尋問
尋問部屋と称された小部屋には所々に血の跡があり、まだ真新しいものもあたりに見られた。部屋の端にある長机の上には人を痛めつけるのに特化した様々な拷問器具が並べられており、壁にもどんな使い方をするのか想像するのもはばかられるような器具が数多くかけられていた。
その部屋の中央の3脚の椅子に鎖で縛りつけられたものたちがいた。
右端の者は骨が浮き出るほどやせ細っており、血の気もほとんどない屍のような姿をしていた。最低限以下の飲食しか与えられていないのだろう。私たちを見る目がまるで食べ物を見るものとまるで変わらず、目はうつろながらも怪しく光っているようだった。
中央の者は体中に無数の傷を負っており、命にかかわるようなものはないものの、今後まともな生活を送ることは不可能なほどの傷が何か所もあった。爪は全て無理やりかがされており、足首の腱は間違っても治ることがないように大きくえぐられている。右目を抉り取られており、小指は切り取られていた。ほとんど全ての骨が砕かれているようで、ほんの少し動くたびに苦痛に顔を浮かべ、呼吸すらまともにできないようだった。
左端の者は傷もなくやせ細っているわけでもなかったが、精神に大きな傷を負っているように見えた。いや、壊れてしまっているようであった。私たちがドアを開けて入った瞬間奇声を上げ、その後ずっと私たちを見てひどくおびえている。体はその恐怖の度合いを表すように大きく震えており、動機が激しい。さらに何度も何度も謝ってきているようなのだが、その言葉もまともに発音できておらず、まるで赤子が無理に話しているような舌足らずなものであった。
「これは・・・何ともひどいものだな。」
ディランは目の前にいる罪人に憐れみの言葉をかける。しかし別段驚いているということもなさそうであった。
「我々の種族では誘拐というものは重罪に当たるため、死罪と同等かそれ以上の刑に処される。あなたもよく知っているだろう。」
ディーレア王は部屋の隅に立ち、まるで汚物を見るような目で侵入者の3人を見る。
「知ってはいましたが、まさかこれほどとは。彼らの着ているものはそのままですか?」
「防具や武器は端に置いてある。服は身に着けていたものそのままにしておる。じっくりと調べるが良い。」
そう言うとディーレア王はディランの行動を監視するようで、静かに見守る体制に入った。
ディランはポートに武具と防具を調べてもらうように指示を出した後、ルーナに左端の者を眠らせるように指示し、レナに右端の者へ水をやるように指示した。
私たちは鞄の中からスレープ草という毒草をルーナに渡す。この毒草は茎の部分に揮発性の高い毒が含まれており、その毒を吸ってしまうとたちまち眠りこけてしまうというものである。少量でも効果があり、対象の付近で茎を折れば睡眠薬の代わりとして用いることができるのである。
左端の者はルーナが近づくことでかなりあばれ、椅子とともにひっくり返ってしまったが、それ以上の抵抗は何もできず、ルーナが顔の近くで茎を折ったことですぐにおとなしく眠ってしまった。
レナは自身のカバンから水筒を取り出すと、その蓋を開けてゆっくりと右端の者に近づける。
水筒を見た瞬間に血走った眼をした右端の者は必至で首を伸ばそうともがき、あわよくば肉も食らおうとガチガチと口を開閉させる。
慌てずにレナは座る右端の者の真上に水筒を持っていくと、口めがけて水を少量垂れ流す。すぐに口をあけっぱなしにしたその姿はかなり哀れなものになっている。
そうしてルーナとレナは指示通りに動いた後、ポートは防具と武具を調べ終わったのかこちら側に戻ってきた。
「どうだった?」
「見た感じどれも新しく買ったものだったが、そのどれもがどこにでも売ってる既製品だった。ただ3人とも共通するものもあった。」
「それは?」
ポートが共通するものとして見せた3つの物。それは銀貨だった。
「アストル共和国が発行しているティレーズ貨の銀貨だ。」
アストル共和国とはレゼシア王国の北東に接している国であり、レゼシア王国とは少ないながらも取引がある友好国である。
そのアストル共和国が発行するティレーズ貨はレゼシア王国でも一部の領で使用することができ、流通範囲は狭いながらも確かな価値のあるものである。
「なるほど。ルーナ。彼の服は?」
「上は特に変わった特徴は見られない。けれど下の仕立ては昔領で見たことがある。少し高い服を扱うリーゼルトという店の・・・あった。刻印もあるから間違いない。」
「そうか。それじゃああとの二人からは話を聞かせてもらうとしようか。」
ディランは中央と右端に座る罪人の前に立ち、鋭い目つきを向ける。
「これからする質問に素直に答えればこの地獄から解放してやる。わかったな?」
ディランの言葉に僅かに頷き答える二人。
「まずは名前から。」
「フ・・フレート=ファルト。」
「ヂィ・・ヂィダル・・・ギィアズバ・・・。」
「フレートとジダルか。ではジダル。君が依頼された相手からもらった貨幣はこの銀貨で合ってるか?」
「あ・・あぁ。」
「そうか。フレート。君もこの銀貨を?」
「そうだ。報酬は・・・全部ティレーズ貨だった。」
「依頼を受けた場所はテラリクス領かモルフォル領?」
「そうだ。俺はテラリクス領。隣のと寝てるのはモルフォル領だ。尋問の時にも言ったんだがな。」
フレートはそう言って皮肉気な笑みを見せる。
「悪いな。俺たちも初めから話を聞いた方が何か見えてくると思ったんだ。」
「別に・・・あいつらに比べたら神様に見えるくらい優しい扱いだからな。」
監視するディーレア王らに視線を移すが、しかしすぐにディランに戻す。
「相手の特徴は何かないか。何でもいい。」
「全身真っ黒の服装でフードも深くかぶってやがった。おまけに深夜の路地裏での取引だったんだ。ほとんど何も見ちゃいねえよ。」
「どこの路地裏だ。」
「・・・ありゃ確か・・・スティラー薬草店の裏だったか。」
「スティラー薬草店・・・。そうか・・・なるほど。」
フレートの話を聞いてから鞄に入っていた地図を取り出し、何かを理解したように小さく笑みを作る。
「ジダル。君はどこで依頼を受けた?」
「ド・・ドナァドル・・・裏・・・。」
「ドナドル・・・ドナトル亭の裏かな?」
レナの言葉に痛みを押して頷くジダル。どうやらあっているようだ。
「ドナトル亭は・・・やはりか。」
そしてまたもやディランは得心が言ったような表情をとる。
「貴重な情報だった。ほとんど真相に近づけたよ。」
ディランはそう言って立ち上がると、ディーレア王の方を向く。
ディーレア王はそれだけでディランの意図を察し、少し考えた後、ゆっくりとうなずいた。
ディランは返事を確認すると、ジダルとフレートに向き直り、剣の柄に手を伸ばす。
「これは報酬だ。受け取ってくれ。」
「ありがたい。できればそこで眠ってるやつもお願いするよ。」
「わかった。」
ディランは目にもとまらぬ速さで剣を抜き、そのまま二人の首を断ち切った。ディランは宙に舞う首が地に落ちるよりも早く眠る罪人のもとに駆け寄り、すぐに二人の後を追わせる。
一瞬だった。その間にディランは苦しむ隙も与えないきれいな太刀筋で3人を天に送り届けたのだった。




