元気ないですねミズキ」

「アリシエラさんはお疲れでは無いのですか?」

「この世界の皆様とお話が出来るとあっては、寝てなど居られませんから」

「別に今夜でなくても……」

「また明日から忙しくなりますでしょう?」

「う……」


 確かに明日からゼスさんの捜索と魔力の源泉の更なる強化、そして楓さんの護衛等で忙しくなります。こうして皆様と一緒にゆっくり出来る時間は、今夜を逃せば次は全てが解決した時になるでしょう。


「解りました、私もお付き合い致しましょう」

「そうこなくては」


 人数分の席がお部屋の中に運び込まれ、室内の中央にあるテーブルを皆様が囲いますと、メイドさんがテキパキとティーカップを並べていきます。ですが、その後特に紅茶は淹れず、デザートのケーキを並べ始めました。


「あれ、紅茶は淹れて下さらないのですか?」


 と私が疑問を口にしますと、ミズファ母様が「あれ僕達ミズキが淹れてくれるって聞いてるんですけど」とミズファ母様。どいういう意味なのでしょう?


「……ミズキ、なんで私が最初にこの部屋に来たかまだ解らない?」

「最初に……?」


 プリベイラさんが最初に来る理由……。私が淹れる……空のティーカツプ……。と考えを巡らせた所でようやく気付く私。


「す、すみませんようやく気付きました!」


 いそいそと血術空間(プラッドスペース)からアリシエラさんから頂いた紅茶缶を取り出しました。すっかり、この紅茶の事を忘れておりました……。母様達にも是非飲んで頂きたいとずっと思っておりましたのに。


「それが魔人種の世界で貰ったって言う紅茶なの?」

「はい、エルノーラさんも絶対にお気に召す筈ですよ」

「へー楽しみ!」


 メイドさんと共にティーポットに茶葉を淹れ、即席で紅茶を淹れました。この紅茶は特に美味しい淹れ方等をせずとも全く問題の無い茶葉なのです。現存する二缶の内の一つ、万人が美味しいと口を揃える魔法の紅茶ですからね。


「ミズキ、私紅茶にはうるさいって知ってるわよね?」

「はい、美味しいチーズケーキには美味しい紅茶が一番ですものね」


 クリスティアさんが私の紅茶の淹れ方を訝しんでいらっしゃいます。割とクリスティアさんも紅茶が好きな方ですので、少々雑な淹れ方をする私を避難なさるのも仕方のない事でしょう。


「そんな雑な淹れ方では折角の茶葉が駄目になってしまうわよ?」


 と、仰るクリスティアさんに「騙されたと思って一口飲んでみてくださいな」と返す私。一番最初にクリスティアさんのティーカップに紅茶を淹れました。


「……本当にこれで美味しいのかしら」

「魔人種の世界を代表して、私が味に責任を持ちます。どうぞ、召し上がってみてください」

「そこまで言うなら……」


 アリシエラさんの後押しで、クリスティアさんがティーカップを手に取り、口に添えました。


「……。…………っ。え……!?」


 二口、三口とクリスティアさんが紅茶を飲み干していきます。普段なら一気飲みなんてはしたない、と仰る筈ですが、もう夢中で口にしていらっしゃいますねこれは。


「美味しい……。いえ、美味し過ぎるわ。何なのこれ……」


 クリスティアさんの反応に満足いった私は母様から順に皆様のカップへ紅茶を注ぎ淹れていきます。そして、次々に響き渡る感嘆の声。


「なんですかこれ!? 僕、数百年紅茶を口にしてきましたけど、こんなに美味しい紅茶は初めてですよ!?」

「信じられないけれど、絶品ね。ミズキには悪いけれど、とても飲めたものでは無いと初めは思っていたのだけれど……とても美味しいわ」

「ふむ、我はそこまで紅茶は飲まんが、これは大変美味じゃな。一体どういう育て方をしたらこの様な茶葉が生まれるのじゃ?」


 ミズファ母様とプリシラ母様の好評に続きシャウラ母様が疑問を口にしましたけれど、これにはアリシエラさんが正直にお答えしました。以前私に教えて下さった様に、攻め滅ぼした先の世界で得た物だという事、残り二缶しか存在していない事などですね。


「成程、じゃあこれ飲み切ったらもうおかわり出来ないんですね……」


 とてもがっかりされるミズファ母様。私だってもう現存しないとお聞きした時は大変残念に思いました。ですが……まだ諦める訳には参りません。


「ミズファ母様、その事なのですけれど。この紅茶、どうにか再現出来ないでしょうか?」

「再現ですか~。んー……魔法具の力を使えばもしかしたら出来るかもしれないです」

「本当ですか!?」

「先ずはレイシアに相談してからになりますけどね。でも多分レイシアなら可能だって言ってくれますよ!」


 ミズファ母様の心強いお言葉に皆様大変大喜びです。勿論私もですけれど、一番嬉しそうなのはプリベイラさんです。まだ出会ってそれ程経って居ませんのに、ミズファ母様に後ろから抱き着いて頭に頬をスリスリしていらっしゃいます。


 いつでもこの紅茶を楽しめる可能性が出て来ましたけれど、今はおかわり一回だけ、と釘を刺しました。このまま放って置いたら朝までに缶の中が空になってそうですし、何より各地にいらっしゃる高官の皆様にも口にして頂きたいですからね。


 こうして、私の紅茶制限に非難轟々の女子会は次第に談笑へと変わり、眠くも楽しいパーティーは夜遅くまで続くのでした。


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