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お嬢様たちの昼食

 授業に遅れた理由はまだ慣れない学院内で迷ってしまった事にして、どうにか先生を誤魔化した私達。その後は真面目に授業を受けて、三時限目が終わった所で昼食の時間となりました。


私は背伸びをしつつ授業からの解放感に浸っておりますと、隣ではクリスティアさんがまだ魔道学の本を熱心に読んでいる様です。


「あ、この部分は魔法具にも応用できるわね……。こっちはアクアリースの発展に使えそうかしら」


 などとぶつぶつ呟いております。折角の昼食なのですし、頭を切り替える事も大事だと私は思うのです。


「クリスティアさん、昼食の時間ですよ?」

「え? あぁ、そうだったわね」

「あの、この学院には大きなカフェがあるそうなのです。これからシャウラさんとエイルさんの二人と合流してそちらで昼食を取る予定なのですけれど、クリスティアさんもご一緒しませんか?」

「……水晶と食事だなんて、つい先日までは考えもしなかった状況ね。どうしようかしら……」


 私はもう慣れてしまっておりますけれども、命のやり取りをしていた相手と突然仲良くしましょうと言われたら、誰だって不可解に思います。未だに警戒するクリスティアさんの気持ちも解りますから、もしここで断られたとしても仕方ありません。今後ゆっくりとシャウラさんと打ち解けていければ良いと思っています。


「クリスティア様、食事は皆で取った方がより美味しくなるとヤヨイのお婆様が言っていました。何か気にしている様ですけれど、美味しい食事を取れば気にならなくなりますよ」

「ヤヨイは割と真っ直ぐな考えの子なのね」

「それがヤヨイの取柄ですから!」

「嫌いじゃないわよ貴女みたいな子。……仕方ないわね、それじゃあ私もご一緒しようかしら」


 ヤヨイさんの説得で本を閉じ、席を立つクリスティアさん。ヤヨイさんは本当に気配りさんで、とっても良い子です。


「では三人でカフェへ移動しましょう。ヤヨイさん、説得有難うございます」

「説得? ヤヨイはお友達をお誘いしただけですよ?」

「ふふ、そうですね。その通りです」


 私はくすくすと少し笑ってしまい、その様子を不思議そうに見ているヤヨイさん。クリスティアさんが「気にしなくていいわ。さ、行きましょうか」と言いますと、「はい!」とヤヨイさんが元気よくお返事しました。


 クラスから出た所で「あのあの」とヤヨイさんが言いますので、そちらへと目を向けますと。頬に手を当てて何やら嬉しそうにしています。


「どうしました?」

「ヤヨイ、こんなに楽しい時間を過ごしてしまっていいのでしょうか?」

「え?」

「ミズキ様達を護衛する任で学院に通っていますので、ヤヨイが楽しむのは聊か不謹慎なのではと思いまして」


 一応、ヤヨイさんは護衛と言う建前で私達に同行しています。本来は私達を心配して着いて来て下さったのだと思いますけれど、今のヤヨイさんは学院生活を謳歌する、至って普通の女の子です。


「気にせず学院生活を楽しんで下さい。その方が私達も嬉しいですし」

「私達の中で唯一この大陸の人間である貴女が一番学院生活を謳歌すべきね」


 私とクリスティアさんが揃ってそう言いますと、ヤヨイさんは満面の笑みで「有難うございます」と返して下さいます。その後、小走りで先に行ってから振り返り、「二人とも早く行きましょうー」と元気に手を振るヤヨイさんがとても可愛らしく思えました。


 -------


 兼ねてから食事の場所と決めていた、学院内の中心にあるカフェテラス。


 ここは大きな広場になっているのですけれど、各方面への移動が楽な事もあり、常に学生が行き交っていて大変賑やかな所です。カフェで楽しそうに雑談していたり、噴水の前で本を読んでいたりする支配層の方々が多く見受けられます。


 カフェは大広場の北側寄りに設けられており、とても広い露店のような形のオープンスペースになっていますので、席が空くのを待つという様な心配は無いようです。


 私達はエイルさんとシャウラさんの中等部組と合流し、早速白塗りで統一されたテーブル席を一つ囲んでおります。


「中々洒落たカフェね」


 クリスティアさんが満足げに席へ座って周囲を見回しています。


「ええ、クラスSの建物には支配層専用のカフェがありますが、此方の方がとても開放感があって素敵ですね」

「我もこちらの方がよい。さて、気疲れした分を食事で回復するとしようかの」


 エイルさんも満足そうにクリスティアさんに同意しますと、シャウラさんがオーダーを取りに来たメイド風の女の子に沢山注文をしています。


「どれも美味しそうですね……ええと、ええと。あ、私はこのオムライスで!」


 ヤヨイさんがメニューを指さして注文をしますと、続いてクリスティアさんはケーキと紅茶を頼んでいます。クリスティアさん、それは昼食ではありませんと心の中でつっこみを入れつつ、私はスパゲティをお願いしました。エイルさんはサラダとパンのセットを注文したようです。


 私達の注文を確認した女の子は手慣れたようにオープンスペースに建てられているお店の中へと入ってゆきました。この学院ではカフェで働く事を許されているらしく、今の女の子はここで働いてお金を稼ぐ一般の学生さんの様ですね。


