天空城の終焉
第二矢を止める事に成功した事で、街の方角から魔道武器による祝砲が沢山撃ち上がっているのが見えました。恐らく、ラグナ全域で同じ様な光景が広がっている事でしょう。城の守備をしている兵士さん等も呼応するように空に向けて魔力を撃ち上げています。
「第二矢を止めたのはいいんですが、砲台を破壊したせいで天空城の下腹部が火災になってますねー」
ミズファ母様の言葉で私も空のお城を見上げますと、黒い筒が剥き出しになっていた辺りから黒煙が上がっています。
「仕方なかろう、全力を以てしてようやく第二矢を止められたのじゃ」
「最後は下手をすれば城ごと破壊しかねない所だったけれど」
まだお城には仲間が沢山残っていますので、下腹部の火災だけで済んで良かったと思います……。母様達の攻撃で相当お城が揺れたでしょうし、皆様は無事でしょうか。
「ねぇ、天空城が動き出したわよ……」
「え……?」
ゆっくりとですが、下に向けて空のお城が動き出した様です。と言いますか、これって動き出したと言うよりも……。
「落下してます落下してます!!」
「あー確かに落ち始めてますねー」
「やはり壊れておったか……」
「ど、どうするのですか。ラグナに落ちたら大変ですよ!」
冷静な母様達の中で一人、私だけが大慌てです。空のお城に居る仲間は迎えに行けばいいだけですけれど、その後が問題です。落下するお城を破壊すれば破片が飛び散って危険ですし、小島ともいえる程度には大きいですので、粉々に消し飛ばそうにも無限の魔力が無いと厳しいのです。
もうミズファ母様の無限の魔力は効果が切れていますし、魔力残量も少ない筈です。私はまだ余裕がありますけれども、血は殆どありません。シャウラ母様とプリシラ母様では破壊自体は出来ても、消し飛ばす事は出来ないでしょうし。あ、それ以前にシャウラ母様も魔族化粧の効果が切れてますね。
「んー……あの城、落下しつつ移動してるっぽい感じですね」
「ふむ、もしや誰かが動かしておるのではないか?」
「あり得るわね。何れにしても城に残っている皆を迎えに行かなければならないでしょう。ミズファ、ミズキ様子を見て来て貰えるかしら?」
「はい、プリシラ母様」
「僕はあと魔力回廊一回分程度しか魔力が残ってないので、行きはミズキに便乗させて貰いますね」
ミズファ母様に向けて頷き、直ぐに転移魔法を展開します。
「我は暫く力が出せん。後は二人に任せる」
「はい、では行ってきます」
水鏡に動力室を映し出して通りますと、直ぐに異常事態が起きているらしき状況にあるのが解りました。
「どーしよーどーしよーおしろがらぐなにおちちゃうー!」
「ん……取りあえずお城動いたけど、このままだとラグナの外に出る前に落ちる」
「少し黙っていろ。くそ、速度を上げるにはどうすればよいのだ……」
「そもそも、お城が火事なの。落ちる前に私達の丸焼き大放出なの」
制御盤付近に皆様が集まっていました。ラグナ陣営もいらっしゃる様です。見た所、クラウスさんが制御盤でお城を移動させたみたいですね。そして、所々の棺や機械から煙が出ており、時期に火の手が上がりそうな気配です。
皆様が制御盤を見つめている中、アビスさんが振り返り誰よりも早く私達に気づきました。
「あ、みずきとみずふぁだーー!」
「ただいま戻りました」
アビスさんが走り寄り、私とミズファ母様を交互に抱き着いています。
「すみません、僕の力不足で第二矢を止めるの失敗しかけた上にお城壊しちゃいました」
「ん、第二矢止めるの制御盤で見てた。全然力不足なんて思ってない。四人共凄かった」
「ヤヨイも見ておりました。皆様本当に素晴らしいお力です!」
皆様から暖かいお言葉を頂きつつ制御盤へと近づきますと、クラウスさんが忙しそうに透明な図の上で指を動かしていました。まだラグナは危機的状況にありますから、皇帝自らの手で救おうとしていたのでしょう。
「クラウスさん、無事第二矢は止めて参りました」
「戻ったか。すまないな……。他国の問題にここまで巻き込んだ責任はいずれ必ず取るつもりだ」
「そーいうのはいいですって。それよりもこの城をどうにかしないといけないですね。僕も手伝います!」
クラウスさんとミズファ母様の二人掛かりで指を動かし始めました。幸いにもお城の落下がとてもゆっくりなので、幾分かは余裕があるのが救いですね。
私ではこういう時全くお役に立てませんので、お部屋の中心に寝ているエルノーラさんを優しくなでつつ、周囲の棺に水を散布し火事になるのを防ごうと思い立った所で。制御盤の周囲にクリスティアさんと位階者のお二人がいらっしゃらない事に気づきました。
