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改めてクラスSの実技訓練

 開幕直後、私が展開した水の龍による攻撃で始まった実技訓練ですけれど。白組の方は動揺していたり、座り込んで怯えていたりなど、何やら混乱気味の様子です。


「いきなり龍をけしかけたのはやり過ぎだったでしょうか……」


 一応かなり龍の力は抑えて魔法を放ったつもりですけれど、この場合威力の問題では無いですよね……。龍その物の印象が余りに強すぎました。ですが、相手が怯んでいる状況下は実戦であれば好機という形になりますので、此方から直ぐに攻めるべきだと思うのです。


 肝心の指揮官であるミアさんも白組と同じく動揺していて、赤組への号令が滞って攻める事が出来ません。今の龍は相当に怖かったようで、赤組の皆様も少し混乱気味です。いくら学院の頂点であるクラスSと言えどもまだ初等部ですし、不可解な状況で冷静さを保つのは難しいでしょう。


「あの、ミアさん」

「……あ、は、はい!?」

「大丈夫でしょうか? 差し支えるようでしたら、レイモンド先生に中止を要請しても……」

「い、いいえ、大丈夫ですわ。魔法が余りに刺激的で少々取り乱してしまいましたけれど……。問題は御座いませんので」


 軽く咳払いの後、ミアさんは再度赤組の皆様へ集合をかけます。


「皆様、白組はミズキ様の魔法によって混乱しております。この機に乗じて赤組から仕掛けますわ。陣形を組み、前衛と中衛は前進を。後衛は指示があるまで待機して下さい」


 皆さんはまだ動揺しつつも、ミアさんの指示通りに動き始めます。私は後衛扱いですので、一時的に待機ですね。白組は此方が動いた事で慌てているようですけれど、少しずつ陣形が組まれ、防衛する形を取り始めました。士気が戻りつつあるようですね。


 ですが、そうはさせまいと中衛に居るミアさんの掛け声で更に速度を上げて赤組が相手陣地に侵入しました。ここで後衛にも前進指示があり、私も白組陣地へと向かいます。中衛が魔道武器で魔力を撃ち出し牽制を始めますと、前衛が魔道武器に魔力を込めつつ白組へ向けて走ります。


 中衛が放った魔道武器の魔力は拡散し、白組の頭上付近から矢の様に降り注ぎます。更にミアさんが魔道武器を構え、クラウスさんが翼竜の群れに放っていた光の束と似た魔力を撃ち出しました。


 完全に先制攻撃が成功し、ミアさんの放った光の束を追いかける様に前衛が接敵しようとした所で……上空に降り注ぐ魔力の矢とミアさんの光の束が一瞬で消し飛びました。


「な、何ですの!?」


 自ら放った魔力が瞬時に消し飛んだ事で、ミアさんが驚愕の声を上げています。全学院の中でも五指に入る方の攻撃が一瞬で消えたのですから、不可解に思って当然です。


「あれは……」


 体制を整えている最中の白組の中から、一人飛び出してくる方が見えました。それは下段に刀を構えて此方へと走ってくるヤヨイさんです。


「今の攻撃をかき消したのってヤヨイさんですよね。でしたら……このまま前衛の皆様をヤヨイさんと戦わせたら不味いでしょうか……何て考えている暇はありませんね」


 一瞬で赤組が全滅する光景が目に浮かび、慌てて私も前衛の位置まで走り出します。


「ミアさん! 申し訳ありませんが、ヤヨイさんのお相手は私が努めます!」

「ミズキ様!?」

「前衛の皆様にはヤヨイさんへ近づかない様に指示をお願いします!」


 皆様はヤヨイさんの実力を知りませんので、私は相手一人の為に指示を無視する困り者に見えるかもしれません……。事実、既に中衛にいる方から独断行動は評価を損ないますよ、と注意を受ける私。でも赤組の皆様が怪我を負うのは嫌ですから、御免なさいと謝りつつヤヨイさんに向けて走ります。


「前衛の皆様、ヤヨイ様との交戦は控えてください! 繰り返します、ヤヨイさんへの攻撃は控えてください!」


 ミアさんの声に合わせて前衛の皆さんが一時立ち止まり、後退を始めます。私は後退する前衛の皆様と入れ替わる様に最前線へと立ちました。


「ミズキ様ーー!!」


 ヤヨイさんが眼前で立ち止まりますと、嬉しそうに私の名を呼んでおります。


「ヤヨイさん、敢えて此方の前衛に手を出しませんでしたね?」

「はい、まだ皆様は評価を得ていませんから、何もせずに戦線離脱するのは可哀そうだと思いました」

「ふふ、ヤヨイさんらしいですね」


 振り返ってミアさんへ視線を合わせますと、此方を察して下さったように「前衛の皆様は再度接敵を開始して下さい」と指示を出します。私とヤヨイさんを避ける様に前衛の皆様が走り抜けていきました。


「ではミズキ様、始めますか?」

「はい、何も印象付けはクラスの皆様を倒す事だけではありませんものね。むしろ、私達の戦いこそ見て頂きたいですもの」

「はい、ミズキ様との実技訓練はとても楽しみです。それではヤヨイ、参ります!」


 ドン、と地面を踏み鳴らすと同時に、瞬時に私へと詰め寄りました。以前、即死する謎の手を伸ばしてきた魔物との戦いで見せた瞬間移動の技です。それと同時に刀で切り付けられますが、届きません。ヤヨイさんの刀は既に展開してある水幕の護りで防いでいます。


