お出かけ
五姫さんと元五姫さんの強化試合の案を私からミズファ母様とプリシラ母様にお伝えした所。お二人から正式に試合を行える許可を頂けました。
母様達も乗り気のご様子で、ミズファ母様が獣人の街の闘技場で試合を行える様にして下さったのです。五姫の皆様は国務がある中でも鍛錬は欠かさずに毎日行っていますので、決して元五姫さん達に引けは取らないでしょう。
この強化試合を丁度お茶の席をご一緒する機会があったミツキさんにもお話しした所、大変興味を抱かれた様子でした。
その際に、この様な体でなければ親善試合に参加したかったと残念そうにもしておりました……。ミツキさんは元々体が弱い上に、シャイアを守る際に振るった奥義の反動で戦う事が出来なくなりました。
そんなミツキさんの為に何かして差し上げられる事は無いものでしょうかと、私室のドレッサーに座りながら考える私。今日は国務をお休みさせて頂けましたので、ゆっくりと朝の身嗜みを整えていた所なのです。
「ん~……折角ですから、倭国へのおでかけにミツキさんもお誘いしてみましょうか」
ミツキさんは私やミズファ母様達が不在中、五姫さん達を補助しつつ国務をお手伝いして下さっていたみたいですけれど、いつからか再び刀を帯刀するようになったそうなのです。ミズファ母様が不在のこの国を守りたいと言う責任感の現れなのでしょうと五姫の皆様は仰っておりました。
ミツキさんはとても優しく真面目な方ですから、五姫の皆様に私も同意はしますけれど。他に何か理由があるのでは無いかと思うのです。
身嗜みを整えた私はドレッサーを立ち上がりますと。このお部屋に大きな魔力が近づいて来ているのが解りました。これはヤヨイさんですね。
私とミズファ母様と国家指定級の三人、そして九尾さんはお城の中では魔力を抑える首飾りを身に着けておりますので、膨大な魔力を放っていらっしゃるのはヤヨイさんだけなのです。
ノックよりも早く扉を開けて差し上げますと、丁度ヤヨイさんが満面の笑顔でお部屋の前に立っておりました。
「ミズキ様! お早う御座います!」
「お早うございます、ヤヨイさん」
今日は先日ヤヨイさんとお約束をしていた倭国へお出かけする日なのです。とっても楽しみにしていた事が私にも解る程に嬉しそうなヤヨイさん。そんな彼女を見ておりますと、私も自然と顔が緩んでしまいます。
「ヤヨイ待ち切れなくて少し早く来てしまいました。差し支え御座いませんでしたか?」
「今しがた身嗜みを整えましたから大丈夫ですよ。いつでもお出かけ出来ます」
「はい! では九尾様をお待ちするだけですね」
突然、ヤヨイさんの丁度後ろ側の天井から九尾さんが音も無く落ちて来ました。妖術で床をすり抜けて来たようです。
「もういるぞ」
「ひぅ!?」
私の視点からは既に九尾さんがいらっしゃるのは解っておりましたけれど。背後を取られたヤヨイさんが盛大に驚きつつ振り向いております。ヤヨイさんは察知能力に秀でた方ですけれど、ここは強大な力を持つ者が集うお城の中ですので、警戒などするだけ無意味です。
「ヤヨイ、後ろから九尾様がいらしてるなんて気づきませんでした……」
「いや、私は今来たばかりだ」
そう言いながら天井を指さす九尾さん。それだけではヤヨイさんには意味が通じないでしょうに……。何やらヤヨイさんは怯えた子羊の様にプルプルと震えております。
「もう、九尾さん。何故いつも妙な現れ方をするのですか。ヤヨイさんが怖がっていますよ」
「これは獣人の本能なんだ。別に取って食おうという訳じゃない、大目に見てくれ」
私の周りにはただでさえ気配を消して近づく方等もいらっしゃるのに。やはり警戒はして置くべきなのでしょうか……。
「あ、あの九尾様。その、今日は宜しくお願い致します!」
まるで試合の手合わせを始めそうなご挨拶をなさるヤヨイさん。深々とお辞儀をして、緊張気味の様子です。
「あぁ、宜しく頼む。倭国に出かけるのは久しぶりでな、今日を楽しみにしていた」
「あのあの、ヤヨイもとっても楽しみにしておりました!」
「そうか、気が合うな。近づきの印だ、尻尾に触らせてやる」
「……尻尾!!」
くねくねと揺れる尻尾にばふっと抱き着いたヤヨイさんが、お顔を尻尾にスリスリしていらっしゃいます。とっても幸せそうです。
「ふむ、ヤヨイも私の尻尾が気に入ったのか」
「はぁ~もふもふもふ~……」
「ヤヨイ?」
「ええと、ヤヨイさんはとっても気に入ったと言っている様です」
「そうか、よその大陸の者にも私の尻尾の良さが解るんだな」
