巨体モンスターと女の子
兵士さんに続くように後退していますと、シルフィさんとイグニシアさんが戦っている森から強い風が吹き抜けてきます。この風はシルフィさんの魔法の一部でしょうか。それとは別に、赤い閃光と同時に熱波が街道まで飛んできていて、こちらは恐らくイグニシアさんがモンスターを殴った後の余波でしょう。二人とも頑張っているみたいです。
モンスター側には黒いドレスの女の子も何処かに居る様子ですし、引き続き私も頑張らないといけません。直ぐにまた吹き抜ける風にスカートと髪を抑えつつ、手に大きなこん棒を持った巨体のモンスターを見つめながら辺りを警戒します。
「さて、「サイクロプス」よりも第二波との戦闘が先になりそうだね」
街道の奥から巨体のモンスターを追い抜く形で、黒い鎧で全身を身に包んだ骸骨の群れが近づいています。見た所アンデッドのようですけれど、血術聖なる赤の逆十字を展開した後に出てくるなんて意地悪です……。十字架をもう少し、街道の奥の方に展開すれば良かったですね。
別段もう一度展開したり、十字架を複数出せばいいのですけれど、黒いドレスの女の子が控えている可能性を考えて、ここは最低限の力で対処すべきです。花畑のダンジョンであの子の攻撃を防御した時、血の残量を大幅に減らされたんですもの、出来る限り血は残しておきたいのです。
とは言え……。
「今向かって来ているモンスターは鎧を着ているようですけれど、これでは矢が通りにくいですよね」
「うん、それに鎧の隙間を狙っても、骨のつなぎ目を狙う事は流石に難しいね」
相手が人でしたら、鎧の隙間に刺されば部位によっては致命傷でしょうけれど、骨が相手では別ですもの。
幾ら弓の名手と名高いエルフさん達でも、鎧の隙間のさらに中の骨のつなぎ目一点を狙うなんて無理です。
「仕方ないか……。第一部隊と第二部隊はその場で待機してくれ! 同盟国「アクアリース」の名の下に、僕が眼前のモンスターを排除する! そしてシャイアの国の騎士達よ、僕に力を貸してくれ!」
兵士さんの後ろで待機していたエルフの騎士さん達が、ようやく出番だとばかりに腰のレイピアを抜き、ウェイルさんの後ろへと並びます。かっこいい金髪のエルフさん達とウェイルさんが並ぶ様はまさに優雅で、周囲に街の女性がいればそれだけで黄色い声が飛び交っていた事でしょう。
シルフィさん曰く、エルフの国に騎士制度が導入されたのはそれ程昔では無いらしく、まだまだ騎士の数は少ないそうで、今ここにいるのは僅か十数名のみ。けれどどなたも動きに迷いが無く、相当に熟達された騎士さん達だと言う事が、戦い慣れていない私でも解ります。そして皆さん、ウェイルさんととても仲が良いみたいですね。
「ミズキ、どうやら「あの子」が近くにいるようだね」
騎士さん達と短い打ち合わせの後、ウェイルさんが私にそう言います。彼も黒いドレスの女の子に気付いていました。
「あの鎧のアンデッドは僕達が片づけておくから、ミズキは森の中から進み、サイクロプスを少しの間足止めして欲しい。無理のない範囲でね」
「解りました。その程度でしたら、大丈夫です」
足止め程度でしたら殆ど血は使わずに済みます。本当は皆さんの戦いを近くで見て居たいのですけれど、仕方ないですね……。
直ぐに森の中に入り込み、木々の中から巨体のモンスターへと近づいていきます。
それと同時に街道を疾走する騎士さん達とウェイルさんが黒い鎧の骸骨と接敵し、戦いか始まりました。その為、私は黒い鎧の骸骨の群れをすんなりと素通りして先に進みます。
「あぁ、やっぱりかっこいいです……」
横目で街道の様子を見ているのですけれど、騎士さん達の動きがとっても素敵で魅了されてしまいそうです。騎士さんの一人が骸骨の剣を一重でかわし、レイピアの構えから突きに転じた後、黒い鎧の骸骨が盾で防ぐ合間、後ろから次の騎士さんが前に出て払い抜け、骸骨の首が飛びました。その連携が綺麗で、その場で立ち止まって見ていたくなってしまいます。
「あれに比べ……ただ真っ二つにして周囲を血だらけにしている私って……」
