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子供達と先生

 ともあれ、アリシエラさんの力の一部を取り戻しに来た私達ですけれども。


 カリナさんがお一人で施設の運営を頑張っていらっしゃると聞いてしまっては、このまま放って置く訳には参りません。私達は特に示し合わせをする事もなく、カリナさんを今日一日お手伝いする方向で動く事となりました。


 そんな訳で。私が頂いたお仕事はと言いますと……。


「ねーねーせんせー。ご本読んでー」

「ええと、どの本でしょうか」

「せんせー外であそぼうぜー」

「では本を読んだら皆さんで遊びましょう」

「せんせー綺麗ー。髪さらさらー」

「有難うございます」


 アリシエラさんと共に子供達のお相手をお願いされてしまいました。子供達の人数がとても多いですので、アリシエラさんとは別行動をする形で二手に分かれています。


 初めは子供達と上手く接する事が出来るかどうか大変不安でしたけれども、カリナさんが私を紹介して下さいますと、子供達が優しく迎え入れて下さいました。


「ちぇーじゃあ本読んだら影踏みだぞー」

「せんせーかげふみわかるー?」

「あ、ええと。何となく」


 今は一階の一室で、十人程の子供のお相手をしております。子供達は個人毎にしたい事や興味が違いますので、全員のお相手は中々に重労働です。


 子供は良くも悪くも自分の欲に忠実ですし、女の子と男の子で感性も大分違います。ですので、私の一言次第では喧嘩の引き金にもなりかねませんね、と最初は内心思いながら対応していたのですけれども。


 思いの外、他の子と意見が分かれても誰も我儘を押し通したりしないのです。最初に案を出した子から順に皆で合わせている様ですね。


 恐らくですが、子供たちなりにカリナさんの苦労を理解しているのだと思います。まだまだ良い事と悪い事の区別は言い聞かせる必要はあると思いますけれどもね。


「せんせーこの本読んでー」

「はい、良いですよ」


 一人の女の子が差し出してきた本を手に取りました。何かの絵本でしょうと、特に気にも留めず表紙を開いて読み始めます。


「ええと……殿方を満足させる為の十の事。先ず優しく口づけをかわし……」


 そこで音読が止まる私。その後、少し流し読みした後に本を閉じました。段々と自分の顔が赤くなっているのが解ります。


「せんせーどうしたのー」

「……あの。この本は何なのでしょうか」

「んー? んとねーカリナせんせーのお部屋にあったの」

「……」


 えーと……。私としましては、個人の趣味や趣向に口を出す様な事はしたくないのですけれども。でも、子供達と接する健全な場所で読んでいい本ではありませんでした。


 あれです。カリナさんはお仕事で忙殺されている中、殿方とのお付き合いを頑張りたいと、そう言う事なのでしょう。ええ、きっとそうです。そうなのです。


「せんせー続きはー?」

「この本はとってもとっても難しいので、皆さんには少々早いみたいです。別の本にしましょう」

「でも、このお部屋の本はもう全部読んだよ」

「じゃあせんせーが何かお話してー」

「あ、私もききたーい」

「え……」


 唐突にお話と言われましても……何をお話すれば良いのでしょうか。自慢にもなりませんけれど、私ってお勉強以外で本を読む事は殆ど無いのです。知識欲に乏しい私が子供達を楽しませるお話なんて……。


