エルノーラの湖攻防戦
湖に到着した途端沢山の魔人種達が現れたけど、何か敵側に動きがあったのかな。この湖は帝国で一番大きい天然の魔力燃料だから、防衛戦力は他の場所より多い分、魔人種達の襲撃に問題なく応戦出来てるけど。
他の場所がちょっと不安かな。何事も無ければいいけど。とは言っても、皆を心配するのは自分に余裕が出来てから。これが帝国の教訓だからね。
今は目の前の魔人種達の殲滅が先。この世界の誰よりも魔人種に関する知識があるから、私が沢山頑張らないと。
「エルノーラ様!! 上空から何かが来ます!」
持ち前の翼で空中に居る魔人種達と戦ってると、位階者の一人が声を荒げた。見上げると、飛んでる私よりも更に上からその何かは来てた。ううん、むしろ降って来た。
「何だあれは……!?」
「雷? いや、槍か?」
「エルノーラ様、お逃げ下さい!!」
周囲の魔人種達を気術で殲滅しながら空を見てると、雷を迸らせた赤い色の槍が降って来た。多分だけど、あの槍私を狙ってるっぽい。それと雷の槍と一緒に男の人も居た様だけど、途中で複数の雷の槍に貫かれて消滅したみたい。
「見ろ、エルノーラ様と戦っていた魔人種達が退いていくぞ!」
いつの間にか、私の周囲に沢山いた筈の魔人種達が居なくなってた。まるで、あの雷の槍が来るのを解ってたみたいに。
「くっ、やはり狙いはエルノーラ様か!?」
「エルノーラ様ーー!!」
「ひとつ、ふたつ……全部で五本かな」
私に向けて降って来る雷の槍は五本。大した速度じゃないから避ける事は簡単だけど……。でもね、私解るよ。あれは避けたら駄目だと思う。
そこそこ力を付けた今の私が危険に感じる位だから、あの雷の槍は相当強力な力を持ってるんだと思う。それが五本。湖に落としたらお魚が皆死んじゃいそう。……ううん、この周辺にいる皆も死ぬね。
なら、その強力な力を消すしかないかな。
「天位術式・上位「第三層・Thronoi」」
第三層の力を解放した事により、私は座する者としての力をその身に宿しました。翼が六枚に増え、精神その物も普段の私とは違います。
右手を雷の槍へと差し向け、無効化能力を纏いました。今の私は魔法による力ならばほぼ消滅させる事が可能です。唯一、ミズファ王女が会得した無限の魔力は私でも消しきれないでしょうけど。
雷の槍が私の無効化範囲まで来た所で、受け止める様に右手に力を加えます。
「……くっ!? これは……」
雷の槍を無効化範囲で押しとどめた瞬間、この槍は魔法では無い事に気づきました。そもそもこの力は……。
「ミズキの能力、ですね……!」
今にも無効化能力を貫通し、私を刺し貫こうとしています。気を抜けば最後、即死は免れない程の力です。そして確信します。やはりこの槍を受け流してはなりません。地上に落とせば、湖が全て吹き飛んでしまうでしょう。
「はぁぁぁぁ!!!」
左手を加え、両の手を上空に向けて構えました。持てる無効化能力の力を最大まで引き上げます。
「以前はリリィに破られてしまいましたが……。今回はそうはいきません」
私を死から助け出してくれたこの力に感謝の気持ちを返す様に。今度こそ、ミズキの能力を受け止められるように。全力で槍の力を無効化します。
「初めて見たが、あれがエルノーラ様の天位術式か……」
「何と神々しい……」
次第に、雷の槍が一本ずつ消え始めました。下位の位階者達には透明な防壁で槍を防いでいる様に見えている事でしょう。この無効化能力は本来、無効化する範囲内に対象が入った時点で消滅、或いは私の加減の仕方によって素通りする様に出来ています。
素通りさせる訳にはいきませんから、全力で消滅させようとしていたのですが……。雷の槍は私の無効化能力を無理やりにこじ開け貫こうとしている為、その場で存在し続けているのです。
「くっ……!」
少しずつ槍の数が減り、残り一本となった所で。一瞬の気の緩みが私の中にありました。雷の槍はその僅かな瞬間に無効化能力の内側へと侵入しました。