まるで食べ散らかす子供のようです。騎士さん達は獣が相手でも、返り血が飛ぶような戦い方はしないでしょう。これが戦闘経験の差なんでしょうね……。
「いいです、これからですもの。沢山の経験をして、私も素敵なレディになってやりますですわよ」
謎の語尾を発しながら巨体のモンスターへと近づいていく私。巨体のモンスターはその体格のせいか、歩く速度もそれ程早くはありませんので、このまま手を出さずとも、ウェイルさん達の位置に辿り着くまではまだそれなりに余裕はあります。けれど向こうは戦闘をしていますので、後方の憂いは少ない方が当然いいのです。
森の中から巨体のモンスターの横まで近づき上を見上げますと、本当に大きいです。背丈は周囲の木の二倍近くはあります。流石にここまで近寄れば森の中の私に気づきますので、巨体のモンスターは此方を見て吠えています。
「ええと、足止め足止め……」
頭の中を探り、この条件に合うような古代血術を思い浮かべてみます。少しの間、足止めに有効そうな血術を考えてみましたけれど、思い浮かぶのは攻撃に重点を置いているような能力ばかりです。
この古代血術という能力は、一人で多数を相手にする事に特化している能力、という感じですね。とても便利なのですが、他の方との連携が取り辛いと言う欠点があるようです……。
「うーん……足止め……。足止め……?」
一つ私の頭に思い浮かびました。早速展開してみます。巨体のモンスターは既に、目の前の木を薙ぎ倒し始めています。
「真祖・血術突剣型一式!」
私の血術の展開と共に、巨体のモンスターの足の甲に赤いレイピアが突き刺さっています。この血術はとっても攻撃速度が速いですので、一方的な攻撃を仕掛けやすい特徴があります。赤いレイピアは独立して動き、突く、切る等の動作を高速で行うのです。
巨体のモンスターが足に刺さった赤いレイピアを見下ろし、怒りの大声を上げています。ちょっと声が大きいですので、耳を塞ぎます。
これで少しはここに留まっている事でしょう、と思ったのですけれど。
巨体のモンスターは足に刺さった赤いレイピアを掴んで思いっきり引き抜き、此方に投げ飛ばしてきました!
「きゃあ!?」
飛んできた赤いレイピアを、すんでの所で転がるように回避できましたけれど……凄く深くまで地面に刺さっていて、もはや弓矢の類です。
血術で生成される武器は、主である私に攻撃する事は本来無いのですが、一度敵に使われてしまうと私の能力から切り離されてしまうようですね。早い段階でこの事実が解かって良かったです。次から気をつけませんと……。
それにしましても、私の力が込められた赤いレイピアを力任せに抜き取るなんて……。そんな事が出来るのは「私に勝てる能力がある」相手だけなのですけれど。巨体のモンスターは私より弱いです、これは間違い無いのですが……。
巨体のモンスターはその場から一歩も動かず此方を睨みつけています。無理やり私の力に抗って引き抜いたせいで、足の甲が原型を留めていません。足止めという目的は一先ずこれで達成されたようですけれど。
私がその場で立ち上がりますと、睨みつけている巨体のモンスターは何か、大きく息を吸い込むような動作をします。すると、巨体のモンスターの口に光が収束しているのが見えました。
「まさか……」
嫌な予感と共に。巨体のモンスターは口から「光の帯」を私に向けて撃ち出しました。一連の動作が余りに不可解で、一瞬判断が遅れてしまった私は……ぎりぎりのところで「光の帯」を防御しようとしましたが間に合いません。
いえ、間に合わないと思った瞬間に。
「……!?」
突然、歌が聞こえてきました。
とても透き通った女性の声です。
そしていつの間にか目の前には透明な壁が出現していて、巨体のモンスターが放った「光の帯」から私を護ってくれていました。
「大丈夫ですか?」
首都の方角から私に向けて声がかかります。
その方向に顔を向けますと、木々の中から一人、女の子が姿を現しました。