「あの、クリスティアさんと位階者のお二人は何処に行かれたのですか?」
「ん、城に居る天翼人の生き残りを迎えに行った」
「お迎えですか……。そういえば天翼人の女性方はお腹に子供がいらっしゃるのでしたね」
お城は今この様な事態になってしまっていますし、生き残りの天翼人さん達は私達を敵視している可能性が高いです。ただ無理が出来る体では無い筈ですし、その分危害を加えられる心配は無いでしょうけれど。
「えーと……多分この項目に…………ありました! これで城の移動を加速出来る筈です」
「既に確認済みのデータのつもりでいたが、見落としていたか」
どうやら作業に進展があったようです。空中に新たなモニターが現れ、北東に向けてかなりの速さで街の上を移動する光景が映っています。
「一応加速はしましたけど、方角は北東で大丈夫ですか?」
「あぁ、北東の山脈地帯には人の手が入っていない。丁度山の斜面に落下する形になるだろう」
「じゃあ後は脱出するだけですねー。天翼人を迎えに行った三人と合流しますかね」
「成るべく落下時の衝撃を最小限にしておいてくれるか。後に解析し、この城を我が帝国の技術発展の為に使い潰すからな」
「別に良いですけど、悪い事には使わないでくださいね」
「さぁな……」
クラウスさんがもし悪い人でしたら今に至るまで沢山私達の寝首をかけましたし、今更心配などしていません。ちょっと変な人ですけれど。
「んじゃ、火事になる前に上に戻りましょうか。あ、それとメイニーちゃん」
「はいなの」
「空気の清浄化はもう出来そうですか?」
「おーるおっけーなの。私の能力範囲内なら何人だろうと快適空間分譲中なの」
「流石はメイニーちゃんです! 暫くエルノーラちゃんを含めた天翼人と一緒に過ごす事になりますが、大丈夫ですか?」
「今まで窒息させる以外役に立たない能力だったけど、人を生かす使い方が出来て嬉いの。元々私は死んでる存在、生きているだけで幸せなの」
とっても謙虚ですけれど、以前は王都アウロラを操りエウラスを攻め滅ぼそうとしていた水晶五姫の一人だったんですよね。魔力は感じませんけれど、今は傷つけば血が出ますし、女の子の香りもします。これはもう、一種の蘇生能力を受けているような状態ではないでしょうか。
「ん、メイニー良い子。ミカエラに爪を煎じて飲ませてやりたい」
「いい子いい子ー」
アビスさんがメイニーさんをなでなでしています。同じ位の幼い子ですので、大変微笑ましい光景です。メイニーさんの表情がやたら幸せそうなのが気になりますが。
程無く動力室を後にして、上へと戻る私達。気を失っているエルノーラさんは私が背中に背負っています。とても軽くて全然重さは感じません。隣にはメイニーさんが付き添っています。
「はぁ……こんなにも皆様が様々な方面でお役に立っていると言うのに、ヤヨイときたら……」
若干一名、幸せそうじゃない方が居ました。通路を歩いている途中でヤヨイさんが大きな溜息と共に独り言です。
「私は十分ヤヨイさんも素晴らしい方だと思っておりますけれど」
「そうは言いますがミズキ様。ヤヨイ、このお城で何もしていません……」
魔道帝国・位階一位としての立場もあって、ヤヨイさんは責任感が人一倍強い子ですものね。気にし過ぎだとは思いますけれども……。
「ヤヨイよ、気を落としている暇など無いぞ。ラグナが落ち着き次第、貴様には重要な任に就いて貰うからな」
「陛下……それは本当で御座いますか? どの様な任務でしょうか」
「貴様は我が帝国の大使としてアクアリースに行け」
「ヤヨイが大使……で御座いますか?」
「なんだ、不服か?」
「い、いえ、陛下のご任命、謹んでお受けします!」
あっという間に落ち込んでいたヤヨイさんが元気になりました。成程……流石クラウスさん。ヤヨイさんの扱いに慣れておりますね。ミズファ母様達の船がありますので、ヤヨイさんを連れて帰る事は出来ますが……もっと別に帰る方法は無い物でしょうか。
この大陸に来た当時の目的を思い出して、一人で思い悩みつつ上へと戻りますと。
「ミズキ、帰っていたのね」
「クリスティアさん!」
丁度、地下へ続く階段の近くまでクリスティアさん達が戻って来ていました。そして、位階者のお二人の更に後ろに、今まで中々会う機会が取れずにいた天翼人の女性達がいらっしゃいます。
人数は五名、どの方も見た目は十六歳前後と言った所でしょうか。皆さんからの敵意は一切感じられません。むしろ天翼人の皆様から感じる雰囲気はまるで、捕らわれた囚人の様でした。