「……っ!」
「エルノーラ様!!」
やはり、ミズキの能力は桁外れですね。今を以ってしても、無効化し切れぬ血の力。以前の私ならばこの時点で刺し貫かれていたでしょう。
そう、以前の私ならね。
「気術・円環掌!」
天位術式第三層を咄嗟に解除して気術に切り替えた私の右の拳に、気を込めた緑色の円が回り始めたわ。雷の槍はすぐそこまで迫っていたけれど、身を逸らして回避する。
そして、通り抜けて行こうとしていた雷の槍を右手で掴み取った。その瞬間凄く熱くて、とっても落ち着く血の力が手を通って私の中に流れ込んで来たわ。
「あぁ……あったかい」
雷の槍に見惚れて、ついうっとりしちゃった。この槍は私が掴み取った瞬間暴れるのを止めたわ。私と一緒に戦ってくれるって。でも、もうすぐ消えちゃうみたい。だからそれまでの間、私に力を貸してね。
「この槍、どうやって私の所に来たんだろ。天位術式第二層なら解るかな」
まぁ、でもいいよね。男が槍に貫かれて死んでたのを見る限り、何となく察せるし。
「さて、私から逃げてった魔人種達。触れたら消し炭になるこの槍の力、存分に味わって貰うからね」
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程無くして、湖は防衛に成功したみたい。魔人種達が何度も死にながら湖に何かしようとしてたけど、途中から諦めたよう黒い鏡の中に逃げていったわ。
湖の近くに降りた私はほっと一息。そこに合わせた様にメイニーが駆け寄ってきた。彼女はずっと湖周辺で戦ってくれてたみたい。氷の魔法を扱う性質上、水が近くに在ると色々機転が利くって言ってたからね。
「エルノーラ、お疲れ様なの」
「うん、メイニーもお疲れ様」
「さっきの槍、なんだったなの」
「あれはね、ミズキの血の能力で出来た槍だったの」
「ミズキ姫の? いろいろ突っ込み所多すぎるの」
「えっとね……」
一応私なりに解釈してメイニーに事情を説明してみたけど、あんまり納得してくれてないみたい。色々不可解な部分が重なってた感じだもんね。
「もしかしたら、ミズキ姫達に何かあったかもしれないなの」
「あ、そうかもしれないね」
雷の槍の掴み心地に安心しきってた私だけど、もしかしたら危機的状況によってこっちの大陸に転移してきたかもしれない。ミズキ、大丈夫かな……。
「ねぇねぇエルノーラ、蝙蝠が近づきたそうにしてるなの」
「え?」
空を見上げると、蝙蝠が呼んで欲しそうに旋回してる。可愛い。
「おいで」
そう言うと、直ぐに蝙蝠が降りてきて、私の肩にちょこんと止まる。
「この子がいればいつでもミズキとお話しできるんだったね」
「今ならライブ配信付きなの」
「何それ」
相変わらずメイニー語はよく解んないね。まぁ取りあえず置いといて。
「ミズキを映して」
私のお願いと同時に、蝙蝠が直ぐに可視化バネルを出してくれたわ。早速映り込んだパネルを見てみると、ミズキと九尾が戦ってる所みたい。
「……何これ、相変わらず無双状態なの」
「全く危機的状況とは無縁だね」
ここは何処かの林かな。ミズキがドレスのスカートの裾を片手で摘まみながら、舞う様に血の力を操っているわ。相変わらずミズキは強いんだけど、それより驚いたのは九尾の方。
どういう仕組みかは解らないけど……九尾の目の前に何か門の様な物があって、その中から手が出てきて魔人種達を捕まえてる。掴まえた手はそのまま門の中に引きずり込んで、門は閉まるんだけど……。
「ねぇ、エルノーラ。これって魔人種即死してない? なの」
「うん、門の中から出てこれないみたいだし……」
「私、九尾様が戦ってるの初めて見たけど、とんだチート狐だったなの」
一度の攻撃で魔人種を殺せるのは私とターニアだけだと思ってたけど。まさか、こんな所にもいたなんて。もっと早く言ってくれたら良かったのに。




