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魔力結晶の意志

「どうやら手に馴染んだようじゃのぅ」


 頂いた魔道武器の手触りを確認しておりますと、学院長が長い白髭を弄りながらそう私に言いました。そんな学院長に向けて、満足感一杯に頷き返します。


「はい、まるで……今まで所持していたかの様に、一切の違和感が無いのです。そして、この魔道武器は私の事を受け入れている様に感じます」


 私のお返事に対して学院長がふぉっほっほっと軽快に笑い、何かに納得したように頷いています。


「魔道武器には偉大な初代皇帝の英知が宿っている、と言うのは授業で習っておるな?」

「はい、クラスCに在籍していた際に」

「うむ。して、魔道炉に使われる魔力結晶という物はじゃな、一定の大きさを越える物に限り、意志を持つとされていてのぅ。使い手と共に成長すると、初代皇帝が遺した文献に記されておる」

「意志を持つ……ですか?」

「うむ、わしもそのような魔道武器は見た事は無いがのぅ。意志を持つ魔道武器は余りに希少性が高く、実証も出来んので授業では教えておらん。だが意志を持つまで行かずとも、その身に神にも等しい力を宿せる程の魔道武器ならば、一振りだけ存在しておる」


 今のお話を聞いた私は、直ぐに合同実技訓練の際にヤヨイさんと戦った時の事を思い出しました。


「あの、それはもしかして……魔道帝国・位階一位(マスタースペルム)の事ですか?」

「うむ。察しの通り、ミズキ嬢の護衛をしているヤヨイじゃよ。二年ほど前になるかのぅ、強力な魔物との一戦で、あの子が一度神降ろしと呼ばれる能力を使ったのを目にした事があるんじゃ」


 クラスCとの合同実技訓練の際に、ヤヨイさんが使用していた能力がまさにそれでした。私はアマテラスさんと呼ばれる神様を実際に降ろした所を見ています。つまり、そんなヤヨイさんの魔道武器はかなりの魔力に耐えられる逸品と言う事になりますね。


 とは言え……魔力適正を測る際に、ヤヨイさんからお借りした大事な魔道武器を壊し掛けたんですよね私……。もし壊してしまっていたら、一生を捧げても償えそうにありません。


「ヤヨイさんは本当に素晴らしい魔力と能力をお持ちですものね。いつも彼女の力には驚かされてばかりです」

「そうなんじゃよ。初代皇帝の生まれ変わりとまで称される今代の魔道帝国・位階一位(マスタースペルム)。その上の存在などおらんとずっと思っておったんじゃ。だがのぅ……その様な魔道武器を見せられては、考えを改めねばならぬのぅ」


 私の手にある魔道武器を見つめつつ、またもや軽快に笑う学院長。ヤヨイさんは一般の方々には余り認知されておりませんけれど、学院長の様な地位の高い方からは大変好評のようです。ヤヨイさんはまだ私とそれ程変わらないお歳頃ですのに、しっかりしていますものね。


 私と変わらない……と言いますか。そう言えば私って生まれてまだ一年位では……。あ、駄目です。この考えは早急に止めましょう。何故かむなしくなります。


「今はミズキ嬢に大きな関心があるが……皇帝から余計な詮索をするなと釘を刺されておってのぅ。実に残念でならん。ミズキ嬢からは大した魔力を感じぬのに、その手の魔道武器は確かに主と認めておる。興味深いのぅ」

「あはは……」


 笑って誤魔化すしかありません。あれこれ説明しますと、とんでもない事になりそうですので……。今は皇帝さんに感謝をしておきます。


「さて、そろそろ授業が始まる頃かのぅ。わしからの要件は以上となる。その魔道武器は今日からミズキ嬢の物じゃ、大切に使ってやりなさい」

「はい、有難うございます。ずっと大切にしていきますね」

「あぁ、そうじゃ。もし魔道武器が意志を持つと感じたなら、わしに報告してくれんかのぅ。老いぼれたとはいえ、探求心は未だ魔道を志した若い頃のままじゃて」

「はい、その時はまたここへ参りますね」


 頂いた魔道武器を大切に抱えて席を立ち、深々と学院長に向けて一礼をします。その後、失礼しますと告げて学長室から退出しようとした所で、一つ思いついた事がありました。


「あの、学院長。一つだけ宜しいでしょうか?」

「言ってみなさい」

「学院長は元老院にいらっしゃる方と面識は御座いますか?」

「勿論あるが、元老院がどうかしたのかの?」

「ええと、空に浮かぶ球体に元老院があると聞いて、どのような所か興味が御座いまして」

「ふぅむ……。すまんが、一般の者には元老院について詳しく話す事は出来んのじゃ。だが……それ程の魔道武器を扱う者であれば、いずれ元老院から声がかかるかもしれんのぅ」