「して、クリスティアよ」


 シャウラさんがクリスティアさんに話しかけますと、少し動揺しつつも「何かしら?」とお返事を返しております。


「学院生活は楽しんでおるか?」

「ええ、とても有意義のある時間を楽しんでいるわ。それがどうかしたのかしら?」

「そうか、いや、ならばそれでよい」


 シャウラさんは視線を逸らしつつどこか気恥ずかしそうにしております。隣に座るエイルさんは堪えきれず笑い出しますと、ヤヨイさんも一緒になって笑っています。


「な、何が可笑しいのじゃ!?」

「何が可笑しいって、存在その者がですシャウラ」

「エイルよ、貴様は我に喧嘩を売っておるのか」

「いいえ、貴女で遊ぶのが支配層の嗜みだと思いまして」

「そんな嗜みなど存在せぬわ戯け!」


 最近見られなかったエイルさんとシャウラさんの掛け合いを見たクリスティアさんは次第に堪え切れなくなり、少しだけ笑い出しました。そして私は、そんな皆さんを見れるこの時間がとても嬉しくて、もう完全なお風呂状態で気が緩んております。


「皆様、ご機嫌よう」


 皆で談笑を楽しんでおりますと、聞き覚えるある声に話しかけられました。


「あ、ミア委員長」

「ミアと呼び捨てになって構いませんよ、ミズキ様」

「あの、それは流石に。でしたらミアさんで」

「ええ、それでも構いませんわ。とても楽しそうなお話しの所大変申し訳ありませんけれど、私もご一緒して宜しいでしょうか?」

「あの、はいどうぞ」


 席を立ち、空いている私の隣の席を引きつつ「どうぞ、ミアさん」と呼びかけます。


「あ、ミズキ様いいのですよ、そこまでなさらずとも」

「あの、性分ですので気になさらず」

「それではご厚意に甘えて失礼いたしますね」


 ミアさんが座るのを見計らって私も席へ座ります。周囲をよく見ている店員の女の子は直ぐにオーダーを取りに寄ってきましたので、ミアさんは紅茶を頼んでいました。


「お話し中大変失礼な事と存じますが、皆様にお伝え事が御座いまして。その為皆様を探していました」

「あ、すみません探させてしまいまして」

「いいえ、気になさらず。皆様は学院内ではとても有名なお嬢様方ですから、道行く方へお聞きすれば直ぐにここに居らっしゃると解りましたので」

「そ、そうですか……」


 それはそれでちょっと困ります……。私達は隠し事も多いですから、もう少しお話しする際は周囲に気を配る必要がありそうですね。


「お伝え事なのですが、実は来月の上旬から中旬にかけて、エーテルナ魔道学院で催し物が行われます」

「催し物?」

「はい、この学院は実力重視で有名な事は皆様もご存知かと思います。そこでこの学院は一年に一度、美と技を競う麗華祭というお祭りを催しているのですわ」

「お祭りですか」


 聞いた感じでは何かとても気品を感じるお祭りの様ですけれど。


「ふむ、それはどの様な祭りじゃ?」

「あ、ええと」

「シャウラじゃ、我の隣におるのはエイルと言う」

「もしや、噂の四人の内のお二人で御座いますか? 私とした事がご挨拶を怠ってしまいました。大変申し訳ございません」

「構わぬ、続きを申せ」

「ええ、それでは僭越ながら。麗華祭ではその年で一番美しい者を決める女性専用の部門と、魔道武器による実技で競い合い、誰が現時点で優秀であるかを決める男女混合の計二部門が執り行われます」


 一番美しい女性と一番強い方を決めるお祭り、ですか。周囲の席に座る学生に耳を傾けますと、麗華祭のお話をしていらっしゃる方々も多いようです。先程までは何のお話しかは解りませんでしたし、気に留めておりませんでしたけれど。


「実力を決めるお祭りは楽しそうですね。ヤヨイも参加してみたいです」

「ええ、勿論その為にここへ参りました。学院へ編入間も無い皆様に参加をお願いしようと思っていたのです」

「そうなのですか?」

「とても見目麗しい皆様がご参加なされれば、きっと今年の麗華祭は大変な盛り上がりを見せる事でしょう。魔道武器適正も相当な物とお聞きしておりますし」


 ヤヨイさんはとても参加に乗り気ですけれど、私はどうしましょうと思い悩んでおりますと。


「解りました。その麗華祭にはここにいる五人全員が参加致します」

「え!?」


 エイルさんが特に迷う事無くそう言いますので、変な声を上げる私。


「ち、ちょっと私は参加するなんて一言も……」

「クリスティア、理由は後でちゃんとお話しします。今は私達に協力して下さい」

「……何か考えがあっての事なのね?」

「ええ、そうです」

「ならいいのだけれど……」


 余り乗り気では無かったクリスティアさんを説得させたエイルさんは、そのまま麗華祭の詳しい内容についてミアさんと二人で話し始めました。何やら、エイルさんの一言でそのお祭りに参加する事になった様です。私もどちらかと言うと乗り気では無いのですけれど……。


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