「ミズキ様、いつの間に防御系統の能力を……。確か魔法は詠唱と呼ばれる事前準備が必要だと聞いていますけど」


 詠唱についての疑問もそうですが、ヤヨイさんはいくら手加減をしているとはいえ、薄い水の防壁を切れない事も不思議に思っている様子です。


「私は魔法を扱う上で詠唱を必要としません。ですので、魔道武器と同じ感覚で魔法を放つ事が出来ます」

「きっと、それはとても凄い事なのですよね。先程の龍も出現したかと思えば、直ぐ此方に噛み付いてきましたし」


 一度後ろに飛び退き、再び下段に構えながら、嬉しそうにお話をするヤヨイさん。その合間に刀へ一気に魔力を込めた様です。


「ヤヨイ、ちょっと本気だしますね。ミズキ様ならきっと受け切ってくれる気がします」

「はい、構いません。むしろ私よりも周囲に気を配って下さい」

「心得ています!」


 ヤヨイさんの刀が凄まじい勢いで放電しています。例え位階者(スペルム)であっても、今のヤヨイさんに近づけば、それだけで感電して死亡するでしょう。かなり研ぎ澄まされた魔力が刀に凝縮されているようですが、それでもなを抑えきれない分の魔力が雷となって周囲にほとばしっています。


「すみません、ヤヨイは本気気味になると、どうしても周囲に影響が出てしまいます……」

「その様ですね。その気持ち、とてもとても良く解ります……」


 二人揃って溜息をつきます。戦闘をしているのか世間話をしているのか解らない私とヤヨイさん。戦闘中の私語は余り良くありませんよね。


「さぁ、ヤヨイさんの力を皆様へ見せてあげて下さい」

「はい!」


 ヤヨイさんが下段に構えていた刀を上段に構え直しますと、ほとばしる雷が地面を走り、周囲に広がります。危険を感じた後衛の皆様が遠巻きに避けております。この合間に、赤組の前衛は白組の前衛と戦闘を開始したようです。


 ようやく皆様が持ち直し始めた所ですけれど、また怖がらせてしまうかもしれませんね。少し可哀そうに思います……。


「行きますよーー!! 皇流魔道剣術・雷鳴の型「雷皇八閃陣」!!」


 刀を振り下ろすと同時に放たれた雷の束が八つに別れ、私を中心に地面を駆け巡り五芒星を描き出します。すぐさま膨大な雷の本流が地面から立ち上がり、上空にも五芒星が出現しました。二つの五芒星が魔法陣の様に回り出し、凄まじい雷型の魔力で上下から挟まれた私は消滅……はしていません。


 暫く回り続ける五芒星と上下にほとばしる雷型の魔力で、私の姿は完全に書き消えて見えなくなっている筈です。クラスCの皆様がいる方角から様々な声が聞こえてきており、私の事を心配して下さっているようですね。


 本来、ヤヨイさんの放ったこの攻撃は大規模な範囲系の物だと思われます。いくら強いこの大陸の魔物でも、この攻撃をうけたらひとたまりも無く消滅するでしょう。人間が受けたら一瞬で消し炭になっています。この様な攻撃を放てるヤヨイさんは、私達の大陸を含めても一、二を争う人間さんの中で最強の子だと思われます。


 やがて五芒星がスっと消えますと、雷の魔力が収まって行きます。一方的に攻撃を受け続けていた私はと言えば……。


「全くの無傷……ですか」


 ヤヨイさんがそう呟きます。可哀そうですけれど、今の攻撃は私には全く微塵も効いておりません。


「お疲れ様です、ヤヨイさん」

「あぅ……お疲れ様です……。じゃなくて、どうしてミズキ様は無傷なのですか!?」

「いえ、流石に何も対策せずに今の攻撃を受けたらいくら私でも死にますよ。ただ防いでいただけです」

「あの、ヤヨイが放ったのは奥義の一つで、一度も防がれた事なんて無いのです……」


 それはそうでしょうね。今のヤヨイさんの攻撃は相当な威力を持っていると感じました。周囲に気を配っていた為、本来の威力を出し切れていなかったでしょうけれど。もし周囲を気にせず全力で奥義を放った場合。この学院都市その物が五芒星の中に消えて無くなっていた事でしょう。


「ヤヨイさんの攻撃が私に効かないのは相性の問題……というのもあるでしょうか」

「相性、ですか?」

「ヤヨイさんの攻撃は雷の性質を持っているようです。それに対して私は水を駆使した魔法を扱う事が出来ます。これがどういった意味か解りますか?」

「あ……!! 雷は水を通しにくい、ですか」

「そうです。流石はヤヨイさんですね。私は生み出した水の防壁を限りない純水に変え、更に特殊な力を付与しました」


 その特殊な力とは、水幕の護りに血を混ぜたのです。血によってより硬質化した水の防壁は、現時点では誰にも壊す事は出来ないと自負します。


「それじゃ、雷の性質を持つ魔力では、ミズキ様にはどう足掻いても勝てないのですか……」


 ちょっと泣きそうになっているヤヨイさん。ですが、こればかりはどうしようもありません。


「でも、ヤヨイさん。ほらクラスCの皆様が今のヤヨイさんの力を凄く褒めて下さっていますよ」


 女の子の方は怖がっていますけれど、男の子達からはとても好評の様です。レイモンド先生も私達を見ながら、本に何かを書き込んでいる様です。


「うー、一先ず今は喜んでもらえたので良しとして置きます。でもヤヨイ、まだまだ本気を出し切ってませんので! 雷だけがヤヨイの力だと思ったら大間違いなのです!」


 それだけを言いますと、白組の方へ走って行きました。私が無傷だった事が相当に悔しかったのでしょうね。


 さて、次はクリスティアさんですけれど。白組の後方に居るようでまだ姿が見えません。今のヤヨイさんとの戦いは後ろで見ていた筈ですから、今度はクリスティアさんが出てくると思うのですけれど。


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