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エルノーラ

 ミズファ母様とヤヨイさんに助けて頂いた私は、浮遊魔法によってふよふよと浮きながら研究施設内を移動しています。目指すのはエルノーラさんのいる場所です。


 学院の中から感じていたエルノーラさんの大きな魔力は、今は殆ど感じられません。この様子ですと、囚われていた学生達と同じ様な仕打ちを受けている可能性があります。残念ながら部屋の中に囚われていた学生の皆様は全員死亡していますけれど……せめてエルノーラさんだけでも助けなければなりません。


 部屋から外に出ると直線の通路があり、部屋の入り口が数か所に点在しています。驚いたのは入り口の作りで、私達が近づくと突然二つに割れて開いたのです。エルノーラさんの魔力が感じられる方角に向かってミズファ母様が走り出しましたので、壁を破壊して進むのでしょうと思っていたのですけれど……勝手に開きました。


「ミズファ母様……この通路にある部屋の入り口は全て、二つに分かれて開く仕組みなのですか?」

「うん、自動ドアっていう物ですね。ドアの近くにセンサーがあって、人が近づくと感知して自動的に開く仕組みなんです」

「……せんさー?」

「つまりですねー、門兵さんの役割を機械と呼ぶ物が代わりに行っているんです。この施設は全て、機械で自動管理されている訳です」

「……」


 さっぱり解りません……。けれど、この研究施設が高度な文明で作られた物、という事だけは理解出来ました。


「ヤヨイが一人でミズキ様を助けに来ていたら、きっと施設の入り口すら見つけられなかったと思います」

「そこはさっきみたいに刀で斬って進めばいいんです! まぁ大体の目星をつけて転移したら研究施設内だったのが大きいんですけどね」

「お二人とも……もっと計画的に動いて下さい……」


 大体の目星って……。ここには敵となる魔物もいませんし、警戒すべきユイシィスさんも不在だから良い様なものの……。それに転移した先が罠の上だったりしたらどうするのですか、全く……。


「まぁ、そこは結果オーライと言う事で! あ、ヤヨイちゃん止まって下さい」

「どうされました?」

「どうやらこのエレベーターを使えば上に行けそうです」

「えれ? 何ですか?」


 ミズファ母様が通路の途中にあった扉の前に立ちますと。勝手に扉が開き、その中に入りました。部屋の中はとても狭い小部屋で何も無く、異質な作りになっているという印象しかありません。


「あの、ミズファ母様。どうやら行き止まりの様ですけれど」

「まぁ、普通はそう思うでしょうね。ちょっと待ってて下さい」


 私は一度地面に降ろされ、ミズファ母様が小部屋の壁に数回触れますと。


「きゃあ!?」

「きゃあああ!?」


 突然床が動きました。ヤヨイさんと二人で悲鳴を上げる私。予想外の出来事で混乱しておりますが、何か上に向かって動いている様な感覚があります。


「な、何ですか……罠ですか!?」

「ミズキ落ち着いて下さい。これはエレベーターって言って、自動で他の階へ連れて行ってくれるんです。僕が元居た世界にもありましたよ」

「こ、これも機械という物ですか?」

「んーまぁ、そうですね」


 異世界はとても高度な文明なのですね……。不可解過ぎて頭痛が酷くなった気がします……。エレベーターは一分と経たずに止まり、私は再び浮かされて小部屋から出ますと。


 ようやく見慣れた景色が広がりました。


「ここって、元老院の建物の前ですよね」

「ヤヨイも見覚えがあります。初めてきた場所がここでしたね」


 エレベーターは元老院の隅に作られており、空の上に浮いている様な感覚へと切り替わりました。


「成程、これが元老院の中から見た景色なんですねー」

「外側からは中が全然見えませんのに、内側からは透き通った空の景色が広がって、とても素敵ですよね」


 気分も優れてきましたので、ミズファ母様に浮遊魔法を解除して頂きました。まだ多少貧血気味ではありますけれど。


「ミズキ、体調は回復しましたか?」

「広がる空の景色を見たら、気分も大分優れました」

「うん、良かったです。回復力が人並外れているお陰ですかねー」

「それは人ではないという事でもありますし、余り喜ばしくは無いのですけれど……。それより、エルノーラさんはやはりこの建物の中にいらっしゃる様ですね」


 元老院という名のお屋敷の中から、僅かな魔力を感じます。お屋敷の正面へと移動しますと、立派な門構えの入り口があります。鍵がかかっている可能性も考えましたけれど、扉は普通に開きました。


 そして、お屋敷の中へと入りますと。赤い絨毯が入り口から左右に伸びる通路へと続いており、目の前には二階へ続く階段があります。至って普通の貴族のお屋敷、といった内装でした。


