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友達だから

 私たちはレーンと一緒にウェアラの木の下で座ってぼーっとしていた。


 私たちが一緒に遊ぼうと言ってレーンの手をつかんで広場に向かおうとしたけど、レーンはかたくなに広場に向かうことを拒絶した。


 理由は聞くまでもないことだけど、ぽつりと「遊びたくない。」と漏らしたことで明確になった。


 おそらく子供たちが苦手とか、嫌いとかそういう問題ではないのだろう。そもそも知らないかもしれないし、関わりたくないのだと思う。


 単純に気分ではないという意味だとも思うし、それがここに来てからずっと続いている状態なのだろう。


 そんなだから子供たちも仲良くしようと思わないし、「なんだかよくわからない子」として近づくこともないのだろう。


 なので私たちはレーンと一緒にここで過ごすことにした。


 レーンは私たちも他の子供たちと一緒で、そっけない態度を示せばどこかに行くとでも思っていたのだろうが、私たちが「じゃあここでのんびりしよう」と言うと少し驚いた。


 けれど別にいやというわけではなかったのだろう。あれから無言で空を眺めたり広場の子供たちを見たりで30分くらい一緒に座っているが、隣からは別段悪いものを感じなかった。


 魔力が漏れ出ることもなくなっているため、声をかける前までよりは幾分ましになっているのだろう。


 レーンは一人、こちらに声をかけることもせずにずっとぼんやりと空を眺めている。


 晴れ渡る昼下がりの空はところどころに縮れた雲を浮かばせながら、どこまでも澄み渡る水色を視界いっぱいに広げていた。一見爽快な景色は、けれども冬が近づくにつれて寂しそうな色合いに移り変わっていく。


 彼女の心の中は、未だ冬のままなのだろう。移り変わることもなく、ただただ空は暗く厚い雲に覆われて、冷たい風が吹きすさんでいるのだろう。春の温かさも、夏の暑さも、秋の涼しさも知らず、ただただ冬の冷たさだけがその心を凍てつかせるのだろう。


 晴れ渡る空を見る彼女は私には春も夏も過ごしてきた秋を憎んでいるようにさえ見えた。


 彼女の表情はほとんど変わらない。ルーナもそれほど表情を変化させることはないが、それとはまた違う。変わらない表情は、凍り付いた心を映し出しているのだろう。


 ただ、私たちと話した一瞬だけは年相応の少女のようにも見えた。いや、少し大人びた少女かな。どちらにしても、少しだけでも固く閉ざされた扉の隙間に差し込めたのかなと思う。


 だから私たちは何もできないとは思わずに次の機会を待つ。


 彼女が話したくないなら、ただ寄り添ってあげるだけでもいい。待つのは慣れっこだ。


 「ライムは・・・。」


 不意にレーンが話しかけてきた。このまま今日は何も話さずに終わるのかと思っていたけど、案外彼女は誰かと話したかったのかもしれない。


 私たちは話の続きをゆっくりと待つ。


 「ライムは・・・お母さん・・・いる?」


 レーンがやっとのことで聞いた質問に、私たちはどうこたえるか迷った。


 この世界での母親なんてものはいない。なんたってスライムだし。気づいたら周りに誰もいなかったし。


 前世にはいたけれど、それは今は関係ないし。関係ないってことはないのか?

 一応はルーナが私たちの母親ともいえる存在なのだけど、それは答えになるのだろうか?


 (とりあえずいないって言ったほうがいいのかな?)


