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アリシエラとタチアナ

「ミズキ、どう思いますか?」

「赤の魔姫さんの事ですか?」

「ええ」


 私の中ではもう結論は出ておりますけれど、一応の確認でしょう。以前の私ならばまだ赤の魔姫さんの良心を信じていたかもしれませんけれど……。もう一人の私と一つになった後、少しだけ冷たい子になってしまったかもしれませんね。


「赤の魔姫さんはタチアナさんの命を救った事になりますけれど……。タチアナさんの仰る通りであれば、とても擁護出来る方ではありません」

「……私も同じ気持ちです。私だけに向けられた嫌がらせであるならばまだしも、何の罪もないタチアナを巻き込んでしまいました。赤の魔姫、カーネリアの行いは余りにも度が過ぎています」


 タチアナさんの魔力を吸収しようとしていなければ、まだお話のしようもあったのですが……。今となっては此方から願い下げなのです。突然反旗を翻したアリシエラさんにも責はありますけれど、もう十分苦しんだ筈です。ここまで根深い嫌がらせを用意している事が私には理解出来ません。


 タチアナさんが生きている事はとても喜ばしい事です。そこは間違いありません。ですが……タチアナさんがアリシエラさんの力で生きている限り、このままでは力の一部を回収できません。しようとしても私が止めていると思います。


 そう、これが赤の魔姫さんの狙いなのでしょう。ここまでアリシエラさんが到達出来るかどうかも解りませんのに、力の一部を回収する為にはタチアナさんの命と引き換えとなる様に、わざわざ仕組んでいるのです。


「アリシエラさん、このままでは……」

「ミズキ。私個人としては、結果的にこれで良かったと思っています」

「え?」

「私の力でタチアナが生きているならそれで構いません」

「それでは力の一部は……」

「ええ、回収しません」


 やはり、アリシエラさんならばそう決心すると思っておりました。出会って間もない私が言うのもなんですけれどもね。


「そうか……アリシエラが力の一部を回収すると、タチアナは死んでしまうのか……」

「ええ、紗雪もそれは望まないでしょう?」

「当然だ。もし回収しようとするならば、お前を再び敵に回している」


 もうタチアナさんは他人ではありません。紗雪さんの新たなお友達ですし、アリシエラさんの力を受け継ぐ以上今後は保護すべきでしょう。


 ただし、ここでそっとして置くのは駄目です。アリシエラさんの力を持っていると知れれば、良くない人達の目に触れてしまうかもしれませんから。


「では、今後はどうしましょう。私としては、ここにタチアナさんを置いて行くべきでは無いと思いますけれど」

「あぁそうだな、アリシエラは?」

「病弱な体での旅は辛いと思います。全て解決した後に迎えに来ましょう」


 事態を前向きに捉え直して、今後の予定を立ち始める私達。赤の魔姫さんの立場で考えるとするならば、アリシエラさんが力を回収しないのはまさに計画通りで好都合な事でしょう。逃げたアリシエラさんを捕まえるのも容易いでしょうし。


 ですが……それはアリシエラさんだけの場合です。赤の魔姫さんは私を自由にさせている事を後悔するでしょう。傍でアリシエラさんを守るのは私なんですもの。紗雪さんと私だけで、この世界を変えるだけの力があると自負します。


 一つ気になる事は、ストレイさんが私にはまだ手を出さないと言っていた事です。それはつまり、私の存在が何であるかを知っている事になります。赤の魔姫さんがどの様なつもりでいるかは解りませんけれど、私に何かしようとしても無駄です。


「あの~……」

「あ、はい?」


 一人で不敵に笑っておりますと、タチアナさんが少し困ったような表情で此方を見ております。すみません、私色々変な子でした……。


「アリシエラ様は私の中にある力を持っていかれないのですか?」

「ええ、貴女は何も気にしないで……と言っても無理でしょうけど、私は貴女に生きていて欲しいのです」

「アリシエラ様……。でも、でも私はもう十分生きました。本当ならとっくに死んでた筈なのに。これ以上アリシエラ様の迷惑にはなりたくないです」


 今まで微笑みを絶やさなかったタチアナさんが初めて悲しそうに俯きました。それは自らの命が無くなるからでは無く、アリシエラさんのご迷惑になるから悲しいと言う事なのでしょう……。


