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帝と呉服屋

 取りあえず。帝さんと言う事でしたら、きちんとご挨拶をして置かないといけませんよね。


「あの、帝様初めまして。私はミズキと申します」


 スカートの裾を摘まみ一礼をしますと、ヤヨイさんも私に並んで深々と一礼をしました。


「お初にお目にかかります、ヤヨイはヤヨイと申します!」

「……」


 帝さんは私とヤヨイさんを交互に見返しながら、何かを見定める様な眼差しを此方に向けていらっしゃいます。地位が高い分、素性を知らぬ者を警戒するのは当然ではありますね。以前からこの様な目で見られる事は多いですので、余り気にならなくなりました。


「ふーん……どっちも相当な死地を経験してるわね」

「はい?」

「ミズキとヤヨイって言ったわね。貴女達、恐ろしく強いでしょう? 五姫よりも強い……恐らく国家指定級とかその辺りじゃない?」

「え!?」


 警戒とかでは無く、私達の強さを測っていたようです? いえ、それよりも……。


 本来、相手が強いかどうかは自分より魔力が高いと認識した場合、というのがこの大陸での常識です。その上で測定不能ですと、強さの基準が全く解らなくなり相当に強いらしい、としか言い表せない筈なのです。


 ですのに、帝さんは私とヤヨイさんを少し見ただけで国家指定級程度の強さはあると言い当てました。帝さん自身が私達と同じくらい強いと言う事であれば話は別ですけれど、特別強いと言う訳でも無いようです。


 まぁ、魔力基準でそう思うだけですので、特殊な能力を保持している等でしたらその限りではありませんけれど。


「あの、帝様は私とヤヨイさんの力量を推し量る事が出来るのですか?」

「まぁ、大体は勘だけど。そっちのヤヨイと言う子は魔力が測定不能だから解りやすいけど……ミズキからは魔力がそれ程感じられないからちょっと疑問って所かしら」


 恐ろしい程に正確な勘ですね……。一国の王様ですし、国家指定級がどれ程の強さかくらいは当然知っているのでしょうけれど。逆に言えばその強さと同列だと認識できた事が凄いのです。


「シズル、ミズキは今魔力を抑える魔法具を身に着けているぞ」

「あぁ、そうなんだ。道理で強さと魔力が噛み合わないと思ったのよね。多分だけど、ミズキは九尾さんくらいの強さはあるんじゃないかって気がするし」

「そこまで解るのですか!?」


 何なんでしょう、この方は。ヤヨイさんですら私の強さがどれ程かは解りませんでしたのに。


「私は見ただけでどれくらい経験を積んできたのかが解るのよ。獏前的にだけどね。で、そんな経験の塊である貴女達が四人も組んで歩いてるなんて私からしたら異常よ。倭国で一体何するつもりだったのよ?」


 あ、今度はあからさまに警戒されています。相手の強さが詳細に解ると言う事は、その分測定不能どまりの人より恐怖を感じてしまう事にもなりますからね……。そのような恐怖の対象が突然複数で現れた訳ですから、心配されるのは当然でしょう。


「いえ、私達はお買い物をしに倭国に来ただけです」

「……それだけ?」

「はい……あの、いけませんでしたか?」

「別に駄目って訳じゃないけど……」


 何か引っ掛かりがある様子の帝さん。私達がここに居て不都合な事って、何かありましたでしょうか?


「じゃあ、貴女達は偶然あの呉服屋で買い物をしていただけなの?」

「はい。ミツキさんのお薦めで」

「ミツキが?」

「ええ、私が皆様を先程の呉服屋にお誘いしました」

「そう……じゃあただの気のせいかしら」

「はい?」

「何でも無いわ。それで、私がここで何をしていたのかって事だったわね」

「あ、はい」


 一応この国の王という立場な訳ですから、相当な理由でも無い限り一人で外出する様な事は先ず無いでしょう。……アクアリースの皆様は頻繁に遊び歩いていますけれどもね。あの人達を常識で語ると私の常識が崩壊してしまいます。


「最近、とある呉服屋で扱っている織物がとても良い出来だと元帥から報告があってね。最初はどうでもいいから取り合わなかったんだけど。一メルダ位経った頃になって再び報告を受けた時、流石に異常に思ってね。ちょっと調べてたのよ」

「異常、ですか?」

「さっきの呉服屋が件の店なんだけど、あの店だけが異常に富んでいるのよ」

「え……それって」

「精霊が絡んでいる可能性が高いわ」


 以前、水の精霊さんが言っていました。人間に関与し過ぎると、一部の者だけが何かしらの強い精霊の恩恵を受けてしまうと。神都エウラスは人知れず、水の精霊さんのお陰で国内の水は何処に流れている物でも飲める程に澄んでいます。


