魔消石
「宝石下さーーい!」
新たな通路へと進んだ私達なのですけれども。先程まで泣いていたクリムさんがより一層の気合の入れようでゴーレムを狩っています。恐らく精いっぱい気持ちを切り替えようとしているのだと思いますけれど……。
「クリムちゃん飛ばしてますねー」
「はい……あの、ミズファ母様」
「うん?」
「私いつもクリムさんに助けて頂いていたのに、彼女の初めてのお願いに応えてあげられなくて。とても申し訳なく思っております……」
「仕方ないです。魔物にしろモンスターにしろ、見つけたら即退治するのが人々の常識ですからね。今は頑張って耐えて貰うしかないです」
悲しい事ですが、ミズファ母様の言う通りです。例えこの魔物は無害ですよと訴えかけたとしても、じゃあ今の内に殺してしまおう、という事にしかならないのです。遥か昔から魔物の脅威に晒され続けて来た人々に、魔物を見逃すと言う常識は無いのです。
ですが……。怖がるスライム達を見た私は、不思議と見逃して差し上げましょうという気持ちになりました。どうしてそう思えるのかは自分でも良く解りませんけれど、ミズファ母様も同じ気持ちの様です。
「ミズキ、近い内にクリムちゃんをまたここに連れて来てあげましょう。僕とミズキは転移魔法で直ぐに移動出来るんですし」
「はい、そうですね。クリムさんが喜んで下るなら、日を決めて定期的に」
スライムは苦手ですけれど、クリムさんとスライムが戯れる光景はそこまで嫌という訳ではありません。気持ち悪くなるのは本当にどうしようもないのですが……。
ただ、スライムに会う上で一つ懸念点があります。
「ミズファ母様、この洞窟の魔物についてはクラウスさんに伏せて置くべきでしょうか?」
「あーそっか。この洞窟に居る魔物の事をクラウス陛下に報告しちゃうと、絶対スライムも討伐されちゃいますよね」
「はい……。ですので、ご報告する場合はちゃんと事情を説明して置かないといけません」
とは言え、事情を説明した所でクラウスさんが頷いて下さるとは思えません。スライムだけを見逃しい欲しいなんて都合の良いお願いが通るとは考えにくいのです。ただでさえクラウスさんは好戦的な方ですし……。
「んー……まぁ、そこは僕からもお願いしてみます。駄目ならこの大陸を救った功績を盾にしてでも頷かせて見せます!」
「有難う御座います、ミズファ母様」
「ご主人様ミズファ様~、宝石七個です~」
ミズファ母様とお話ししている間に、クリムさんが通路の先に居た沢山のゴーレムを全て一人で倒してしまいました。
「凄いですクリムさん。いい子いい子です」
「えへへ~」
なでなでして差し上げますと、悲しさを我慢して笑顔を繕うクリムさんにとても申し訳なく思う私。必ずまたここに連れて来て差し上げますから、今暫しの間我慢下さいね。
「そろそろ引き返しましょうかね」
「まだ奥まで通路が続いている様ですけれど」
「うん、でも原石は十分な量を確保出来ましたし、そろそろ魔消石を回収して帰りましょう!」
「解りました」
「はい~」
クリムさんがゴーレムを倒した分の原石を回収し、最初の分岐路まで引き返す私達。さて、この洞窟には後もう一種、棍棒の魔物が生息している筈ですけれど、今の所は遭遇しておりません。この様子ですと、この洞窟の主的な立場でしょうか。まぁ何れにしましても、このまま一度も会わずに帰る事になりそうです。
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魔消石の通路を進みますと、炭鉱夫さん方が使用していたらしき休息区域があり、その更に奥には壊れた滑車等も沢山ありました。今までの通路とは桁違いに広く掘られていて、線路が四本地面を走っています。
掘った土を運び出そうとしていた形跡などもあり、作業中に魔物に襲われたらしき痕跡が生々しく今でも残ったままです。
「んーと……。この辺りにある筈なんですけど」
大分進んだ通路の途中から、ミズファ母様が壁沿いを這う様に身体を当てながら歩き出しています。どうやら魔消石が埋まっている位置に着いたみたいですね。
「周囲から魔物の気配がしませんね~」
クリムさんが気配を探る様に周囲を見回しますが、私も魔物が現れる感じは一切しません。
「魔消石が近いからでしょうね。散乱していた滑車の区域がギリギリ魔物の出現範囲だったのでしょう」
それに加えて今進んでいるこの通路の奥に行けば、恐らく沢山の魔物が潜んでいる事でしょう。魔消石の効果範囲が通路の途中にある為に、洞窟の奥には相当な数の魔物が塞き止められていると思われます。
「あ、ここです!」
ミズファ母様が壁をポンポンと軽く叩きながら魔消石の在りかを指し示しています。ここからようやく私の出番となりますね。
結局私はこの洞窟で一度しか戦闘しておりません。殆どクリムさんとミズファ母様が倒してしまいましたので……。ですので、せめて発掘作業くらいはお役に立ちませんと。
「では私の水龍で壁に穴を開けますね」
「うん、お願いします! 魔消石はここから真っ直ぐ三百M位です」
「解りました」
