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黒いドレスの女の子

 私が黒いドレスの女の子を不可解な存在だと感じた事と同様に、黒いドレスの女の子もまた、私を不可解な存在だと認識した様子です。有無を言わさず攻撃してきた先程までとは違い、攻撃の手を止めて私に問いかけてきましたので、多少なりともお話をする気はある、と言う事でしょうか……?


「私は……ミズキです」


 黒いドレスの女の子が言った「お前は何か」、という質問に対して自身を証明する名前を名乗りました。私は人間では無いのかもしれませんけれど、人と変わらない命と大切な名前を頂いていますから、胸を張って名乗ります。


「ミズキ。……ミズキとは何か?」


 ですが、そんな私の名乗りに対し黒いドレスの女の子は首をかしげ、名前を理解出来ていない、と言った様子です。


「ミズキは私の名前です。私と言う存在を証明する、大切な名前です」

「名前。我ら古代魔法具に、その様な物は無い」

「我ら……? 貴女は古代魔法具なのですか?」

「我は古代魔法具。全ての古代魔法具に接続し、管理する為の物」


 ここは「古代魔法具庫」ですから、大きな水晶が「古代魔法具」の一つだとは思っていましたけれど、その水晶がこの黒いドレスの女の子自身かどうかまでは半疑でした。どのようにして人の姿となり得たのかは解りませんが、それは私自身にも言える事ですから、ここで詮索しても無意味でしょう。


「ちょっとお待ちくださいまし! 一体貴女は」

「シルフィ姉さん!!」


 黒いドレスの女の子は、まるで発言を認めていないと言わんばかりに「光の帯」をシルフィさんに向けて放ちました。ウェイルさんが咄嗟にシルフィさんを庇って回避しましたが……。


「う……ぐ……」


「光の帯」がウェイルさんの背中を少しかすめたようです。


「ウェイル!」

「ウェイルさん!」


 すぐに駆け寄ろうと思いましたけれど、黒いドレスの女の子はまた「光の帯」を撃つ予感がしました。今は黒いドレスの女の子とお話をして、余計な攻撃をさせない方が賢明です。既に大広間には数か所の横穴が開いていますし、天井からパラパラと小石が落ち始めていて、これ以上「光の帯」を撃たせたら「古代魔法具庫」が壊れてしまいそうですから。


「ウェイル、御免なさいですの。癒しの魔法を扱えないのが歯がゆいですわ……」

「大丈夫……火傷の類だ。僕の氷属性の魔法で冷やせば問題無いよ。今はあの子の機嫌を損ねない方が良さそうだ。機会を伺おう」

「解りましたわ……」


 ウェイルさんが私を見ています。私の事を信じてくれている、そんな眼です。

 私はその眼差しに向けて、コクリと頷き。黒いドレスの女の子との対話を続けます。


「古代魔法具さん。貴女の目的はなんですか?」

「目的。人間を殺す事。我ら古代魔法具の存在理由。我らは使われる為に生み出された。その為の物」

「……」


 違います……。古代魔法具が生み出されたのは人を殺す為でも、戦争の為でもありません。人々を支えてくれる、素晴らしい物の筈です。


「古代魔法具さん。どうして、そう思うのですか?」

「思い。我ら古代魔法具は使われる為に存在する。使われる事が存在理由。人間は我ら古代魔法具を奥底に封じ、存在を否定した。何故我らは存在理由を失った? 認めない。使われないのならば、管理する物である我が自らを使い、人間を殺す」

「……」


 ようやく、黒いドレスの女の子の気持ちが解ったように思います。彼女は「本来の古代魔法具」として生み出された物では無く、「何らかの意思の介入」があったとされる戦争時に生み出された、人を殺す事を目的とした古代魔法具です。彼女は戦争後にこのダンジョンの「古代魔法具庫」へと封印されてしまった、言わば被害者なのでしょう。


