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それでも私は

「あの、母様……それは本当なのですか……?」


 聞き間違いの可能性を考慮して、念の為に確認の質問をしてみますと。母様は頷き、間違いありませんよと言いました。今まで母様だと思っていた方が父様で、始めは敵だと思っていたシャウラさんが本当の母親で……。プリシラ母様も居て……。


「私、何が何だか解らなくなってきました……」


 私はこれからどうすればいいのでしょうか。母様を父様と呼ぶべきなのでしょうか? それと同時にシャウラさんを母様と認めなければなりません。今のシャウラさんの事はとても好ましく思ってはおりますが……本当の母親だと言われますと、流石に直ぐには受け入れられない面もあります。


 母様もそうです。実は父親でしたと言われましても困ります。そもそも、母様はとても可愛らしい女の子ですし、そんな方を父様と呼ぶだなんて……。


「ふむ、まぁ大方予想通りの反応じゃな」

「うん、やっぱり僕のせいでミズキを混乱させちゃいましたね」


 両親という事になる母様とシャウラさんは、私に真実を告げた後から寄り添うに一緒にいます。学院からお屋敷に帰る際に乗っていた馬車の中でも二人は隣同士でした。別段何かをお話ししたりする訳でも無く、静かに寄り添っているという印象です。


「ミズキ、僕達が突然変な事を言い出したのは謝ります。だから、どうか僕達の事を嫌いにならないで下さい……。ミズキに嫌われたら僕、きっとショックで立ち直れないです……」

「……」


 嫌いになんてなる訳がありません。母様は私の心の拠り所で、私の生きる理由で、私の全てです。でも今は、その気持ちを母様に伝える事が出来ませんでした。


「ミズキよ。我は嫌われていても構わぬ。じゃが、佑都だけは……どうか好きなままでいてやってはくれんか。我はお主ら全ての者に決して許されぬ事をした。嫌われても文句など言える立場には無いからの。母親だからと、全てを無かった事にするつもりは無い。ただ、本当の事だけは伝えておきたかったのじゃ」

「……」


 シャウラさんは以前、ミカエラさんを利用し一つの街を壊滅させ、沢山の人の命を奪いました。きっとエステルさんは、母国である神都エウラスの民を殺めたシャウラさんの事を許してはくれないでしょう。その上でシャウラさんは元居た大陸に戻れた時、罪を償わねばなりません。


 視線を膝に落とし、考え事をしていた私は両親に視線を向けますと。とても心配そうに私を見つめている母様と、私と同じ様な形でシャウラさんが俯いていました。恐らく自責の念に駆られているのでしょう。


 そんな辛そうなシャウラさんを見て……私は思います。


 私の母様となる筈だった魂と同化して、改めてこの世界に生まれたとシャウラさんは言いました。でしたら……私の中で答えはもう決まっています。


 エステルさんの気持ちは痛い程に解るつもりでおります。ですがそれでもシャウラさんの、本当の母様の重荷を一緒に持ってあげたいと私は思っています。復讐に駆られた水晶はもう居ません。今目の前に居るのは、古代魔法具では無く一人の女の子です。


「母様、この様な事が前にも一度ありましたよね」

「え?」

「私が初めて母様と出会った時の事です。あの時の私は、母様が親だったと言う事実を受け入れられず、クリスティアさんに怒られてしまいましたよね」

「あーそんな事もありましたね」


 私が苦笑しますと、クリスティアさんがプイっとそっぽを向きました。今の私はあの時と似た様な状況ですけれど、その時とは全く事情が違うという事もあるのでしょう。クリスティアさんはただ黙って私達の会話を聞いています。


「あの時の私は……直ぐには母様を受け入れる事が出来ませんでした」

「それは……ミズキだって歳頃の女の子ですから、気持ちの整理とかありますし」

「そうですね……私は余り頭が良くありませんので、あの頃の様に理解が追い付かず先程は大変混乱してしまいました。私は何も変わっていませんね」


 体は成長しない私ですけれど、心は少しずつ大人になっていると思っていました。でもまだまだ子供のままの様ですね。けれど今は……それでいいと思っています。だって、その方が親に甘えられますもの。