「ここが、元老院の中……ですか」

「普通のお屋敷ですよね」

「エルノーラという子はどうやら二階にいるみたいですね。特に屋敷から危険な感じはしませんし、行ってみましょう」


 ミズファ母様が先頭となって、目の前の階段を上って行きます。二階も階段を中心として通路が左右に伸びていて、右側の通路からエルノーラさんの気配を感じます。


 奥から数えて三番目の部屋がエルノーラさんの私室の様です。他に住んでいる方がいらっしゃいませんので、一概には言えませんけれど。


「エルノーラちゃん私です、ミズキです。中に入りますね」


 返事が返ってくるとは思っておりませんので、急いで部屋の中へと入りますと……。


「これは……」

「え……何ですか、これ?」


 ミズファ母様とヤヨイさんが同時に驚愕しています。私は余りの事に声すら出せませんでした。


 床には描きかけの絵と筆があり、沢山のぬいぐるみがベッドや小棚の上に並べられています。一見すればとても可愛らしい室内なのですが……。


 部屋の中心に「それ」はありました。


 機械と思わしき円で作られた物の中に、赤色の魔法陣が描かれています。そしてその魔法陣の中に、半分ほど体が埋まったエルノーラさんの姿がありました。気を失っているらしく目は瞑っており、口と鼻から血が流れています。


「エルノーラさん……?」


 半ば無意識に問いかけていましたが、エルノーラさんは返事を返して下さいません。


「何が起きているのですか……何故エルノーラちゃんは埋もれてるんですか?」

「解りません……解りませんけど、早く助けないといけません」


 直ぐにエルノーラさんへと駆け寄って魔法陣に埋もれた体を持ち上げようとしますが、まるで固定されたようにビクともしません。


「ミズファ母様、これも機械なのですよね? 何か知りませんか?」


 すがる様に問いかけますが、ミズファ母様はとても厳しい表情をしつつ首を横に振りました。


「正直言って僕でも構造が解りません。この大陸の魔道技術と機械が融合した物だとは思いますけど……」

「ヤヨイもこんな物を見るのは初めてです……。魔道炉の常識を大きく逸脱しています」

「……」


 こうしている間も、ほんの少しずつエルノーラさんの体が魔法陣に埋もれていっています。何より血を流していますので、体調その物の方が心配です。直ぐに解決方法を見つけないといけませんが、お二人の知識をもってしてもこの魔法陣が何なのかは解らない様でした。


「どうすれば……魔法陣を止める方法……」


 考えなさい私。人ならざる力を持った私ならば、不可解な問題にも対応出来るでしょう。今がその時では無いのですか。


 魔法陣をもう一度よく見ます。魔法陣は赤い文字で描かれ淡い光を放ち、その中にエルノーラさんは埋もれている形です。顔から流れた血が魔法陣の上へと滴っており、その姿を見ているのがとても辛く、せめてハンカチで血を拭って差し上げようと思い立った所で。


「……あれ」


 よく見ますと……エルノーラさんの顔から滴った血は、魔法陣の上に落ちた形跡がありません。更に一滴血が落ちた所で、不審な点に気づきました。魔法陣の模様が増えたのです。


「まさか……」

「ミズキ、どうしました?」

「この魔法陣は……エルノーラさんの血を吸収して動いているのかもしれません」

「血ですか……? 言われてみれば血だまりが出来ていてもおかしくないですよね……」

「では、エルノーラちゃんの止血をしてあげましょう!」


 止血……。血を止める……。血……。


「そう、そうです血です!」

「き、急にどうしたんですかミズキ!?」

「見ていてください」


 私は魔法陣に触れて古代血術(エンシェントブラッド)を展開します。そして、私の血を魔法陣の中へと潜り込ませます。


 見た事の無い術式が血を通して私の頭の中に流れ込んできました。恐らく、天翼人が持つ本来の言語で組まれた魔法の様な物でしょう。これを私の血で書き換えて、魔法陣の機能を停止させるのです。術式の内容を知る必要はありません。この魔法陣を壊す、それだけですもの。


 少しの間、私の血で術式を上書きしておりますと、魔法陣が赤い光を失い、溶ける様に模様が消えていきました。


「……これで良い筈です。 ミズファ母様、ヤヨイさん、エルノーラさんの引き上げを!」

「はい!」

「何をしたのか解らないですけど、了解です!」


 二人がエルノーラさんの体を引っ張り上げますと、何の抵抗も無く消えた魔法陣から抜け出しました。直ぐに床に寝かせますと、ミズファ母様が強力な回復魔法をかけます。


「直ぐには目を覚ましてはくれない様ですね……」

「万が一の事があっても、僕がいるから大丈夫です。蘇生魔法は伊達じゃありませんからね」


 エルノーラさんの血は魔法陣から抜け出した時点で止まり、特に外傷はありません。そして、暫く様子を伺っていますと……。


「ん……」


 ようやく、エルノーラさんが瞼を開きました。


補足書き。


ミズキは腕輪によって能力を封印されている筈なのに何故エンシェントブラッドを使えたのか、という点は次話で触れさせて頂きます。

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