力の一部と赤の騎士
さて、手早く竜を撃退出来た事ですし、早速洞穴を調べてみましょうか。と、歩きだした所で。
「待てミズキ。この竜、何か首の所で光ってるぞ」
「え?」
紗雪さんにそう呼び止められて振り返りますと。立ち尽くしたまま死亡している竜の首の根本が確かに光っていました。
「……何でしょう?」
特に危険な感じはしませんので、竜がまだ生きている等では無さそうです。近づいてみた感じ、爆発系統の罠でも無い様ですし。
「……何か、その竜の首にある光から青の魔姫様の香りがする」
「香り?」
「私鼻が利くからね。九尾も気づいてるんでしょう?」
「紗雪だ」
「あぁ、そう言う名前だったっけ」
竜の首は死んでいても垂れておらず、不動の状態を維持しています。その為、少々光が高い位置にあるのです。
「あの光。見た所、手の平に収まるくらいの大きさですよね」
「私が首に上って見て来よう」
紗雪さんが高く跳躍しますと、軽々と竜の首の裏側へと着地しました。そして懐から小さなナイフを複数取り出して首に刺し込み足場にしています。そのまま首の正面にある光を調べようとしておりますが、足場にしていたナイフが斜めになって落ちそうになっています。
「紗雪さーん、大丈夫ですかー?」
「こいつ、竜種の癖に肉が柔らかいせいで上手く突き刺さらないんだ」
「単に貴女が重いんじゃないの」
「マトイ、何か言ったか……?」
「いいえ?」
その後、紗雪さんは「食べたら美味いかもしれないな」等と言っております。確かに、私達の世界には竜のお肉はありますし、食べられますけれども。希少所では無い食材で、一切れがどれ程の価値なのか私にも解りません。
「なら、少し切り取って青の魔姫様に料理して貰うのもいいかもね」
「そうか、良し。……竜の一番うまい所って何処だ?」
「知らないわよ」
「あの、それよりも光をお願いします」
「あ、そうだった」
全くもう。……ま、まぁ。私もアリシエラさんの手料理は食べたいですけれど? 出発前に頂いた食事もアリシエラさんが作って下さって、大変美味だったのです。ミカエラさんにも引けを取りません。
「……ん? ミズキ、ちょっと竜の首下まで寄ってくれ」
「どうしました?」
「この光、何かの欠片の様だ。首に埋め込まれてるが、肉が柔らかいお陰で直ぐに取れる。下に落とすから受け取ってくれ」
「解りました」
紗雪さんの下まで近寄りますと、合図と共に光が落ちて来ました。手を差し伸べて受け取った所、全く重さが感じられません。ですがその代わり、とっても良い香りがしました。この香りには私も身に覚えがあります。
「確かに、アリシエラさんの香りがしますね」
「でしょう?」
「……もしかして、これがアリシエラさんの力の一部なのでは?」
特にそれらしき力は感じられませんけども、何となくそんな気がします。
「何、目的の物もう見つかったの?」
「その様です。私てっきり、この洞穴の中を探索しなければならないのかな、と思っておりましたけれど」
「私もそう思ってた。正直助かったわ、面倒な事にならなくて」
目的の物が早々に見つかったのは良いのですが。では、何故竜の首に力の一部が取り付けられていたのでしょうか。確か、アリシエラさんの力の一部をこの島に残したのは赤の魔姫さんでしたっけ。となりますと……。
「竜の首に欠片を取り付けたのは赤の魔姫さんでしょうか」
「だとするなら、この竜も災難だったな。別の種の臭いをずっと嗅ぎ続けていたんだから」
そう言った紗雪さんが続けて「この肉を収納してくれ」と、私に抱えられる程の大きさの肉を差し出しています。本当に切り取って来たのですね……。
「あぁ、成程ね。道理で島の主の機嫌が悪かった訳だわ」
「どういう意味ですか?」
「竜種はね、人とは比べられない程に優れた嗅覚を持ってるんだけど、他種族の臭いを極端に嫌うの。私達にとっては海辺に咲いた花の様な良い香りでも、竜にとっては悪臭に過ぎない訳ね」
「そうなのですか……」
「その上瞬殺された後に食べられるなんて、島の主は考えもしてなかったでしょ。運が悪かったわね」
そう聞かされますと、途端に竜が可哀そうになって来ました……。そんな私をよそに、隣ではお肉が楽しみ~、等と謎の歌詞の歌を披露している紗雪さん。まぁ、細かい事を気になさらないのは紗雪さんらしいのですけれど。
「恐らくだが。もしアリシエラが城から出れていたとしても、冷静さを失った竜に殺されていたかもしれないな」
「それすらも計算してこんな嫌がらせを?」
