表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
321/468

中位の脅威と揺れるタチアナ

「紗雪さん、封印妖術でどうにかなりませんか!」


 中位の皆様を傷づけない方法をとっさに思いついた私は直ぐに紗雪さんに確認を取って見ましたが……。


「私とマトイならば万の大群も封印可能かもしれないが……」

「……流石に今の状態は無理。魔姫クラスの力を持っている奴が相手じゃ、封印する前に逃げられる」

「……そうですよね、相手の数は十や百どころではないですものね……」


 攻撃の意思を見せれば、直ぐに強大な力を伴った中位の皆様に取り囲まれてしまうでしょう。せめて、遠い所からこの地点を狙う事が出来ていたら別だったのですけれど……。既に敵陣の中に居る様な物ですし、アルストラさんを名乗るローブの人物が何をして来るかも解りません。


 こうしている間にも次々と大きな黒い鏡の中へと中位の皆様が通り抜けていきます。他に何か、無傷で済む良い方法は無いでしょうか……。


 状態異常による精神攻撃……一番の良さそうなのは睡眠でしょうか。異常効果を水神(アクエリア)の力で広場全域に巡らせれば中位の皆様全員を対象に出来ますが……。肝心の眠らせる方法を直ぐには構築出来そうにありません。


 少し時間さえ頂ければ可能だと思いますけれど、空気中の水分に睡眠効果を含ませる方法に手間取りそうなのです。せめて精神魔法に精通していたら少しは違ったのですか……。とは言え、もうこれしかありませんので、たらればを言っている場合ではありませんね。


「皆さん、少し時間をください。私が中位の皆様を眠らせます」

「いや……待てミズキ」


 直ぐに水神(アクエリア)の力で睡眠効果の構築に入ろうとした所、思いの外止められてしまいました。


「え、どうしました紗雪さん?」

「私達はこのままで良さそうだ」

「え?」


 焦る私とは逆に、紗雪さんの表情はとても嬉しそうです。それはまるで危機を好転した時の様な……。


「皆、あのローブの奴にだけ注意してくれ。中位達は無視していい」

「え、と紗雪さん? 急にどうしたのですか?」

「後で解るさ」

「後で……? あの、それで問題はないのですか?」

「あぁ、私達に任せておけ」


 今、紗雪さんが私達と言いました。恐らくここに居る皆様を指している言葉では無い様に思います。でしたら……。


「まさか、ミズファ母様達が?」

「まぁ、そう言う事だ」


 直ぐに私の顔が嬉しさで綻んでしまいました。窮地に陥った際はいつも母様が助けて下さいますので、少しだけ申し訳なく思いますけれども……ここは思い切り甘えちゃいます。今転移を始めたばかりの中位達に対してどう対処するのかは解りませんけれど、このままお任せして大丈夫そうですね。


「……何、中位達無視していいの?」

「あぁ。むしろ転移している中位達に余計な事をしないで居てくれた方が助かる」

「……それで良いなら助かるけど。ミズキ達の世界大丈夫かな」

「プリベイラ、ここは紗雪に甘えましょう。今はあのローブの者の真意を確かめる事が最優先です」

「……うん」


 アリシエラさんの言う通りですね。本来ならば中位の皆様よりもあのローブの人物の方がよっぽど危険であると言えますもの。とは言え故郷の世界の危機に直面していましたので、私としてはどっちも同じ位危険だと思ってますけれど。


「あのー……皆さん」


 小さめに挙手しつつ、不安げな表情で私達に語り掛けるタチアナさん。合間にローブの人物とアリシエラさんを交互に見つめています。


「どうしました?」

「私、此処に残っていて良いんでしょうか……」

「あ……! 成程、そうですよね。今のタチアナさんは板挟みになっているんですよね」

「はい……」


 タチアナさんからも他の中位の方々と同じ様に、非常に強力な強さを感じます。その為、このまま侵攻に加わらずに居ていい物かどうか思い悩んでいるのでしょう。


「あのローブの方がアルストラさんだとしますと、魔人種として命令を無視する訳には参りませんものね」

「私、どうすれば良いのでしょう?」


 タチアナさんとのお話の間、ふと空に浮かぶローブの人物に視線を向けますと、静かに此方を見ている様に思います。私達の動向を観察しているかのように。


「タチアナ」

「はい……きゃ!?」


 アリシエラさんが正面から包み込む様にタチアナさんを抱きしめました。それに合わせてタチアナさんのお顔が赤くなっていきます。


「あ、ああの、アリシエラ様?」

「貴女にはここに居て欲しい。例えあのローブの者が本当に原初の我が君(アルストラ)だったとしても、私の傍に居て欲しいのです」

「アリシエラ様……」


 侵攻には加担させまいとするかの様に、タチアナさんを抱きしめ続けるアリシエラさん。私が引き留めるつもりでしたけれど、タチアナさんと命を共有するアリシエラさんが一番適任ですよね。そんな二人にプリベイラさんも寄り添いますと。