「失礼します」


 どうしましょう、と困っておりますと。リリィが部屋に入って来ました。まぁ、何をしようとしているのかは既に私には解っているのですけれど。


「皆様、私が代わりにお話をお聞かせしましょう」

「おねーちゃん誰ー?」

「私の事も先生と呼んで下さい」

「はい、せんせー」

「素直で良い子達ですね。それでは私の周りに集まって下さい」

「はーい!」


 子供達が一斉にリリィの周囲に集まっていきます。もう私の事は忘れてしまったかのようで少々悲しいですが、助かった事も事実です。リリィにお任せしてみましょう。


「これからお話する物語は一人の少女の冒険譚です。歳若い少女が街を助け、国を助け、悪を斬り捨て正義と成すお話です」


 先が解っては面白くないと考えたのでしょう、リリィの心の中が読めません。少女の冒険物の物語の様ですが……何処でそんなお話を知ったのでしょう。


「この物語の題名は、ミズキと愉快な仲間達が大暴れ。世界を救っちゃって暇なので別の世界を救います」

「ちょっと待ちなさい」


 どんなお話かと思えば私の事でした。しかも何ですかその題名は……。


「子供達に何を語り聞かせるつもりですか」

「一人の少女が英雄になる物語ですわ」

「何故私の名前が題名に入っているのですか」

「偶然です」

「……」


 今は心の中を遮断されていて疎通が取れませんが……後でお仕置きですね。


「せんせーのお話なんでしょ、聞きたいー!」

「私もー!」

「え……」


 リリィの今の説明の何処に惹かれる要素があったのでしょうか。外で遊びたがっていた子も興味が完全に私の物語に移ってしまっています。これはいけません……。


「では始めましょう」

「ま、待ちなさいリリィ!」

「せんせー静かにして」

「う……」


 子供に咎められて、渋々と隅っこに移動する私。と言うよリ何をしているのでしょうか私……。


「あぁ、そうですミズキ。掃除も一段落しましたし、ここは私が引き受けます。休憩なさっては如何ですか?」

「休息を必要とする程時間は経っていませんよ? それに貴女ばかりに任せていては……」

「我が主は他人を気にかけすぎです。だから心労が絶えないのです。私はむしろ子供達と戯れている方が性に合いますので、本来の事をなさって下さい」


 リリィはそう言って近くの子供の頭をなでておりますけれど。全くもって嘘でしょう。自分から進んで他者に関りを持とうとする様な子ではありませんからね。


 まぁ、でも。折角ですからここもリリィに甘えましょうか。ですが、主人思いが過ぎるのも心労の種になり得るのですよリリィ。


 -----



「はぁ、疲れました……」


 担当していた子供たちはリリィに任せて部屋を出ますと。丁度アリシエラさんが裏庭から戻って来た所でした。裏庭からはまだ子供たちの元気な声が聞こえて来ていますので、アリシエラさんだけが戻って来たのでしょう。


「アリシエラさんも休憩ですか?」

「ええ。申し訳ないのですが、早々にカリナさんに交代して頂きました。老体には外での遊戯は堪えます……」

「あ、見た目が少女にしかみえませんので、すっかり忘れておりました……」


 足取りが悪いですので、アリシエラさんの体を支えて差し上げながら事務室へと戻り、ソファにゆっくりと座らせます。


「大丈夫ですか?」

「ええ、有難う御座います。何から何までお世話をかけてしまい、申し訳なく思います」

「何を今更です。お友達の為なのですから」


 私も向かいに座り、ふぅと一息。あのまま子供達のお相手をしていてもまだ平気でしたけれど、慣れない事をすると疲れが溜まるのも早いのです。リリィは気が利き過ぎです。


「ミズキ、一つ聞いても良いでしょうか」

「はい?」

「ミズキはどうしてそこまで人の為に動けるですか?」

「え?」

「お友達だからと言いますが、そう言った事は建前に過ぎないでしょう。本質から貴女は自分の事よりも他人を優先する傾向にある様に伺えます」


 今までそのような事を言われた事は無く、きょとんとアリシエラさんを見つめ返すだけの私。人の為に動く、言われてみればそうかもしれませんが……何故そうなのかと聞かれても私にも解りません。一つ言える事は、そうしたいと思うからですね。


「あの、解りません」

「解らない、ですか?」

「はい。ただ純粋に、困っている方がいれば手を差し伸べたいと思うだけです。その気持ちに理由は特に無いのです」

「そうですか。まるで、おとぎ話に出てくる聖女の様な方ですね、貴女は」

「ふぇ!? せ、聖女だなんて。そ、そんな大それた存在では無いのです! むしろ、人の血を吸うモンスターの様な物で」


 慌てる私を見て、アリシエラさんがくすくすと笑っています。そのせいで顔が赤くなる私。


「その様な貴女ですから、きっと沢山の方々から好ましく思われているのでしょうね。勿論私も」

「いえ、あの……」

「ふふ」


 その様な事を言われましても、私には解らないと言いますか。ただ好きなように生きて来ただけですし……。


「お、ミズキとアリシエラが揃っていたか。丁度良い」


 アリシエラさんのからかい? に慌てておりますと。紗雪さんが事務室に戻って参りました。


「どうなさいました?」

「二階の様子を一通り見て来たんだが、特に怪しい感じは無かった」

「何もないとは、赤の魔姫にしては珍しいですね」


 紗雪さんは獣人の為、人の何倍も感覚が鋭いのですが……その紗雪さんですら怪しい箇所は無かったと言います。勿論何も無いに越したことは無いのですが……。


「その代わり、二階の奥にベッドに寝た切りの子供がいた」

「寝た切り……病弱な子でしょうか」

「あぁ、自分でそう言っていた。怖がるかと最初は遠目に見ていたんだが、驚く事に私の気配を感じ取ったんだ」

「紗雪さんの!?」


 紗雪さんは突然人の後ろに現れる癖がありますが、それは極限的に気配を消しているからこそ出来る芸当です。ですので、隠れている紗雪さんを見つめるのは至難と言えるでしょう。一般人であれば不可能と断言しても良いです。


「気配を殺している紗雪の存在に気づく、ですか……。獣人は隠密行動に長けている種の筈です。その子、少々気になりますね」

「はい。私ですら本来の力を出していないと気づけないのに……」

「私自身が一番驚いているぞ。二階には特に妙な物が無い分、特に不思議に感じた少女でな。二人を会わせる為に呼びに来たんだ」

「確かに気にはなりますけれど、二人で急に押し掛けて大丈夫でしょうか。病弱なのでしょう?」

「今は気分が優れているらしい。とても人懐っこい子だったぞ。二人を連れてくると言ったら喜んでいた」


 んー……。この分でしたら力の一部の回収も直ぐに済むでしょうし、その少女に会ってみても良いでしょう。嫌がってはいないみたいですから。


 病弱で鋭い感覚を持つ少女となりますと、何処となくエルノーラさんを想像してしまいますね。先ずは会ってみないと解りませんけれど。あ、それと病弱という事であれば介護も必要でしょう。今日一日、この施設の為に動くと決めてありますからね。


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