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五姫と過去の五姫

「そういえば、親善試合には九尾さんも出たがっておりましたね」


 戦いこそが生きがいとも言える九尾さんに親善試合のお話をしました所、有無を言わさず参加者に名を連ねました。恐らく、ある意味で一番恩恵を受けたのは九尾さんでしょう。


「あ、あの尻尾が九本もある方ですよね!」

「はい、もふもふですよ」

「もふもふですか……! あぁヤヨイも一度触ってみたいです」

「むしろ喜んで触らせて下さいますよ。それに、一度会っただけでヤヨイさんの事を気に入った様でしたし」

「そうなのですか?」

「強い方が大好きな人ですからね」


 九尾さんはアクアリースに帰還した私達よりも、大使として同行したヤヨイさんに大変な興味を抱いておりました。獣人としての勘なのでしょうか、アマテラスさんの力を感じ取ったのかもしれません。


「ヤヨイも九尾様を始めてお見掛けした時はびっくりでした。アマテラス様と殆ど変わらない魔力をお持ちの方なんて初めて会いました……」

「ミズファ母様に次ぐ強大な力を持った方ですからね。私も本気で戦っている所は未だに見てはおりませんけれど」


 九人に別れた九尾さんがそれぞれ妖術を扱う所までは想像できるのですが……恐らく、本気を出したらそんな生易しい物では無いでしょう。それだけでしたら私は防げますし、ミズファ母様も容易に凌ぐでしょう。


「九尾様にはご挨拶だけで、中々お話しする機会が取れなくて残念です……」

「ふふ、きっと九尾さんもヤヨイさんとお話ししたがっている筈ですよ。何でしたら倭国にお出かけする際に、九尾さんもお誘いしましょうか?」

「はい、是非お願い致します!」


 強い者は同じく強い物に惹かれる物なのでしょうね。親善試合はどの様な組み合わせになるかはまだクラウスさんから聞いておりませんけれど、ヤヨイさんと九尾さんは戦う事になりそうな気がします。


 ------


 更に三日程経った日の昼下がり。


 国務に一区切りをつけた私はクリムさんとクリスティアさんを交えて、お城の中庭にある庭園で紅茶を楽しんでおりました。


「一仕事の後の紅茶は格別ね」

「ご主人様の大陸の紅茶、とってもおいしいです~」

「紅茶を美味しく頂けるのはティニーさんのお陰ですけれどもね」


 空のティーカップに紅茶を淹れて下さっているメイドさんが傍にいらっしゃるのですけれども。


「おーーーほっほっほ! そうでしょう、そうでしょうとも。わたくしの紅茶は貴族が嗜むにふさわしい淹れ方ですもの」


 金色の縦ロールの髪と大きなお胸を揺らしながら高笑いをされているティニーさん。


 この方は過去の光姫で、シャウラ母様が水晶五姫として蘇らせた五人の内の一人です。現在は水晶五姫の役目を解かれ、アクアリースのメイドさんとして過ごしていらっしゃいます。とは言え、ほぼウェイルさんが目的の様ですけれども……。


「確かに、その場で温めてから入れてくれるティニーの紅茶は本当に美味しいわね。ミルクティーを初めて口にしたけれど、一口で虜になってしまったわ」

「おーーほっほ、今の世は魔法具でどこでもお湯を作れて、ミルクも新鮮なまま保存できて本当に便利ですわよねぇ」


 テーブルの上に平らで丸い形の魔法具があるのですけれど、その上に小さめの手鍋を乗せると温めてくれるのです。ティニーさんはミルクと茶葉と蜜をご用意して下さって、大変美味しいミルクティーをその場で淹れて下さったのです。