 紗雪さんがそんなタチアナさんの両肩を掴んで、顔を覗き込みました。その表情は真剣です。


「タチアナ、よく聞け。本来、生ある者は命が一つしか無い。その一つしか無い命を繋ぎ止められた事に感謝すべきだ」

「感謝……?」

「お前は死ぬのが怖く無いか?」

「……死は覚悟しています。でも、特に怖いなんて意識した事は無いです」

「それはお前が魔人種だからだ。死んでも次がある、そんな安心感がお前をこうしてしまったんだ。恐らく、もうお前に次は無い。そう考えるとどうだ?」

「……確かに怖い様な、気がします」

「なら、これからはお前もたった一つの命を大事にしろ」

「たった一つの命……」


 紗雪さんと同じで個人的に思う事ですが、魔人種の方々は自己犠牲が過ぎると思うのです。私達の世界を襲った下位の魔人種達が特に顕著でした。命の重さに対する意識が他の人達よりも薄い為なのかもしれません。死への恐怖心も余り感じていないようですし。


 ただ、セイルヴァルの温泉地でミズファ母様の大魔法を受けた者達はとてつもない恐怖の中で死んでいったと思いますけれどね。正常な判断を巡らせる前に死ぬのですから。そう何度も、何度も……。


「……」


 しばし俯いていたタチアナさんが顔を上げて、私達を見回しています。悲しそうではありませんが、まだ困惑している様な表情ですね。


「私は、生きていていいのですか?」


 聞き慣れない質問のされ方ですけれど、悲しいとも嬉しいとも取れぬ声でした。自分がこの場に居てもいいのでしょうかと言う意味合いにも聞こえます。


「当たり前な事を聞くな。まだ解っていないなお前」

「タチアナ。私の力を突然植え付けられたせいでまだまだ戸惑いがあるでしょうが、時期に貴女にも解る筈です」

「はい」


 命の重さについては、今後ゆっくりと知って頂くしか無いのかもしれませんね。今までの常識を疑えと言われても、早々直ぐに出来る筈もありませんから。


「じゃあ、三つ目の力の一部を回収しに行きましょうか」

「そうだな。タチアナ、必ず迎えに来るからいい子でここで待ってるんだぞ」

「はい。えっと……命を助けてくれて有難うございました」

「何だ解ってるじゃないか。酷い奴だな」


 そう言って笑う紗雪さん。釣られて私とアリシエラさんも笑い出してしまいました。タチアナさんも出会った時と同じ様に微笑んでいます。とても笑顔が似合う子なのです。


「じゃあえっと……」


 無事に、とは言い難いですが一つ問題が解決した所で。何かを忘れて居る様な気がする私。いえ、解決してませんけど。アリシエラさんは今後元の力を取り戻せなくなった訳ですから、問題の先送りです。全部赤の魔姫さんのせいです。


「さて、じゃあ出発するか」

「何処に行く気……?」


 紗雪さんが意気揚々とお部屋を退出しようとした所で……。部屋の入り口に、子供に抱き着かれて色々と大変そうなマトイさんが立っております。……とっても怖そうな表情で。


「……あ」

「……あっていったよね今。忘れてたでしょ、今日一日何をするのか」

「いや、忘れていた訳じゃないぞ?」

「ほーん……で、何処に出発するって?」

「いや、それはあれだ…………」


 何故か紗雪さんが私を見ています。助けて欲しいのだと思いますが、私も命が惜しいのですので、首を横に振りました。


「……ぐぬぬ」

「紗雪ぃ………貴女まだガキ共の世話してないでしょ。まだまだ相手しないといけないガキ共が残ってんだから、貴女も手伝いなさいよ」

「………あー……。すまん、ミズキにアリシエラ後は任せた!!」

「あ!?」


 妖術を使って地面に沈んで行く紗雪さん。あっという間に逃げられてしまいました。


「……あらあら、紗雪ったら」

「紗雪さん酷いのです……」

「仕方ないわね……。ミズキとアリシ、じゃなかった、シェラにはまだまだ働いて貰うわよ!」


 そういって、子供型の鎧を身に纏ったマトイさんが私達の手を取りました。もう逃げられません……。何れにしても、今日一日施設の為に頑張ると決めてあったのでまぁ良いのですけれど……。


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