「解りました。引き続き優秀な成績を残せるように精進致しますね」


 頑張りなさい、と学院長から言われた所で再度お辞儀をしてから退出しました。やはり元老院については早々には教えては頂けないのですね。


 学院長にも言われた通り、今の私にはこの魔道武器があります。この武器はいわば、この大陸における私の強さをそのまま形として表した様な物ですので、これを見せれば流石の天翼人も無視は出来ないでしょう。手にした魔道武器を見つめた私は、計画が大幅に短縮できそうな予感を感じていました。


 ------


「妓の部門、二回戦目の参加者にお知らせします。参加者番号十三番、及び九十六番の試合を開始します」


 午後から行われている麗華祭、その二日目。今日も沢山の人々が学院を訪れ、舞台周辺と露店通りは大変な賑わいを見せています。


 既に本日分の舞台演目を終わらせた私達は、初日に回っていなかった露店を巡りつつ楽しんでおりますと。妓の部門参加者の呼び出しがありました。九十六番は私の番号です。


「ふむ、ミズキの出番の様じゃな」

「はい。それでは行って参りますね」


 いそいそと、実技訓練用地へ向かおうとした所、直ぐにシャウラ母様に呼び止められました。


「ミズキよ」

「はい?」

「我らも試合を見に行くぞ。お主が手に入れたばかりの魔道武器がどの様な物か、見ておきたいからの」


 シャウラ母様に同意する様にヤヨイさんが頷き、クリスティアさんとエイルさんも初めからそのつもりと言わんばかりに、先に実技訓練用地へと歩いて行きます。


「いよいよミズキ様が魔道武器を振るわれるんですね! ヤヨイ、とっても楽しみです」

「ま、まぁ確かに魔道武器を試したいとは思っておりましたけれど……」


 まるで自分の事のように嬉しそうなヤヨイさん。今朝、私の魔道武器が完成した事を皆様に報告した所、誰よりも喜んでいたのはヤヨイさんでした。ここまで期待されますと、下手な試合は出来ませんね。


 まだ一度も魔道武器を使用した事がありませんので、色々と模索しながらの試合となりそうです。頂いた魔道武器は既に私の手足の様に馴染んでいますので、立ち回り自体は特に心配はしておりません。


 けれど、今まで魔法を直接展開しておりましたので、魔道炉を介して能力を展開するのは初めての事となります。力の加減等もありますし、この辺りは戦いながら覚えていくしかありませんね。


「ミズキよ。魔道武器を扱った戦いは、今から行う試合が初めてとなるな?」

「はい、シャウラ母様」

「一つだけ注意せねばならん事がある。魔道武器はほんの少しの魔力を反応させるだけで、大きな力に変化する。故に普段展開しておる魔法と同程度の加減の仕方では駄目じゃ」

「感覚的にはどれほどの加減が必要なのでしょう?」

「そうじゃな……学生が相手であれば、殆ど魔力を反応させる必要などなかろう。加減したつもりで魔道炉に魔力を反応させると、予想以上の力が溢れるからの。この助言がなければ相手を殺してしもうたかもしれぬ」


 正直申しますと、始めは普段展開する魔法と同程度の加減を想定しておりました。もしそのまま試合に臨んでいたら……。考えるだけで恐ろしいです。


「わ、解りました。普段以上に魔力を加減するように努めます」

「うむ。では試合に向かうとするかの」


 シャウラ母様の後ろをついていく形で歩き出しますと、血術空間(ブラッドスペース)に収納してある魔道武器が喜んでいる様な気がしました。私の事をとても気に入って下さったようですね。この魔道武器とはこの先ずっと仲良くしていけそうな、そんな予感がしていました。


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