「毎日美味しいミカエラさんのお料理とティニーさんの紅茶を頂けて、私とっても幸せです」

「私もしあわせです~」

「欲を言えば美味しいチーズケーキを作ってくれると良いのだけれど」


 ミカエラさんなら作って下さる気がしますけれどもね。プリンなどをデザートとして作って下さいますし。


「あら? 皆さん此方でお茶会ですか?」


 後ろ側から声がかかり、振り向きますと。現在の光姫であるレイシアさんがいらっしゃいました。


「あ、こんにちはレイシアさん。お仕事中ですか?」

「こんにちはミズキ。休息を取りに庭園に足を運んだのですが、途中紅茶の良い香りに誘われてしまいました」

「でしたら、是非私達とご一緒致しませんか?」

「宜しいのですか?」

「はい、勿論です」


 席を立ち空席を引きますと、レイシアさんがスカートの裾を摘まみながら私に会釈して下さいました。そして、座る前にティニーさんに深々とお辞儀をしています。


「ティニー様、若輩の私が席をご一緒させて頂く事をお許し下さいませ」

「いいですわ、わたくし貴女の事はとても気に入っていてよレイシア」

「恐縮ですわ」


 このお二人はとても仲が良くて、光属性の最上級魔法についてティニーさんから指南を受けるレイシアさんの姿をよくお見掛けしたりします。


 これは他の五姫さんに関しても同じで、エリーナさんはメルローゼさんと良くお食事していたりしますし、ミカエラさんとミルリアさんが仲良く食事の用意をしていたりします。


 ただ、メイニーさんとエイルさんは帝国に滞在中ですので、ツバキさんとシルフィさんについてはその限りではありませんけれど。


「レイシア、親善試合に向けての鍛錬はしっかりこなしているかしら?」

「ええ、勿論ですクリスティア。ティニー様が私の鍛錬にお付き合いして下さっていますから」

「おーーほっほっほ! レイシアはとても素晴らしい才能を持っていますから、このわたくし直々に指導するに相応しい光姫の後継者ですわ!」


 シャウラ母様が水晶五姫として呼び起こしたのは、各属性において大変大きな功績を世に残した人物たちです。つまり過去から現在に至るまで、光属性においてはティニーさんの右に出るものが居ない訳ですね。


 でも長い時を生きるレイシアさんでしたら、恐らくティニーさんと同等以上の実力はあるとは思いますけれどもね。


「レイシアさんにとっては、親善試合のお話は余りに唐突だったのではないでしょうか」

「ええ、始めはそうでした。感動の再会に浸る間も無く親善試合のお話を受けた際は、何が何やらでした。ミズファとミズキが無事に帰って来てくれた事が嬉しくて、それどころでは無かったのもありますけど」


 ミズファ母様が感動の再会中に突然親善試合のお話しをする物ですから、五姫やエステルさんがとても困ったような表情をしておりました。あ、九尾さんは除きます。


「レイシアの様に思うのが普通よ。それでよく試合に参加してくれる気になったわね」

「私はいつもミズファに守られているばかりでした。ですから、より一層強くあらねばなりません。光姫を預かる身であればなおさらの事ですから、鍛錬の一環として考えれば歓迎すべき事です」

「レイシアさんはとても真面目な方なのですね」

「姫にその様にお言葉をかけて頂けると、大変励みになりますね」


 急に赤面して俯く私。姫としての立ち振る舞いにはなれてきたつもりでしたけれど、とっさに姫を意識されるとつい慌ててしまいますね……。


「あぁ、そうですわ! わたくし良い案を思いつきましたわよ!」

「ティニーさん、急にどうなさったのですか?」


 唐突にティニーさんが何かを思い立った様子です。


「五姫と元五姫で強化試合をするのですわ!」

「強化試合……五姫と五姫がですか?」

「おーほっほっほ! その通りですわよ! 実際に戦ってみなければ解らない事もありますから」


 高笑いしつつもしっかりと紅茶をレイシアさんに淹れる事を忘れないティニーさん。もしかしますと、ティニーさんは生前から面倒見が良い方なのかもしれませんね。


「如何かしらレイシア?」

「願ってもない事です。ティニー様、お気遣い感謝いたしますね。是非、お手合わせをお願い致します」

「宜しくってよ、おーっほっほっほ!!」


 その後、ティニーさんがメルローゼさんとミカエラさんにも強化試合のお話をすると言っておりました。五姫さん方の実力はほんの一部しか拝見しておりませんので、私個人としても強化試合をして下さるなら大変嬉しいです。


「それに、新たな魔法具の実験としても丁度良い機会ですね」

「新たな魔法具ですか?」


 そういえばレイシアさんは魔法具作成で大変有名な方でしたね。


「それはどの様な魔法具なのでしょう」

「まだ実験段階ですから、どの様な物かは強化試合までのお楽しみです」


 上品な物腰で不敵な笑みを零すレイシアさん。一体どの様な魔法具なのかとってもとっても気になります……。



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