「……タチアナ」

「は、はいプリベイラ様」


 プリベイラさんが眠そうな眼差しでジッとタチアナさんを見つめつつ、袖をクイクイと引っ張っています。


「……どうすれば良いのか、もう自分の中で結論出してるんでしょ?」

「え、と。その……」

「タチアナ、正直にお話なさい。例え貴女が侵攻に加わりたいと願っても、私は貴女を咎めるつもりはありません」

「アリシエラ様……」

「その代わり、貴女の気が変わるまでこうしてずっと抱きしめ続けますけどね」

「……っ」


 アリシエラさんでしたら本当にそうしそうですね。優しく説きながら、言葉通りずっとずっと抱きしめ続ると思います。そんな抱擁の中で「あの!」とタチアナさんが意を決した様に言います。


「私はもう、他の世界への侵攻なんて嫌です。出来るなら、皆様のお傍に居たいです。例え魔人種の父たる原初の我が君(アルストラ)様に背く事になっても……」


 その言葉と共に、リリィが「良く出来ました」とタチアナさんの頭をなでています。


「初めからそう言えば良いのですよ、タチアナ様」

「でも、私なんかが傍に居たいなんて……お邪魔じゃないかなって」


 そう言って俯くタチアナさん。初めて出会った際はどんな時も笑顔で前向きな方なのかなと思いましたけれども、自由に動けるようになった今のタチアナさんは様々な表情を見せて下さいます。タチアナさんも至って普通の女の子と変わらないのです。


「タチアナ」


 静観していた紗雪さんもタチアナさんの頬に手を当てて、微笑みました。


「さ、紗雪さん?」

「良い顔になった。今のお前は私達と何も変わらない普通の人間だ。そして、私の友達だ」


 その言葉が最後の一押しになったのでしょう。タチアナさんが泣きだしてしまいました。私達の中で誰よりも先にお友達となった紗雪さんとタチアナさんだからこそ、通じ合える事もあるのでしょう。


 初めから板挟みになんてなっていなかったのです。だれだって、良く解らない人の所よりもお友達の傍に居たいと願うのは当然の事ですもの。


 その良く解らない人、ローブの人物へと再び視線を送りますと。相変わらず私達の事をただ見ている様です。フードを深くかぶっている為、表情は確認できませんが……。


「大分、中位達が鏡を通り抜けていきましたね」


 リリィが広場の中央に設置された黒い鏡を見据えながら言います。私の展開する鏡よりも非常に大きく、一度に沢山の中位の方々が転移しています。あの黒い鏡も魔光機(マジックファクト)なのでしょうか。私ですら、水神(アクエリア)の力を得るまで転移人数拡大なんて出来ませんでしたのに。


 出来ない理由は消費魔力が大きく跳ね上がるからです。私としては、鏡を通り抜ける人数が一人ずつでもそれ程困る様な事はありませんでしたけれどもね。ただ、転移人数の拡大はこういった争いに用いる場合は大きく侵攻効率を上げる為、大変有用であると言えるでしょう。


「ローブの人物が先程侵攻の簡易化について触れていましたが、この黒い鏡がそうなのでしょう」

「……こんな物で強大な力を持つ兵を何万と転移させられたら、どんな世界だろうとあっという間に滅ぶだろう」


 紗雪さん、その後「例外を除いてな」と付け加えます。その例外とは……勿論私達の住む世界の事です。


「皆様、警戒して下さい。ローブが近づいてきます」


 リリィが私の前に立ちますと、丁度私達の上空にローブの人物が移動してきました。


「本当に何もせず待っているとは、随分と余裕だな? 魔姫達よ」


 表情こそ解りませんが、ローブの人物がそう言います。絶対的な優位を持っているかのように。だからこそ、確認しなければなりません。このローブの人物が本当に原初の我が君(アルストラ)さんなのかを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