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神都エウラス

 エステルさんに神都エウラスについて様々な事を教えて頂きながら途中に二泊を挟み、馬車で揺られる事三メル程。私達はシャイアと神都の国境沿いにある関所に到着しました。


 初めはなんて快適な旅なのでしょう、と感激した物ですが、馬車に乗り続けていますと、その……お尻が痛くなったりして、少々辛いものがありました……。歩き疲れるよりは大分ましなのかもしれませんけれど、人によるでしょうか。

 あぁ……ウェイルさんが乗っている狐のマナさんが恋しいです。馬車を経験した今だからこそ言えますが、あんなにもふもふしてて、ふかふかしてて、乗り心地も最高な乗り物さんは先ず他には無いと思います。


 この関所に来る途中に野宿をしたのは一度だけで、道中に中規模程度の街があり、そこに立ち寄りました。その街は国境に近いという事もあって、大変な賑わいを見せていました。エルフさんの国ですのに、人間さんの方が多いという印象を受けた街でもあります。


 その理由としましては、この街を中心に三方向に街道が伸びていて、一つは神都に続く関所へ、もう一つは「ベルドア王国」に繋がっており、加えて私達が通ってきた首都「ユグドラ」へと続く道の三方向から絶えず商人や冒険者が行き交っている為でしょう。


 規模が比較的大きい街ですから、この一帯を治める領主さんが存在しており、騎士さん達と長さんの令状のお陰で、領主さんのお屋敷で一泊させて頂きました。


 そのような街がこの関所から馬車の速度で僅か一メル程度しか離れていない場所にありますので、通行許可の順番待ちをする程度には国境の往来が激しいようです。


 私は最初に馬車から降りますと、直ぐに大きく背伸びをしたりして、解放感を満喫中です。そんな折、騎士さん達から直ぐに首都へと戻る事を伝えられ、ここまでご同行下さった彼らにお礼を述べます。


「ん……よく寝た。でも体が痛い」


 次に馬車からのそのそと出てきて、だるそうなイグニシアさん。


「街道の窪みの上を馬車が走った時、とても揺れましたからね。私も段々体の節々が痛くなりましたもの。イグニシアさん、その中でよく眠っていられましたね……」

「ん、私は何処でも眠れる不思議少女」

「自分で言うなら世話ないわね……」


 イグニシアさんの次に馬車から降りて、背伸びをしながら少し不機嫌そうに言うクリスティアさん。彼女も私と同じで次第に疲れてしまったようで、三メル経った頃には馬車の中でぐったりしていました。


「ふふ、ミズキさんとクリスティアさんは馬車が初めてでしたか。最初の内は辛いですが、次第に慣れてきますよ」


 エステルさんが馬車から最後に降りてそう言いますと、すぐさま来た道を引き返して行く馬車と護衛して下さった騎士さん達へ手を振っています。私も彼女の隣で一緒に手を振って見送りました。騎士さん達には道中、とてもお世話になりましたからね。


 たまにモンスターが出ても私達は馬車から見ているだけで、騎士さん方が手慣れたように退治して下さったり、野宿の際もテキパキと簡易天幕を張り、食事の支度までして下さったのです。恐らく、人間の騎士さんはこんな事してくれないですよね。エルフの騎士さん凄いです、素敵です。


 まぁ……私達、子供の集まりに見られてもおかしくないような四人組ですから、そういった部分もあったのかもしれません。一応13歳で成人と見なされますけれども。


 私達は程なくして番兵さんに礼状を見せ神都エウラスへと入国しました。ここの関所は森に囲まれた国との合間にある為、まだ周囲は木々が多く、今までと景色はそれ程変わりません。


「さて、一応聞きますけど。関所から一番近くの街まで馬車が出ていますが、乗りますか?」


 エステルさんの質問に私達は顔を見合わせ、頷きますと。


「あの、歩く事は健康に良いとミツキさんから伺っています」

「ん、人間は歩かないと駄目。楽ばかりしてたら強くなれない」

「……暫く馬車はいいわ」


 各々言い訳が二人と正直に言う者が一人。エステルさんはくすくすと笑いますと、「私も歩くのは好きですから、冒険者らしく徒歩で行きましょうか」と言われ、再度私が頷きました。