「直ぐには僕達の事を理解出来なくても、それは当然だと思います。どれだけ時間がかかっても僕はミズキが受け入れてくれるのをずっと待ちます」

「いいえ、母様が待つ必要はありません」

「え?」


 私はソファから立ち上がり、母様の後ろに立ちます。そして、優しく母様を抱きしめました。クラスSの建物の裏手で、私の事を抱きしめて下さった時の様に。


「ミズキ……?」

「私は母様を受け入れます。流石に父様と呼ぶのは恥ずかしいですので、ミズファ母様って呼びますけれど」

「僕の事、受け入れてくれるんですか? 今まで女の子だと思っていた人が以前は男だったんですよ?」

「今の母様は、こんなにも綺麗な銀色の髪を持つ、大変可愛らしい女の子ですよ? 以前が男だとか、私には関係ありません。今を生きる私にとって、母様は母様ですもの」

「ミズキ……」


 次に、隣に座るシャウラさんの後ろへ立ち、母様と同じ様にそっと抱き締めます。


「ミズキよ……何も無理に我まで受け入れる必要は」

「全然無理なんてしていませんよ。シャウラ……母様」

「む……。我を、こんな得体の知れぬ我を、母様と呼んでくれるのか?」

「異世界で生きていた、私の母様になる筈だった本当の母様。ここにいるという事は、本来の世界にはもう存在はしていないのですよね」

「……うむ。佑都を亡くし、一人となった我は悲しくて……毎日泣いて過ごしておった。佑都の居ない世界に耐えられんかった我は……いつしか自らの命を絶っておったのじゃ」


 手に力を込めて、ぎゅっとシャウラ母様を抱き締めました。父様となる筈だったミズファ母様を追ってこの世界に来たんですね……。沢山辛い思いをして。


「気づけば、我は異界と異界の狭間を漂っておった。水晶であった頃の我が受け入れるまでは、そこがどのような場所かは知らず、何もない空間を自失したままでさ迷い続けたのじゃ」

「でしたら、水晶には感謝しなければなりません。私の母様を救って下さった、恩人なんですもの」

「恩人など……そんな大層な者では無い。我は沢山の命を奪った罪深き道具じゃ」


 後ろから見るシャウラ母様の横顔は、とても悲しそうな表情でした。本当の母様はこの世界で新たな人生を歩むにあたり、罪を背負った状態で生まれたのです。きっと、水晶としての意識がそれを申し訳なく思っているのではないでしょうか。


「私は、シャウラ母様と一緒です。シャウラ母様の罪は、私が一緒に背負います」

「馬鹿を言うでない、お主が我の罪を背負う必要など微塵も無い」

「それでしたら、本当の母様にだって何の罪もありません」

「む……」

「シャウラ母様。私はこれから貴女の娘としてずっと傍にいます。ミズファ母様だって一緒です。そうですよね、ミズファ母様?」


 ミズファ母様にそう問いかけますと。勿論ですよと言って、シャウラ母様を隣から抱きしめました。


「おぬしら……」

「実を言えば、学院にはミズキの授業参観のつもりで来たんです。そうしたら、もう二度と会えないと思っていた恋人に再会する事が出来ました。姿こそ変わってしまった僕達ですけど、失ってしまった過去の分も含めて三人一緒にこの世界で幸せになる権利がある筈です」

「……」


 シャウラ母様が次第に泣き出しました。泣く姿を初めて見た私は、優しくシャウラ母様の頭をなでます。突然のミズファ母様との再会を経て、今の私はとても幸せです。プリシラ母様も含めて、三人の母様が出来たんですもの。


 この世界に生まれた私は親に会う為に旅を始め、ミズファ母様と出会いました。そして今、親に会うという目的は、本当の意味で達成されたのでした。


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