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技と技

 闘技場の中心で、二人の剣士が魔力を高め始めています。ミツキさんは抜刀術との合わせ技に、ヤヨイさんは魔道武器に込めて奥義を放つ為です。


 一見すれば少量の魔力で大きな力を放つ事が可能な魔道武器側が有利に思えますが、今ヤヨイさんが相手にしていらっしゃるのは完全な状態のミツキさんです。魔道武器による有利などは無いに等しいと思われます。


「行きますよミツキ様! 先ずはこの技からです!」


 ヤヨイさんが瞬歩を用いてミツキさんとの距離を瞬時に縮めますが、抜刀の間合いギリギリ手前で跳躍し、空中で後転しました。恐らくあれは一度私の前で使って見せた技の一つですね。


「皇流魔道剣術・雷鳴の型「翔雷閃」!!」


 後転と共に体から放電した雷によって足場が空中に出現し、ヤヨイさんがその雷の足場に足をかけます。そして、斜め上から強烈な一筋の雷光がミツキさんに襲い掛かりました。


 ミツキさんはその瞬間まで刀に手をかけたまま微動だにしませんでしたが……。まさに雷に撃たれるようなヤヨイさんの斬撃を受ける瞬間。


「八代流抜刀術「澄桜」」


 斜め上に抜き放ち一閃。ピンク色の花びらがまるで風で吹き飛んでいくかの様な剣閃が放たれます。花吹雪が舞う一陣の風がヤヨイさんを包み込みました。


 その花吹雪きによって視界が遮られ、ヤヨイさんが一瞬見えなくなります。……が、直ぐに桜の花は通り過ぎていきました。その見えぬほんの少しの間に、ヤヨイさんはミツキさんの抜刀の間合いの外へと退避しつつ、しゃがんでいました。


「……危なかったです。ヤヨイからミツキ様の技に突っ込んで行くところでした」

「あらあら。少々、大変雅な袴が切れてしまいましたね」

「反応が後少し遅れていたらヤヨイが斬られていました!」

「ヤヨイちゃんなら避けると解っていましたから。手加減せずに放ちました」

「うーん、ミツキ様に攻撃を当てるにはこの程度じゃ駄目ですか」


 花舞う強烈な剣閃によって、雷のような空襲を相殺された形でしょうか。ヤヨイさんの袴は右肩、左ふともも、左脇腹付近が切れていて肌が露出しています。それでも体は無傷ですので、流石はヤヨイさんですね。


「やっぱり抜刀した瞬間を狙わないといけないでしょうか」

「ふふ、では次は私から仕掛けていきましょうか」

「……!」


 ミツキさんが刀に手をかけながらヤヨイさんへ走っていきました。ヤヨイさんの方も慌てて立ち上がり、迎撃の姿勢です。


 お互いが斬れる間合いまで詰め寄った所でミツキさんが刀を横なぎに抜き放ちますと、ヤヨイさんが中段で受ける……と見せかけてしゃがみました。狙いは抜刀した瞬間を狙った懐への瞬歩でしょう。


 私の読み通りに瞬く間にミツキさんの懐へと入り、ヤヨイさんが下から上に向けて魔道武器を振り上げました。見事にミツキさんは斬られた……様に見えたのも束の間。


「……消えた!?」

「ここです」


 いつの間にか空中に居たミツキさんがゆっくりと刀を鞘に戻し抜刀の構えに転じます。


「残像ですか!」

「八代流抜刀術「秋桜」」


 刀を抜き放ち、空中から一閃。すると……空中に花の道が出来ていきます。その道は真っ直ぐ地面に向けて伸びていき、危険と判断したらしいヤヨイさんは瞬歩で後方に飛び退きます。ですが、凄まじい速度で花の道はヤヨイさんを追いかける様に咲き続けていきます。


「避けても無駄ですよヤヨイちゃん。そのコスモスと呼ばれる花は何処までも貴女を包むまで道は続いていきます」

「この花に追い付かれたらいけない気がします!」

「ふふ、さぁどうでしょう」


 一生懸命闘技場中を跳躍で飛び回るヤヨイさん。花の道は視ている分には大変綺麗で、エルフの国シャイアで見た広大な花畑を思い出すのですけれど……。この花の道からは冷たく研ぎ澄まされた刃物の様な鋭さを感じます。恐ろしい事に、ヤヨイさんが空中に跳躍で逃げても花の道は何も無い空間に咲き続けて行くのです。


 直ぐにヤヨイさんが迎撃に転じないのは花の道が襲い来る速度が早すぎる事と、生半可な技では押し負ける危険性を感じているからでしょう。ヤヨイさんが逃げている間、いつの間にか花の道が幾重にも交差し、闘技場はさながら空中庭園の様な美しさになっていました。


