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目的は兎も角、旅は楽しいのです

 この旅の目的は、ミツキさんから受け継いだ「役目」の為、そして個人的な使命感で水晶を追う事ではありますけれども。


 何も常に気負っている必要は無い訳なのです。気を抜くときはちゃんと抜いて、旅は旅で楽しむ事が大事だとミツキさんから言われています。その言葉を盾に、私は全力で道中を楽しんでいます。言われていなくても、楽しむ事を我慢するなんて出来なかったと思いますけれどね……。


 街道を歩いておりますと、平原の湖でお喋りをしているらしき女性の冒険者さん達がいました。この国は平原を定期的に「特殊能力者」が国の命の下巡回しており、モンスターは一切出てきません。ですので、冒険者さんもこの国に来る大半は骨休めのようです。この国にあるダンジョンも手に負えない様子ですしね。


「向こうで女性の冒険者さん達が水遊びをしていますね」

「ええ、神都ではよく見かける光景ですよ。この流れる水は飲み水としても使えますし、水浴びも出来て大変便利ですから。まぁ、私達は大変高価なお湯の出る魔法具を所持していますけど」


 エステルさんの説明を聞きながら、街道から逸れた平原の上で楽しそうに戯れている女性達を見ていますと、一人が布を広げて街道からは見えないように隠しています。恐らくあの布の向こうで水浴びをするのでしょうね。


 ずっと先まで水が流れ落ちる風景が広がっている訳ですけれど、そんな綺麗な景色を見させられては居てもたっても居られません。流れ落ちる水に触れてみたくてわざと平原の上を歩いてみたり、湖に手を入れてはしゃいでみたり。シャイアに入国したばかりの時と同じように、私は落ち着き無く興味深々に走り回っていました。


「ミズキ、そんなに走ってばかりいると転ぶわよ」

「きゃん!?」

「ん、言った傍から転んだ」


 平原から街道に戻った際に窪みに躓いて転びました。痛いです……。


「普段物静かな子だと思えば、突然活発に走り出して転ぶし。変な子ねぇ……貴女」

「あぅ~」


 クリスティアさんが仕方ないわね、といった感じに私を立たせて下さいます。綺麗なダークパープルの髪を風に揺らしながら手を差し伸べるその姿は、もはやどこかの国のお姫様のようです。そんな綺麗な子とお友達になれた私は嬉しくて。


「だって、旅楽しいですもの!」


 立ち上がるなり、えへんと威張った感じに私が言います。ええ、言いますとも。


「ん、ミズキのはしゃぐ姿が見れて私も楽しい。あと白だった」

「ひゃうっ!?」


 とっさにスカートを抑えつつ「イグニシアさん!!」と私が怒ると「ミズキが怒った、可愛い」などと言いながら逃げていきました。


 まったくもう……。この魔術師風の服、スカートの丈が膝上なんですよねぇ……。気を付けないと今みたいに見られちゃうので、転ばないようにしませんと。


「貴女達……緊張感の欠片も無いわね」


 腕を組んで呆れているクリスティアさんの横に、クスクスと笑いながらエステルさんが並びます。


「まぁ、いいじゃないですか。旅をしている時くらいは楽しんだ方がいいですよ。クリスティアさんも気張らずに、ミズキさん達と遊んで下さい」

「わ、私は。その……こうしてミズキ達が旅をしているのは私のせい、なのだし。そんな暇は無いわ」


 自分の長い髪を弄りながら、ぷいっとそっぽを向くクリスティアさん。そんな何気ない仕草が彼女の可愛らしい所です。


「クリスティアさん」

「何かしら」

「えいっ」

「きゃっ!?」


 そんな彼女に向けて、街道沿いの水路から手にくみ取った水をかける私。


「な、何するのよ!」

「えへへ~」

「えへへ、じゃないわよ濡れたじゃないの!」

「クリスティアさん、水かけっこで遊びましょう」

「何の遊びよそれは。水かけたら服が濡れるでしょって、きゃあ!? 人が話している間に水かけないで!」

「ん、私も参戦」


 既に一杯の水を手に汲み取っていたイグニシアさんが、参戦表明と共にクリスティアさんへと思いきり水をかけました!