 ただ、精霊の祝福は国そのものが恩恵を受ける程に強い効果だそうですので、一つのお店だけに限って祝福を授けられる物なのかは解りません。


「精霊ですか。確か精霊は人前に顔を出す事は先ず無いという事でしたね?」

「あぁ、精霊は私が子供の頃から既に存在していたが、見かける事は無かったな。だが、誰も見た者がいないのに精霊が存在していると解る。以前から不思議に感じていた」


 九尾さんの子供の頃からという事は、少なくとも古代魔法具による戦争を行っていた時期から精霊さん達は存在していたのですね。


「あのあの、精霊とは何でしょう?」

「あ、ヤヨイさんは初めてでしたね。ええと、精霊とは四大元素を司る存在で、人でも魔物でも異世界の者でもありません。精霊の特徴として、何かしらの恩恵を周囲に与える事が出来るそうです。その恩恵は精霊ごとに多岐に渡る物で、解りやすい物で言えば精霊の祝福一つで国一つが大きな財を成す事も出来るそうです」

「わー……凄いのですね。その精霊を身近に置けば何不自由なく国を繁栄させる事ができるのではないでしょうか」

「ヤヨイちゃん、確かにそれはそうですが、逆に言えば一つの国だけが富んでしまうと戦争の火種になってしまいますね?」

「あ……言われてみるとそうですよね。ヤヨイの大陸は統一国なのでその考えはありませんでした……」


 私も水の精霊さんとお話しした時に思った事です。一つの国だけでなく、全ての人々に恩恵を授けてみな平等とは行きません。流石の精霊さん達にもそんな力は無いのです。


「ミズファに出会うより前に各国が精霊を躍起になって探していた事があったな。精霊は金の生る木とも言える存在だから仕方ない事だが」

「皆も精霊については大体理解している様ね。まぁ、そんな訳で呉服屋にその精霊が絡んでる可能性があるのよ」

「精霊の可能性ですと、流石に兵士さん達にお任せする訳には参りませんよね」

「そーなのよ……。精霊が悪さしてるかも知れないからちょっと見て来なさいなんて言おうものなら、とんだ笑いものだからね。仕方なく私が直々に出向いてるのよ」

「ですが帝様、お供もつけずに危険では無いですか?」

「ミツキ、貴女忘れたの? 私武術には結構自信があるのよ。多少刃物を持った悪漢が数十人程度襲ってきても何の問題もないわ」

「あぁ、そう言えばそうでしたね?」


 戦った所を見た事がありませんから、と言いながらくすくすと笑うミツキさんに向けて憤る帝さん。割とお友達の様な感覚に近い程にはお二人の仲は良いようですね。


「あのあの、それでその精霊とは何処にいるんですか?」

「……」


 一番の難題を言われて全員が静まってしまいました。


「ヤヨイ、それが解れば何の苦労もしないぞ。人前に出てこない存在を探すなんて、天球に手を触れる様な話だからな」

「そこが問題なのよね。まぁ、私が無理やり呉服屋の主人とっ掴まえて吐かせてもいいけど……あそこの主人って先ず口を割る様な人間じゃないのよね」

「それに、別段悪い事をしている分けては無いですからね?」

「そうなのよ、本当に面倒だわ」


 うーん、精霊さんですか。私は偶然水の精霊さんには出会えましたけれど、他の精霊さんなんて何処にいるのか全く見当がつきません。呉服屋の主人という方に直接お話を聞くのが手っ取り早いのでしょうけれど。帝さんすら諦める程に口が硬い方のようですので、それは最終手段となるでしょうか。


 でしたら……方法は一つしかないですね。


「私、ちょっと水の精霊さんに会ってきます」

「へ……?」


 私がそう言いますと、帝さんが素っ頓狂な顔で私を見つめています。


「今貴女、水の精霊に会いに行くって言った?」

「はい、言いました」

「ど、どうやって。ていうか何処に居るのよ!」

「神都エウラスです」

「神都って……倭国の真逆の国じゃないのよ。ここから最短でも半クオルはかかるじゃない」

「帝様、ミズキちゃんは転移魔法を扱えるのですよ?」

「え……。て、転移ですってぇ!!?」


 ミツキさん、私が転移魔法を扱える事を帝さんに教えてしまいました……。まぁ、水の精霊さんに会いに行くと言った手前、私の素性を隠し通すのは無理ですけれどね。


 神都には今、エステルさんとシャウラ母様、そしてミカエラさんが滞在しています。丁度良い機会ですので水の精霊さんにお会いした後、其方にも顔を出しましょう。


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