唐突な真実
「ええーーーー!?」
母様とシャウラさんが戻ってくるまでの間。花園にある長椅子に座り、ヤヨイさんにプリシラ母様とミズファ母様の紹介などをした所、当然の様に驚かれました。
「先程の銀色の髪の女の子がミズキ様の母君なのですか!?」
「はい、そうですよ」
「じ、冗談ですよね?」
「ヤヨイ、信じられないのは無理も無いけれど、本当の事なのよ……」
クリスティアさんにそう言われても、ヤヨイさんはまだ納得がいっていない様子。まぁ、私と母様の見た目は同じくらいの少女ですから無理もありません。姉妹と言う事でしたら、直ぐに納得して頂けたのかもしれませんけれど。ヤヨイさんはそのまま黙り込んだ後、何やら考え事をし始めた様です。
「……」
「ヤヨイ、何か深く考えているようですが、念の為言っておきます。ミズキの親は聖王女で間違いはありませんが、実際に産んだ訳ではありません」
「え!? あ……そ、そうですよね!」
エイルさんの言葉通りの事を考えていたらしいヤヨイさんが、何やら安堵したような表情です。余りに純真な娘さん過ぎます。
「ミズキの事は実の娘だと思っているけれど、残念ながら血の繋がりは無いのよ」
「そうですか……。ではやはり……」
プリシラ母様の言葉の後、ヤヨイさんが悲しそうな表情で私を見つめています。確かに血の繋がりは無いのかもしれませんけれど、プリシラ母様は私の事をとても大事にして下さっています。それだけで十分幸せな事だと思っているのですけれど。何故ヤヨイさんは悲しい表情になっているのでしょう?
「あの、では……ミズキ様の本当の母君は他にいらっしゃると言う事ですよね?」
「え!?」
その返しは全く想定していませんでしたので今度は私が驚く番でした。成程……恐らくヤヨイさんは、私の事を母様に貰われた子か、或いは拾い子の類と思ったのかもしれません。
「あのヤヨイさん、私の母様は……」
「無理して言わずともいいのです。ミズキ様はきっと、とても辛い日々を送って来たに違いありませんから」
「いえ……そうでは無く」
「ヤヨイも母になりましょうか?」
「それは結構です」
「即答ですか!?」
またもやしょんぼんりするヤヨイさん。純粋過ぎますと、何処から何処までが冗談なのか解らなくなってしまいますね……。今のは本当に私の母親になろうとしての発言だとは思いますけれど。……いえ、その方が問題ですね……。
「ヤヨイ……少し落ち着いて話を聞きなさい」
「ご、御免なさいクリスティア様。ヤヨイは少しでもミズキ様のお役に立ちたくて」
健気なヤヨイさんの頭をなでつつ微笑む私。最近ヤヨイさんをなでるのが日課になりつつあります。
「ヤヨイさんのお気持ちは大変嬉しく思っていますよ。ですが、私は全然何も苦に思っていません。二人の母様がいる、それだけで幸せですから。それ以外に理屈なんて必要ないのです」
「その事なのだけれど、そこの倭国風の子は確かヤヨイと言ったわね。ミズキ、その子が言っている事は的を得ているわよ」
「ふぇ?」
プリシラ母様が真剣な眼差しで私を見つめています。表情からして冗談を言っている訳では無いようですね。的を得ているとはどういう意味でしょう?