 ----------


 両脇を木々に挟まれている神都の街道を四人で歩いておりますと。


「そろそろですね」


 と、エステルさんが言いますので、不思議に思った私は首を傾げつつ彼女に質問します。


「あの、何がでしょうか?」

「周囲の木々がそろそろ途切れて広大な草原地域に入ります。そこから、この国の特徴が直ぐに解る筈ですよ」


 彼女が馬車の中で言っていた「驚く事」についてでしょう。ずっと気になっていましたので、この先がどうなっているのか楽しみです。


「初めて来る場所ですから、とてもわくわくしてしまいます」

「ん、何気に私も神都は初めて」

「え、イグニシアさんもですか?」

「ん、この国には攻略不能ダンジョンがあるけど「古代魔法具」は無い事が確認されてるから、後回しにしてた」

「攻略不能ダンジョン?」


 攻略不能と言う事は、最奥まで辿り着けないと言う事なのでしょうか。一応ダンジョンに生息しているモンスターは外にいるモンスターよりも強いようですけれど……。


「ん、そこは国家指定級の一つ「プリシラ」が生まれたダンジョン。そいつを倒さない限り、攻略されたと見なされない。それともう一つ、攻略不能ダンジョンに指定されている「霊峰」も、そこで生まれた私を倒さない限り攻略されたと認められていない」

「それは確かに攻略不能ですね……」


 ダンジョンのモンスターは強い、とかそう言った程度のお話ではありませんでした。一般の冒険者さん達では、本来のイグニシアさんに勝つ事など不可能でしょう。今の少女の姿のままであれば、まだなんとか可能かもしれませんが……。命のやり取りを行う上でしたら、イグニシアさんに手加減してあげる理由なんてありませんものね。


「二人とも、そろそろ平原みたいよ」


 私とイグニシアさんのお話を退屈そうに聞いていたクリスティアさんの声に合わせて、辺りを見ますと。次第に周囲の木々が減り出し、森の終わりを感じました。私達が通って来た森は、大陸の端から端まで生い茂っている巨大な森林地帯だそうですけれど、暫くこの景色も見納めですね。


 そして、森地帯を完全に抜けた先には。


 広大な平原が広がっていました。


「わ……な、なんですかあれ」


 私は広大な平原を見て驚いているのでは無く、「その平原の空に浮いている小さい島」に驚いていました。島と言いましても、周囲の地面を切り抜いてそのまま浮かせたような小さな物です。その島が遠い空のかなたまで等間隔で浮いており、その島から地面に向けて水が流れていました。


 各島々の真下には小さな湖と水路が出来ていて、街道の両脇も水路で挟まれているのです。平原が広がると言うより、湖が広がっていると言った方が合っているような気がします。


「へぇ、中々良い景色じゃない。気に入ったわ」


 クリスティアさんは今までの不機嫌さから一転して、水が流れ落ちる無数の島々の景色に魅了された様子です。私も遠くまで広がるこの島々の景色に見入ってしまっていました。


「ん、確かに良い景色。これは初めて見たら驚く」

「はい、本当に驚きました。そして……とっても綺麗で素敵です!」

「そうでしょう。はるか昔から浮かび続けるこの不思議な島々が人々に神聖視され、神託と併せてこの国が神都と呼ばれるきっかけになったのです」


 ずっと伏せられていたこの景色を気に入った私達に、嬉しそうに話すエステルさん。やはり、元々の立場が立場ですし、何より彼女の生まれた国ですから、そこを他の方に気に入って貰えるのは嬉しい事なのでしょうね。


「まだ暫く距離がありますが、この国の首都もきっと皆さんに気に入って貰えると思いますよ」


 関所を出て間もなくでこれだけの驚きなのですから、首都もきっと素敵な場所に違いありません。浮かれ気分のそんな私達に、エステルさんは「ですが……」と付け加えて。


「この国に来た目的はあくまで水晶を追っての事です。水晶の位置次第で、街道を逸れて歩かなければならないでしょうし、首都方向に行く事も無いかもしれません」


 エステルさんの言葉で本来の目的を再認識した私はクリスティアさんを見つめますと、彼女はその視線を理解したように頷きます。


「今は水晶の気配は消えてるわ。けど、水晶の気配を感じ取った時はもっと北から感じていたから、首都のある方向で良いと思うわ」

「それを聞いて少し安心しました。その方がこの先にある街に寄ることも出来て、私的には助かりますから」

「ん、野宿はできる限り勘弁」


 水晶次第で私達の寝泊りする場所が決まってしまう現状は好ましくありませんので、早めに見つけたい所ですね。皆さんに合わせて私もうんうんと頷きますと、水に挟まれた街道を四人揃って歩き出しました。


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