「辛かった。この暗闇が、使われない事が。我はここで耐え続け、周囲の古代魔法具に接続し、知識を得て過ごした」


 自らを管理する物と呼ぶ黒いドレスの女の子は、意思を持った「古代魔法具」なのかもしれません。この閉鎖された暗い場所で一人寂しく長い時を過ごした訳ですから、その辛さは計り知れません。


「貴女の思いと気持ち、痛いほど私に伝わってきます。それは言葉に出来ない程に。けれど……それでも、貴女の目的は阻止せねばなりません」

「ミズキ。お前に問う。何故人間と行動している? お前にとって何の意味を持つ?」


 一つの信念のみを貫いている黒いドレスの女の子には、私の行動が異質に見えるのでしょう。


「私も人間と変わらないからです。それは貴女も同じですよ」

「同じ? 我は古代魔法具、人間を殺す為の道具」

「違います。貴女も意志を持つ者なら、人間です。そんな可愛らしい姿をしているのは、根底では人間に焦がれて居るからでは無いですか?」

「……違う。違う!!」


 大気が震えるような、強い波動のような物が黒いドレスの女の子を中心に、周囲に広がりました。


「もういい。お前を取り込み、我の知識と力に変えてやる。人間は殺す。我の存在理由はお前には理解できない!」


 もう彼女には会話を続ける気は無いようです。可能ならお話を通して仲良くなれればと考えたのですが……。ウェイルさん、御免なさい。


 周囲に広がった波動はやがて逆流し、黒いドレスの女の子へと戻っていきます。その力場に捕らわれた私は、波動と共に黒いドレスの女の子へと引き寄せられていきました。足に力を入れても止まる様子は無く、残りの血ではこの力に抗う事も難しいでしょう。


「く……」

「来い、我の元へ」


 徐々に黒いドレスの女の子が眼前に迫っています。私に意識を向けているせいか、ウェイルさんとシルフィさんは力場に捕らわれていません。


 そこに隙が出来ました。


 ウェイルさんが腰から剣を引き抜くと剣身が光り、シルフィさんが手のひらを剣に向けて何かを呟くと、剣身の光は更に輝きを増します。


 黒いドレスの女の子はようやく二人に気づきましたが、遅いです。ウェイルさんが剣を振るうと、黒いドレスの女の子が四角い透明な結界に閉じ込められ、ほぼ同時にその結界の中が幾度にも渡って爆発しました。


 私には爆風等は無く、引き寄せられる力も止まったようです。結界内は視認が困難な程に爆発の煙に覆われていました。


「ウェイルさん、シルフィさん有難うございます」

「ミズキが注意を引き付けてくれたお陰だよ。危険な目に合わせてしまったね」

「いきなり私を攻撃した借りを返しただけですわ。まだ仕返し足りないですけれど、今の攻撃は国家指定級ですら無事では済みませんわよ」


 今の爆発を素で受ければ、私も無事では済まないでしょう。爆発をもともに受けてしまった筈ですから、黒いドレスの女の子も恐らくは……。

 彼女には心から同情はしますけれど、人間に危害を加えるのであれば……致し方ない事だと思います。


 そう、思ったのですが。


「嘘、ですわよね……?」


 爆発地点の煙が消えていきますと……黒いドレスの女の子が平然とそこに立っていました。


「これは……厄介だね」

「……」


 これには私も驚きを隠せません。

 黒いドレスの女の子が結界に閉じ込められた際、何かの力で防いでいた形跡は無いように見えたのですが、これも古代魔法具の力なのでしょうか。だとしたら……血の残量が少ない今の私には、黒いドレスの女の子に勝てる見込みは薄いかもしれません。


 爆発を受けても傷一つ無い黒いドレスの女の子は、再び私を見つめますと。


「頭部があれば、生死は問わない」


 黒いドレスの女の子が右手を私に向けた瞬間。


「……っ!?」


 突然お腹に痛みが走り、視線を下ろしますと。

 地面が鋭く尖った針に変化し、私を刺し貫いていました。


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