「ぷぁ!? 顔にかかって口に水が……。ちょっと、イグニシアまで何するのよ! ミツキの仕返しのつもり!?」

「ん、悔しかったらやり返す」

「……」


 イグニシアさんの挑発に対して、いよいよ我慢の限界が来たようです。思いきり顔を濡らしたクリスティアさんが「ふふ……」と笑いますと……。


「そう。そんなに濡れたいなら……」


 ゆっくりとクリスティアさんが水路に近づいて、手に水をくみ取り。


「二人ともずぶ濡れにして、街道を裸で歩かせてあげるわよ!!」

「きゃあ!?」


 こちらに向けて水路の水をバシャバシャと継続的にかけてきました。すぐに服がずぶ濡れになります。


「ん、クリスティアがやる気出した。お返し」

「私だってもう手加減しませんからねー!」


 三人一緒に水路の水を掛け合って、それを楽しそうに見ているエステルさん。いつしかクリスティアさんの顔も笑顔になっていて、ようやく子供らしく遊べた私達は、心行くまで水遊びを楽しみました。


 -----------


 仲良く水遊びをした街道の夜。


 平原で野宿をする事にした私達は、簡易天幕に濡れた服をかけて乾かしながら、暖かなスープとパンで、神都で最初の夕食を楽しんでいました。今は皆、替えの服を着ています。


「はぁ、まったく酷い目にあったわ……」

「その割には途中からクリスティアさん凄く楽しそうだったです」

「ち、違うの、あれはやられてるばかりじゃ私のプライドが許さないから、し、仕方無くよ!」

「ん、でも最後までクリスティアだけ遊びたがってた」

「あ、あれはその……ふんっ」


 言葉に詰まってそっぽを向くクリスティアさん。顔が真っ赤になっているのが解ります。ふふ、可愛いです。


「イグニシア様、余り虐めないで下さいね。クリスティアさんは遊ぶ、という行為が初めてだったと思いますし」


 エステルさんが助け舟を出しますと「そ、そうよ! 私は初めてだったの!」とクリスティアさんが反撃の姿勢を見せています。


「ん、解ってる。私も人間の世界で過ごし始めた時、遊ぶ事を知ったら凄く夢中になって、ミツキ達を困らせた」

「あぁ、そんな事もありましたね。その場に私もいましたから。「五姫」を困らせる程に遊び足りないとだだをこねていましたね」

「ん、恥ずかしい……」

「イグニシアさんにも、そんな時期があったのですね」


 私もこんなに満ち足りたように遊んだのは生まれてから初めてでした。次はどんな遊びをしようと考えるだけで、とってもわくわくしてしまいます。


「何よ、お互い様じゃないまったく……。確かに楽しかったのは認めるわ。でも、もう水遊びなんてしないわよ」

「何故残念そうな顔で言うのですか?」

「そ、そんな顔してないわよ!?」


 否定するクリスティアさんに向けて、エステルさんが微笑みつつ。


「大丈夫ですよ、暫く遊びながら進んでも。徒歩ですから、早くても最初の街まで後三メルはかかりますし」

「わ、私は別に」


 と言いながらもクリスティアさんの口元が少し嬉しそうです。それにしましても、街まで結構歩くのですね。


「結構遠いのですね」

「ええこの国は比較的、街の間隔が開いていますからね。首都は国の中央よりやや北にありますし」

「でしたら、首都を目指す場合はやはり馬車が必要でしょうか」


 エステルさんから「ここから徒歩で首都を目指すとなれば、おおよそ二メルダ程度はかかるでしょう」と言われて、げんなりする私。


「それは流石に馬車が必要のようね……」

「ん、揺れるの我慢……」


 私に続いてクリスティアさんが深くため息をついています。一応首都に着くまでに、街が二つ程あるようですけれど。馬車の揺れに少し憂鬱になりながらも、遠い首都に思いをはせる私なのでした。


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