「こうしていつまでも逃げていてはどうにもなりませんね……。少し本気を出します」


 暫く逃げに徹していたヤヨイさんが立ち止まり、魔道武器を正面に構えました。ようやく攻勢に切り替える様ですね。


「皇流魔道剣術・雷鳴の型「雷皇八閃陣」!!」


 凄まじい雷の五芒星が上空に現れ、その下を花の道が通り過ぎようとします。ですが……地面にも同じ雷の五芒星が出現し、道は何かにぶつかる様に止まりました。


 そして、観客の女性達から悲鳴が響き渡りました。


 上下の五芒星によって挟まれた花の道は行き場を無くし、少しの間静止していたのですが……。突然五芒星の中に凄まじい数の花が咲き始めました。赤色の花びらのせいでしょう、まるで赤い血がはじけ飛んでいる様に見えるのです。例えて言うならば、大量の血の飛沫が窓にかかった様な感じでしょうか……。


「ヤヨイ様、この技は……」

「気づきましたか。その花に捕まると、体中にコスモスが咲き乱れ、大量の血しぶきと共に絶命するでしょう」

「……恐ろしいです!」

「あらあら。武器を持つという事は、相手の命を奪う覚悟があるという意味でもあります。私の流派は抜刀術ですが、刹那に命を取れない場合はこの様に、殺傷力の高い技で仕留める型なんです」

「成程。……ミツキ様の仰る事はごもっともですね。ヤヨイだって帝国の為、陛下の為に人の命を奪う事は何度もありました。ですから常に命の重さ、尊さを念頭に置いているつもりです」


 五芒星の中は赤い花で完全に埋め尽くされ、最早赤い血で満たされている様にしか見えません。ミツキさんとヤヨイさんが何かお話をしている様ですが、その途中赤い花がスッと溶ける様に消えました。


「ヤヨイちゃん、覚悟と言った手前少々矛盾してしまいますが、この試合は楽しむ為の戦いです。別段、重苦しいお話がしたい訳では無いのです」

「はい」

「ヤヨイちゃんなら私の抜刀術に耐えてくれる。私に本気を出させてくれる。それがとても楽しいのです。もしかしたら死ぬかもしれませんが、やはり怖いですか?」

「いいえ、もう怖くありません! ミツキ様はヤヨイが耐えられると信じて本気を出して下さっているのですから、このまま殺すつもりで技を放って下さい! ヤヨイは絶対、ぜっっったい死にませんから!!!」


 ヤヨイさんが大きな魔力を魔道武器に込め始めました。いよいよ本気ですね。


「ありがとうヤヨイちゃん。貴女以上の剣士はきっとこの先現れる事は無いでしょう。ですから、後悔や未練を残したくありません。私の我儘に突き合わせてしまって申し訳ない事ですが」

「ヤヨイだって同じ気持ちです。出来るなら、この先も剣の道を進む者同士として、競い合える者同士として、いつまでも仲良くして頂きたいです!」

「ふふ、とっくの前に私はヤヨイちゃんをお友達だと思っていましたけどね?」


 ミツキさんの方も魔力を大きく膨らませ始めた様です。ヤヨイさんがこれから放つ技に耐える為でしょうね。


「今から放つ技はアマテラス様より授かった強大な力です。一度放つと暫くの間、ヤヨイは戦闘が出来なくなる程の力です」

「アマテラス……私のいた世界の神様ですね。確かヤヨイちゃんはその身に神を降ろす事が出来るんでしたね」

「はい。でも余程の事が無い限りもう神降ろしには頼りません。ヤヨイはいつもアマテラス様に頼ってばかりでしたから」

「神を降ろす事が出来るのも、ヤヨイちゃん自身の力だと思いますが」

「とんでもありません! ヤヨイが強くなれたのはアマテラス様のお陰です。私の中から助言を下さるからこそ、今のヤヨイがあるのです」


 既にヤヨイさんはいつでも何かの技を放てる状態の筈ですが、少しお話が長引いている様ですね。何のお話をしているのでしょう。


「頼ってばかりの不甲斐ないヤヨイに、アマテラス様は試練を課しました。ヤヨイはアクアリースに居る間、その試練を達成する為にずっと修行をしていました」

「ふふ、私と同じですね」

「はい! 修行のかいあって、ヤヨイは試練を達成できました。そして得た力が今から使う剣です」

「……剣?」


 ヤヨイさんに動きがありました。魔道武器を空に向けて掲げますと、手を離れて空中に浮かび上がり武器全体が光始めました。


「神器草薙剣よ、我が身を依り代とし、真の力を此処に顕現せしめ給え」


 光に包まれた魔道武器が……何か別の剣の形に造り変わっているように見えます。いえ、確実に変わっています。


「来たれ天叢雲剣」


 空中に浮かんでいた剣が再びヤヨイさんの手に戻り、光が収束していきます。そして、右手に持った剣を軽く素振りしました。


「……!」


 ミツキさんが抜刀して何かを防いだようです。恐らく、剣を振っただけで放たれた見えない何かを。


「ヤヨイがヤヨイのままで出来る最高の剣技をミツキ様にお見せします」


 上段に構えたヤヨイさんの剣から、凄まじい魔力が膨れ上がりました。その力に対し、ミツキさんもかなりの魔力を高めています。そろそろ頃合いでしょう。ミツキさんはまだ極意を使用していませんものね。


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