「あの、それは一体……」
「貴女に本当の母親が居る、という点についてよ」
「本当の母親……?」
プリシラ母様は何を言っているのでしょう。狭間のお姉さんのお話しを重ね合わせてみても、間違いなく私の母親はミズファ母様だけの筈です。
「ミズキ、貴女は一度でも父親の事を考えた事はあるかしら?」
「父親……?」
「その様子だと無いようね?」
「あの、はい……」
何故今まで父親の事が頭に無かったのでしょうか。母様がいるなら、当然父様も何処かに居る、という事になりますよね。生まれたばかりの時の私は親について何も知りませんでしたけれど、今は十分に知識として備わっています。
ですが、プリシラ母様に言われるまで父様という存在について一切考えもしませんでした。まるで、存在していなかったかのように。何か妙な違和感を感じます。この気持ちは一体……。
「皆、戻りましたよ!」
ふいに私達に向けて声がかかりますと、花園の奥から歩いて来る母様。その後ろにはシャウラさんもいらっしゃいます。
「ミズキ、貴女の疑問は直ぐに解けるわ」
そう言って、プリシラ母様はヤヨイさん等も連れだって、私から少し離れていきました。まるで、私と母様とシャウラさんの三人だけにしようとしているかのように。取りあえず、戻ってきた母様達を出迎えます。
「母様、シャウラさん、お帰りなさい。ご用事はもう良いのですか?」
「うん、もう大丈夫です。それより、ミズキに言っておかないといけない事があります」
「はい、何でしょう?」
母様の事を不思議な顔で見ていますと、シャウラさんが近づいて来て、そっと私を背中から抱き締めてきました。
「あ、あの……シャウラさん、どうしたのですか?」
「……」
「シャウラさん?」
「いつ言えばよいじゃろうかと、悩んでおったが。佑都に出会ってから、我の気持ちに決心がついたようじゃ」
「え? あの、何を言って」
「ミズキ、お主はな。本来、我が産む筈であった魂なんじゃ」
「……え。…………ええーーーーー!?」
先程のヤヨイさんと同じ様な甲高い声で驚く私。余りに唐突で、余りに衝撃的で、私の理解が追い付いてきませんでした。
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その日の夜。大変な盛り上がりをみせた麗華祭は沢山の一般の方々で賑わい、無事に初日を終える事が出来ました。
麗華祭の事は大事ですけれど、シャウラさんから唐突な真実を告げられましたので、詳しいお話を聞く為に母様達を連れて早々にお屋敷へと帰って来ていました。
一階にある大きな居間に集まり、皆様がソファに座っています。人数分の紅茶が用意され、メイドさんが退出した所で、私からお話を切り出しました。
「あの、麗華祭中でしたし、一先ず保留と言う事にしていた先程の件なのですが……」
「うむ」
「シャウラさんは私を産む筈だった、と言いましたよね? それは一体どういう意味なのでしょうか」
「言葉通りの意味じゃ。まぁ、幾度となく命のやり取りをした手前、理解出来ぬのも当然ではあるがの」
紅茶を手に、シャウラさんが元々の大陸に居た時の事を振り返っています。シャウラさんと初めて出会ったのは、エルフの国の花畑にあるダンジョンでした。水晶玉が人の姿を取った所を私は見ています。
「我は古代魔法具を統べる一つの道具に過ぎん。これは変わらぬ。初めは大陸中に封印された古代魔法具を集め、人間を根絶やしにするつもりでおった事もな」
「それでは、私とシャウラさんの繋がりは全く無い様に思いますけれど……」
「まぁ、黙って聞くがよい。今思えば、我の体は初めから魂の入れ物として用意されておったのやもしれん。我はな、お主とこの大陸に転移した僅かな間で、異界と異界の境界に飛ばされたのじゃ。そこには今にも消えそうな、一人の小娘の魂がおっての」
そこで目を瞑り、しばしの沈黙の後。ゆっくりとシャウラさんが言いました。
「その小娘こそが、本来異界に生まれる筈であったお主の本当の母親だったのじゃ。我はその魂を自らに受け入れねばならんと思った。その理由は解らぬが……。そして、我はお主の母親になる筈であった魂と同化し、新たな一人の人間としてこの世界に「生まれた」のじゃ」
「……」
異界……。私は本来、異世界で生まれる筈だった魂だと、狭間のお姉さんが言っていました。そして親が死亡した為、私は元々の世界では生まれる事が出来なくて。今のお話しと重ねますと、成程確かに辻褄が合っているように思います。ですが……。
「では……母様は? 母様はどうなのですか?」
私の問いかけに、ミズファ母様は暫しの無言の後に言いました。
「僕はね。本来は君の父親になる筈だったんです。僕は、元々の世界では男だったんですよ」
それはとても衝撃的な事でした。次々に知らされる真実に、相変わらず私の理解が追い付いていませんでした。