恐らく、もふもふ好きなら誰しもが気に入るかと思います……。それにただでさえ九尾さんは大変可愛らしい少女なのですから、その様な方がピコピコお耳ともふもふ尻尾などを備えておりましたら、愛でられるのは必然という他ありません。
「その尻尾は世界が認める素晴らしい物です」
「やはりそうか。私の尻尾を気に入る奴が妙に多い気はしていたんだ」
まぁ、少々大げさに言い過ぎましたけれど、九尾さんが嬉しそうですので良しです。
「まぁ、それはさておき早速行くとしようか。ミズキ転移魔法を頼む」
「あ、その前にもうお一人お誘いしても宜しいですか?」
「ん? あぁいいぞ」
「ヤヨイも大丈夫です~」
尻尾に顔を埋めながらお返事を返すヤヨイさん。少しだけ遠い世界から帰還出来た様です。
「実は今日のお出かけに、ミツキさんをお誘いしたいと思っていたのです」
「ミツキか。あいつの日課の散歩にもなって丁度いいだろう。それにミズファ達が不在中、とても頑張ってくれていたしな。息抜きも必要だ」
ミツキさんは剣術の鍛錬は出来ずとも、体を動かす事を忘れない方なのです。イグニシアさんと庭園や城下街をお散歩していたりしますからね。
「ではミツキさんのお部屋へ参りましょう」
突然のお誘いなのでご一緒して下さるかは解りませんけれど。断られましたら、その時はその時ですね。何かミツキさんにおみやげを買って来て差し上げましょう。
------
ミツキさんお部屋を訪ねますと、にこにこ笑顔で室内に入れて下さいました。お部屋の隅には座敷があり、畳が六畳分敷かれています。
内装はとても落ち着いていて、一見すれば何もないお部屋に見えます。ですが、所々の小棚に置かれているつぼ型の花瓶や倭国の置物などが絶妙な位置にあり、和の美しさを表現しておりました。
「ミズキちゃんが私のお部屋を訪ねてくるなんて珍しいですね?」
「あの、実は私達、これから倭国におでかけに行くのですけれど、是非ミツキさんもご一緒にと思いまして」
「倭国にですか?」
「はい、ヤヨイさんをお連れしてお買い物に行こうと思うのです。ミツキさんは倭国に詳しい方ですし、何処か良いお店なども知っていそうでしたし」
「あぁ、そう言う事でしたら構いませんよ」
両手をポン、と合わせてにこにこと微笑むミツキさん。お誘いに乗って下さって良かったのです。
「あのあの、ミツキ様! 今日は宜しくお願い致します!」
「あらあら、此方こそ宜しくお願いしますね?」
「はい! あの、ミツキ様は私と同じく刀を振るうとても強い御仁だとミズキ様から伺っております!」
「強いかどうかはさて置いて、確かに以前は刀を愛用していましたね」
「以前、ですか?」
「ええ、今は剣を振るう事が出来ないのです」
「え、そ、そうなのですか!?」
そう言えば……。ミツキさんはもう刀を振るう事が出来ないというお話をヤヨイさんにはしておりませんでしたね。お話しておくべきでしたでしょうか……。
「あのそうとは知らずヤヨイ……」
「いいのです、大切なものを守り抜くと引き換えに得た勲章の様な物ですからね?」
そう言ってヤヨイさんの頭をなでて差し上げるミツキさん。今の表情は笑顔ですけれど、何処となく寂しそうな感じを受けます。
「話は買い物をしながらにしないか。私はもう待ち切れないぞ。常々新しい服が欲しいと思っていたからな。早く品定めがしたい」
「あらあら、九尾ちゃんは相変わらずせっかちさんですね?」
「九尾ちゃん言うな」
九尾さんは金色の耳に似合う倭国風の髪飾りを身に着け、紫が基調の和ゴスを着ていらっしゃるのですけれど、本来はドレスを好む方だったそうです。今はミズファ母様から薦められた和物を着ていらっしゃる様ですね。
「あのあの、ミズキ様それでは出発しましょう!」
「ええ、そうですね。と、その前にもう一つだけ。ミツキさん、イグニシアさんも宜しければお誘いしましょうか?」
「残念ながらイグニシアちゃんはアビスちゃんと一緒に仲良くお仕事中です」
「ラグナに一緒に居た時期が長いからでしょうか、二人とも一緒に居る事が多くなりましたよね」
「ええ、いつもアビスちゃんはプリシラちゃんにべったりでしたからね。ようやく輪に入れたようですね?」
「あの、次お出かけする際にはイグニシアさんもお誘いしますね」゜
「ふふ、その時を楽しみにしておきましょう。さ、行きましょうか」
「はい、いでよ水鏡に映せし境界よ!」
倭国品を通して水鏡に街を映しました。映っているのは幻城という名前のお城がある都ですね。知識はあれども、実の所……私も倭国へ行くのは初めてなのです。
ミズファ母様が修行をした国だと言っておりましたし、お買い物とは別の意味で楽しみになって来ていました。