「あー……赤の魔姫様ならやりかねないかもしれないわね……」
「……」
直接赤の魔姫さんと面識があるマトイさんがそう仰るとなりますと、お話してどうにかなる相手では無いでしょうね。
「何か私、赤の魔姫さんが更に嫌いになりました……」
「まぁ、私の推測でしかないが」
「実際、赤の魔姫様はとても狡猾よ。その分、優秀な者は直ぐに取り立ててくれるから私は好きだけど」
「その優秀なマトイ嬢は此処で一体何をしているのかな?」
直ぐに周囲を警戒して、何処からの攻撃にも対応出来る様に身構える私。今の声には聞き覚えがあります。
「ご機嫌用、麗しの少女達」
胸に手を当て、優雅に一礼をする男の方。確か……静寂の森の中で私達を襲った方ですね。そしてマトイさんと紗雪さんの戦いを静観していた二人組の内の一人です。
「……何の用?」
「先に質問をしたのは僕だよ、マトイ嬢」
「……言っとくけど、私は青の魔姫様に命令されてこの二人を此処に連れて来ただけよ」
「その割には嫌がっていない様に見えるけどねぇ」
「い、嫌だったに決まってるでしょ! 魔姫様の命令なんだから仕方無いじゃない!」
突如として現れた男の方に対し、マトイさんは命令だから仕方なく私達を連れて来たと強調していますけれど……。私も男の方と同様に嫌がってはいない様に見えるのです。
「ま、それは良いとしよう。けどね、少々残念な知らせを君に伝えなければいけない」
「な、何よ?」
「結果的に君の行いはカーネリア様の怒りを買ってしまった。よって、直ちに君を連れてくる様にとの命を受けて来た」
「な……!?」
その場で殺す訳では無く、連れてくる様に……? と一瞬思いましたけれど、理由は直ぐに解りました。マトイさんを吸収したいのでしょう。むしろ……最初から吸収するつもりで配下にしていた可能性もあります。
「では行こうかマトイ嬢」
「え、でも……」
当然の様に動揺するマトイさんに対して、凄まじい威圧感を放つ男の方。殺気とは別種のもので、先程の竜も同じ様な威圧を放っていました。この威圧を受けて、紗雪さんと並ぶ強さを持つ筈のマトイさんが震えています。
「……」
「マトイ嬢、どうか聞き分けて欲しい。僕は余り女性に手荒な真似はしたくないんだ」
「……ゃ」
「うん? 何だい?」
「……嫌よ。私はまだ死にたくない……」
やはり、魔力を吸収されると言う事はそう言う事なのですね。魔力もまた、血と同じ様に体の中を巡る命に関わる大切な力です。その力を奪われれば当然、人は死んでしまいます。
少しずつ後ずさるマトイさんの姿がとても悲痛でもう見て居られません。私はマトイさんを守る様に前に立ち、背中の後ろに隠しました。その間、男の方は少し困った表情をしつつも、微笑しています。
「今はまだ、君には手出しをしない様に言われている。そこを退いて欲しい」
「嫌です」
「見た目に寄らず、中々気が強いね。けど、悪くない」
髪をかき上げながら私を見つめる男の方は一見、爽やかな好青年なのですが。男の方は明らかに私の体に視線を巡らせています。とても不愉快です。
「……仕方がないな。じゃあ別の手段を取るとしよう。一応、生きてさえいれば吸収対象がどうなっていようと問題は無い」
「何をするつもり……」
「マトイ! 後ろだ!!」
私の疑問を遮る様に紗雪さんが叫んだ時、マトイさんの悲鳴が後ろかが聞こえました。
「マトイさん!!」
「あぐ……ぅ……」
振り返るとマトイさんが倒れており、背中と足、右腕に剣が突き刺さっています。直ぐに紗雪さんが駆け寄りますと、両の手のひらをマトイさんの体に当てています。恐らく、何らかの治癒系統の力でしょう。
後ろからとは言え、全くマトイさんへの攻撃に反応できませんでした。この男の方の攻撃だとは思いますが……。
「貴方は何者ですか」
「おや、僕とした事が名乗り忘れていた様だ」
男の方は改めて優雅に一礼をすると、「それでは改めて名乗らせて頂くよ」と付け加えて。
「僕の名はストレイ。原初の我が君様の近衛騎士。そうだね、今は赤の騎士と名乗っておこうか」
「赤の騎士……?」
「原初の我が君様がご復活されるまでの仮の称号と言った所かな。今はカーネリア様の下に付いているからね」
原初の我が君さんの近衛騎士……? 赤の魔姫さんの配下の様に見受けられますが……違うのでしょうか。
「あ、そうだ。先に君に言っておこう」
「何でしょうか」
「僕は魔姫達よりも強い」
そう男の方、ストレイさんが言った瞬間。私の周囲を膨大な数の剣が取り囲んでいました。