 (どっちにしても作り話になるけどね。でもこの場合はいないって言ったほうが話が続く気がする。)


 なるほど。まあ孤児の子に「親がいる」って言うのは自慢しているように聞こえなくもないかな。


 「いないよ。」


 「・・・そう。・・・死んじゃったの?」


 「はぐれちゃったんだ。それで、今はルーナお姉ちゃんと一緒に冒険者をやってるの。」


 一応嘘ではない。ごまかしてはいるけど。


 いきなりこっちに来たのは親とはぐれたいえなくもないし、ルーナと一緒に冒険しているのは事実だし。


 頭の中で不毛な言い訳を考えていると、レーンは少し考えてから、再び口を開いた。


 「冒険者って、悪いやつをやっつける仕事をしている人たちだよね?」


 「モンスターとかやっつけたりしてるよ。」


 「そう・・・なんだ。」


 なんだか話が嫌な方向に向かっている気がする。レーンの瞳をのぞき込もうとすると、奥に何か暗いものがちらついているような気がした。


 「モンスターを・・・やっつける・・・。」


 「レーン?」


 レーンがうつむいて考え込み、何かをつぶやいている。


 心配になる私たちはレーンに声をかけるが、あまり反応がない。


 しばらく待ってからもう一度声をかけようとしたとき、レーンは暗い笑みをのぞかせた。


 「ライム・・・私、冒険者になりたい。」


 彼女の眼はここではないどこかを、正確には誰かを見ているようだった。彼女の復讐対象を目に浮かべているのだろう。


 彼女がつらい思いをしているのはわかる。そしてこんなまだ年端もいかない少女がここまでの明確な殺意をみなぎらせるほどのことをしたその者も許せない。


 だが、ここで彼女にその力を与えるわけにはいかない。


 冒険者になるのは簡単だ。人間の街に赴いて、冒険者ギルドに行き、身分を登録して一定の条件をクリアすればなることができる。


 冒険者になれば戦闘する機会にも恵まれ、彼女が欲する力も1年足らずで獲得できる可能性がある。


 魔力が無意識に漏れ出るということは、それだけ魔力が高く、魔法の適性があるからだと思う。ならば子供のうちからでもとんでもない力を手にすることもできるかもしれない。


 そうして十分に力を蓄えれば復習も遂げられるかもしれない。そのあとのことを考えず、すべてをかなぐり捨てれば必ずできるだろう。


 けれど私たちはそうしてほしくなかった。


 「駄目だよ。冒険者になれるのはみんなの役にたとうっていう人しかなれないもん。」


 「あいつを殺せばみんなの役に立てる!」


 叫ぶような勢いで声を上げるレーン。その目にはむき出しの殺意が込められていた。まるで燃え盛るような炎をまとっているように、その瞳には威圧的な力が備わっている。


 だからこそ私たちは冷静に、はっきりとその思いを否定するような態度をとる。


 「確かにその人は悪いことをしていると思う。だけど殺しちゃったら今度はレーンがその人と同じになっちゃうよ。」


 「そんなわけない!」


 「レーンがお母さんを思うのと同じようにその人を思っている人がいるかもしれない。どれだけひどいことをされたからって、その人と同じことをやり返してしまったら、今度はレーンが恨まれるかもしれないんだよ。」


 「・・・かまわない。あいつを殺せるんだったら・・・あいつを懲らしめられるならそれで。」


 「それは・・・私が許さない。」


 レーンは私をにらみ続ける。敵意を向けるその視線に臆することなく私たちもその瞳をとらえて離さない。


 「あなたには関係ない。」


 「関係あるよ。」


 「ほっといてよ!」


 「もう友達だから!」


 レーンと同じように、いやそれ以上の大声でもって言葉を発し、レーンを黙らせた。


 胸の内が熱くなる。激情にかられる。これほど熱くなったのはいつ以来だろうか。


 「レーンはもう友達だから。関係ないなんてことないよ。ほっとくなんてできるわけないよ。」


 レーンはしばらく私たちのことを見て、それから視線をそらした。


 「私は、あなたのことを友達と思ってない。」


 「でも、私は友達だと思ってるから。」


 そう言うと私たちは立ち上がり、この場を後にする。


 後ろで小さくつぶやいたレーンの言葉は、私たちにはよく聞こえなかった。


 「・・・迷惑。」


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