壁に手を当てて、水の龍の大きさと飛距離を計算します。龍を放つ力が強すぎますと、魔消石を消滅させてしまいますからね……。丁度手前辺りで龍が止まる様に指示しておきましょう。
「水の龍よ、壁を貫きなさい」
私の声に応え現れた水の龍が真っ直ぐ人が通れる大きさの穴を作りながら壁を貫いて行きます。当然開けた穴は暗いですので、進む際には改めてミズファ母様に先頭をお任せします。
「これで通れる筈です。さ、ミズファ母様参りましょう」
「うん、ミズキ有難うございます! じゃあサクっと回収しちゃいましょう」
大して距離はありませんので、少し進むと直ぐに横穴は行き止まりになりました。そして、行き止まり部分に何か仄かに赤色に光を発する物が埋まっています。
「あ、何か光ってます~」
「あれですね、僕が視たのと同じ物です!」
「魔消石って暗闇の中で光を放つ石だったのですね」
近くに寄ってみますと、まるで宝石の様な材質をしています。まだ原石の状態だと思いますので、ここから磨けばとても美しい輝きを放つ事でしょう。
「この石さっきまでの宝石よりも綺麗です~」
「もう宝石の一種じゃないですかねこれ。僕が元居た世界には多分存在してないです」
「そう言えば魔消石で出来ている石碑も、描かれている文字が赤色に光を放っておりましたね」
あの石碑はこの石独特の性質なのでしょう。非常に不思議な石です。ともあれ、これで目的は達成ですね。ささっと回収して帰りましょう。
「では、血術空間にしまい込みますね」
剥き出しになっている部分に手を触れますと、瞬時に魔消石が消えました。別に完全に掘り起こさずとも、一部分に触れば血術空間の中に収納されます。今まで魔消石が埋まっていた部分はくり抜かれた様な大きな穴になりました。
「無事、回収完了ですね。じゃあ帰りますか!」
「はい」
目的を果たした私達は横穴を引き返し、通路に戻ります。
「それにしましても、結局棍棒の魔物に出会いませんでしたね」
「あぁ、そう言えばそうですねー。僕、途中記憶から消えてました。すっごくどうでもよかったですし」
まぁ、強大な力を持つミズファ母様にとってみれば、この洞窟に生息する魔物は取るに足らない相手でしょうし。
その様な会話をミズファ母様と交わしつつ通路に戻った私は、転移魔法を展開しようとした所で。
「ご主人様~洞窟の奥から何か来てます」
「魔物ですか、でもここは」
魔消石がある筈です、と言いかけて止めました。もう埋まっていた魔消石は血術空間の中でした。
「魔消石を回収したからですね……」
今私達がいる位置は他の行き止まりの通路と違い、採掘作業が本腰になっている区域です。その分、一定間隔で広い空間があり、通路も相当先まで掘り進まれている筈です。
そして、その通路の先から何かが此方に近づいている気配を感じます。魔消石が消えた事で、塞き止めていた蓋が無くなったからでしょう。
「今更出て来るとか、場違い感が凄いですねー……。なんていうか、舞台で出る場面間違えちゃった的な感じです」
奥から姿を現したのは、今まで遭遇しなかった棍棒を持つ魔物でした。この通路でなければ通れない程の巨体に翼竜の様な翼を持っています。恐らく飾り程度の物で飛ぶ事は出来ないでしょうけれども。
「予想以上に大きいですね……」
「行き止まりの通路だったら間違いなく通れないです」
さて、もう帰ろうとしていた所に水を差された形ですけれど、どうしましょうか。ミズファ母様の言う通り、今更出てこられても困ります。
「どうしましょう、無視して帰りますか?」
「ご主人様~、出来れば倒して帰りたいです~」
クリムさんが私のドレスをくいくいと申し訳程度に引っ張りながらそう言います。
「この魔物を放って置いたらきっと、スライム達の居場所が行き止まりだけになっちゃいます~……」
「あ、確かにそうかもしれませんね」
魔物同士だから仲がいいなんて事はありませんものね。この洞窟のスライムはとても温和な存在ですから、縄張り意識が強い魔物が居ればそれだけで肩身の狭い思いをする事になるでしょう。ゴーレムは単純に侵入者に対して反応していただけの様ですけれど。
「そー言う事なら話は別ですね。全力で潰しておきますか!」
「あの、ミズファ母様が全力を出しますと、洞窟が消えて無くなります……。ここは私にお任せください」
先程のミズファ母様の言葉をお借りするなら、この舞台の大取は私が頂きます。やっぱり横穴だけで出番が終わりなんて嫌ですし……。
「むー仕方ないですね。じゃあ僕は近くでお弁当を食べてながら応援しておきます!」
「え……」
「わーいお弁当です~」
途端にミズファ母様が収納空間から敷物を取り出して、食事の準備を始めました。つまる所、舞台の見学者に回った様です……。と言いますか、いつの間にお弁当など用意していたのですか……。まぁ、緊急時の非常食だと思いますけれども。
近くまで来ていた棍棒の魔物が気味の悪い唸り声を上げ始めてた所で、私の方からも魔物に近づいて行きます。
ミズファ母様に良い所をじっくり見て頂く絶好の機会ですし、張り切って魔物討伐と参りましょうか。




